【プロミュージシャンのスペシャル楽器が見たい】ザ・サーフコースターズ 中シゲヲのサーフサウンドを生み出すギターとスプリングリバーブ
1995年にメジャーデビュー。数々のアルバムをシングルをリリースしアメリカツアーも行うなど、日本を代表するサーフ・ロック・バンド、ザ・サーフコースターズ。今回は、ディック・デイル、ベンチャーズ、寺内タケシなどと共演。桑田佳祐、PUFFY、岩瀬敬吾、ENDS、加山雄三などのサポート、映画音楽、CM曲、ゲーム音楽などを手がけるギタリストである中シゲヲが愛用するギターとエフェクターを見せてもらった。シングルコイルの音が気に入ってザ・サーフコースターズでメインで使用しているというフジゲンのギターのほか、サーフロックに必須のスプリングリバーブや、デビュー時に使っていたというオリジナルモデルも紹介してくれた。
――中さんの現在のメインギターを紹介してください。
中シゲヲ(以下、中):国産の老舗ギターメーカー、フジゲンがセミオーダーで作っているEXPERT OSというモデルです。10年ほど前に、池袋のフジゲンのショップで売っていたのを買いました。最初は、オーダーする前に実物を見に行っただけだったんですが、弾きやすかったし値段も手ごろだったので、その場で買ってしまいました。
――ではこの10年くらい、このギターをメインで?
中:いや、ここ5年くらいですね。最初はほかのセッションの仕事で使うことが多かった。でも最近、シングルコイルの音がすごく使いたくなって、ザ・サーフコースターズでもこれを使っています。実はこのギターを買った後に、オーダーで同じようなゴールドのモデルを作ってもらったんですが、そちらはピックアップがP-90なんです。シングルに改造しようかと思ったんですが、それならこっちを使えばいいや、となって、最近はこればっかり使っていますね。
――このギターの気に入っているところは?
中:とにかく軽いことです。3.2キロくらいしかない。僕、腰が悪いので重いギターはイヤなんです(笑)。
――特徴的なところは?
中:基本的にはスタンダードなストラトモデルですが、普通のストラトよりネックが深くボディに入っていて、ボディトップと指板の段差が小さいんです。これは弾きやすさに関係してくるところなので、僕にとってポイントが高い。弦高を低くできるし、フレットもローポジションからハイポジションまでフィーリングが変わらないので弾きやすいですね。
――フジゲン製ギターといえば、「サークル・フレッティング・システム」が有名ですよね。フレットを同心円状に打つという。
中:ウェブで最初に見た時には、それもすごく魅力だなと思いました。でも僕の使い方ではあまりわからない(笑)。もっと歪ませれば恩恵がありそうなんですが。僕、けっこういい加減なんですよね。チューニングも、バジー・フェイトンチューニングみたいに精密にやる方法が色々ありますけど、あまり気にしていないです。ときどきローディの人が、1弦をちょっと高めに6弦を低めに、とかやってくれたりするんだけど、僕としては“勝手にやるなよ”って(笑)。響き方としてはそのほうがいいんだろうけど、僕は気持ち悪い。もしチューニングがずれても、ちょいちょいって直しながらやるからいいよ、って感じで(笑)。
――ピックアップは?
中:買ったままの状態なので、ピックアップもフジゲン製のまま。いずれダンカンとかディマジオに換えようかと思っていたんですが、やっているうちに慣れてしまった。じゃあこれでいいか、と。そういう雑な感じでやってます(笑)。
――では音もスタンダードなストラトの音?
中:普通のシングルのストラトですね。ストラトは昔から好きだったけど、以前はどうにも使いこなせなかった。僕はリア・ピックアップの音が好きなんですが、ストラトのリアってどうしても細くて扱いにくい。でもこのギターはリアにもトーンが配線されていてコントロールできるから、扱いやすいんです。ストラト弾きの人ってフロントを使うことが多いですけど、僕はあまり使わないですね。フロントはなくてもいいくらい(笑)。
――つまみの間にあるスイッチは?
