【プロミュージシャンのスペシャル楽器が見たい】ザ・サーフコースターズ 栗田伸広が20年間使い続けるジャズベースへのこだわり
ザ・サーフコースターズの躍動感あふれるリズムをボトムから支えているのがベーシストの栗田伸広。その穏やかな風貌とは対照的なワイルドに歪んだベースサウンドで、アメリカでは“ZEN(禅)Punk,KURI”と呼ばれ親しまれている。サーフコースターズ加入直前までは東京事変のドラマー、刄田綴色とバンド活動。加山雄三、平山みき、加賀美セイラなどのライヴ・サポートやCM等のレコーディング・セッションに参加しているレジェンドベーシストだ。栗田は20年間にわたって1本のジャズベースを使い続けており、ジャズベース以外には興味がないという。そこで今回は、栗田のジャズベースに対する思いや、サーフロックとしては珍しく歪ませるのが基本だという音作りなどについて、同バンドギタリストの中シゲヲとともに話を訊いた。
――栗田さんのメインベースはジャズベースですね。
栗田伸広:(以下、栗田)フェンダージャパンのジャズベースです。もうほとんどこれ1本しか使っていません。これは実はギターの中さんからもらったものなんですよ。これと同じ色、オーシャンターコイズで、63年か64年のフェンダーのジャズベを持っていたんですが、20年前くらいにそれを手放したんです。その後、何かのタイミングで中さんが突然これを持ってきて。家にあるけど使わないからって。
中シゲヲ(以下、中):違うよ、買って持って行ったんだよ(笑)。その頃はバンドが活動休止していたときで、再始動するときに見た目を揃えようと思ったから、ギターを新しくして、同じ色のベースを買っていったんです。
栗田:ああそうだった、失礼しました(笑)。それから20年くらい、これを使っています。それまではビンテージものを使っていたので、最初はちょっと違和感もありましたが、弾いているうちに馴染んできて、今はほかのどれより気に入っています。
――ヘッド付近にかなりキズがありますが。
栗田:僕はこれでシンバルを叩いちゃったりするので(笑)。最近はやらないですけど、以前のビンテージのジャズベでもガンガンやっていたので、周りから、え?って言われていました(笑)。
――このベースの特徴は?
栗田:とくに変わったところはありませんが、ピックアップはダンカンにしてあります。このピックアップも中さんからもらったものなんです(笑)。
中:確かダンカンのQuarter Poundだったと思う。パワーのあるヤツね。
――それは、もっとこういう音を出してほしいという中さんからのリクエストだったんですか?
栗田:いや、余ってたから、使ってみようかって(笑)。付けたらホントにパワーがあって気に入りました。
――ほかにこだわりのあるところは?
栗田:弦の太さですね。これはここ数年やっていることなんですが、高音弦は太めのセットで4弦だけ細いのを使っています。このくらいの太さの弦だと、普通は.045、.065、.085、.105というセットになるんですが、僕は4弦だけ.100にしています。そういうセットはないので、毎回2セット買わないといけないんです。
――なぜそういう組み合わせに?
栗田:僕はピック弾きだし、ジャズベだとそんなにパワーがない。だから高音弦が細いとパキンパキンいうだけで、なんか音が出てこないように感じるんです。僕はもともとミッドとかローミッドと言われるあたりの音が好きなので、3弦までは太めがいい。でも売っているセットの4弦だと.105で、ボワボワして軽快な感じが出てこなくなってしまうんです。それで、.100に替えています。こういうの、ホントは若い時に色々やるのが普通なんでしょうけど、歳とってからやるようになりました(笑)。
――ワイヤレスも必須ですか?
栗田:最近はそれほど動き回らなくなったんですけど、これまでケーブルを踏んで抜けてしまうことが何回かあって、それがイヤだったのでワイヤレスを使っています。見た目はケーブルがつながっているほうがいいんですが、外的要因でテンションが下がるのがすごくイヤですね。このSAMSONのワイヤレスは2台めです。ビールがかかって壊れてしまったので、同じものを買いました(笑)。
――ベースの音作りはどのように?
