【インタビュー】平原綾香、ライブベスト全45曲から“この10曲”「今が一番輝いていると思うと、どんな時代の自分も愛せる」
平原綾香のオールタイム・ライブ・ベスト・アルバム『Save Your Life 〜AYAKA HIRAHARA All Time Live Best〜』が6月2日にリリースされた。2013年から2019年までに開催されたコンサートツアーの全ライブ音源から厳選されたというだけでも、その作業量は膨大だが、全収録楽曲にリミックスとリマスターを施したという作品性の高さとこだわりも注目に値する仕上がりだ。バンドスタイルや弦楽を交えたオーケストラスタイルまで、過去7年間に実施されたコンサートツアーは演奏形態もさまざま。CD3枚組、初回盤ボーナストラックを含む全45曲が、平原綾香のあらゆる側面を浮かび上げる。
◆平原綾香 画像 / 動画
また、デビュー曲「Jupiter」をはじめとする数々のヒット曲が、発表された年代順に並び、その全てがCD音源を更新するかのようなクオリティを持つライブ音源が収録されたという意味では、平原綾香の歴史を完全網羅したと同時に、新しい息吹きが楽曲に吹き込まれたと言い換えることもできる。圧倒的な熱量で繰り広げられるステージが蘇る究極のライブアルバムの完成だ。
BARKSではその中から10曲をピックアップ。圧巻のボイスパーカッションやラップ、クラシックやオペラなど、平原綾香の幅広いボーカルスタイルの魅力に迫ると同時に、コンサート当日の思い出や楽曲にまつわるエピソードを交えながら解説してもらった。アーティスト平原綾香のキャパシティは決して大ヒット曲「Jupiter」だけで語れない。
◆ ◆ ◆
■私はいつも“音楽のハグ”を届けたい
■ライブでのハグができたらいいなという思い
──『Save Your Life 〜AYAKA HIRAHARA All Time Live Best〜』に収録されているライブ音源、臨場感がすごいですね。
平原:そうなんですよ。コンサートの時は常に、PA卓にいるエンジニアさんが“今、ギターソロだからもうちょっと上げよう”とか、“ここは歌をもう少し上げよう”って微調整するライブミックスをやっているんですが、今回はさらにもう1回、ライブ映像と音を流しながらライブミックスを施しているんです。
──映像が収録されるわけではないけれど、映像も見ながら。
平原:はい。聴いている人がまるでコンサート会場にいるかのように感じられて、お腹にドスンとくる音を届けられるように、ライブ映像を見ながらミックスしているんです。エンジニアさん、5名くらいで分担してやっていただきました。本当に生々しい歌声が録れているし、こんなに細部まで聴こえるっていう意味では、もしかしたらコンサート会場にいるよりももっとライブ感があるかもしれないですね。
▲平原綾香 |
平原:今、ライブに行きたくても行けない方が多いじゃないですか。大切な人の命を守るために、自分は行きたくても我慢をするという方もたくさんいらっしゃると思います。私は以前、アルバム『ドキッ!』のDISC-2にライブ音源を収録したことがありましたが、今、こういう状況だからこそ“ライブに来ているような感覚になってもらえたら”という気持ちがありましたし、膨大な音源もありましたから、“これは今しかないよね”と思ったんです。私はいつも“音楽のハグ”を届けたいという思いがありますから、今回は音楽の、そしてライブでのハグができたらいいなという思いでリリースをすることにしました。
──ライブはお客さんの感情をダイレクトに感じられる場所だと思いますが、中止や延期が相次いだ頃はどんなお気持ちで過ごされていましたか?
