【インタビュー】ILYOSS白水悠、コロナ渦で追究した「ライブを前提にしない作品創り」

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■実行していくだけ

──「Be There feat. Hiro-a-key」は本当により広く受け入れられそうな曲で。FABTONEから出ているメロウ・チューンのコンピシリーズ『IN YA MELLOW TONE』に入っててもおかしくないです。

白水:FABTONE感あるよね(笑)?今まで白水のわがままな作品ばかり出してきたけど、やっとこっちの意図を汲んでくれた!みたいな(笑)。やっと少しは貢献できるのかなって(笑)。

──「Cinnamon feat. Tamuraryo & なみちえ」も、昨年配信リリースされた曲ですね。

白水:これの元ネタは実は「Night Distance」と同時に創ってあって。どっちでいこうかってなったときに、mahinaとやるなら「Night Distance」でいこうってことになって。だからそこから「Cinnamon」は1年以上寝かせていて、この2人ならすごくいいねっていうのが、Tamuraryoとなみちえだった。2年越しでやっと完成できた感じ。



──もう1曲、ボーカル入りの曲が韓国の男女混性バンド「dosii(ドシ)」とコラボした「Swan feat. dosii」。

白水:FABTONEとはアジアをターゲットにした作品を、って話はずっと出ててね。今回、スタッフから「dosii」を教えてもらって、「ああ、この人達はめちゃくちゃいいね」っていうことでお声がけさせて頂いたんです。



──良いアーティストとはどんどん一緒にやっていこうっていう開けた感じを受けます。

白水:やっとそういう事が実現できてきたかなっていう日々ではありますね。頭にそういう思考はずっとあったんだけど、どうしてもライブでスケジュール埋まってるとね。実際は明日は大阪に行かなきゃいけないし、次の日は福岡だしっていう日々だと、そこに腰を据えて使える時間は取りづらかったよね。

──インスト曲は、白水さんとジムさんで書いてるんですよね?

白水:そうですね、二人で半々。「Espresso Noon」「Mirage」「Nod Off」がジムくん。「Sweet Spare」「Lemon Drop」「Oddysey」は僕です。

──アルバムタイトル曲「Sweet Spare」は、フュージョン、AORっぽいというか、ファンは意外な印象を受けるんじゃないですか。

白水:うん、そうかもね。それはでも、ILYOSSだからさ、多少ビックリするだろうけど、だけどちゃんと受け入れてもられるだろうなっていう自信はあるよね。KAGEROのアルバムの1曲目がこれだったら絶対ビックリするじゃん(笑)?ILYOSSっていう屋号なら許容範囲じゃないかな(笑)。

──確かに(笑)。大変な時期に創っていたと思うんですけど、制作はスムーズにいったんですか。

白水:ご時世的に、実際にジムと面と向かって打ち合わせる事が全然できなかったからそれなりに時間はかかったんだけど、その中で上げてきてくれたジムの3曲が、本当に素晴らしくて。彼の楽曲で方向付けができたので、それがあって自分も「Sweet Spare」を書けたというのはあったと思います。

──「Lemon Drop」は、4拍子のブラシを使ったジャズ。もろにこういう曲をやるのは珍しいですよね。

白水:うん、この振り切りもILYOSSならではだね。最後の「Oddysey」が、アップテンポなスウィングだったりコードとかメロディの組み立て方って意味では、一番今までの白水像の曲というか。ILYOSSとしても1st、2ndの流れを汲んでる曲。でもそれをアルバムの最初の方に持ってきちゃうと面白くないから、最後にしようと思って。「Oddysey」が一番“らしい”と思う。

──「Sweet Spare」をアルバムタイトルにしたのはどうして?

白水:アルバム名もだけど、昔から曲のタイトルはジムの曲も含めてほとんど全部僕が付けてて。彼は曲名とか付けないで日付だけ書かれたトラックだけを送ってくるから(笑)。実は「Night Distance」から全部、歌入りの曲もタイトルは僕が付けさせてもらってて。歌詞を書いた人が、なぜかタイトルを付けてくれないんだよね(笑)。勿論「Be There」はHiro-a-keyさんの曲だから別だけど。だから「Night Distance」にしても、「Cinnamon」「Swan」にしても、歌詞の中にはタイトルと同じ単語は出てこないんですよ。歌詞を見て、音を聴いて、雰囲気を総括できる名前を付けるようにしています。自分の中では、音楽っていうか芸術全般にあまりメッセージ性を先に付与したくないっていうのが昔からあってさ。だから「Sweet Spare」というアルバムタイトルもそうだね。何が、っていうわけじゃないんだけど、ジャケット(湊梨央子(BARBARS)がデザインを手掛けている)のフィールも含めて、「これはSweet Spareだな」って。


▲I love you Orchestra Swing Style/『Sweet Spare』

──音楽にあまりメッセージ性は付けない、芸術にあまり意味を持たせない、というスタンスが根本的にずっとある?

