【インタビュー】シキドロップが示す、『イタンロマン』という生き方

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■出会いと別れ

──アルバムの話に戻ると、「イタンロマン」「エラー彗星」「新世界」の3曲には共通の世界観があって、その次の「愛」から始まる「前夜祭」「バベル東京」も、一つのつながりがあるような気がします。特に「愛」という曲がすごく気になるんですけど、そもそも「愛」というタイトルの曲を作るのって、すごいパワーが必要なんじゃないですか。ある意味、究極のテーマですし。

平牧:「愛」は、ほぼ最後のほうに書いた曲ですね。アルバムの候補曲を並べた時に、全体がやんわりと優しいというか、エッジが効いていない感じがして、『ケモノアガリ』の時に築き上げた自分たちのカラーをもうちょっと入れてもいいのかな?と思って作りました。(『ケモノアガリ』のように)皮肉や批判の曲ではないんですけど、今の時代に対する問題提起、アンチテーゼみたいなものです。今のご時世、いろんなものをきれいごとで固めてラッピングして、商品やエンタメにしちゃうじゃないですか。エコもビジネスだし、コロナも商売になっちゃってる。「それって気持ち悪いな」といつも感じていて、「みんな何も思わないのかな?」と思うんですよ。そんなふうにいろんなものを商品にしてしまって、「自分は間違っていない」みたいな、そういう時代の流れに一石を投じられたらということで、「みんなが一番きれいごとの時に使う言葉は何だろう?」と考えて、皮肉を込めて「愛」というタイトルをつけました。

──ああー。そんな深い意味が。

平牧:違うタイトル案もあって、「曖昧」(あいまい)を「愛昧」という表記にしたら面白いかな?というのもありましたね。「愛」のほうがインパクトが強いので、そっちにしましたけど。

宇野:ローマ字の「AI」にするのもいいね、という話もあったよね。

──ああ、そうなると、さっき話してくれた「AI」のストーリーとも全部つながってきますね。前半の「イタンロマン」「エラー彗星」「新世界」がひとくくりで、「愛」「前夜祭」「バベル東京」もひとくくり。そして最後の「ふたりよがり」がすべての結論になっていて、それがまた「イタンロマン」と対になっている。ものすごいコンセプチュアルなアルバムだと思います。

平牧:このアルバムに入った曲たちは、『イタンロマン』のコンセプトをガチっと固めた曲たちなので。オムニバスにしようとは思っていましたけど、向かうべき情熱や描くべき物語は、自分の中で見えていたので、バラバラに書いたつもりでも、一致したのかもしれない。偶然のような必然のような感じかもしれないです。

宇野:毎度、そのパターンだもんね。

▲シキドロップ/『イタンロマン』

──結論を言ってしまうと、「イタンロマン」で、回り道をしながらお互いを探し始めた少年少女は、「ふたりよがり」で、どういう完結を迎えるんですか。

平牧:それはですね、僕の中の物語では、この二人は別れるんですけど…僕はこの3部作を通して、人が生きていくこと、人と巡り合うこととは何ぞや?という、「出会いと別れ」のことを、3枚を通して描きたかったんですね。その最後の曲になる「ふたりよがり」で、自分たちの正解を見つけた二人が、正解を見つけたからこそ別れるのか、そこは想像に任せたい部分でもあるんですけど、だからこそまた『シキハメグル』に戻るという──戻りたくないですけど(笑)──あの別れのシーズンにもう一度戻っていくという、人は結局そうして繰り返していくんだろうなという、コンセプトはそこに置いていましたね。

──はい。なるほど。

平牧:でも、暗いイメージではないんですよ。別れたといっても。

──そう、暗いイメージじゃないんですよ。むしろ、すがすがしい旅立ちのような感じもします。

平牧:作者として「二人は別れる」とか言っちゃいましたけど、そうではなくて、ハッピーエンドのように聴こえてもいい曲だなと思っていて、どっちでもいいんです。ただそこに一つのトリックとして、大サビに、歌詞をひらがなで書いたゾーンがあるんですね。

──そこ、気になっていたんですよ。歌詞のブックレットを見ると、すごく目立ちます。

平牧:そのちょっと前に「互いにマルをつけ合う」「句読点の探り合い」というフレーズがあるんですけど、それはダブルミーニングで、途中で「マル」が「。」に変わるんですね。「マル」は正解のマルで、「どんなに歪んでいても僕たちはこれで正解なんだ」というふうに、確かめ合って、「ふたりよがり」で生きてきた二人が、「句読点の探り合い」になっていって…この「ひらがなゾーン」のどこに句読点を打つかで、歌詞の意味が変わってくるんですよ。

──おおー。

平牧:今はインタビューなので全部言っちゃいます。どういうふうに書いていただくかはお任せしますけど、たとえば「ぼくは なんどもまちがう きみがすきでした」を、「ぼくは、なんどもまちがうきみがすきでした」とするのと、「ぼくはなんどもまちがう、きみがすきでした」では、意味が変わってくるんですよ。

──本当だ。

平牧:そのあとの「きみにであえてよかった なにいわれようと〜」のところも、そうです。句読点を打つ場所によって意味が変わってくる、そういうトリックを仕掛けたんですけど、事務所の人は誰も気づいてくれなかった(笑)。

──それはね、高度な技すぎますよ。

宇野:わかるわけないですよね(笑)。

──今聞いて、めちゃくちゃ感動してますけど、パッとわかる人は相当に鋭い人ですよ。

平牧:そういうの、やってみたかったんですよね。僕は江戸川乱歩が好きで、そういう言葉遊びに一回挑戦してみたいなと思って、やってみたら難しすぎた(笑)。でも一応ヒントで、最初のほうの歌詞で「謎謎ばかりだ」とか、示唆はしてるんですよね。「これは謎かけですよ」って。

──これは本当にすごい。みなさん、句読点を打ち換えて、意味を探ってみてください。

平牧:そこのところ、わかりやすく書いてもらえるとうれしいです。

宇野:シキドロップはいろいろ仕組まれているんですよ、仁ちゃんによって。

──素晴らしいです。そして、これで『シキハメグル』『ケモノアガリ』『イタンロマン』の3部作、壮大な出会いと別れの物語の輪が完結しました。

平牧:おかげさまで作らせていただきました。ありがとうございます。

宇野:ありがとうございます。

──ライブは当面難しいかもしれないけれど、映像作品とか、何らかの形でこの『イタンロマン』の世界を再現してみせる場がほしいですね。ファンとしては。

宇野:本当は、全部の曲にミュージックビデオを作りたいぐらい、内容は濃いと思うんですけど、なかなか難しいとは思うので。でも、もしもそういう機会をいただけるのであれば、アルバムが出たあとでも、いろいろ作りたいですね。

取材・文◎宮本英夫

3rd Mini Album『イタンロマン』

2021年2月17日(水)発売
SKDP-003
[収録曲]
1. イタンロマン
2. エラー彗星
3. 新世界
4. 愛
5. 前夜祭
6. バベル東京
7. ふたりよがり

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