【インタビュー】川崎鷹也、大切にしたいものや今強く思うことが詰まった2ndアルバム『カレンダー』

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TVやラジオなど多数のメディア出演、前田敦子主演のYouTubeドラマ『麺と千尋の並行世界』の主題歌書き下ろしや、松本隆トリビュートアルバムへの歌唱参加、武井壮やアスリートとタッグを組んだ「ひとりの戦士」の制作などのコラボレーション企画、そしてライヴ活動と、様々なトピックとともに2021年を怒涛のように駆け抜けたシンガーソングライター川崎鷹也。彼が新曲9曲を収録した2ndアルバム『カレンダー』をリリースする。リード曲の「カレンダー」など、大ヒット曲「魔法の絨毯」を書いた頃は恋人だった現在の妻に宛てたラブソングや、自身の子どもの目線になって親への愛を綴った「ぼくのきもち」、10代の青春の風景を詰め込んだ「Young Song」など、彼が大切にしたいものや今強く思うことが詰まった作品と言っていい。楽曲に根付いた彼の心境を一つひとつ紐解いていった。

■理想と現実のギャップに苦しむというよりは
■どうやってピースに生きていこうかと考えるんです


――“お客さんがいないライヴハウスでも、日本武道館のつもりで歌っていた”という川崎さんが、とうとう初めて日本武道館のステージに立たれましたね。松本隆さん作詞活動50周年を記念したオフィシャルプロジェクトの集大成となる<風街オデッセイ2021>はいかがでしたか?

川崎鷹也(以下、川崎):すごく貴重な経験をさせていただいて。本番直前までずっと“本当に俺でいいのかな?”と緊張していたんです。僕のひとつ前に横山剣さん、その前にはB'zさんが出てるんですよ? そんなレジェンドを舞台袖で見るなんて、なかなかない経験で。でもお2組のパフォーマンスを間近で観て“俺もちゃんとやらなきゃ!”と気合いが入りました。あと、僕がステージに上がる直前に、亀田誠治さんがMCで僕を“今までの日本に生き続けている音楽と、今の時代をつなぐ役割をこの人なら担ってくれます”と言ってくださって。

――なんてうれしい激励でしょうか。

川崎:めっちゃ泣きそうになりました(笑)。そのまませり上がりで日本武道館のステージに上がっていって――とにかく松本さんと亀田さんに“川崎を呼んでよかった”と思ってもらえるステージにしようと全力で歌に向き合いました。あんなに大きなステージに立ったのは初めてだったので、お粗末なところはたくさんあったかもしれないけど、ただ心だけは込めました。

――川崎さんがインタビューでもよくおっしゃっている“恩返し”のひとつですね。

川崎:そうですね。お二方のおかげで、これまでに出会う機会がなかった方々にも自分のことを知ってもらえるようになって、とにかくその恩を返そうと必死でした。おまけに同じステージのコーラス隊には、専門学校に通っていた頃の師匠がいたんです。数分間のステージだけど、僕にとってはいろんなストーリーが交わった場所でしたね。ずっと夢に見ていたステージに立てた高揚感もありつつ、8年間ずっと武道館の景色を想像していたぶん“やっとここに立てた”という感慨深さもあって。いつかここで自分の曲を歌いたい、ここで自分のステージを組みたいなという気持ちがより一層高まりました。

――川崎さんはこれまで夢見ていたことを一つひとつ実現させている。それはなんだか約束を果たしていくようにも見えます。

川崎:あははは、ありがとうございます。それができたのも家族を含めこれまでに出会ったいろんな人たちが助けてくれたからだと思います。たくさんの人たちにお世話になってきたし、そのおかげで今の自分がある。本当に恵まれた環境で音楽が出来ています。僕は音楽でしか、歌でしか返すことができないから、お世話になった人たちに音楽で恩返しをしていきたいですね。


――メジャー1stフルアルバム『カレンダー』は、川崎さんの弾き語りを軸に、様々なアプローチを楽しめる作品だと思いました。YouTubeドラマ『麺と千尋の並行世界』の主題歌「ヘイコウセカイ」と「僕と僕」の完全版を含むオール新曲という内容にも驚きです。どこにそんな時間があったのかと。

川崎:全曲ここ1年くらいで書いている曲なので、スケジュールはなかなかタイトでした(笑)。じつはいちばん最初に先行配信した「カレンダー」がいちばん新しい曲なんです。本当は「カレンダー」以外の8曲でアルバムを出す予定で動いていたんですけど……急遽僕から「アルバムを引っ張っていけるもっと圧倒的なリード曲を作りたい」と申告して、周りをざわつかせながら作ったのが「カレンダー」で。

――圧倒的なリード曲を作るという音楽家としてのプライドとポリシーのもとに生まれたのが、「魔法の絨毯」時代は恋人だった奥様へ今宛てるラブソング。なんて素敵なんでしょう。

川崎:あ、言われてみれば本当だ!(笑)。そう考えるとエモいっ!(笑)。やっぱりこれからもずっとリアルを歌っていきたいし、そのうえで家族や近くにいるスタッフの存在は切り離せないんですよね。あと「カレンダー」は、奥さんへの気持ちはもちろん、大事な人に会えなくて、人と人の間に生まれるぬくもりが感じられにくいご時世も影響しているんですよね。この時期だから作れた曲だと思います。