白水:そうですね。特にやっぱり歌、歌詞のない音楽が多いからさ、タイトルって逆にすごく気を使っていて。イメージを固定したくないっていう思いがどうしてもあるんだよね。例えばクラシックとかでも「交響曲何番」みたいな感じだから聴き手にイメージが湧くというか。想像させる隙間、行間を持っておきたいなってのは常に思ってます。

──「Night Distance」は、今となっては違うイメージも湧くタイトルになってしまったけど。

白水:まさかこんなに“Distance”って言葉を聴くとは思わなかったよね(笑)。曲タイトルは、イメージは限定されないように、でも曲の雰囲気にはハマる言葉を付けるようにってことを意識してますね。

──以前、「ilyo本体、ILYOSSは先のことを考えずに刹那的に活動していく」って言っていたんですけど、今それは変わってきてますか?

白水:今はILYOSSが一番、巻き込んでいる人が多いからなー。それなりにちゃんと責任を持ってやってる感じはあるかな(笑)。ILYOSSって存在が、2ndアルバムで大きくなっちゃったから。そこでしっかりバランスを取るよね。ILYOSSで、大きいパイにリーチする作品を創ることで、ディープなプロジェクトのディープさをもっと突き詰める事ができるし。全部がそこのバランスの取り合いだと思ってます。今の時世もリンクして、ilyons(※love you Orchestra “Noise Style”の略称)とかのスーパーディープな表現でライブをめっちゃやってるからこそ、こういう開けた作品が創れたというのも絶対あって。ilyo本体をバリバリにやってた頃の『KAGERO VI』がすごく深い作品になったみたいな、自分の中での表現の反発し合い。その感覚はずっと変わらないかな。「Night Distance」「Be There」「Cinnamon」「Swan」とかが出ることで、ILYOSSは今聴かれてる人数が一番多い。そういう数字を見るのは当たり前に嬉しいですよ。それは表現者としてもすごく健全なことだと思ってます。

──白水さんは、吉祥寺のライブハウス「NEPO」のディレクターとしても活動しているわけで、そのあたりの苦労もあると思うんですけど、率直にどう感じてます?

白水:苦労かー。でもそもそも自分が音楽をやっている事自体もそうなんですけど、ライブハウス持ってるのも、言ってみれば「勝手」に始めたことじゃん(笑)。なんとかなるならなんとかなるし、正直これからの時代と合わないんだったら、自然に淘汰されるだけだしっていうか。もちろん、現場のスタッフたちの雇用を守らないとな、って気持ちはめちゃくちゃある。だから問題がお金だっていうなら、必死こいてお金生んでくればいいだけの話というか。ただ、「勝手」にやってることだからねぇ(笑)。

──そのあたりが、バンドをやってるスタンスと変わらないですよね。

白水:そうかもねぇ。バンド持ってるのも、お店持ってるのも、あんま変わらないよね。だからそんなに「ライブハウスが大変なんです」「ミュージシャンが大変なんです」って外に向かって声を上げるつもりもなくて。いやそりゃどう考えても大変は大変なんだけど(笑)。ただ、別に国からこの仕事をやれって命令されてやってるわけじゃないからさ(笑)。今持ってる全てがしっかり続くように、そして新しいものをしっかり生みだせるように、今やれることをしっかり思考して実践していくだけなので。いつだって目まぐるしく状況は変わっていくし、じゃあその時その時、音楽家としてどういう生き方をしていくのかっていうことを考えて、それを実行していくだけですね。

取材・文◎岡本貴之

New Album『Sweet Spare』

2021年3月24日(水)発売
RAGC-018
¥2,200(本体)+税
1.Sweet Spare
2.Be There feat. Hiro a key (Sweet Spare ver.)
3.Lemon Drop
4.Swan feat. dosii
5.Nod Off
6.Espresso Noon
7.Mirage
8.Cinnamon feat. Tamuraryo & なみちえ
9.Oddysey

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