【インタビュー】鳥籠の中で僕たちは、、「彼岸花は僕の死体に咲く」から動き出した表現世界
“鳥籠の中で僕たちは、”という音楽ユニットは、昨今の時代の流れの中で花開いた美しい存在だ。Vocal:TORi、Music:cage、Guitar:raynという3人がWebを通して互いの才能に出会い、「日常の違和感を音楽に」という表題に掲げ2021年5月より活動を開始。3作目にしてユニット始動のきっかけになった「彼岸花は僕の死体に咲く」をリリースした。本インタビューではTORiとcageの2人が登場するが、そこでは深淵を感じさせる作品の世界観だけでなく、各メンバーが持つ魅力的なギャップにも驚かされることとなった。楽曲とともにその思いにもそっと耳を傾けてほしい。
◆ ◆ ◆
■他人は花開いていくのに自分はなかなかそこにたどり着けない…という想いから生まれる
■“何でだろうな?”
──今年5月に始動した“鳥籠の中で僕たちは、”の、まずは結成の経緯から伺いたいのですが、もともとはcageさんがボーカロイドPとして活動されていたんですよね?
cage:そうですね。僕がボーカロイドで作曲して、昔からの友人であるギタリストのraynと二人でやっていたんです。で、今回の「彼岸花は僕の死体に咲く」を書いたときに、「この曲にはボーカロイドでは表現しきれないものがあるんじゃないか?」という話になり。歌ってくださる方を探していたところ、YouTubeでTORiさんの歌唱した音源を視聴して、お声がけさせていただいたという流れですね。
TORi:SNSづてに連絡をいただいて嬉しくはあったんですけど、それまでニコニコ動画で“歌ってみた”動画を投稿していて、ボーカロイドの文化では人間が歌うことに抵抗のある人が多いなと感じる部分もあったんです。私自身、その抵抗感はわからなくもなかったので、自分が歌う意味って何だろう? cageさんの作る楽曲を素直に受け取ってもらうために、どういう気持ちでどう歌えばいいだろう?というところは、突き詰めた上でお受けしなきゃなという想いはありました。それは今でも常に考えてます。
cage:実際、最初は純粋に“声がいいな”ということでTORiさんにお声がけさせてもらったんですが、やり取りをしていく中で“この人は僕の言いたいことや曲に込めた想いを、自分の中に100%以上に落とし込んで歌で出力してくれる人だな”と痛感したんです。結果として「彼岸花は僕の死体に咲く」は予想以上に良いものになって、これ1曲じゃもったいないよねという話から、僕とTORiさんとギターのraynっていう3人組のユニットとして活動することになり。今はTORiさんのために曲を書くということを、とても楽しくやっていますね。
──率直に言って、cageさんの曲って重いじゃないですか。
cage:まぁ、そうですね。相違ないです(笑)。
──メッセージ性が強いがゆえに、その曲世界を歌い手に深くまで解釈して出力してもらうことは、より重要かつ難しいことですよね。
cage:いや、ホントにその通りです! 曲を書くたびに“この曲はTORiさんに歌ってもらっていいものなのか?”っていう葛藤はありつつ、ちょっと無理して押して歌っていただいている部分が大いにあるんですよ。
TORi:でもcageさんの詞世界って、私からすると共感できる気持ちのほうが強いんです。自分より辛い想いをしてる人って世界にはいっぱいいるでしょうけど、自分なりに考えて感じてきたことが役に立って良かった!みたいな実感はありますし。例えば「彼岸花は僕の死体に咲く」だったら、他人は花開いていくのに自分はなかなかそこにたどり着けない……っていう想いから生まれる“何でだろうな?”っていう純粋な疑問であったり。“自分には何が足りてないんだろう?”っていう劣等感に似たような自分の力不足を思い知る瞬間っていうのは、すごく入りやすかったですね。
──そういった想いは、cageさん自身が体験してきたものでもあるのでは?