平原:最初はあまりショックを感じていなかったんです。なぜなら、自分の一方的な“やりたい”という思いだけって素敵じゃないから。みんなの“行きたい”、“じゃあ、やろう”っていうライブが好きだから。でも、ある時インスタライブで「ライブの中止が決定しました」って言った途端に、ブワッと泣いてしまったんですよ。“あぁ、私、悲しかったんだ”って思いました。私にとって、ライブは生き甲斐。その生き甲斐がなくなっちゃったわけですからね。あの頃はみんな我慢していたし、実は本当に大変な時期をみんなで過ごしていたんだなっていうことを、自分の涙で知ることができました。
──タイトルになっている“Save Your Life”という言葉にも、そういった思いが込められているんでしょうね。
平原:音楽が、人間の心の豊かさを救うものだと信じているんです。私の中で音楽のハグというのもひとつのテーマだったんですが、どんなに大変でも、物事が思うようにいかなくても、心の豊かさだけは失わないでっていうメッセージを込めています。これは常に思っていることですが、心の豊かさなしには何も生まれないですから。今はみんな本当にやりたいことをストップしている部分があるかもしれないけど、だからこそ今まで自分たちが産んできたもの、残してきたものを愛してあげよう。そういう意味で、このライブアルバムは平原綾香のチームが残してきたものであり、それを愛でながらリリースしたっていう感じです。たくさんの方に届くといいなと思っています。
──ではここから、平原さんならではのスタイルを物語る10の楽曲をピックアップしてお話を伺おうと思います。まずこの作品の幕開けとなるのは、2003年のデビュー曲である「Jupiter (Live Tour 2018 Ver.)」です。
平原:いきなり収録1曲目にラスボスがきたって感じですけど(笑)。デビュー当時と比べると、声の太さも体の使い方も違うので、ある意味、また新しい平原綾香を見ていただけていると思うし、この2018年版を聴いて、もう一度2003年に戻ってみたいなと思ってもらえたりもするんじゃないかなと思います。私、CDの歌い方も、年を重ねてからのライブでの歌も、どちらも愛おしいなと思うようになったのは最近なんです。
──最近、ですか?
平原:昔は歌のド素人だったので、悩んでいたんです。どうやって歌ったらいいかわからなかったし、かと言って先生にも習ってないし、習う時間もなければ習うっていう以前の問題だとも思っていたから。その、ある意味、変な真面目さはサックスを吹いていたからだと思います。サックスは1日2日じゃ吹けない。訓練して訓練して、初めて自分のものになっていくというのを実感していたから。
──なるほど。
平原:2003年にデビューしてからいろんな歌を歌っていますけど、以前はデビュー当時の自分の歌を聴くのが結構恥ずかしかったんです。でも大人になると、“こんな歌い方してたんだ” “こういう歌い方も爽やかでいいよね”って思えるようになったんです。今が一番輝いていると思うと、どんな時代の自分も愛せる。そういう聴き方ができるようになったんです。これ、ボブ・サップの教えなんですけど(笑)。
──あの格闘家のボブ・サップですか!?
平原:はい。私、ボブ・サップが大好きだったんですよ。“自分が負けている試合を笑いながら見ている”っていう彼のドキュメンタリーを見て、なんてカッコいいんだと。ボコボコにされてカッコ悪い姿なのに、「この時はこうだったからダメだよね、アハハ!」って。素敵ですよね。彼は歌手として活動していた時もあって、その歌もカッコよかったんですよ。インナーマッスルがちゃんとあるから、いい声をしているんですよね。今の若い子は知らないかもしれないけど、私は本気でボブ・サップになろうと思ってました(笑)。
▲平原綾香 |
平原:その通りです。クラシックカバーシリーズは、正直言って大変でした。クラシックの作曲家たちが時を超えて先生となり、歌を鍛えてもらったなという感覚があります。
──クラシックの楽曲がセットリストに入ることで、ライブの個性というものも色濃くなっていったように思います。
平原:それはあるかもしれないですね。クラシックのカバーをして、それを歌う……たぶんクラシックのカバーで歌を歌っているアーティストはほとんどいないでしょうから、それが平原綾香の個性ととってもらえたのも、今となっては良かったのかなと思います。でも、当時はすごく複雑でした。
──というと?
平原:「平原さんといえばクラシックですよね」と言われることに、すごく違和感があったんです。だってクラシックじゃなく、ずっとジャズ家系でしたから。“クラシックはそんなに詳しくないのに”っていう思いと、あとはやっぱり『my Classics!』というのはファンの方のリクエストで出来上がったアルバムですが、“クラシックをカバーすることに対して反対の意見を持っている人たちを傷つけたくない”という思いもあったんです。それは「Jupiter」からずっと続いていますけどね。だから、果たして自分が『my Classics!』というアルバムをリリースする意味があるのか、みたいな葛藤があったのも事実なんです。
──それでも、シリーズ化されるほどの人気企画になりましたね。
平原:本当は6枚出したかったんですよ。マイクラ”シックス”だから。これは本気で思ってました(笑)。だけど名曲の数があまりにも膨大ですし、かなり精神をすり減らす作業ですからね。でもまたいつか、クラシックのカバーをすることがあるかもしれないです。時代は変わっていきますから。
──そうですね。
平原:「Moldau」といえば小学校で習うあの歌のイメージしかないと思うんですが、こんなに切なくていい曲なんだって、私も感激しながらカバーした曲です。その喜びがとても出ていると思うので、ぜひ聴いていただきたいですね。
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