【コラム】大森元貴 (Mrs. GREEN APPLE)、ソロ第一弾作品が物語る“芸術的な多重人格者”

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Mrs. GREEN APPLEの大森元貴(Vo,G)が2月24日(水)、ソロデビュー作品「French」をリリースした。同作品は表題曲「French」をはじめ、「メメント・モリ」「わたしの音(ね)」を収録したデジタルEP。それら3曲、公開されたアーティスト写真は、これまでとは異なる一面と変わらぬ本質が浮かび上がる仕上がりだ。

◆大森元貴 動画 / 画像

大森元貴はMrs. GREEN APPLEのフロントマンとして2015年にメジャーデビュー。バンドの全楽曲の作詞、作曲、編曲から作品のアートワーク、ミュージックビデオのアイデアまですべてを担当している。これと並行して、様々なアーティストへの楽曲提供やプロデュース、共作など、作詞家・作曲家としても活動の場を広げており、最近では韓国のアイドルグループTOMORROW X TOGETHERに「Force」を提供して大きな話題を呼んだばかりだ。そして完成したソロ作品「French」とはいかなるものか、じっくりと検証していきたい。


▲1st Digital EP「French」

【Chapter1】大森元貴ソロとは
形のない音と言葉のアート作品

バンドのフロントマンがソロデビューするということは、本当に難しいことだと思う。そもそもがバンドを象徴する存在であるだけに、ソロ活動において、バンドとはどういう線引きをするのか、あるいはしないのか。ソロでは何を表現し、バンドではどう表現を用いるのか。これまでにも同様のチャレンジを試み、そこで十分に自身を表現し切れず、ソロ活動を中途半端な形で終わらせてしまったアーティストが少なくはないことは、その難しさの証明だと言える。

ましてや大森元貴の場合、Mrs. GREEN APPLEという大人気バンドの作曲・作詞・編曲を担い、そしてボーカルを務める張本人であり、Mrs. GREEN APPLEの世界観そのものを作り出してきた人間だ。バンドマン大森元貴が作り出す音、言葉、色彩がそのままMrs. GREEN APPLEだったわけで、それが今回、ソロアーティスト大森元貴はどんな音、言葉、色彩を発するのか、そこが何よりも興味深かった。

そんな中で届けられた「French」を耳にして真っ先に感じたことは、表現そのものを変えることなく、これまでが“J-POP”というキャンバスにデザインしていたものだとすると、今回は、純白無垢の、そしてサイズが無限大という真っ白いキャンバスに自由に絵を描き始めのではないだろうか、ということだった。

そういう印象と同時に、バンドとソロ活動の比較がどうのこうのといった、そんなちっぽけな発想ではなく、彼が見据えている先にあるものは、もっと壮大な世界であることが伝わってきた。「French」は、大森元貴という人間が生み出した、形のない音と言葉のアート作品だ。


【Chapter2】シンガーとしての歌唱力の高さ
プロデューサーとしての歌の聴かせ方の秀逸さ

「French」という作品の成り立ちを考えた時に、この作品は、大森元貴というシンガーを、大森元貴がプロデュースしたものではないかという印象を強く受ける。もちろん本作においても、彼は作曲、作詞、編曲のすべてを手がけており、そのいずれにおいてもクリエイターとしてのレベルアップ具合には実に目を見張るものがある。そこを踏まえたうえで、シングルに収められた3曲から最も伝わってきたのが、大森をシンガーと捉えた場合は“歌唱力の高さ”であり、プロデューサーとして捉えた場合だと“歌の聴かせ方の秀逸さ”であった。

まず歌唱力に関しては、一般的には、彼の音域の広さであったり、ファルセットやミックスボイスの使い分けなど、ある意味で分かりやすい部分が注目されがちだ。しかし今回、バンドでの“元気で明るく”といった、いわば聴き手の背中を押してあげるような声色ではなく、真綿のように、あるいは宙を漂う雲のように、実に柔らかい歌声で、より内省的な表現に磨きをかけている歌が実に印象的であった。まさに、歌詞の行間が伝わってくるような歌だ。

ただしこうした歌は、やもすると、ただ囁いているだけといった弱々しいものになりがちだ。しかし大森の場合、しっかりとした発声法と技術の裏付けを持ちながら、そのうえで柔らかい響きを生み出している点こそが、シンガーとしてのレベルの高さを感じさせる。この歌だからこそ、歌とコード感を生む最低限のバックトラックだけでも、楽曲が十二分に成立しているのだ。これは力強く歌う曲よりも何倍も難しいアプローチであり、こうした彼の歌の根幹に宿る部分は、表現手法こそ違えど、カップリングの「メメント・モリ」と「わたしの音(ね)」にも通じている。