cage:そうですね。僕、2019年の3月に出した「才能なんてないと叫ぶ」っていうボーカロイド曲がそこそこ跳ねて、今、120万弱くらいの再生回数なのかな。でも、そこから先が続かなかったんです。1曲当てた後にちゃんと“次”に繋げていけてる人も周りにはいたから、その差は何だ?っていう想いもあったし、自分より後に出てきた人が自分より早く世に受け入れられていく姿も見てきたので、それも何でなんだろうな?と。そういう幾つもの“なんで?”が積み重なった結果が、この「彼岸花は僕の死体に咲く」なんですよね。
──“あの人に比べて私はなんで?”という葛藤を感じたことのある人は決して少なくはないでしょうし、ある意味で普遍的なテーマですよね。ただ、それを表現するのに“彼岸花”とか“死体”というワードが出てくるあたりに、やはり特異性を感じざるを得ないんです。
cage:“彼岸花”を選んだ理由は単純で、綺麗だけれど触れがたいところのある花だなと僕が昔から感じていたのと。“死体”に関しては……2019年の4月にボカロPのWOWAKAさんが亡くなられたとき、彼の作品がいきなり祭り上げられるような状況が起きて、命を落としたことにより作品がいっそう世に認知されるという現象があるんだなと実感したんです。
──死後に評価されるって、芸術家にはよくあることですから。時代を遡ればゴッホとか石川啄木とか、枚挙に暇がない。
cage:はい。それをテーマに曲を書いた結果、こうなっちゃったんですよ。“僕”を養分に“君”という芽が伸び、花が咲く……っていう。
TORi:cageさんの曲を歌わせていただくのは初めてでしたし、すごくプレッシャーもあったので、念入りに準備したのを覚えてますね。「こういう感じになると思います」って仮歌的なものをお送りして、「もっとこうしてほしい」とかっていう要望を返していただき……っていうやり取りを何度も繰り返してました。
cage:3回くらいやったんじゃなかったっけ。
TORi:やったと思います。何が難しいって、ボーカロイドの音源を頂けはするものの、例えば他の方が歌っているものとか、参考にできるものが何も無いんですよね。当たり前なんですけど(笑)。なので、どこで自分らしさを出していくか? どうやって曲を壊さないアレンジをしていくか? あとは、人の心の奥底に突き刺さるような重たいテーマと歌詞なので、逆に重すぎないように聴いてもらうにはどうしたらいいだろう?っていうところを考えながら、自分でもバランスを取って歌ってました。花の儚さを表現しつつ、聴き手の背中を押せるような前向きな歌詞もあるので、“自分はどうしてこうなんだろう?”って悩みながらも踏みしめて歩いて行くことの強さを表現したかったんです。
──タイトルと歌詞から想像する重さに反して、意外と爽やかというか、ふんわりとしたヴォーカルになっている理由が、それでわかりました。そもそも最終的には決して悲しい歌ではなく、すごく前向きな曲ですもんね。
cage:それが伝わっていれば何よりです! じゃあ、この曲で何を伝えたいのか?ってなると難しいんですけど、一つに“継続は力なり”ということがあるのは間違いないですね。自分を信じて突き進むっていうのは大事なことで、やっぱりやめちゃったら、そこで終わりですから。
──結果、ユニット結成のキッカケにもなった重要な曲であるにもかかわらず、この「彼岸花は僕の死体に咲く」を始動一発目ではなく3作目に出したのは何故なんでしょう?
cage:そこは完全に戦略的な理由ですね。今の時代、一発目に一番の自信作と持ってきたとして、世間に聴いてもらえるかどうかは五分五分以下の勝負だと思うんですよ。なので、まずは多少なりとも存在を示しておきたいなと考えて、「君と生きたい」に「愛と呼ばせて」と後から作った曲を先にリリースしたんです。
▲鳥籠の中で僕たちは、/「彼岸花は僕の死体に咲く」
──自信作だからこそ、より聴いてもらうための方策を考えたと。では“鳥籠の中で僕たちは、”というユニット名の由来って、何なんでしょう? おそらく鳥籠の“鳥”はTORiさんからだと推察するのですが。
cage:その通りです。あとは僕って物事を考えるとき、自分の中で自問自答するのが好きなんですよ。昔から。それって僕の感覚で言うと、頭蓋骨という籠というか覆われたものの中に囚われながら、考え続けているイメージなんですね。それを鳥と組み合わせるなら“鳥籠”じゃないかと。なので“鳥籠の中で僕たちは、”の先をどう続けるかは、人それぞれ自由でいいんですけど、僕の場合は“考える”っていう言葉が来るんです。
TORi:その情報、私は“はじめまして”ですね(笑)。ただ、鳥籠という単語が出た時点で、籠の中と外が存在するわけじゃないですか。いわば自分の世界と、自分の知らない世界という対比が、すごく面白いなぁというふうには思いましたね。
cage:だから、この鳥籠っていうのは僕個人でもあり、“鳥籠の中で僕たちは、”というグループでもあり、リスナーと僕たちでもあるっていう、いろんな取り方ができるんですよね。鳥籠の内と外は伸縮自在で、結構拡張性があるんです。で、さっき「自問自答が好き」って言いましたけど、特に好きなのが普遍的な、いわゆる答えの無い問題を考えることなんですよ。それで始動にあたり“日常の違和感を音楽に”という主題を掲げたんです。
──なるほど。
◆インタビュー(2)
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