【コラム】Official髭男dism、今届けたいすべてを“ここにだけ書き記す”ニューアルバム

ポスト

“伝えたい だけど語れない/そんなこの気持ちの後先を/ここにだけ書き記す/だけど上手く書けず喜んでる/そっちの方が幸せだから
朝日が来るように至極当然なことにも/溢れている 隠れている/思いを形にしたんだ/あなたにも受け取ってほしくて“

◆ミュージックビデオ

多くの人が心待ちにしていたOfficial髭男dismのフルアルバム『Editorial』のオープニング曲「Editorial」の歌詞だ。エフェクトをかけた声だけのアカペラで、まっすぐ届けられるメッセージ。「こんなアルバムです」と丁寧に目を見て手渡されるように幕を開ける、ここまで真摯なアルバムがあるだろうか。

前作『Traveler』では、人生を続いていく旅になぞらえ、雄大なポップ&ロックシンフォニーを描いたヒゲダン。聴き手ひとりひとりの喜びや悲しみに寄り添いながら、たくさんの夢をみせてくれた。そして、そこから「I LOVE...」「HELLO EP」「Universe」「Cry Baby」と意欲的なリリースが続く中で伝わってきたのは、さまざまなタイアップをしっかり受け止めつつ、明確に新しいサウンドデザインやアレンジに挑戦して自らの枠をどんどん拡げる彼らの姿だった。いわゆる方向性の変化とかイメージを壊すとかではなく、ヒゲダンはヒゲダンのままで、可能性を増やしていくこと。「自分たちが作りたいグッド・ミュージック」を、もっともっと貪欲に突き詰めてきた。

その過程には迷いも葛藤も大いにあったに違いない。加えて、コロナ禍という想定外の大打撃である。たくさんの経験と試行錯誤を経てヒゲダンが辿り着いた、今届けたいすべてを「ここにだけ書き記す」と真摯に結実させた傑作。それが『Editorial』だ。

プロローグのような「Editorial」に続くのは、優しいシンセのアレンジが印象的なミドルバラード「アポトーシス」。“さよならはいつしか 確実に近づく”と、人生の終着点と別れを見据えた歌詞が、いきなり心の奥底にドンと突き刺さった。冒頭にこの曲を持ってきたところに意志を感じる。ヒゲダンはいつだって夢物語ではなく「現実」を描いてきたのだから、やっぱりブレずに、「現実」を描くという意志。


とはいえ、特別シリアスなアルバムだと言いたいわけではない。現実、そして日常の情景を、極上のポップスで彩ってきたのがヒゲダンだ。今作では、その対象と解像度がグッと上がって、メンバーの人間性やパーソナルな想いを、リアルなままに真空パックで音楽に包み込むことに成功している。そこに「HELLO」「Cry Baby」と、バンド自体の度量、器の大きさを示す壮大なシングル曲が並ぶことで、その温度感がより際立って美しい。

優しいギターのストロークから始まる「Shower」では、タイトルどおりお風呂でシャワーを浴びながらぼんやり昔を思い返す調子で“どうにか僕らは年甲斐ってものとそれなりに上手く付き合っていられてるから”と歌う。「みどりの雨避け」はナチュラルな音作りが軽やかで、“夏休みの日 愛の形/店の屋根 弾ける/雨音、止む事 今でもそれは同じ”という自然体の歌詞が映える。さらに、「ペンディング・マシーン」で、ノリノリのダンスビートに乗せて“はい。分かったからもう黙って 疲れてるから休まして”とぼやいてみせ、ひときわチルなムードの「Bedroom Talk」は、“このまま独りきり 誰にも言えない言葉を抱えてるなら/まだ強くなれそうにない自分のことも/愛せるように 話をしようよ/眠りにつくまで 隣に居るよ”と近い距離感で囁く。

メンバーそれぞれが自分に向き合い、お互いに向き合い、音にも、楽曲にも向き合い、聴き手にも向き合って悩んで生み出された音楽たち。あらゆる意味で「2021年」にしか生まれなかった作品と言えるだろう。

そして終盤、ふたたび「Laughter」「Universe」と華やかなシングル曲を経て、ラストを飾るのが「Lost In My Room」。ミニマムな打ち込みサウンドに乗るのは、“暮らしがあって 家庭があって 愛すべき仲間に溢れ/臆病な自分自身との話し合いは終わらない”という、あまりに等身大の藤原聡の声だ。美しいファルセットで歌われるメロディが、儚く、一方で力強く響く。ロックスターではなく、今を生きる人間としての独白とともに、ゆっくりとピアノの音がフェイドアウトして、このアルバムを締め括る。

「Lost In My Room」という言葉はそのまま、結局今なお「ステイホーム」から逃れられない私たちの現状ともリンクする。決して楽しいばかりではない「今」が、こうしてグッド・ミュージックの中に昇華されることで、肯定されていくような想いが胸に残った。

音楽的な表現力と実力をたしかに拡げながら、『Editorial』――「社説」というタイトルを冠して、自分たちの現在地を恐れずにかたちにしたOfficial髭男dism。進化と同時に深化を遂げた今作を引っ提げて1年半ぶりのツアーへと旅立つ彼らが、また新たな音楽の感動を届けてくれるに違いない。

文◎後藤寛子

<Official髭男dism 『Editorial』発売記念ONLINE FREE LIVE>

2021年8月28日(土)20:30〜
※当日17:30〜事前プログラムをオンエア
配信プラットフォーム:Official髭男dism公式YouTubeチャンネル

Major 2nd Album『Editorial』

2021年8月18日(水)発売
■CD/PCCA.06057/3,300円(tax in)
■CD+DVD/PCCA.06056/5,500円(tax in)
■CD+Blu-ray/PCCA.06055/5,500円(tax in)

[CD収録内容]
1.Editorial
2.アポトーシス
3.I LOVE...
4.フィラメント
5.HELLO
6.Cry Baby
7.Shower
8.みどりの雨避け
9.パラボラ
10.ペンディング・マシーン
11.Bedroom Talk
12.Laughter
13.Universe
14.Lost In My Room
全14曲収録
※収録予定曲は変更になる可能性がございます。

[DVD & Blu-ray収録内容]
Official髭男dism「Official髭男dism FC Tour Vol.2 - The Blooming Universe ONLINE -」
01. Second LINE
02. 異端なスター
03. ESCAPADE
04. What's Going On?
05. コーヒーとシロップ
06. Laughter
07. ゼロのままでいられたら
08. ダーリン。
09. 犬かキャットかで死ぬまで喧嘩しよう!
10. ブラザーズ
11. ノーダウト
12. 発明家
13. Universe
14. I LOVE...
15. Stand By You
-Special-
01.Editorial-Piano ver.@Bunkamura Studio-
02.アポトーシス-Piano ver.@Bunkamura Studio-

DVD音声:16bit 48k PCM 2ch
Blu-ray音声:24bit 48k PCM 2ch / 24bit 48k Dolby true HD (Dolby Atmos)

この記事をポスト

この記事の関連情報