栗田:ベース本体のコントロールはほとんどフルで、たまにトーンを変えるくらいですね。音はほとんどSansAmpで作っています。基本的に歪ませた音で弾いています。
――アルバムを聴く限りでは、それほど歪ませているとは思いませんでした。
栗田:たぶん、生でベースだけを聴いたらすごく歪んでいると思いますよ(笑)。この青いのもオーバードライブで、MOOERのBlues Moodです。これでちょっと持ち上げたりもするし、ファズっぽく使ったりもしています。これも中さん提供です(笑)。かなり以前はマクソンのベースドライバーを使っていましたが、それがダメになってSansAmpを使い始めたころに、ここぞというところで使えるものとして中さんが貸してくれた。確かにクリアな歪みでいいなと思って、それからずっと使っています。
――サーフロックで歪んだベースというのはめったにないような気がします。よくあることなんですか?
栗田:ないですね(笑)。けっこうポコポコしてる感じのベースが多いです。
中:サーフロックは基本はフラット弦なんです。ギターもそうです。
栗田:ギターもそんなに歪んでいないし、僕らはサーフロックの中ではかなり特殊かもしれないですね。
――どんなきっかけで歪ませるようになったんですか?
栗田:初代ベーシストの佐藤さんがそういう音質でやっていて、それをふまえて僕もそういう音でやっています。
――中さんとしても、ベースが歪んでいたほうが好みの音なんですか?
中:いや、そういうわけではないんです。最初のアルバムのときに、エンジニアさんを含めて色々やったうえで佐藤さんの音作りがそうなった。それ以来、これがこのバンドの音なんだろう、という感じですね。僕としてはベースが歪んでいると自分のギターの音と一緒になっちゃって、ワケがわからなくなっちゃう。だからホントは歪んでいないほうがいいんです(笑)。でも、個人的には歪んだベースが好きなんですよ、ジョン・エントウィッスルとかクリス・スクワイヤーとか大好き。でも自分のバンドのベースはねぇ(笑)。ただ栗ちゃんは周波数帯とか計算して、ちゃんと僕の音が出るようにやってくれています。
――このSansAmpもかなり使い込まれていますね。
栗田:最近また復活したそうですけど、これは一番最初に出たときのものです。DIPスイッチでMid-BoostとかLow Driveとかを設定できて、基本的な音を決められます。さらに横のスイッチでアンプのモデルを選べるから、色々な音を作れるんです。周りに歪みをブワッとつけながら、アンプモデルをBassにしてミッドブーストして太さをキープ、とかすれば、ギターとカブらないようにできるし。
――ベースが歪んでいるのも、ザ・サーフコースターズらしいサウンドということですね。
栗田:そうですね。そういう音で長い間続けてきましたから。
――ベースの中ではやはりジャズベでなければという感じなんですか?
栗田:そうですね。ジャコ・パストリアスが好きだったというのもありますが、実際に弾いてみた感じ、持った感じが好きですね。プレベはちょっとデカい。それと、プレベの音は良いと思いますが、ジャズベだと弾く人によってもっと音が変わるので、そこがいいなと思っています。アルバムのアコースティックな曲ではフレットレスも使いましたけど、それもジャズベです。
――ではもうずっとジャズベばかりを使ってきたんですか?
栗田:ほとんどそうですね。変わったヤツといえば、テスコ(TEISCO)のベースを使ったことがありました。オリジナルのを持っていたので、TEISCOが再販されるというときには、寸法をとるために僕のを貸し出したんですよ。でもそれ、引っ越しのときに紛失してしまいました(笑)。
――それはもったいない。そのTEISCOはどんなところが良かったですか?
