【ライブレポート】Official髭男dism、ずっとそばにいてくれたヒゲダンの音楽

2年連続で『NHK紅白歌合戦』に出演し、新曲「Universe」が『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』の主題歌に決定するなど、まさに国民的ロックバンドとしての存在感を確たるものにしたOfficial髭男dism（以下、ヒゲダン）。

そんな彼らの2021年初ライブが、ファンクラブ限定オンラインライブとして開催された。事前に楽曲のリクエスト投票が行われるなど、ファンクラブという身近な存在への特別な想いがこもったライブ。配信という形態をポジティブに活用しながら、ヒゲダンとヒゲダンの音楽が繋いできた絆の強さを実感した一夜のレポートをお届けしたい。

（なお、本公演は4月25日23時59分までアーカイブ配信中。これから視聴される方は以下、ネタバレ注意を）

◆ライブ画像（9枚）

搬入やリハーサルの映像が映し出され、ドキュメンタリーのようなオープニング。それぞれの持ち場で作業する多くのスタッフの姿に、全員でこのライブを作り上げているのだというメッセージが伝わってくる。


ステージにカメラが向くと、和やかな表情でメンバーが登場し、1曲目は「Second LINE」。さっそく珍しいスタートだが、“部屋着のままで／ほぼありのままで／君はただ僕を見てフッと笑えば良いからBABY／いつだってこうやって駆けつけるから”という、まさに今夜にふさわしい歌詞に心を掴まれた。丁寧に言葉を届ける藤原聡（Vo,Pf）の声がのびやかに響き、松浦匡希（Dr）の力強いビートに乗せて楢崎誠（B,Sax）がグイグイ牽引し、小笹大輔（G）が細やかなフレーズで彩っていく。さらにサポートメンバーを含めた10人編成の豪華なグルーヴに、画面越しでも体が揺れた。

2曲目の「異端なスター」では、ポップなメロディに乗るようにカメラもステージのなかを動き回る。メンバーひとりひとりの表情を捉えたり、藤原の背中越しにフロアを写したりと、斬新なアングルな配信ライブならではだ。続く「ESCAPADE」は、ステージを三方から囲むように配置された照明が立体的に交叉する演出が美しい。昨年9月にも配信ライブをおこなったヒゲダンだが、また新しい魅せ方を開拓している。

「まだまだライブができない世の中かもしれませんが、それを逆手に取って、今日じゃないとできないライブをつくったろうということで」と宣言する藤原の言葉が頼もしい。


「すごくたくさん投票していただいた曲です」と始まったのは「What's Going On?」。アップテンポな楽曲にシビアな歌詞が乗る名曲だ。“僕らはもう生き抜いてやろうよ／イヤホンつけたら1人じゃないから”というフレーズが時勢とシンクロし、またギュッと心を掴まれてしまう。2016年リリースの曲だが、音楽で日常に彩りを加え、日々背中を押し続けてきたヒゲダンのグッドミュージックに、端から時代は関係ないのだ。


同じく2016年リリースの『MAN IN THE MIRROR』から「コーヒーとシロップ」を経て、2020年のシングル「Laughter」へ飛んでも、まったく違和感はない。ライブアレンジを重ねてサウンドが進化している一方で、彼らが楽曲に込める根底の想いがブレていないからこそ、時を超えていくのだろう。壮大なロックシンフォニーを描いた圧巻の「Laughter」から、再び2016年へ遡った「ゼロのままでいられたら」は、かなり久しぶりに披露されたレア曲。藤原がピアノの奏で、4人のミニマルな音がステージを温かく包み込んだ。

MCでは、懐かしい楽曲から思い出話に花が咲き、フリートークが止まらない4人が微笑ましい。「ゼロのままでいられたら」が投票結果1位だったこと、楢崎のリクエスト曲でもあったことが明かされた。ちなみに松浦は「Second LINE」、小笹は「Laughter」とのこと。そして、「僕が選んだ曲は次にやる曲です」と紹介されたのは、2015年リリースの『ラブとピースは君の中』から「ダーリン。」！　優しいメロディラインはそのままに、フルートやホーンを取り入れた2021年バージョンに生まれ変わっていて驚いた。2021年のメンバーが演奏することでここまで鮮やかになるとは、メンバーにとっても刺激的だったのではないだろうか。


「犬かキャットかで死ぬまで喧嘩しよう！」からは怒濤の後半戦がスタート。ファンクラブ名である「ブラザーズ」では、Zoomのような分割画面になり（ちゃんと「You」の枠があるのが嬉しい）、メンバーそれぞれを固定アングルで楽しめるという趣向が。ホーン隊、ピアノ、ギターと切り替わる豪華なソロ回しのあと、そのままのテンポでなだれ込んだ「ノーダウト」の迫力に圧倒される。演奏の熱量もカラフルな照明も全開で、カメラが近い分もはや一緒にステージ上にいるような臨場感だ。

さらに「発明家」でテンションを高めたあと、ラストは最新曲「Universe」。ドローンや360度カメラを駆使した浮遊感のある映像、そこに重なり合うアンサンブルと突き抜ける高音ボーカルが、文字通り宇宙へ誘う。過去と未来を繋ぐ普遍のメッセージがステージに降り注いだ。


本編終了後には、6月23日、24日のワンマンライブと、秋からの全国ツアー決定のニュースが報じられた。それを受けて、バックステージで和気藹々と期待を語る4人のトークでエンデイング──かと思いきや、松浦のダンス（！）からサプライズのアンコールがスタート。嬉しい告知に全国のファンが祝祭モードであろうところにぴったりの「I LOVE…」と、もう一つのファンクラブ名である「Stand By You」がひときわ華やかなアンサンブルで贈られた。


これまでのライブで恒例だった「WOW WOW」のシンガロングも、ハンドクラップも、しっかり脳裏に聞こえていたのは、きっとメンバーも同じだったはずだ。時に跪きながら、全身を使って届けようとする藤原の歌声が胸に深く響く。“たとえ僕ら遠く離れた場所へ行こうとも”“変わるはずがないよな？”という約束が、珠玉のメロディに乗って固く交わされ、特別な夜はフィナーレを迎えた。

ライブの決定はもちろん嬉しい限りだけれど、リアルのライブがなくても、ヒゲダンの音楽はずっとそばにいてくれた。むしろ、その距離は近づいたようにすら思う。変わっていく世界に流されず、ただまっすぐ自分たちの音楽を磨いてきた彼らの輝きが、この先の未来を明るく照らしていくに違いない。

文◎後藤寛子
写真◎TAKAHIRO TAKINAMI