【ライブレポート】Little Black Dress、Z世代のシンガーが魅せるシティポップ・ナイト

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今年7月に川谷絵音プロデュースの配信シングル「夏だらけのグライダー」でメジャーデビューを果たしたLittle Black Dress。9月には同じく川谷が手がけた第2弾配信シングル「雨と恋心」を発表、その間に地上波の音楽番組にも数多く出演を果たしてきた。そんな彼女が、10月5日にワンマンライブ<Little Black Dress“CITY POP NIGHT @ Blue Note Tokyo”>をBlue Note Tokyoで開催。2ステージ行なわれた公演から、本稿では1stセットの模様をレポートする。

◆ライブ画像

公演タイトルどおり、この日はシティポップに特化したライブ。海外でリバイバルヒットしている日本のシティポップの名曲の数々を、歌謡曲の伝統を受け継ぐLittle Black Dressならではの解釈でカバーするという、懐かしくも新しいスペシャルな一夜となった。なお、当日の2ndセットの様子は「SHOWROOM」で生配信が実施され、こちらも大盛況だったようだ。

白のスーツにキラキラと輝くネックレスやイヤリング、青のハイヒールという出で立ちで現れたLittle Black Dressは、その衣装にちなんで第一声は「Little White Dressでーす!」とお茶目に挨拶。イベントの趣旨を説明しつつ、「みなさんがきっと知っているであろう名曲ばかりを用意してますので、どうぞ心の中でいっしょに歌って、最後まで楽しんで帰ってください」「コロナ禍での開催になりますが、なんと今日は(緊急事態宣言が解除されたため)嬉しいことにお酒が飲めます」と話し、この日限定のオリジナルカクテル“City Popの味がする黒いワンピース”も紹介した。


Little Black Dressにとって、初めてのブルーノート。1曲目を飾ったのは、大瀧詠一作曲の「さらばシベリア鉄道」だった。バンドの演奏が始まり、バックスクリーンにLBDの姿がグラフィック的に映し出され、彼女の情感に富んだ美しいボーカルが響きわたると、雰囲気たっぷりの素敵な場内がよりいっそう輝きを増す。

メンバー編成はLittle Black Dress(Vo&G)をセンターに、バンマスのDevin Kinoshita(Key)、超絶技巧を誇るIchika Nito(G)、DADARAYより休日課長(B)とえつこ(Cho&Key)、先日のB'z初主催イベント<UNITE #01>のサポートも務めた青山英樹(Dr)という強力な布陣で、1曲目からその存在感を発揮。ichikaの速弾きやえつこの艶やかなコーラスなどが、LBDの歌にいい塩梅で華を添えていく。寺尾聰の「ルビーの指環」ではアコギからエレキに持ち替え、寺尾を彷彿とさせるティアドロップ型のサングラスをかけて歌ったりと、洒脱さを加えるLBD。チャーミングなところもありながら、ロマンティックな詞の世界観をスタイリッシュにかっこよく打ち出した。

「ありがとうございます。オープニングの「さらばシベリア鉄道」は、大瀧詠一さんが太田裕美さんに提供された曲ですけど、名盤『A LONG VACATION』に入っている大瀧さんバージョンでお届けしました。スウェーデンのインストバンド、スプートニクスのようなギターサウンドを今回はichikaの感じに染めてもらいました。そして、寺尾聰さんの「ルビーの指環」は小っちゃい頃に祖母の車で聴いた曲でいちばん好きな曲です。2曲とも、作詞は松本隆さん。松本隆さんの詞の世界観ってすごくオリジナリティがあって、冒頭から物語を提唱してきますよね」などと、演奏後にLittle Black Dressが曲の解説をしてくれるのも楽しい。


そんな“季節のシティポップ”を届けたあとは、“70年代のシティポップメドレー”と題し、EPO(オリジナルはシュガー・ベイブ)の「DOWN TOWN」へ。タンバリンを叩きながら快活に歌うLittle Black Dressのウキウキにつられて、客席のファンも気持ちよさそうに身体を揺らしたり、手拍子を送ったりしている。さらに、バックに青空の風景が映し出される中で歌った荒井由実「中央フリーウェイ」、ソフトメロウな尾崎亜美の「マイ・ピュア・レディ」と繋ぎ、ジャジーでファンクなノリが効いた大貫妙子の「4:00A.M.」では、メンバー紹介を兼ねた各パートのソロ回しを挟んだりと、セッション感でも会場を沸かせた。

