【レポート】ACIDMAN、<ニューアルバム配信ライブ>で「新たな音楽の届け方を僕らなりに」

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ACIDMANが5月21日、<ACIDMAN ニューアルバム配信ライブ>を実施した。先ごろ公開したオフィシャルレポートに続いて、詳細に迫るオリジナルレポートをお届けしたい。

◆ACIDMAN 画像

2020年は生配信ライブ<THE STREAM>や、初のインストゥルメンタル・ワンマンライブ<This is instrumental>を有観客とマルチアングル方式での配信で行なうなど、コロナ禍でのライブや音楽の楽しみを追求し、提供してきたACIDMAN。彼らの新たな試みとして、5月21日19時より開催されたのが<ACIDMAN ニューアルバム配信ライブ>だ。


このライブは、今秋発売を予定している12枚目アルバムの収録曲を、いち早くファンに届けようというもの。ライブのMCのなかで大木伸夫(Vo, G)は、「本当ならば、今頃はアルバムを出して、ツアーを回っていた時期だったけれども、コロナによっていろいろなものがストップしてしまった。でも作ったものを早く聴いてもらいたい、何がいちばんベストな形かと考えて、もう一度配信でのライブをやろうと思った」と語った。

その場所に選んだのは、今年春、新宿にオープンした配信スタジオ『BLACKBOX³』。4面がLEDパネルとなったステージは、音楽と映像で、鮮やかで密度の高い世界を作り上げるACIDMANのライブにぴったりの場所だ。特に足元部分から左右、背面がLEDパネルになっているこのステージは、まるでバンドが映像世界に飛び込んで演奏をしているような感覚で、観ている側も画面越しではありながら没入感が楽しめるものになっており、ライブ映像としても新鮮である。




鼓動のようなビートにシンクロして照明が明滅するなか、浦山一悟(Dr)、佐藤雅俊(B)、そして大木が登場。浦山が軽やかにスティックを振ってスタートしたのは、「Vistor」だ。弾むように躍動する3人のアンサンブルにのる哀愁を帯びたメロディが、サビで輝きを増幅させるように転調する。心に火をくべていくように、歌とアンサンブルが上昇していく。軽快でいて、がっちりとリスナーを掴むパワーがある曲だ。続く「歪んだ光」では、攻撃的なギターリフとビート、佐藤、浦山の前のめりなシンガロングで曲をドライブさせていく。グラフィカルな映像も相まってノイジーに飛ばしていったこの曲は今後、有観客でのライブとなったときの盛り上がりの起爆剤となりそうだ。

2曲を終え、「こんばんはACIDMANです。ニューアルバム配信ライブを観にきてくれた方、ありがとうございます」と改めて挨拶をした大木は、冒頭に記したような配信ライブを開催するに至った思いを語り、「アルバムは絶賛制作中です、8割方できたので、今日はそのすべてをお届けします。昨年はいろんなライブのなかでサプライズを起こしましたけど、今回はこのライブ自体がサプライズです。音楽の素晴らしさ──もちろん生で体感するのがいちばんだけど、新たな方法、新たな音楽の届け方を僕らなりに提供できればなと思っております。画面越しではありますが本気でやりますので、みなさん最後まで楽しんでください」と続けた。

その言葉の後に演奏したのは、すでにシングルとしてリリースされている2曲。スラップベースで勢いもボリュームも増していく「Rebirh」から、街の叙事詩を繊細に美しく紡ぎあげる「灰色の街」へと続いていく。「灰色の街」では、演奏と多角的なカメラワーク、エフェクティヴな映像とがシンクロ。淡々としたモノクロームの世界が徐々に色づき温度を取り戻し、高揚していく映像演出は、この場所や配信という環境ならではだ。


