【インタビュー】ReN、3rdアルバム『ReNBRANDT』に最後の試み「この2年間を肯定するために」
ReNが9月8日、『LIFE SAVER』以来約4年ぶり、3枚目のオリジナルアルバム『ReNBRANDT』をリリースする。同作品には、ドラマ『今野敏サスペンス 警視庁強行犯係 樋口顕』主題歌の「Running Forward」、『王様のブランチ』2020年7月度エンディングテーマの「We’ll be fine」、2021年春配信リリースの「あーあ。」、メイジー・ピーターズとのコラボ曲でありアシックスCMソング「One Last Try (feat. Maisie Peters)」など全11曲が収録される予定だ。
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「前作から楽曲も自分自身も様々な変化があり、そして自分だけで無く音楽を奏でる環境自体も変わってしまって、そんな中で変わらずにいる事の大切さや、変化する事への勇気など様々な想いを曲ごとに込める事ができました」とはReNの言葉だ。コロナ禍というこれまでにない環境は混迷と同時に、新たな挑戦の機会を生み、それらリアルが楽曲に封じ込められた。テーマは、既存の自分の世界を壊すこと。「雲間から差す光のように、聞いてくれる人の希望になってくれれば嬉しい」という想いが込められたアルバム『ReNBRANDT』について、じっくりと語ってもらったロングインタビューをお届けしたい。
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■苦しい時間もいい方向に活用できた
■進めなかったというのはイヤだから
──フルアルバムとしては実に4年ぶりとなる3rdアルバム『ReNBRANDT』が完成間近ということですが、アルバムリリースを視野に制作をスタートしたのはいつ頃からだったんですか?
ReN:アルバムを視野に入れたのは、昨年の終わりくらいですね。そのときは“来年にはアルバムを出したい”と漠然と思っていたんですけど、どんなふうにするかとかは決まっていなかったんです。コロナ禍でライブもできなくなっていた期間にたくさん曲を作って、そのなかから見えたもので次のアルバムの世界を紐解いていこうかな、という流れから入っていきました。
──予期せずたくさんの制作時間ができたと思いますが、普段はライブやツアーがあるからこそ、曲作りへのいいモチベーションを保てている、ということもあると思います。ライブが実施しづらい状況下で、楽曲制作へ向かう気持ちというのはどういうものだったと振り返りますか?
ReN:モチベーションもそうですし、ライブで感じたものや、そのときのお客さんとのコミュニケーションから、“次のライブでこういうことを歌いたい”とか“こういう曲を聴かせたい”とか発想が生まれてくることが多かったんですよね。作った曲を披露できたり、表現できるライブという場があることも自分にとっては重要だから。それがないなかでは、やっぱり不安みたいなものもあって。どうしようかなって漠然とした焦りみたいなものが生まれてもいたので、しんどかったですね。
──そこから何が自分を動かしていったんでしょう。
ReN:昨年予定していた<「HURRICANE」ツアー>のファイナル公演が延期になってしまって、その後、“自分が今、どういうことを歌ったらいいのかな”というか……。それまでは“ライブ”というものがあって、作り出してきた作品が多かったからこそ、一瞬にして人前で歌う機会がなくなったとき、“じゃあ音源だけでどういうことを歌えばいいんだろう”と思ったら、すごく考えが狭まってしまったんですよね。うまく曲が書けない時期がしばらくあったんです。だけど、そういうなかでも、他のアーティストたちがいろんな言葉を紡いでいるのを聴いたときに、“難しいことを考えずに、とにかく今、自分が見ている現実や、こうだったらいいのになという理想みたいなものも全部吐き出してみよう”と思ったんです。今、感じていることが何個かあるなら、それを全部曲にしてみようと。そうやって、曲を作ることの楽しさが今までよりも感じられるようになっていったんですね。新しいアイディアが出てくることで、精神的に保てた。そこに気づいてからは、時間が空いたり、ぼーっとする時間が増えちゃったからこそ、逆にその全部を音楽へ還元しようって思えました。
──曲を作る楽しみという、純粋なところに立ち帰れたんですね。
ReN:もともと楽しいことに変わりはないんですよ。それに加えて、自由度が上がったのかもしれません。新しいものを作っていても、自分のライブスタイルやその時々のツアーの方向性があって、そのフォーマットに制限されてしまう部分もあったと思うんです。でも、ある意味それがゼロになったから、何やってもいいんだなって振り切れた。そういう意味では、今回のアルバムに入る曲たちにすごく影響を与えた期間だったし、苦しい時間もものすごくいい方向に活用できたなって思いますね。“何も進めなかったな”っていうのは絶対にイヤだから、この2年間を自分のなかで肯定するためにも、考え方を変えていったところはありました。
──アルバムタイトルの『ReNBRANDT』は、ReNさんの名前と、画家のレンブラントを合わせたようなタイトルになっていますね。レンブラントというと光と陰のコントラストで描く作風で、そこにさまざまな思いや物語が込められてもいますが、今回こういったタイトルになったのはどういったところからだったんですか?
