【インタビュー】スティング「僕と水との関係はかなり強い」

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Photo by Eric Ryan Anderson

スティングのニューアルバム『ザ・ブリッジ』が2021年11月19日にリリースとなった。2016年に発売された『ニューヨーク9番街57丁目』以来、5年ぶりとなるオリジナル・ニュー・アルバムだが、今作は、新型コロナウイルスの猛威によって混乱を期したその1年間に書かれた曲によって構成されている。

人命が奪われ、人と人が離れ離れになり、未曾有の社会的/政治的混乱に見舞われた1年に思いをめぐらせ、スティングはこの作品に、橋(ブリッジ)という印象的なキーワードを打ち出している。

「これらの曲は、ある場所と別の場所、ある精神状態と別の精神状態、生と死、人と人の関係、そういったすべての“間”にあるものだ。このパンデミックと時代の間に挟まれ、政治的にも社会的にも心理的にも、僕らは、何かの真ん中で立ち往生している。架け橋が必要なんだ」──スティング


Photo by Eric Ryan Anderson

ロックからジャズ、クラシック、フォークに至るまで、これまでのキャリアを通じて打ち出してきたスティングの世界観は、ここでも珠玉の色彩を見せている。1曲目からロック全開の「ラッシング・ウォーター」や新しい形のインディー・ポップとも言える「イフ・イッツ・ラヴ」といったポップ・ロックから、くすんだエレクトロニック・バラード「ラヴィング・ユー」、ロマンティックな「フォー・ハー・ラヴ」まで、どれもがスティングの真髄ともいえるサウンドばかりだ。


パンデミックという類のない環境下、『ザ・ブリッジ』には自身の幼少期の経験が大きな影響を与えているという。

「僕の街に伝わり子供の頃からずっと歌い続けてきた「Water of Tyne」という古い民謡(フォークソング)がある。そのタイン川の近くで生まれた僕にとって、あの曲とあの川は重要な象徴なんだ。歌われているのは、川によって隔てられた恋人同士。ところがそこには橋がないから、船頭に頼んで恋人の元へ船を漕いでもらうんだけど、この民謡には音楽的な意味での橋(ブリッジ)がなかった。それで、自分なりのアレンジで曲にしたんだ。」


ブリッジとは、曲をひとつのパートから別のパートへ移行させる部分で、心変わりや考え方の変化を表わし、キーチェンジを経て、終結部はそれまでと違う所に帰結する。そういう意味で、曲の構成におけるブリッジはとても重要だとスティングは語る。

そんなブリッジを古い民謡に書き加えながら、スティングはその過程で、橋(ブリッジ)というキーワードでもう1曲の別の曲を書いていた。アルバムの曲はそれぞれにつながっており、曲と曲の間にもブリッジが存在していると指摘する。ふたつの場所・ふたつの世界・ふたつの精神状態・生と死・人と人との関係…パンデミック(一波と次の波)の間、時代の間、政治的にも社会的にも心理的にも、人は何かの真ん中で行き場を失い、向こう側にまだたどり着けずにいる。我々は誰しも向こう側へ渡るための橋(ブリッジ)を必要としていると、スティングは言う。


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アルバムの制作には1年もの年月を要している。アルバムの全容の意味を求めず、何ヶ月も個別の曲として楽曲を書き続けていたが、スティングはある時グローバルな視野で見ることによって、アルバム全体を捉えることとなる。

「これらの曲に登場する人たちは、誰もがふたつの世界の間にいるんだと気づいたんだ。どこにも落ち着けず、ひとつの所から次の所へと向かっている。ここではないどこかに行くことを夢見て、川を渡ることを夢見ている。今の関係ではない別の関係を探している。そのすべてが、僕を橋(ブリッジ)に連れていかせた。その旅を実現することが、このアルバムの本質なんだ」


Photo by Eric Ryan Anderson

タイン川のほとりで生まれ育ったスティングだが、今でも制作活動に欠かせないキーワードに「水」がある。毎朝、プールに飛び込み泳いでいるスティングは、それによって心が洗われ身体も喜び心も喜ぶという。彼にとってのハイドロセラピー(水治療法)は、精神状態を助けることに寄与しているようだ。

「僕と水との関係はかなり強いと思う。生まれたのは川辺、海の近くだ。また宗教的な側面もある、子供の頃から教会に育てられたからね。水とワイン。水は洗手式(lavabo)と呼ばれる清めの儀式で使われた。だから曲に登場する水や川や雨といった象徴的な要素は、非常に重要なんだ。ソングライターとしても、何度も登場させているシンボルだし、多くの人に理解してもらえるシンボルだ。なぜなら人間は水でできているからね。僕らは潮汐の影響を受け、月が体内の水を引っ張ることで影響を受け、考え方も違ってくる。僕の人生にとって水は大きな意味を持っているよ」


Photo by Eric Ryan Anderson


スティング『ザ・ブリッジ』

2021年11月19日発売
●CD+DVD デラックス盤[日本独自企画盤] UICY-79755 ¥4,070(税込)
7インチ・サイズ・パッケージ 折込ポスター2枚封入
●CD 通常盤 UICY-16021 ¥2,750円(税込)
日本盤ボーナス・トラック1曲収録 スティングによるライナーノーツ掲載(日本語訳付)
※日本盤のみSHM-CD仕様
1.ラッシング・ウォーター
2.イフ・イッツ・ラヴ
3.ザ・ブック・オブ・ナンバーズ
4.ラヴィング・ユー
5.ハーモニー・ロード
6.フォー・ハー・ラヴ
7.ザ・ヒルズ・オン・ザ・ボーダー
8.キャプテン・ベイトマン
9.ザ・ベルズ・オブ・セント・トマス
10.ザ・ブリッジ
11.ウォーター・オブ・タイン
12.キャプテン・ベイトマンズ・ベースメント
13.ドック・オブ・ベイ
14.孤独のニューヨーク


◆スティング・オフィシャルサイト
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