栗田:一番は見た目ですね。意外と小さくてスケールも短いから、弾きやすかったです。音は扱いやすいとは言えませんでしたが。あまり抜けてこないので、みんなで合わせるとなにも聞こえない(笑)。TEISCOですごく覚えているのは、加山雄三さんのイベントに行ったときに、新幹線の中でエド山口さんに見せたら、“お前それベースじゃねーよ、ギターだよ”って言われたこと。エドさんが喜ぶだろうと思って見せたのに、ショックでした(笑)。あとはグレコのレスポール・ベースも持っていたことがありますね。でもほとんどジャズベばかり。プレベに行くということはなかったです。
――ジャズベのほかに興味のあるベースはない?
栗田:ないですね。興味があるのは全部ジャズベなんです。最近でも、ネットで見るにしてもフェンダーの新しいジャズベのシリーズだったりするし、もうジャズベばっかり(笑)。あまりほかの楽器を弾いている自分が想像できないですね。音は良くても、しっくり来る気がしないんですよ。使うとすれば、ウッドベースとかチェロとかならやってみたい気はします。あとウクレレベースは1本持っていますが、別のタイプのウクレレベースがもう1本あってもいいかな。
――そうなるとバンドの音も変わってくるんでしょうか?
栗田:やっと歪まないベースが出てくるかも(笑)。
――中さんが曲を作るときにも、やはり頭の中では栗田さんのこのベースの音が鳴っているんですか?
中:20年以上も一緒にやっていますから、この栗ちゃんのベースありきで曲を作る部分もありますね。ただ、最近僕の好みも変わってきた。僕が自分でデモテープを作るときは、バイオリンベースを使っているんです。ちょっとハポハポした音で8分を刻むという。だから最近はそういうのもやってもらったりしていますね。そういえば、栗ちゃんは最初はピック弾きではなかったんですよ。
栗田:ジャコパスが好きだったので、指弾きで高い位置で持っていました。でも今はかなり低いですね。曲作りのときに、そういう音じゃないんだよなあ、となって、色々やってみてもうまくいかなかった。それならベースの位置なんじゃないか、当たる位置が違うと音が変わるんじゃないか?、となって、ちょっと下げてみよう、と。それで、もうちょっと下、もっと下、ってどんどん下がっちゃって。低い位置でジャギジャギッと弾くのが合っていたみたいです。そのおかげで、今やストラップを買おうと思っても、そんなに低くできるほど長いのが売ってない(笑)。
中:一度ライブで、1曲だけ僕がベース、栗ちゃんがギターを弾くっていう企画があったんです。リハーサルのときに栗ちゃんのベースを持ったら、まったく弾けないくらい低かった(笑)。
――ベーシストとして栗田さんがこだわりを持っているところは?
栗田:歪んだ音で8分音符をずっと弾くというのが基本にありつつ、3ピースバンドなのでベースでも空間を埋める、というのが自分の中では醍醐味というか、やっていて楽しいことですね。メロディをガンガン弾いてもらっている間、ずっと8分音符で歪みと低音だけで押さえていく、そういうところをもっと深めていけたらいいなと思っています。
取材・文:田澤仁
取材協力:ファビュラスギターズ(https://fabulous-guitars.com/)
リリース情報
発売中
品番:STPR018
価格:アルバム/¥2,400プラス税
発売:ステップス・レコーズ
《収録内容》
1.Miracle
2.Midnight Highway
3.Refraction
4.Oracle~Light My Fire
5.Soyokaze
6.Starting Over Again
7.Pipeline
8.B.D.
9.湘南サンセット Summer Is Nearly Here
10.Nineteen
11.Baja
12.Rumble
13.Legend of Surf(メドレー)
Black Sand Beach
Pipeline
Out of Limits
Surf Party
=ボーナス・トラック=
14.Clash (Acoustic Version)
15.そよ風 (PRIVATE RECORDINGS Vol.1 Version)
16.夢のあと (ON STAGE DVD original mix)
ライブ・イベント情報
8/8(日) OPEN16:00 START17:00 Charge¥3,500(1d)
8/9(月・祝) OPEN16:00 START17:00 Charge¥3,500(1d)
(オリンピック閉会式に合わせてスライドした「山の日」の振替休日)
会場:ファビュラスギターズ(湯島/御徒町)
https://fabulous-guitars.com/