一方で「French」を俯瞰で見た時、一番の魅力である歌を最大限に活かすために、バックトラックから不要な音をすべて排除し、極力シンプルな形で楽曲として完成させている点が、大森のプロデュース力であり、プロデューサーとしての実に大きな功績だ(もちろん、そのために彼自身が行ったトラックメイクの力量の高さも、いわずもがなだ)。しかも、終始トレモロがかかり、冷ややかさと暖かさを同時に感じさせる音色で背景を彩ることで、幻想的な空間性と、透明感溢れる歌の響きを強調させている点も見事のひとこと。

こうした大森の音楽性を語る時、マルチな才能に触れずにはいられないが、彼が、いわゆる器用貧乏に陥らないのは、ただ何でも出来るという器用さを身に付けているだけではなく、クリエイターであり、アーティストであり、プロデューサーである自分を個々に存在させ、互いに独立させながら創作活動を行える能力を有しているからだろう。いわば芸術的な多重人格者であり、共作者が自分自身だということだ。

そうした彼の天賦の才能は、今回のソロ作品によって、バンド以上に真価が発揮されているように感じられたし、それが今回、ソロ活動に挑んだ最大の大義のように感じられる。ここが巷に溢れる、“バンドが活動休止中だから、このタイミングでソロでやってみようか”という安易な発想とは根本的に異なる、大森の思考の深さだ。


【Chapter3】カップリング曲にも
ソロならではの新たなスタイル

ここで、カップリング曲にも触れておこう。「メメント・モリ」は、アイリッシュテイストのバンド・サウンドで、そういう意味では、Mrs. GREEN APPLEファンに一番スッと入ってくるサウンドだろう。そうした中でも、彼の死生観を感じさせるような歌詞を歌っている点は、ソロならではと言えるだろう。そうした歌詞を、人肌を感じさせるような柔らかい歌声で聴き手の心に届けると共に、アイリッシュ的な優しい陽気さを感じさせるアレンジでデコレーションすることで、従来のファンをこの曲にソフトランディングさせている。

大森自身がアコギをプレイしており、参加ミュージシャンは、山下洋介(E.Piano & Programming)、吉田太郎(Dr)、山口寛雄(B)、菰口雄矢(G&Flamenco G)、宇田隆志(Accordion)という錚々たる顔ぶれだ。その彼らを“従えて”といった仰々しい雰囲気ではなく、彼らと肩を組みながらプレイしているかのような親しみを感じさせる点は、大森の人柄の表れなのかもしれない。

一方、「わたしの音(ね)」では、黒田晃年(G)とのデュオギターをバックに歌うというシンプルな構成。そういう意味では、「French」との共通項もなくはないが、音楽的なアプローチとしても、そして曲が描く物語としても新しいスタイル。全体的な音域をグッと下げたメロディで、まるで心の声を朴訥と語るように歌いつつ、高ぶる感情の起伏が一瞬見え隠れすることで、聴き手は自然と歌の世界に没入していく。

そのうえで、もし歌詞の中身が大森の私的なものであれば、それはあくまでも彼自身の心情の吐露となってしまうが、「わたし」や「貴方」という表現を用い、“大森が歌う女性目線の歌である”という客観性を持たせることで、聴く者それぞれが、自分にとっての「わたしの音(ね)」を思い描くことができる音楽になっている。

▼ソロアーティスト大森元貴の
息吹と未来予想

これら、3編のショートストーリー映画的な作品が収められた大森のソロデビューEP。この先、彼がどのような形でソロ活動を展開していくのかは分からないが、彼の内面に宿る創作の泉が湧き続ける限り、どういう形にせよ、また新たな作品が生まれてくることは間違いない。なぜなら彼にとって、表現をし、作品を創作するということは、息をするのと等しいくらい大切で、当たり前のことで、彼が生きる証そのものであるはず。つまり「French」は、今この瞬間の、大森元貴の息吹なのだ。

取材・文◎布施雄一郎

■1st Digital EP「French」

配信:2021年2月24日(水)AM00:00〜
https://lnk.to/MOFrench
収録曲:
1. French
2. メメント・モリ
3. わたしの音(ね)
※iTunes、レコチョク、Apple Music、Spotify、LINE MUSICほか主要配信サービスにてストリーミング/ダウンロード配信
Motoki Ohmori 'French' is available on Apple Music, Spotify and etc..

Motoki Ohmori 'French'
Streaming will be available from 0:00 am(JST) on February 24, 2021

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