【連載 番外編対談】櫻澤の本気 II、MUCCミヤと語る「ミュージシャン目線と制作現場目線」
櫻澤泰徳とMUCC ミヤの初対談が実現した。櫻澤泰徳擁するZIGZOの最新アルバム『across the horizon』にミヤがマスタリングエンジニアとして参加するなど両氏の親交は深く、出会いは約20年前のMUCCインディーズ時代まで遡る。また、プレイヤーとしてはもとより、エンジニアとしても評価の高い2人は、プライベートスタジオを所有しているなど、共通点も多い。櫻澤泰徳のプライベートスタジオ“studio MIDNIGHT”で実施した初のトークセッションでは、2人の馴れ初めや、ミュージシャンとして制作者としてのこだわり、そしてSATOちとの逸話など、初めて語られる事実が盛りだくさん。まずは以下に、連載 番外編として実施した今回の初対談に関する櫻澤泰徳のコメントからお届けしたい。
◆櫻澤泰徳 × MUCC ミヤ 画像
「不定期更新とはいえ、1年近く更新を怠っていた櫻澤です。この1年間で、シグネチャースネア製作販売、COOL JOE主催のイベント、師・湊さんとのツインドラム、ZIGZOのツアーとアルバムレコーディング、Rayflowerとgibkiy gibkiy gibkiyの無観客配信ライブ等、コラムのネタになるような出来事は多々ありましたが…、ご免なさい。『櫻澤の本気 II』の一年振りの更新として、今回の内容は『ミヤ君と初対談』にしました」
◆ ◆ ◆
■美意識だったり感覚の面で共鳴できる
■だから一緒にいて心地いいんです
──お二人の出会いはMUCCのインディーズ時代ですか?
櫻澤:一番最初に会ったのは、MUCCが『葬ラ謳』(2002年9月)の制作をしているとき。当時のMUCCのマネージャーから、「レコーディングをみてやってほしい」という連絡があって、高井戸のBAZOOKA450スタジオに行ったんだ。
ミヤ:当時の俺らは、自分たちだけでずっとレコーディングしてきたんですけど、そのときはもうどうしようもなくなってたんです。たとえば、“このドラムを使いたいからレンタルしてみたけど、チューニングすらままならい”とか“こういうドラムの音を録りたいんだけど、全然そうはならない”みたいな。その状況を見かねたマネージャーが「Sakura(櫻澤泰徳)さんに相談してみようか?」と言ってくれたんです。来てくれるか半信半疑なところもあったけど、本当に来てくれました(笑)。
櫻澤:あのときはZIGZOしかやっていなかったから、ちょうど暇してたんだよ。
▲櫻澤泰徳
──いや、Sakuraさんは忙しくてもスタジオに行って手助けしたでしょうね。では、そのときの第一印象はいかがでしたか?
櫻澤:ミヤ君はコンソールルームの卓の前に座って、いろんな指示を出していたんだよね。つまり、プロデューサー的な立ち位置だったんだけど、寡黙でメンバーに厳しい人だなというのが第一印象。SATOちと初めて会ったのもそのときで、俺はドラムチューナーとしてスタジオに行ったのに、メンバーの中で一番最後にドラマーと挨拶したんだよ。というのも、SATOちはスタジオのロビーでずっと一人、12インチのタムのチューニングをいじっていたからね(笑)。上から目線な言い方で申し訳ないけど、ミヤ君はすごく志が高くて、でも当時は、それを実現する方法論を知らなかったんだと思う。自分たちでなんとかできるはずだっていう試行錯誤が空回りしている感じもあった。そういう若々しい姿勢ってとても必要なことなんだけど、合理的な方法論を得ればミヤ君自身もメンバーもストレスが軽減するだろうなと思ったことを覚えている。
ミヤ:当時の自分は、たしかにそういう感じだったと思う。
──ミヤさんのSakuraさんに対する第一印象は?
ミヤ:“声が低くて、いい声だな”でした(笑)。イメージどおりの声……いや、イメージよりも低かったかもしれない(笑)。
櫻澤:はははは!