中:ああ、これはリアとフロントをミックスするスイッチ。テレキャスターのミックスみたいな感じですね。この音はサーフサウンドでけっこう使います。ジャズマスターやジャガーでサーフロックをやるときは、ほとんどこれです。そういう音が出せるというのも、このギターを使う大きな理由ですね。まあ、ジャガーやテレキャスのミックスの音と比べると、頼りない音ではあるんですけど(笑)。だからリアだけを使うことが多いですが、レコーディングの時にはこのミックスもよく使います。
――アームもよく使っていますよね。
中:使いますね。このウィルキンソンのアームが優秀なんですよ。ルックス的にはそれほど好きではないんですけど、チューニングがまったく狂わない。それと、僕はアームを握りっぱなしで弾くことが多いので、普通のストラトのようにアームに遊びがあるのがダメなんです。こいつは遊びがなく、好きな位置でがっちり止めることもできるし、緩めてブラブラにしておくこともできる。使いやすいですね。
――このギターにつなぐアンプはどのようなものを?
中:最近は、行ったところに置いてあるものを使っちゃいます。ただ、もちろんアンプによって音も変わってしまうので、なるべくどこにでもあるJC(ローランド:ジャズコーラス)を使うようにしています。JCがなければフェンダーかな。
■サーフロックにはスプリングリバーブは不可欠
――ではエフェクターは?
中:これはザ・サーフコースターズで使うセットで、色々な曲をやりたくなったときのために、オーバードライブとかフェイザーとか用意はしてありますが、音作りに関して使うのは基本的にはリバーブだけです。ボリュームペダルもまず使いません。
――リバーブはどんなモデルを?
中:SURFYBEAR REVERBというスプリングリバーブです。裏にちゃんとスプリングが入っているんです。昔は真空管が入ったバカでかいリバーブボックスを使っていたんですが、あれを持って電車に乗るのがすごくイヤで(笑)。小さいのができないかなと思っていたら、20年くらい前にDanelectroから小さいのが発売された。キックパッドがついていて、バンとたたくとガシャーンと鳴る(笑)。ただリバーブの音はあまり良くなかった。そのあとBOSSが出したコンパクトのデジタルリバーブはよかったですね。モデリングで、フェンダーのリバーブそのままの音が出るという。そこからデジタルを使っていたんですが、最近このSURFY INDUSTRIESというメーカーが、サーフバンド専用みたいなリバーブをいくつか出してきた。その中で一番新しいコンパクトタイプがこれです。まあ本物と比べれば音の広がりは違いますけど、よくできていますよ。
――このリバーブの良さはどんなところですか?
中:音もまずまずだし、使い勝手が良いですね。リバーブの深さを浅いタイプと深いタイプの2つに設定できて、プリセットみたいにスイッチで切り替えられる。つまりリバーブのかかり具合を瞬時に変えられるんです。あとサスティンが長いのも良いですね。スプリングがショートだからリバーブ音もそんなに長くならないだろうと思っていたら、けっこう長くできるんです。
――これまで使ってきた中で、もっともよかったリバーブは?
中:やはり60年代のフェンダー・リバーブタンク。音の広がり方はこれが最高でした。もうずっとその音を求めて色々やっています。最近だと、ソフトウェアのAmpliTubeに入っているフェンダーリバーブのシミュレーションがよくできているので、レコーディングではそれを使っています。20数年前からずっと、いずれデジタルでちゃんとしたリバーブができるから、バンッと踏んだらパシャ―ンとリバーブの音が出る、というのをそれにつけてほしいと言ってるんです(笑)。さすがにまだそれはありませんね。
――実際に叩いて音が鳴るのもスプリングリバーブならではですよね。
中:ですね。多機能のデジタルリヴァーブ(エレクトロ・ハーモニクスのOceans 11 Reverb)で、フットスイッチでピシャーンって鳴らせるっていう裏モードがついているのがあるんです。面白いんだけど音がまだちょっと、という感じ。もっとバシャーン、ドカーンって鳴ってほしい(笑)。
――ライブ中にリバーブを叩いたりすることもあるんですか?