その余韻のなか「Link」「ALE」へ。「Link」はインストゥルメンタルで、タイトなドラムとメロディアスなベースに、大木がループマシーンでギターを乗せる。人力のグルーヴィなループミュージックに、大木がオルガンをプレイし、スペイシーで温かな音響を生み出していった。そこから連なるように演奏された「ALE」は、コーラスがブライトでポップなメロディをさらに引き立てる曲だ。これまでのACIDMANの作品のなかでも、最もドリーミーで幻想的な曲のひとつと言えるだろう。大木のMCによれば、この「ALE」は人工流れ星を生み出すプロジェクトを行なう株式会社ALEの活動に感動し、「夜空を見上げる、空を見上げるきっかけを作るのはとても美しいこと。人類や人間の挑戦するスピリットを感じる」と、“勝手にALE応援歌”として作った曲だという。星や宇宙、自然や生命のプリミティヴな営みと未知の可能性やロマンを描いてきたACIDMANらしい思いが、このピュアでドリーミーな音楽になったようだ。満天の星や、星の軌跡がダイナミックに映し出されるなかで響きわたる「ALE」は、ひときわ美しい。

続いてスタートしたのは、浦山、佐藤のフィンガースナップのビートとアコースティックギターではじまる「素晴らしき世界」。シリアスな内容をも、ライトな風のような肌触りで伝える曲になっており、シンプルだがとても滋味深い。今回披露されている曲たちは特に、そうした軽やかな空気感や、リズミカルに心を揺らしていくような感触があって、アルバムの仕上がりが楽しみになってくる。




「形は変われども音楽を届けるという思いはどんどん伝えていきたいと思います。コロナでどうなっていくのかわからない世の中で、僕らもそうだし、いろんな業界の人がわけがわからない状況でモヤモヤとしていると思う。音楽ができることはほんの少しですけど、心の奥底に光を当てることは、僕はできると思っております。感動だったり喜びだったり、いろんな感情や心を動かすことができると信じております。僕らの今の今日の配信ライブがみなさんひとりひとりにとって何かしらの力になればなと思っております」──大木伸夫

そう語ってこの日ラストとなる曲を演奏する前に、アルバムタイトルが『INNOCENCE』になることが発表された。その発表方法については、ACIDMANらしいサプライズが仕掛けられていたので、まだ配信ライブを見ていないファンの方は、ぜひアーカイブで確認してほしい。

ラストに演奏されたのは、そのタイトル曲「innocence」。純粋無垢という意味合いのあるこの曲への思いについて大木は、「僕たちは生まれた時は真っ白で生まれて、でも時を経るなかでいろんな人から嫌な思いを味わったり、自分も嫌な思いをさせたりと、どんどん汚れていってしまう。幸せを、喜びを感じるために生まれたのに、どんどん汚れてしまうのは、当たり前のことかもしれないけど、俺はそうは思いたくないなという思いがあって。どんどん純真無垢に戻っていくべきだと思っています。こんな綺麗事を歌い続ければ、少しだけ世界は美しくなるんじゃないかな、もっともっと美しくなるんじゃないか」と、祈りを込めたという。ミディアムなテンポで、エモーショナルに語りかけるように歌う曲は、ACIDMANの真骨頂。エネルギーが迸るようなダイナミックな3人のアンサンブルで、湧き上がる思いを祈りへと昇華した曲は、とてもドラマティックだ。


アルバムには、あと2〜2曲収録する予定だという。12作目で、サウンド的には深化や洗練があるのはもちろんだが、そのACIDMANの核となる部分、見据える世界やその哲学はますます研ぎ澄まされている。そんな彼らの“今”をいち早く、そしてイマジネイティブに表現した配信ライブ。「今度こそは、目の前のリアルなライブでお会いしましょう」という言葉に、明るい希望を感じるライブとなった。

取材・文◎吉羽さおり
撮影◎Taka“nekoze_photo”

■<ACIDMAN ニューアルバム配信ライブ>2021年5月21日(金)セットリスト

1. Visitor
2. 歪んだ光
3. Rebirth
4. 灰色の街
5. Link
6. ALE
7. 素晴らしき世界
8. Innocence

■<ACIDMAN ニューアルバム配信ライブ>アーカイブ情報

配信日:2021年5月21日(金)19:00〜
アーカイブ配信:本配信終了後〜2021年5月31日(月)23:59
※「Streaming+」のみ、2021年5月27日(木)23:59まで

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