【インタビュー】ヒトリエ、「この3人で初めてRECした曲と、一番新しい曲」が映し出した新体制の現在地
■自分が作った曲を受け入れてもらえた
■っていう実感を持ったのが今のツアー
──アニメ『86-エイティシックス-』、すごく面白いですよね。現実の世界と重なり合うものも感じて、毎回、いろいろなことを考えながら観ています。
ゆーまお:よくアニメ化できたなと、僕も感じています。
シノダ:かなりきわどいところに攻め込んでいますからね。ここまで極端ではないけれど、似たようなことっていろいろあると思います。俺らはのんきに暮らせてるけど、その裏でめちゃめちゃ苦しんでいる人たちがいる。そういうシステムっていうのは世界中にあるわけですから。
──『86-エイティシックス-』はそういう現実とも重なるから、面白いと同時に、何とも言えない気持ちにもなるというか。悪い意味ではなく、そういう魅力がある作品ですよね。
シノダ:そうなんですよね。どっち側の立場もわかるっていうのとも違うんですけど。どっち側もお互いのことを絶対に分かり合えないくらい立場の違いがあるわけで。
イガラシ:深刻なんで、僕も観ながら毎回ずっしりきています。
シノダ:すごく気合入って制作されている作品ですよね。
▲イガラシ(B) |
シノダ:友だちが“ジャガーノート”のプラモデルを作ってくれたんですけど、その説明書を読んでみると、あれはすごく性能が低いんですよ。“ゴミみたいなマシンで彼らは戦ってるんだな”ってわかりました。ロボットアニメって大体乗りたくなったりしません? でも、ジャガーノートには絶対に乗りたくない(笑)。
──ははは。アニメのテーマソングを担当すると、海外から反応も増えますよね?
シノダ:そうですね。海外の人にも聴いてもらえたらありがたいです。日本のアニメを観ながら実況している海外の人の動画も無限に存在するので、そんな人たちが『86-エイティシックス-』のオープニングを観ている時の反応が面白いです。
──こういうきっかけでヒトリエに興味を持ってもらえて、ライブ映像とかミュージックビデオとかも観てもらえたら最高ですよね。アニメがきっかけで日本の音楽が好きになった海外の人たちって、完璧な日本語で歌ってくれるらしいですよ。
シノダ:それは中国でライブをやった時に感じました。
ゆーまお:中国でツアーをした時、こちら側から「歌ってください」ってお願いしたわけではなかったのに、ほぼすべての曲がシンガロングでしたからね。
シノダ:例えば僕らも、オアシスのライブに行ったらサビを合唱したりしますから、それと同じことなんでしょうね。
──「3分29秒」もそういう曲になったらいいですね。この歌詞、先ほども申し上げた通り、今のヒトリエの姿がすごく伝わってきたのも印象的でした。“あなたの声を 忘れはしないだろう 風に吹かれて 散り散りになって”とか、wowakaさんのことをやはり思い浮かべずには聴けないですから。
シノダ:改めてこの歌詞を見ると、そうですね。ちょうどこの歌詞を書いていた頃に新型コロナウイルスによって世の中が回らなくなり始めていたんです。“絶対的な不条理のようなものが次々とやってくるな”と。そういうのもこの歌詞には入っていますね。覆りようのない現実と言いますか。“どうしようもねえじゃん。こんなことになっちゃったら”っていう。
──コロナ禍の前から、ヒトリエは不条理を体験し続けているということなんだと思います。wowakaさんが亡くなったというのは僕もまだ心の整理がついていないですし、みなさんにとってもそうであるはずですから。ツアー中の出来事でしたよね?
シノダ:はい。ツアー中でした。
──ヒトリエとして3人で活動を続けることを決めたわけですけど、それは当然ながら容易な決断ではなかったですよね?
シノダ:はい、大変ですよ。ギターを弾く量は4人だった頃と比べて減りましたけど、その分、歌いますからね。
──wowakaさんが歌っていた歌を歌うっていうことで、“納得していただけるのだろうか?”というファンのみなさんに対する気持ちもありますよね?