――コロナ禍だけでなく、川崎さんがこの1年でたくさんの人と出会ったことも大きいかもしれないですね。ただ、《カレンダー 君は可憐だ》というサビには驚きましたけど(笑)。

川崎:あははは! 完全にダジャレですもんね(笑)。あのフレーズが浮かんだのは事務所でふとカレンダーが目に留まった時なんですよ。自分のスケジュールがどの日もバーッと埋まっていて、それを見ながらいろんなところで歌って、いろんな人と出会ったことを思い出して、「カレンダー」をテーマに曲を書きたいと思ったんです。そこからさらに奥さんとの1年間、子どもが生まれてからのことが頭のなかに浮かんできて――その日々をぎゅっと一言にしたら「君は可憐」という言葉以外なかったんです(笑)。

――なるほど。ただのダジャレではないぞ!と。

川崎:この1年間、奥さんの言葉や立ち振る舞いにも支えられたんですよね。ひとつ屋根の下に暮らしていても、レコーディングで夜遅く帰ってきて、家を出るのが朝早いとまともに会えなくて。子どもも1歳になってすごく手が掛かるのに、僕がなかなか子育ての時間を取れないことに嫌な顔を一切見せずに“今日も頑張っておいで”と言える。そんな奥さんの強さも内包する言葉は、「可愛らしい」でも「美しい」でもなく、やっぱり「可憐」だった。だからダジャレだけど、ただのダジャレではない!(笑)。いろんな要素が合わさって辿り着いた言葉なんですよね。

――「魔法の絨毯」をはじめ、今作に収録された「カレンダー」、「ありがとう、ありがとう」、「ぼくのきもち」など、奥様に宛てた曲はすべて迷いがないなと。

川崎:ないですね~!(笑)。奥さんに宛てた曲は、言葉がすらすら出てくるかもしれない。

――そういった愛情がテーマになった楽曲もあれば、迷いがテーマになった楽曲も存在感を放ちます。「ヘイコウセカイ」と「僕と僕」に綴られている“理想と現実のギャップ”は、ふとした時に多くの人が思いを馳せてしまうのかなと。

川崎:僕もこの人生でいろんな選択をしてきて――それこそ「魔法の絨毯」がバズってすぐに会社を辞めたことは自分にとって大きな決断だったんです。後ろ指をさされても“これで正解だったんだ”と自分に言い聞かせてきた。でも会社員を続けながら音楽をやっていても、今の人生とは違うパターンの幸せを感じられていたと思うんです。……僕、今までずっとがむしゃらなんですよ。いろんな理想を描いたとしても、その通りにいくことがまずないじゃないですか。


――たしかに。そうですね。

川崎:僕にも“理想の父親像”みたいなものがあるけど、全然思ったようにはいかなくて(苦笑)。でも理想と現実のギャップに苦しむというよりは、“このなかでどうやってピースに生きていこう? どうしたら楽しく過ごせるだろう?”と考えるんですよね。

――なるほど。川崎さんは下積み時代に“武道館に立ちたい”や“もっと多くの人に音楽を聴いてもらいたい”といった様々な理想を持っていたけれど、そこで理想と現実のギャップを嘆いていたのではなく、シビアな現実でピースフルに生活する方法を模索しながら、理想を夢見てがむしゃらに突き進んでいたということですね。

川崎:これまでもずっと“理想とは違うけれど、これはこれで正解!”と思いながら生きてきました。そのほうが前向きだし、健康的かなって。僕の周りは完璧主義者が多くて、ちょっとしたミスをしたり、自分の思い描いた結果とは違うほうに転んだりすると、“俺は全然だめだ”と打ちのめされてしまう。でも“全然だめ”と思ってるのはその人だけで周りの人は全然そんなこと思っていないパターン、ものすごく多いじゃないですか?

――ああ、完璧主義者には耳の痛いあるあるです。

川崎:そういうことも歌いたいとずっと思っていたんですよね。「ヘイコウセカイ」のとおり、たしかに理想の世界にいる自分は現実の自分をあざ笑うかもしれないけど、理想は理想でしかないんです。「僕と僕」も「ヘイコウセカイ」も“理想と現実”を歌ってはいるけれど、結果的には現実世界で精一杯人生を楽しむために自分自身を鼓舞していく、僕のマインドが出た曲になったのかなと思っています。

――とはいえ、「魔法の絨毯」が注目されるまでの間、悔しさや苦しさを抱えていたからこそそう思えたところも大きいのではないかなと。

川崎:そうですねえ……。「道しるべ」はまさにそのマインドを書いた曲です。道しるべは前にあると思いがちですけど、僕は過去にあると思っているんですよ。過去の自分が歩いてきて、ちょっとずついろんな武器を手に入れて、その行程が道になって、この先の自分の進む方向を照らしてくれる気がしているんですよね。“過去を持って前に進んでいこう”という気持ちも込めています。

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