そして、中盤ではスペシャルゲストとしてシティポップの歴史を彩ってきたレジェンドプレイヤー・鈴木明男をサックスに招き入れ、計7人編成でよりグルーヴィにメドレーを展開。竹内まりやの「プラスティック・ラヴ」では、東京の夜景を一段と美しくしてくれるような鈴木のサックスが早速ムーディに響きわたり、シェイカー片手に歌うLittle Black Dressの歌を小気味よくアシストする。Little Black Dressのカッティングギターもいいアクセントになっていた山下達郎の「SPARKLE」、AORを薫らせてアーバンに聴かせる濱田金吾の「midnight cruisin'」、昨年サブスクで大いに盛り上がりを見せた松原みきの「真夜中のドア〜Stay With Me」と、偉大すぎるシティポップの名曲がとびきりのボーカルとアレンジで、しかもブルーノートというシチュエーションで楽しめるのは、実に贅沢な時間だ。

グルーヴや曲調に合わせてどんどんモードを変えていくLittle Black Dressの歌唱。曲における主人公の物語を活き活きと演じ、その心情を表現するような七変化っぷりは見事で、大好きな歌を歌える喜びに満ちていた。男性/女性歌手を問わず、珠玉のナンバーの数々に挑みつつ、個性の強いバンドメンバーをリードしていくさまも素晴らしい。自分が生まれていない時代の曲を次々に披露し、「やっぱり明男さんが加わると、一気にシティポップ感が増しますね」と目を輝かせる平成生まれ令和デビューのシンガーソングライターは、これからも追いかけたくなる非常に稀有な存在ではないだろうか。


終盤のメドレーでも、鈴木がオリジナルバージョンの録音に参加した杏里の「悲しみがとまらない」が飛び出すなど、激レアな瞬間の連続にお酒がおいしくなるばかり。さらりと実現させてしまっているようにも見えるけれど、シティポップに絞ったライブにレジェンドの鈴木を迎えたり、竹内まりやの「プラスティック・ラヴ」と山下達郎の「SPARKLE」で当時ドラムを務めた名ドラマー、青山純の息子である青山英樹に同曲を叩いてもらったりと、こうして世代を超えた共演や継承を目の当たりにできるのは、本当にすごいことなんです!

メジャーデビューからわずか3ヵ月、まだまだ新人と言っていい弱冠22歳の彼女が、カバー曲で構成したこんなにスペシャルなライブを、歴史あるBlue Note Tokyoでやってのけるのは、まさに異例ずくめ。その後も、Little Black Dressの情熱的なハイトーンが映える1986オメガトライブの「君は1000%」、課長と青山のバウンシーなビートなど7人の演奏がノリにノッていたアン・ルイスの「恋のブギ・ウギ・トレイン」と駆け抜け、煌びやかな歌と音色にめいっぱい酔いしれているうち、あっという間に本編が終わっていたのだった。


大きな拍手に応えて、再登場したLittle Black Dressとバンドメンバー。ラストのMCでは、「ブルーノートというとても素敵な場所で演奏させていただいて、心からありがたい気持ちでいっぱいです!」とあらためて感謝を伝え、「どれがシティポップでどれがニューミュージックなのかは正直わからないです。でも、今日やった曲は世代を超えて響くものだと感じました。だから、ボーダレスに広がっていく音楽。それがシティポップでいいんじゃないかなと思います」と、Z世代らしく自由で縛られない見解を提示してみせた。

「それでは最後に、令和のシティポップを」と、アンコールでは満を持してオリジナル曲を披露。時折スキャットを織り交ぜながら伸びのある歌声で聴かせたメジャーデビュー曲「夏だらけのグライダー」、滴る雨の映像をバックにLittle Black Dressの歌声がこの日いちばんロックに感じられた最新曲「雨と恋心」は、<CITY POP NIGHT>の流れにもすごく馴染んでいたと思う。

堂々たるパフォーマンスで、シンガーとして、表現者としての魅力を存分に発揮したLittle Black Dress。今後の活躍も楽しみで仕方ない。


取材・文◎田山雄士

セットリスト

・Medley 1
1.さらばシベリア鉄道
2.ルビーの指環
・Medley 2
3.DOWN TOWN
4.中央フリーウェイ
5.マイ・ピュア・レディ
6.4:00A.M.
・Medley 3
7.プラスティック・ラヴ
8.SPARKLE
9.midnight cruisin'
10.真夜中のドア〜Stay With Me
・Medley 4
11.悲しみがとまらない
12.君は1000%
13.恋のブギ・ウギ・トレイン

en1.夏だらけのグライダー
en2.雨と恋心

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