ミヤ:当時の俺は、ドラムチューニングというところまで考えがまわってなかったというか。しっかりチューニングすれば、それなりのドラムセットでもいい音で録れることがわかってなかった。“いいドラムを使えばいい音がするはずだ” “卓のEQ(イコライザー)でもっといい音を作れるはずだ”と思っていたんです。でも、そういうやり方に限界がきていた時期で。「口径のデカいバスドラを使いたい」と言ったはいいけど、それを鳴らす技術がSATOちにないし、イメージしている音も出ない……そういうところで煮詰まっていたんです。だから、Sakuraさんがチューニングしたドラムの音を聴いて、“プロのチューニングとはこういうものなんだ!”とビックリしたんですよ。楽器のことをもっと考えないといけないと思うようにもなりました。それをスタートに2006年くらいまで、Sakuraさんにはずっとドラムチューニングをしてもらっていたんです。
櫻澤:ミヤ君がすごく感銘を受けてくれたのが、タオルミュートだったよね。「君に幸あれ」という激しさと昭和歌謡テイストが混在している曲があって、「1曲の中でドラムの音色を変えたいんですけど、なんとかなりませんか?」って言われて。スタジオにあったクリップを使ってタオルでスネアをミュートしつつ、激しいところはタオルミュートを上げて、昭和歌謡風のところはタオルを戻すという方法を教えたんだ。これは、昔の箱バンのドラマーとかスタジオミュージシャンがやっていた手法で。それ以降、ライヴで「君に幸あれ」を演奏するときは、必ずタオルミュートしていたよね。
ミヤ:当時、俺の周りにはオープンなサウンドとデッドなサウンドを1曲の中で使い分けるようなバンドがいなかったんです。だから、やり方がわからなかった。Sakuraさんに教えてもらったタオルミュートは、「君に幸あれ」以外の曲でも使ってましたからね。「儚くとも」とか。すごく原始的な方法なのに、めっちゃ理に適っているんですよ。
▲ミヤ [MUCC]
櫻澤:そんなふうにMUCCの制作に関わるようになって、最初はドラムチューナーという立ち位置だったけど、そのうちにベースもみるようになり。
ミヤ:テイクの編集をしてもらったりとか。だから、ドラムチューナーだけじゃなくて、当時のMUCCにプロデューサーとしても関わってもらってました。
櫻澤:そうだね。サウンドプロデューサーとはまたちょっと違って、co producerみたいな感じかな。ミヤ君が中心となって制作を取り仕切って、ミヤ君が知らないことや、わからないことがあると俺が知っている方法論でアドバイスをするという関係性だった。当時の俺はL'Arc-en-Cielを脱退して、MUCCと同じ事務所のマーヴェリックを去った身でありながらも、親戚みたいな付き合い方をしていたんだ。MUCCのマネージャーとも親しい間柄で、彼の中には“Sakuraだったらここまでやってくれるだろう”というのがあったんだと思う。俺自身も頼られるのは全然嫌じゃないから、ドラムチューナーという粋枠を超えて自分が手伝えることがあれば力を貸そうという気持ちになったし。MUCCのメンバーは、みんないいやつだからね。
ミヤ:Sakuraさんは人間的にもすごく信頼できるんで、普段から親しくさせてもらっているんです。初めて会った頃にMUCCが山中湖で合宿制作をしていたら、SakuraさんがKen(L’Arc-en-Ciel)さんと一緒に遊びに来てくれたこともありましたよね。
櫻澤:あったね(笑)。KenちゃんとSONS OF ALL PUSSYSをやってた頃じゃないかな。ミヤ君とのつながりという意味では、後輩バンドとか制作に携わっているバンドのギタリストという範疇を超えまくっているね。それこそ一緒にバンドはやっていないけど、Merry Go Round Respectsのメンバーとして<gibkiy gibkiy gibkiy tour 2018 “poison excl.” ~gibkiy gibkiy gibkiy vs Merry Go Round Respects~>で一緒にツアーをまわったり、イベントでしょっちゅう共演しているし。この間もたまたま名古屋で会って、いろんな話をしたよね。
ミヤ:ありましたね(笑)。
櫻澤:そういう間柄なのに、Kenちゃん主催イベント<PARTY ZOO ~Ken Entwines Naughty stars~>(2016年)のオフィシャルブックでリーダー座談会をしたことはあるけど、今までサシの対談はなくて。今回、BARKSの連載コーナー(櫻澤の本気 II)で実現させることにしたんだ。
ミヤ:嬉しいですね。その人自身に流れているものを感じる野生の勘ってあるじゃないですか。Sakuraさんとは、ミュージシャン以前の部分としての美意識だったり、そういう感覚の面で共鳴できるところが多いから、一緒にいて心地いいんです。それに、Sakuraさんにレコーディングに参加してもらってからの長年の制作で、俺が見て盗んだ“プロデューサーとしての動き”っていうものが相当あって。現場のセオリーとか、音作りの近道とかですよね。それがあったから、今の俺は立ちまわれているんですよ。逆に俺は今、Sakuraさんみたいな存在として後輩にちゃんと教えてあげられているかな?と思ったりするくらい。
櫻澤:ミヤ君に憧れているフォロワーや後輩たちが確実にたくさんいるわけだから、多くのミュージシャンがいろいろなことをミヤ君から学んでいると思うよ。ドラマーのほうが多いかもしれないけど(笑)。
ミヤ:あははは。俺はドラムも好きですからね。
櫻澤:ミヤ君は元々ドラマーだしね。MUCCのレコーディングのときも「俺のスネアなんですよ」ってパール製スチールシェルのピッコロスネアを普通に持ってきて、それをチューニングしたことがある(笑)。
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