ReN:レンブラントの絵もそうですけど、レンブラント光線というものにインスパイアされたんです。雲の切れ間から地上へ、光の柱が降り注いでいるように見える、その現象。それに名前があることを知らなかったんですけど、レンブラント光線と呼ばれる写真を見たときに、“これはすごくいいな!”と思って。今の状況とマッチしているなと思ったんです。靄があるんだけど、でもどこかで一本光が差している、そういったものに希望を感じるというか。僕がこれまで作ってきたアルバムもどこかで希望が込められているタイトルだったからこそ、今回は本当に絶妙だなと思って、タイトルを先に決めていたんです。
──そうだったんですね。
ReN:あとはおっしゃる通り、自分の名前っぽいなと思って(笑)。洒落ではないですけど、そういった意味でも気に入ってます。
──久々のフルアルバムですし、ご自身の名前も込められたタイトルを見ると、現在のひとつの集大成ができたんだろうなと期待できます。今年に入ってから、「Running Forward」と「あーあ。」という、まったく違うタイプのシングルがリリースされましたが、この振り幅はアルバムにもつながっている感じでしょうか?
ReN:そうですね。それがさっき言ったような、この期間で感じた変化が出ている曲ですね。「Running Forward」は疾走感のあるビートで言葉がすごく強いもの、という今までの自分の大好きな世界観です。一方、これまで自分が歌ったことがないものを作ってみたいと思って、スタジオではなく、家でふとギターを弾いて生まれた曲が「あーあ。」なんです。今まで作ってきた曲を振り返るといろんなジャンルはありますけど、あるようでなかったものが、こういう身近な日常を歌う曲だなと思って。
──恋愛の切ないシーンや心の機微をキャッチーに歌った「あーあ。」は特に、今までのより幅広い層のリスナーが聴いてくれた印象がありますね。
ReN:はい。SNSやYouTubeのコメントを見ても世代によって反応が違っているのが面白くて。YouTubeは掲示板のように、みんなが自分の体験談を書いてくれたのが新鮮でした。自分の書いた曲を“こんなふうに思って聴いているんだ”とか“自分の経験とリンクさせてこういう感情になってくれるんだ”というのがわかったので。曲が届いてくれたことも嬉しいし、作っていて楽しい曲でしたね、「あーあ。」は。曲自体は、切ないんですけどね(笑)。
──そうですね。ミュージックビデオもReNさんとしては初めてのアニメーションによるもので、この新しい切り口も、歌の世界に入るきっかけになっていそうです。
ReN:最近はアニメーションのミュージックビデオも多くなっていますけど、自分の音楽的にはかけ離れている世界だなと勝手に思い込んでいたんです。でも、あのイラストを描いているtanioriさんの絵をSNSで見たときに、“これ、バッチリだな”と思って。「あーあ。」の主人公が、この子っぽいという感じがあったんです。この曲では自分がミュージックビデオに出るというイメージは絶対になかったので、逆にアニメーションやああいうタッチのイラストのほうが、内容がパーソナルなものだとしても、聴いている人が自分のこととして受け取りやすいのかなと思って。
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