【インタビュー:前編】筋肉少女帯、「この先に何十枚出したとしても、このアルバムはエポックメイキングだったと記憶される」

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■みんな大人になったんだね
■コノヤロー!の向き方が変わってきた

──内田さん、お待たせしました。楽曲を作るにあたって、大槻さんからは先ほど“らしい”ものが出てきたという発言もありましたけど、内田さん自身はどういう方向で行こうとかそういったところで意識としては……?

内田:うーん、あのー、ギターのお二方がやはりスタイルを持っていらしてですね、筋少の中での王道を毎回作ってると思うんですよ。これは大変な作業だと思います。そこで僕はというと、毎回、変なほう変なほうに行くので、わりと楽なんですよ。

──楽、ですか?

内田:いや、楽というわけじゃないんだけど、毎回違ったジャンルというか、いろんなジャンル、新しいものを考えるってことが毎回できていて。今回もまた新しくできたかなとは思いますね。

──何が王道で何がそうじゃないという捉え方は人それぞれかもしれませんけれど、内田さんが考えるところの王道的な曲がお二方から出てくるからこそ、躊躇なく冒険ができるということですか?

内田:ははぁ、はいはい。言ってみれば、そういうことですね。だから、楽させてもらってます。

──はははは! 逆に橘高さんと本城さんからすれば、内田さんが作ってくるような曲はご自身からは出てこないというのか。

橘高:あのね、そもそも筋肉少女帯というバンドは大槻ケンヂと内田雄一郎が始めたものであって、彼が王道じゃないと言ってるものこそが実はこのバンドの王道なんです、僕から言わせれば。

──真理ですね! 逆もまた真なりというのか。

橘高:そうなの! 確かにこれまでの時間的な流れの中、橘高・本城がここまで歴史的に積み上げてきたものというのがあって、歴史を振り返ってみると、そこが王道っぽく見えるということを内田君は言ってくれてるんだと思うんだけど、それ以前に彼の中から筋少以外の何ものでもないものが出てくるわけですよ。そこが筋少の筋少たる所以だと僕は思ってて。まあ、ヘヴィ・メタルの僕が筋少に入れた理由もそこにひとつ大きなところがあって。つまり筋少ってものが橘高文彦というギタリストにもうひとつ、いろんなものにチャレンジもできる場をもたらしてくれたというか。それゆえに加入したというのがあるし、どんな楽曲にもすべて対応して自分の色を入れてくるギタリストになりたいって思わせたのも、内田君の楽曲の世界だしね。近年は確かに楽曲数の割合だけで言うと、内田君がこのバンドの中でのカウンター的なポジションになってきてる。だけど今回のアルバムで楽曲が全部出揃って聴いた時、トータルに見渡してみた時に思ったのは、今回は内田曲3曲がこのアルバムの軸になるってことで。それはすぐにわかったな。どういうことかと言うと、橘高・本城の曲は“あ、今回もそれぞれにこう来て欲しいっていう曲が揃ったな”というものだったわけです、内田君からすれば。で、内田君からは予測不能な楽曲が出てきてくれた、と。そこで予測可能なものが出てきてたら、ちょっと違ってたかもしれないんだけど。


▲本城聡章 (G)

