【コラム】Little Black Dress、川谷絵音プロデュースのメジャーデビュー曲「夏だらけのグライダー」で新境地へ
1998年生まれのシンガーソングライター・Little Black Dress(※以下LBD)が、メジャーデビューを機に音楽的にも新たなスタートを切った。
メジャーデビュー曲「夏だらけのグライダー」は、作詞・作曲・編曲を川谷絵音が担当し、レコーディングメンバーにもゲスの極み乙女。/DADARAYのベーシスト休日課長、インストバンドichikoroのギタリスト・ichika、トラックメイカーのPARKGOLFなど、川谷のクリエイティビティと縁の深いミュージシャンが集結。これまでにないLBDの魅力を引き出すことに成功すると同時に、新しい可能性を切り拓く楽曲となった。
◆「夏だらけのグライダー」MV
この楽曲の詳細に触れる前に、まず彼女がメジャーデビューまでにどのような活動を歩んでいたのかを振り返ろうと思う。
岡山県に生まれ育った彼女は、幼少期に家族が聴いていた歌謡曲にのめり込み、高校1年生の春に叔父からギターを譲り受けたことをきっかけに弾き語りを始める。その年の秋には地元のライヴハウスや路上などでライヴ活動を行うようになり、高校2年生の夏にはオリジナル楽曲の制作活動もスタート。歌謡曲に宿る「幸せに隠れている“翳り”」に魅せられた彼女は、そこに焦点を当てた独自の歌謡ロックを追求するようになった。
活動と並行して数多くのオーディションへ応募。そのうちのひとつがきっかけとなり、2016年の春、高校3年生で上京を果たす。同年9月、彼女のパフォーマンスを見た現在の事務所の社長が、奈良県・春日大社で開催された<MISIA CANDLE NIGHT>のオープニングアクトへと抜擢。初の大舞台の終演後、その公演に訪れていたクリエイティヴディレクター信藤三雄氏に“Little Black Dress”というアーティスト名を授かったことで、LBDとしてのキャリアがスタートした。
▲Little Black Dress/「夏だらけのグライダー」
その後、彼女は2年間、アーティストとしても、MISIAの付き人としても、様々な経験や知識を蓄えていく。2016~2017年の<THE TOUR OF MISIA LOVE BEBOP>、2018年のMISIAデビュー20周年ツアー<MISIA 星空のライブX>、2019年の<MISIA 平成武道館 LIFE IS GOING ON AND ON>にオープニングアクトとして出演。デビュー前でありながら横浜アリーナ、日本武道館などのステージでパフォーマンスをする機会に恵まれた。この期間は彼女の持ち前の歌唱力に、さらに磨きを掛けた時間と言ってもいいだろう。
2019年5月1日、令和という新時代を迎えたと同時にシングル「双六 / 優しさが刺となる前に」で満を持してインディーズデビュー。「双六」は時にパワフルに、時に繊細に、低音から高音まで巧みに操るヴォーカルと、歌謡曲、ロック、ジャズをブレンドしたサウンド感で構築された、様々な時代感を含んだJ-POP。「優しさが刺となる前に」はマイナーキーのメロディとワルツのリズム、感傷的なストリングスとピアノが織り成すバラード。2曲でアーティストとしてのキャパシティの広さを見せる作品となった。
そこからコンスタントに音源をリリースし、ワンマンライヴの開催やメディアへの出演、タイアップなどの機会に恵まれ、2021年5月にはこれまで発表した楽曲を含んだ12曲入り1stデジタルアルバム『浮世歌』をリリース。まさに昭和歌謡ど真ん中といったものからモダンジャズが基盤になった楽曲、荒木一郎の名曲「妖精の詩」のカヴァー、80'sロックンロール、牧歌的なポップナンバー、キャッチーでセンシュアルなコーラスが混ざり合うディープなおガレージロックなど、多彩な音楽性を見せる。それらをすべて歌いこなす彼女は、どんな急カーブも鮮やかに切り返していく敏腕レーサーのようだ。デビューからの2年間で、様々な音楽性と順応するヴォーカルスキルを培ったと言っていいだろう。
ここで「夏だらけのグライダー」の話題に戻ろう。ジャズを彷彿とさせる繊細なタッチのピアノとドラム、シックでいながらも華やいだコーラス、ムードを高めるメロディアスなベース、要所要所で存在感を放つ多彩なギターと、ブラックミュージックの枠にとらわれないサウンドスケープが軽やかで心地いいサマーチューン。凛々しさと繊細さを含んだ気品と、スパイスの効いた人懐っこさを兼ね揃えたポップネスは、川谷節の特徴のひとつと言ってもいいだろう。
同曲はこれまでのLBDの楽曲で最も“年頃の女性”としての彼女を抽出することに成功している。スタイリッシュでありながらも可憐な音色、清涼感と色香を感じさせるヴォーカルは、まさに少女性と女性性を兼ね揃えた20代前半を体現。歌詞も“暑がりな猫の態度は 思わせぶりにも見えた”などの成熟した視点や、“今日は思い出になるようなこと たくさんしてやるつもりなのに”などのおてんばな言葉付き、“夏だらけのグライダー”をはじめとした感性豊かなワード感が入り混じるのが小気味よい。
つまりLBDにとって新しいサウンド感でありながらも、のびやかな彼女のヴォーカルを味わえる楽曲なのだ。休日課長、ichika、青山英樹、デビン木下との演奏シーンで構成された、黒を基調としたミュージックビデオでも、特に印象に残るのは彼女の笑顔。その風通しのいいグルーヴが、聴き手を新しい喜びへと誘っていく。楽曲の終盤ではヴォーカルとバンドの結束がさらに強まり、より弾力のある音像に。“サビだらけのパラシュートで 降り立つまで歌ってたんだ”と歌う彼女の晴れやかな声は、過去に培った財産をすべて抱えて、新しい世界へと飛び立っていく彼女の決意表明のようにも響いた。
数々のターニングポイントを経たLBDが、新たに迎えた煌びやかなスタート。9月には早くもセカンドシングルのリリースも予定されており、彼女がメジャーシーンでどのような音楽を聴かせてくれるのか、引き続き注目したい。
文◎沖さやこ
DIGITAL SINGLE「夏だらけのグライダー」
作詞・作曲・編曲:川谷絵音
配信リンク:https://lnk.to/NatsuDarakenoGlider
※日本テレビ系『バズリズム02』7月オープニングテーマ
ライブ情報
2021年7月19日(月)Billboard Live OSAKA
※2021年5月に開催を予定していた公演の振替公演
【問い合わせ】
ビルボードライブ横浜:0570-05-6565
ビルボードライブ大阪:06-6342-7722
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