【対談】川崎鷹也×武井壮、歩みを止めないためのタッグ
2021年最重要シンガーソングライター・川崎鷹也と、百獣の王・武井壮がタッグを組み、完成させた楽曲「ひとりの戦士」。武井が発起人である「#スポーツを止めるな #音楽を止めるな」キャンペーンの一環で制作された同曲は、川崎が作詞作曲を手掛け、川崎と計10人のアスリートが歌唱参加している。違うフィールドで活動し、それぞれの人生のなかでそれぞれの正解を確立してきた人々が完成させた、これまでにない新しいコンテンツ。コロナ禍で苦境に立たされるスポーツ業界と音楽業界が、いまその歩みを止めないためにできることとは──その挑戦にある心意気と背景を、川崎と武井の対談で探っていった。
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■僕らが輝ける場所は試合やライヴだけではない
──武井さんはなぜ「#スポーツを止めるな #音楽を止めるな」キャンペーンという、スポーツと音楽の同時展開を考えたのでしょうか?
武井壮:僕はもともとミュージシャンの友達が多くて、音楽もスポーツも人前に立って自分たちの作ったものを楽しんでいただくためのコンテンツという共通点があると思っていたんです。それもあってこの二つをくっつけて、新しいエンターテイメントを作って届けたいと思ったんですよね。というのも、いろんな大会が中止や延期になっているコロナ禍で、スポーツの世界の狭さを感じたんです。
──狭さ、ですか。
武井:アスリートはスポーツを見せることでしか世の中に価値を生めない脆弱な存在なんだなと感じて、それと同じ時期に、ミュージシャンの友人たちもみんなライヴをする場がなくなっていて。アスリートを取り巻く環境も、ミュージシャンを取り巻く環境も、あきらかにみんな元気がなくなっていました。
──音楽もスポーツも、観客とともに大きな感動を生んできました。それを体感できる場所がコロナ禍で脅かされていると。
武井:ミュージシャンやアスリート、それに携わるスタッフなど、生活に困る人たちはこの先どんどん増えてくるだろうし、この状況をなんとかしないといけない、いままでとは違う方向性の新しい価値を生み出す必要性があると感じました。アスリートはスポーツファンに、ミュージシャンは音楽ファンに自分たちの活動を届けていたけれど、それぞれそれ以外の人に届けられるルートが見つかれば、これまでの活動とは違うかたちで自分たちの価値を届けられる。違う業界同士が手を繋いで、新しいチャンスを生むのが目的です。
──これまでも応援歌やテーマソング、スーパーボウルのハーフタイムショーなど、スポーツの場に音楽が登場する機会は多いですが、『ひとりの戦士』音源化のように、音楽の場にアスリートが登場する機会はあまりなかったので革新的な取り組みだと思います。
武井:「ひとりの戦士」はアスリート10人が歌唱参加しているんですけど、もちろん決して得意なことではない、でも彼らが持っている知名度や、彼らをこれまで応援してきたファンを「ひとりの戦士」という場所に集めて、パーティーみたいにできたらと思ったんです。磨き続けて輝ききった宝石に価値があるのはもちろんだけど、ふだんと違うシーンでパフォーマンスすること、これまでの人生を見せることにも価値をつけられれば、“僕らが輝ける場所は試合やライヴだけではない”ということを示せると思ったんですよね。
▲川崎鷹也、武井壮 with TEAM ATHLETE「ひとりの戦士」
──そのキャンペーンソングを書き下ろすアーティストとして、白羽の矢が立ったのが川崎鷹也さんだった。武井さんはTikTok経由で川崎さんをお知りになったそうですね。
武井:僕はJ-POPとバラードが好きなので、川崎くんの「魔法の絨毯」はビンゴだったんですよ。おまけにハスキーな歌声で、さらにビンゴ。こういう曲を作れる人はいいなあとシンプルに感じたんですよね。それをツイートしたら、うちのマネージャーが“川崎くんの事務所の社長とは旧知の仲なんだよ”と言ってきたんです。
──へええ。すごい偶然ですね。
川崎鷹也:TikTokきっかけで色々な方に曲を聴いていただく機会が増えたとはいえ、本当に聴いてもらえているのかな?と不安な時期に声を掛けてくださったのが武井さんで。だから僕にとっての第1芸能人(笑)。だから最初に連絡が来たときは“うわっ、武井壮から連絡来た! 本物!?”と思いました(笑)。
武井:はははは。こういう偶然のつながりは大事なので、何か一緒にやりたいなとミーティングしたんです。その時は、僕のYouTubeチャンネルで展開するドラマの主題歌を書き下ろしてもらうつもりだったんですけど、コロナ禍の影響で出演者を募るのが難しくなっちゃって。それで“川崎くんの楽曲は目の前の大切な人に伝えるラブソングが多いので、それとはまったく違う、世の中の人を元気にする、みんなの背中を押すような曲を書いてもらったら、川崎くんひとりでは生まれないものになるんじゃないかな”と思いました。この楽曲に携わる全員がチャレンジすることで、“いまの場所から一歩前に踏み出そうよ”というメッセージを体現できたらいいなと。