──いやあ、バンドの構造がとてもよくわかる話です。

橘高:自分にとっては予測不能なんだけど、それでいて内田雄一郎だし筋肉少女帯である、というか。これは素晴らしいことだなと思って。それこそ近年は、みんなそれぞれが筋少を離れたところでも活動してたりする中で、橘高・本城はさっきも言ったように弾き語りをやって、アルバムを出したりしてきたんですけど、一方で内田君はテクノに比重を置いたソロ・アルバムを出してまして。近年の内田君のデモでは、たとえば歌なんかもボカロを使ったりしてて、非常にテクノ・テイストなものになってるんですよ。実は昔からそういうところはあって、アナログの時代のデモ・テープでも内田君はそうやっていろいろ出してきて、それをバンドに置き換えてやってたんだけど、近年は非常にレベルの高い、そのままCDにしちゃえばいいじゃんと思うぐらいのデモ・テープが来てたんですね。そこで個人的に思ったのは、この内田雄一郎の作り上げてきたデモ・テープの打ち込みで完成されてる世界というのを、今度は逆の発想で、筋肉少女帯として、サポート・ミュージシャンも含め、楽器馬鹿がひたすら練習を積み重ねてきたその楽器愛みたいなもので、バンド・サウンド、アナログに変換することができたなら、すごく面白いアルバムになるんじゃないかということで。そこで内田雄一郎という作家を存分に美味しく使うことができるようになるんじゃないか、と。

──すでに完成状態と言って差し支えない域にあるものを、素材から作り替えてしまうというか。

橘高:結局そのデモというのが、打ち込みのままで、あとは歌だけ差し替えればそのままアルバムに入れてもいいくらいのレベルのものだったんですよ。でも、シーケンスのままでもいい状態にあるものを、敢えて生ピアノとか生ギターで弾いてみたり。そういう、どうしても必要というわけじゃない置き換えの作業というのがすごく楽しかったし、近年の内田君の楽曲に多かったそういった傾向というのをバンドとして消化できて、それがここに完成をみたかな、と思っていて。内田君の楽曲をこのバンドがちゃんと料理しきって、しかもそれがアルバムの核になったっていうのが今回のアルバムにおいてはすごく重要な部分だと思うし、この先に何十枚出したとしても、このアルバムはそういうエポック・メイキングな作品だったと記憶されることになるんじゃないかと思うんです。

内田:決まったー!(しばし沈黙ののち、一同クスクス笑い)。あのー、僕はね、いつも楽器陣のことを考えて作ってるんですよ。で、たとえば“ここはもう、ぶわーっと来るだろう”みたいな箇所にはめちゃくちゃなフィルとかフレーズを仮に入れておくわけなんだけど……この人たちはそれを、そのまま弾いちゃうんだよね。

──ははは! なるほど。

内田:だから、それは嬉しいんですけどもね。“バンドなんだから、膨らまそうよ”みたいなことも思ってるんですけども、あまりに忠実にやっていただいてびっくりする。“なるほどね、そういうこともあるね”っていう。

橘高:実は内田君は何十年もそうやって、わざと適当にデモ・テープを作ってきてたのね。たとえば、ギターのパートとかも“橘高、ここわかってるよね?”とでも言いたげなフレーズを入れてくる。さっきの言葉を借りれば設計図にそういうイメージを描いてきて、“ここをちゃんとした感じに完成させてくれ”って投げてくる。まあ、おいちゃんにもそういうところはあるんだけど。

本城:ふふっ。

橘高:そうやってキャッチボールをするのがウチのデモだったんだけど、近年はフレーズが完成されてるのを出すようになってきたの、内田君は。

内田:ははっ、そうなの?

橘高:そうだよ(笑)。ただ、たとえば20年前の俺だったら、意地でもそのフレーズ通りには弾きたくなかった。そこで自分のフレーズに変えていかないと自分の存在理由を感じられなかったんだけど、今は逆に、基本的には打ち込みで作られたようなギターのフレーズを生ギターで弾くというのがエンターテインメント的にもいいというか、お客さんが観たら面白いものになるんじゃないかというがあって。しかもその内田君の投げてくるもののレベルというか、その投げ方の完成度が高くなってるから、それをそのままやってみたくなってるということかな。バンドとして、アナログでね。もちろんギター的な理屈からちょっと直して“ここをこうしたほうが良くない?”という相談はしてるんだけど、今回も。

内田:そうか。みんな大人になったんだね(一同笑)。そういうデモについて“コノヤロー!”って思うんじゃなくて、その“コノヤロー!”の向き方が変わってきたんだね。

本城:そうだね(笑)。

内田:なるほどー。

──“かつては意地でもその通りに弾きたくなかった”というのもすごくわかります。ただ、お互いに対する理解度も信頼も深まってきた中で、フレーズの完成度が高くなっているだけじゃなく“おまえ、俺のことわかってるな!”と思わされるようなことも増えてきているんじゃないですか?