中:よくやります。リバーブタンク内蔵のフェンダーのVibro-kingというアンプを使っていたときは、曲の中でどうしてもバシャーンといわせたかったので、途中でアンプのところに走っていってガーンと揺らす、なんてやっていましたね(笑)。レコーディングでもやりましたよ。初期の「ツナミ・ストラック」という曲では、イントロでずっとリバーブを揺らし続けてる。10秒間揺らしてください、ということで、ずーっとバシャバシャ……ってやっています(笑)。
――サーフロックにはスプリングリバーブは不可欠ですものね。
中:サーフものをやるにはホントに必須です。これがないとテンションが下がります。もしリバーブがなかったら、やらないです(笑)。このリバーブも接触不良を起こしやすくて、うっかり触って音が出なくなっちゃうこともあるんです。その予備としてもこのデジタルは重要な存在ですね。雰囲気はやはり違うし、デジタル臭さもあるといえばあります。ただ、弾いているときに違和感はあるけど、録った音源を聴くとそんなに感じない。だからリスナーにはどうでもいいんでしょうけど(笑)。
――では次のギターを紹介してください。
中:アイバニーズのROADCOREというモデル。5年ほど前、国内発売が始まるタイミングで、市販モデルを大幅に改造したものを作ってもらいました。市販モデルはローズ指板だとP-90、メイプル指板にはハムバッカーがついてたんですが、そのときはメイプル指板が気に入っていたので、メイプル指板にP-90をつけてもらいました。初めはフェンダーとかのシングルコイルと同じようにロッドがマグネットになったものだったんですが、音のバランスがあまりよくなかった。歪ませると良い音なんだけど、クリーンだと弦ごとの音量差が気になって弾きにくかったんです。それで今はLINDY FRALINの普通のP-90をつけています。
――ピックアップは3つ。
中:ピックアップは3つありますけど、基本的にはリアとフロントしか使わないです。セレクターは5ポジションだとわかりにくいので3ポジション。ハーフトーンは出せないけど、どうせ使わないから(笑)。センターは、スイッチで単独で呼び出せるようになっています。
――そのスイッチはどういうときに使うんですか?
中:バッキングで音を下げたいと思ったときに、センターだけにして音を下げる、とかを考えていたんですが、実際はあまり使いどころがなかった。あまり意味がなかったですね(笑)。
――このギターについているアームは?
中:パーツブランドのMASTERY BRIDGEのユニットです。これは気に入ってます。狂わないし、アームのガタつきもない。すごく精度が良いです。世の中のジャガーとかジャズマスターを全部このアームにしてほしいくらい。自分のジャガーとかも全部これにしたいんですけど、高いからあまり買えない(笑)。
――このギターのサウンドの特徴は?
中:ジャズマスター的な音を狙っていたんですが、あまり似ていないかな(笑)。ちょっと明るめの音が出ます。P-90だと、普通のシングルに比べてリバーブの乗り方がちょっと違いますね。ピシャピシャいう感じが少し薄れる感じです。普通のシングルに耳も身体も慣れてしまったので、もっとジャキッとしてほしいなと思うところもありますね。ホントは、P-90の変な野太さみたいなのはあまり好きではないんですけど、そういう音にも慣れておこうと思ってつけたので(笑)。
――もう1本はユニークなルックスですね。
中:これはデビュー前に作ったモデルです。僕は昔から、ヤマハのSG-7とかのブルージーンズモデルが大好きだった。音がどうこうではなくて、見た目が好きなんです。若いころから欲しかったんですが、ビザールギターブームが来てしまって、たまに見つけてもすごく高かった。それなら自分で作っちゃおうと思って雑誌で探していたら、千葉のSongbirdというお店を見つけた。そこの遠藤さんという人なら絶対わかってくれそうだ、と思ってお店に行ったんです。
――では完全オリジナルのモデルですね。
中:そうですね。ただ、こういう形にはしましたが、ブルージーンズの音ってよくわからなかった。それで、サーフバンドだからジャガーの音が出るようにしてください、と(笑)。それでジャガーのピックアップをつけてもらっています。
――目指したのは、このシェイプでジャガーの音を出すこと、なんですね。
中:そう。で、色は金ピカのディック・デイル(笑)。このギターを作ってもらっている最中にデビューが決まって、デビューライブのときにちょうど出来上がってきて使ったというギターです。
――ギタリスト中シゲヲの歴史上、重要なギターですよね。
中:そうなりますね。でも全然使っていなかったんです。その後、知り合いから61年くらいのフェンダーのジャガーを譲り受けたので、もう本物が手に入ったらそればっかり使うようになっちゃった。それに、このギターを作ってもらった頃は細いネックが良かったんですが、だんだん太めのネックが好みになってきて。
――確かに細いし、Vシェイプですね。
中:初めはもう少し丸みがあったんですけど、細くして、もっと細くしてって削ってもらってたらこうなったんです。指板もフラット気味ですけど、今はそんなフラットなのは好きではないんです。逆にフェンダーみたいなR(アール)がついてるヤツだとチョーキングしにくいし、その中間くらいが好きですね。あと、0フレットがついています。0フレットは今でも大好きで、ホントは全部のギターに0フレットをつけたいくらいです。
――このギターは最近はまったく使っていなかった?