シノダ:うーん……そこに関しては、どう歌っても納得はしてくれないでしょうから。だからそれはそれとして、“3人体制としてやる”っていう上で、ベストパフォーマンスみたいなものをやれるだけやれたらいいなと。そう考えるしかないですね。
──“この3人で最大限に良い音楽をやる”っていうのが、今のヒトリエの創作とライブの両方に対する姿勢ということですか?
シノダ:はい。そうするのが一番健康的なのかなっていうことですね。
──“あなたのようになれはしないんだよ なろうとも そうしたいとも思わないんだよ”というフレーズからも、その気持ちを感じます。これ、力強い決意でもある一方で、どこか寂しさとかも含まれていて、まさにそういう心境なんだろうなと思いました。
シノダ:やはりダメージですからね。それは回復するようなものではなくて、ずっと続いていくものだと思う。だから怨念ですよ。怨み節と言いますか(笑)。『REAMP』も丸々1枚が怨み節みたいなものですから。でも、そういう気持ちもエネルギーには替えられるんです。それをエネルギーとして昇華したのが『REAMP』であり、「3分29秒」っていうことになるんですかね、きっと。
▲ゆーまお(Dr) |
シノダ:なんでしょうね? まず、ライブをやれていて、ツアーを回れているっていうことが、結構、やる側にとっても観る側にとっても奇跡に近いような状況というか。だから“ありがたさの塊”みたいな空間が、今、発生しています。
イガラシ:そうですね。まず、去年はお客さんの前でのライブが丸々できなかったですけど、一昨年は“wowakaを失って、途中で止まったツアーを3人でとにかく完走しよう”っていうところからがむしゃらに始めたので、お客さんもまだ立ち直れていなくて、現実を受け止められてもいない場だったんです。客席にはいろんな感情が渦巻いていて、涙を流して前を向けないような人もいれば、なんとかそれでも楽しもうとしている人もいたり、そういう場をみんなと共有したわけで。今は今で全く違う状況になっていて、声を出せずにマスクをしているライブ状況を共有していますけど、現場で、この3年間くらいで共有しているものって、俺らもお客さんも一生忘れられないものなんだと思います。そういう中でも、例えば手拍子してくれるだけでも感情は伝わってくるので、それはすごいことだし、尊いことだと感じています。4人だった時と同じような気持ちで応援するのは難しい状況になってからも、そういう気持ちを俺らに向けてくれるっていうのは、とてもありがたいことです。
──4人だった頃の曲が、形は変わったとしても鳴り響き続けているっていうのは、とても意味のあることだと僕も思っています。
イガラシ:やはりそれが続けていくっていうことの目的ですからね。そういうことを諦められなかったのが、3人で動き出した大きい動機だったので。
シノダ:ヒトリエの曲を一番ちゃんと演奏できるのはウチらしかいないですからね。
──ゆーまおさんは、3人で動き始めてから、ファンのみなさんのどのような気持ちを感じています?
ゆーまお:覚悟しながら観ている人が、今でもちらほらいますね。一昨年の3人になってからのツアーの時は、それが目的なようなものでもあったので当然だったんですけど、今でもそういうのはある気がします。だからwowakaの曲をやる時は……何て言えばいいんだろうなあ? 大事にする感じの空気が会場に流れますね。“待ってました”っていう感じにも捉えられるし、“大事に聴こう”みたいな感じもあるし。それは良いも悪いも俺は思っていなくて、何て言ったらいいのか難しいんですけど。あと、“自分が作った曲を受け入れてもらえた”っていう実感を持ったっていうのは、今のツアーでの新しい感覚なんですよね。『REAMP』で3人それぞれが曲を書いて、それぞれに対するレスポンスをお客さんの表情とかから感じています。それを確認できているっていうのは、貴重な体験ですね。
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