橘高:その信頼っていうのももちろんあるんだけど……ただ、内田君が持ってくるデモのギター・フレーズなんかが、それこそドリーム・シアターみたいだったりするもんで。“こんなもんが普通に弾けると思ってんのかよ!”と思うし、逆にそこで奮い立たされる部分というのもあるんだけど。ピアノのフレーズでもそう。“こんなの、三柴(理)君じゃなきゃ弾けねーよ!”みたいな。

内田:へっへっへ。

橘高:だから“コノヤロー!”は相変わらず“コノヤロー!”なんだけどね。

内田:そうなんだよねー。

──今、本城さんも頷いてましたけど、やっぱりデモを通じてそういう無理難題を吹っ掛けられるようなことが多々あるわけですか?

本城:あのー、橘高さん、三柴さん、長谷川(浩二)さんにはあるんじゃないですかね(笑)。

橘高:あるね。

本城:内田君は多分、僕には僕の仕事があると考えてるんだろうと思います。それを内田君から受け取って、僕は僕の仕事をしようと思うわけですね。だから今みたいな話には、僕はちょっと関係ないかなと(笑)。

──関係ないまで言っちゃいましたか(笑)。

取材・文◎増田勇一

◆インタビュー【後編】へ続く


■New Album『君だけが憶えている映画』

2021年11月3日(水)発売
【初回生産限定盤 (CD+DVD)】TKCA-74993 ¥4,950 (税込)
【通常盤 (CD only)】TKCA-74994¥3,300 (税込)
▼収録曲 (初回限定盤・通常盤 共通)
01. 楽しいことしかない
02. 無意識下で逢いましょう
03. 坊やの七人
04. 世界ちゃん
05. COVID-19
06. 大江戸鉄炮100人隊隠密戦記
07. そこいじられたら〜はぁ!?
08. ロシアのサーカス団イカサママジシャン
09. ボーダーライン
10. OUTSIDERS
11. お手柄サンシャイン
▼初回限定盤付属DVD収録内容:<2020筋少1stライブ>&<2020筋少Finalライブ>
<2020筋少1stライブ>2020.10.18 EX THEATER ROPPONGIより ※ディレクターズカット版
01. 孤島の鬼
02. 暴いておやりよドルバッキー
03. 日本印度化計画
04. イワンのばか
05. カーネーション・リインカネーション
06. ディオネア・フューチャー
07. サンフランシスコ
<2020筋少Finalライブ>2020.11.19 EX THEATER ROPPONGIより ※ディレクターズカット版
01. くるくる少女
02. 僕の宗教へようこそ〜Welcome to my religion〜
03. 踊るダメ人間
04. 香菜、頭をよくしてあげよう
05. これでいいのだ
06. ツアーファイナル
07. 釈迦

※封入特典:筋少トレーディングカード1枚 (全10種ランダム)封入
限定盤・通常盤共通 初回プレス分のみ封入


■ライブ<君だけが憶えている映画ツアー2021>

11月06日 (土) 大阪・梅田クラブクアトロ
(問)清水音泉 06-6357-3666

11月13日 (土) 神奈川・YOKOHAMA Bay Hall
(問)HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999
▼Streaming+にて配信決定
配信視聴チケット ¥4,000
アーカイブ:11/13(土)17:30~11/20(土)23:59
Streaming+:https://eplus.jp/sf/detail/0167710002-P0030145P021001?P1=1221

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11月28日 (日) 東京・LINE CUBE SHIBUYA
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