中:相当長いこと使っていませんでしたね。5年くらい前、初期の曲だけを演奏するライブがあって、そのときに久々にケースから出したんですけど、クラックが入ったり、あちこち大変なことになっていました(笑)。
――直したんですか?
中:いや基本的にはそのまま。一応磨くだけ磨いて、ネックも反ってるのかよくわからないけど、音は出るからいいやって(笑)。今見ると、裏にも色々ステッカーが貼ってありますね。Songbirdと、あと北野印度会社(笑)。たぶん当時食べに行ってたんですね。ヘッドには「SurfCoasters」ってちゃんと入れてくれたんだけど、最後のsを入れるのを忘れて後から入れたそうで、sだけ小さいんです。だったら入れなくてもよかったんだけど、そういうのが遠藤さんのかわいいところで(笑)。
――今後使ってみたいギターはありますか?
中:欲しいギターはたくさんありますけど、最近YouTubeとかを見て気持ちが盛り上がってきたのはフライングVですね。それも板バネのアームがついたフライングV。昔からずっと欲しくて、何度かチャンスはあったんですがまだ手に入れたことがない。以前、お茶の水の楽器屋さんのセールに出ていて、朝早くから並んだことがあったんです。やっと自分の番が回ってきて店に入ったら、すぐ前に並んでいたヤツがすでに弾いていて目の前で買われちゃった。すごくショックでした(笑)。
――今そのフライングVが出ていたらすぐに買いますか?
中:いや、買わないでしょうね(笑)。今買うとしたら、ルックス的にどうこうというより、使い勝手で選ぶことになると思います。モズライトだったらありかな。自分仕様のモズライトなら作りたいですね。
取材・文:田澤仁
取材協力:ファビュラスギターズ(https://fabulous-guitars.com/)
リリース情報
発売中
品番:STPR018
価格:アルバム/¥2,400プラス税
発売:ステップス・レコーズ
《収録内容》
1.Miracle
2.Midnight Highway
3.Refraction
4.Oracle~Light My Fire
5.Soyokaze
6.Starting Over Again
7.Pipeline
8.B.D.
9.湘南サンセット Summer Is Nearly Here
10.Nineteen
11.Baja
12.Rumble
13.Legend of Surf(メドレー)
Black Sand Beach
Pipeline
Out of Limits
Surf Party
=ボーナス・トラック=
14.Clash (Acoustic Version)
15.そよ風 (PRIVATE RECORDINGS Vol.1 Version)
16.夢のあと (ON STAGE DVD original mix)
ライブ・イベント情報
8/8(日) OPEN16:00 START17:00 Charge¥3,500(1d)
8/9(月・祝) OPEN16:00 START17:00 Charge¥3,500(1d)
(オリンピック閉会式に合わせてスライドした「山の日」の振替休日)
会場:ファビュラスギターズ(湯島/御徒町)
https://fabulous-guitars.com/