川崎:武井さんのアスリートやスポーツへの想い、音楽への想い、それに携わるスタッフさんやファンの方々への想い──いろんな話をさせてもらって。僕も長く語り継がれる音楽を作っていきたいというヴィジョンがあったので、音楽シーン以外の場所で活動したいという気持ちも漠然と持っていたんです。だからこそ僕がやってこなかったこと、できないことをしている方々とのコラボレーションはいつかやってみたかったんですよね。
──まさに「#スポーツを止めるな #音楽を止めるな」キャンペーンソングの書き下ろしは、川崎さんがやってみたいことだったと。
川崎:そうです。こういった世の中でアスリートの方々と一緒に歌うのはどんな楽曲がいいのかと考えたときに、和気あいあいとみんなで手と手を取り合って頑張るというメッセージではなく、一人ひとりが頑張って、その力が合わさることで化学反応が起きていくことを発信したかったんですよね。前にもBARKSさんには、これに近い話をしていると思うんですけど。(※2021年5月「Answer」インタビューにて)
──そうですね。“ひとりでも充分やっていける人同士がひとつのものに取り組んだ時、すごいパワーが生まれる”と、いつもおっしゃっていただいています。
川崎:それは僕がいままでの人生のなかでずっと思ってきていることなので、「ひとりの戦士」で書いているメッセージもそことつながってきますね。みんなで協力してひとつの物事に取り組んでいるけど、その根っこになるのは一人ひとりの意志と覚悟。それがあるからこそいい未来が作れることを書きたかったんです。いままで思ってきたことを曲にしてはいるんですけど、いままでの僕の曲の書き方とは違うので、正直苦しい部分も多くて。あとはやっぱり武井さんが発起人のキャンペーンの楽曲だからいい曲を作らなきゃというプレッシャーもあるし、武井さんにはもっと有名で影響力のあるミュージシャンの知り合いがたくさんいるだろうし……。
武井:たしかにたくさんいるんだけどね(笑)。
川崎:絶対そうですよね(笑)。でもそんななかで俺に頼んでくれた。その恩返しがしたかったんです。川崎鷹也に声を掛けて良かったなと思ってもらいたかった。だから武井さんとは今回のプロジェクトに関する話はもちろん、それ以外にもいろんなお話をさせてもらって。そのなかでミュージシャンとアーティストの抱える苦しみや喜びに通ずるものを感じたんです。「ひとりの戦士」では拳を掲げるような、歯を食いしばりながらも一歩一歩前に進んでいくような、いつもの僕とはちょっと違った楽曲に仕上げましたね。
武井:川崎くんに声を掛けたのは、みんなに新しい力を手にしてもらいたかったからなんです。いまから世の中に花を咲かせていこうとする、次の世代の人たちのことは気になるんですよね。僕自身も中居正広さんの番組に取り上げていただいてからスポーツ業界以外の人たちにもちょっと名前を知ってもらえるようになって、新しい世界への扉を開いてもらえた感覚があるんです。川崎くんは大手事務所に入るわけでもなく、「魔法の絨毯」という輝きに満ちた1曲をきっかけに、独自の路線で道を切り開いている。彼が開拓している道とは違う方向性の扉を、小さいながらも開けたらうれしいなと思ったんですよね。
──自分の得意分野ではないフィールドへと飛び込んでいく。とても勇気の必要なことだと思います。
武井:でも勇気を出したという感覚はあんまりないんですよ。それはもともと僕がマイナースポーツ出身というのも影響しているかもしれない。日本一という結果を出したのにもかかわらず、自分の求めている価値が手に入らなかったんです。それぞれの得意分野で戦うことも素敵なことだけど、僕は小さい世界の王様になってもなんの達成感も得られなかった。
川崎:僕も近い感覚がありますね。僕が出ていたライヴハウスのお客さんは3、4人で、10人入れば最高!という環境で。そうするとライヴハウスのマスターや共演者とも顔見知りになって居心地もよくなってやりやすくなるし、どんどん緊張しなくなる。そういう環境が苦手だったんです。慣れた環境だけで活動していくことが、もともとあんまり好きじゃないんですよね。初めてのことにぶつかって、悩んで、苦しみながらここまで来たから、武井さんのおっしゃっている想いにも共感するんです。
武井:違う世界同士を無理矢理くっつけたら大きな力になることを僕はよく知っているから、やるしかないでしょう、という感じでした。事を起こさなければゼロのままだけど、起こせば必ず1にはなる。その1がどれだけの数に膨れ上がるかが楽しみなんです。
◆インタビュー(2)へ
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