【インタビュー】川崎鷹也、恋する人の背中押す「サクラウサギ」
2020年夏、「魔法の絨毯」で突如バイラルチャートを賑わせたシンガーソングライター・川崎鷹也。2021年に入ってからさらにメディア露出を増やし、SNS世代以外も彼の楽曲の魅力に気付き始めている。そんな彼の最新曲「サクラウサギ」は、彼が音楽を始めて間もない頃に作った切ないミディアムナンバー。想いを寄せる相手にそれを伝えられない高校生の少女の学校生活最後の日を描いている。彼の高校の同級生であり、マセキ芸能社に所属する芸人であり、彼のマネージャーに就任したばかりの薄井賢也にも同席していただき、「サクラウサギ」の楽曲の背景や高校時代の川崎について探っていった。
◆ ◆ ◆
■初めてかたちにできた
──前回から2ヶ月振りのインタビュー取材なのですが、まさかその間に川崎さんの高校時代の同級生であり、髭兎の薄井賢也さんが、川崎さんのマネージャーさんになっていたとは。びっくりしました。
川崎鷹也:あははは、そうなんですよ。芸人を続けつつ手伝ってくれてて。激おもろマネージャーがついてくれることになりました(笑)。
──この2ヶ月で、さらに川崎さんの身の周りには変化が大きいようにお見受けします。様々なTV番組にご出演なさっていて、『ミュージックステーション』では「魔法の絨毯」完成時の、当時恋人だった現在の奥様とのエピソードも印象的でした。
川崎:3年くらい前、完成して最初に聴かせたとき“すごくいい。名曲じゃない? この曲をバックに『ミュージックステーション』の階段を降りているところが想像できるし、それを叶える曲なんじゃないかな”と言ってくれて。……ぶっちゃけ僕はイメージできなかったですけど(笑)。でも僕が作った曲を認めてくれたのは嬉しかったし、自分の表現したいことがしっかりアウトプットできた曲ではあったので、完成したときに達成感はありました。でもまさか、3年後本当にMステに出るとは。
──お話を伺えば伺うほど奥様やはり只者ではないなと……。そして川崎さんの人生は本当にドラマのようです。
川崎:あははは。高校時代から今に至るまでいろいろありましたね。濃い人生だなと思います。あの日のMステはYOASOBIのおふたりや瑛人さんなど、聴き方や届け方が変わっている今の音楽業界で、僭越ながら同じ時代を生きている仲間たちとも言えるみなさんと出演できて、それもうれしかったですね。Mステという夜をみんなで一緒に作れた。やっと対バンできた!みたいな空気がありました。
──2020年代の音楽シーンの象徴的な一夜でした。そして川崎さんの2021年を飾る第1弾楽曲が「サクラウサギ」。この曲は「魔法の絨毯」よりも前に生まれているんですよね。
川崎:ほんと曲を作り始めて間もない頃、音楽の専門学校に通っている頃に作りました。ソロアーティストとして自分の表現したいことが初めてかたちにできたし、高校卒業の記憶がリアルに落とし込めるタイミングで書いたので、すごく大事な曲で。歌うたびに自分の高校時代の感覚や気持ちが蘇ってくるんです。高校3年間想いを寄せ続けて、でも好きという言葉を伝えられないまま、感謝の気持ちを持つ──こういう切ない気持ちを抱えていた女の子も周りにいたんだろうな、と高校の卒業シーズンに周りの同級生を見ていたときに思って。それを曲にしたんですよね。
──先ほども“高校時代”というワードが出ましたが、高校生活はそれだけ川崎さんの人生において重要な期間なんですね。
川崎:そうですね。目立ちたがり屋だしお調子乗りだったので、小学生くらいから漠然と“ビッグになりたい”という気持ちがあって(笑)。オブラートに包むと、不真面目な高校生でした(笑)。でも俺よりも嫁のほうがヤンキーでしたからね! これ絶対書いておいてください!(笑)。
──あははは。川崎さんが高校1年生のとき、高校3年生だった現在の奥様とよく遊んでいたと前回のインタビューでおっしゃっていたので、おふたりともだいぶ活発なのかなとは思っていました(笑)。
川崎:勉強はあんまりできなくて、体育が好きで。だいたいの先生からめっちゃ嫌われてるけど、ひとりだけめっちゃ仲いい先生がいる、みたいな高校生でした。でもバイトばっかしてたかな。お蕎麦屋さんで働いてて。そんななか高3の文化祭のステージで賢也と一緒に歌ったことがきっかけで、音楽にスイッチを入れることができたんです。
──薄井さんとは3年間同じクラスだったけれど、仲良くなったのは3年生だったそうですね。
川崎:ずっと賢也とは普通に喋るくらいの関係性で、クラスの仲間とカラオケに行ったり、友達の家に泊まりに行ったりしているうちのひとりという感じで。そういうなかでじょじょにお互いのことを話すようになっていったんですよね。賢也はすごく真面目だし、生徒会メンバーになるタイプだったので、生活態度とかは一切合致しなかったんですけど(笑)、やりたいことや夢に対する気持ちのベクトルやパッションが似ているなー……となんとなくお互い感じ始めて。そこからじょじょに仲が深まっていったんです。それまで誰にも“音楽をやりたい”とか“歌が好き”と打ち明けたことがなくて。彼と仲良くなっていなかったら、間違いなくまだ栃木にいたと思います。
──東京への憧れは持ちつつも、地元はとても居心地のいい場所だった。
川崎:本当にそうなんですよ。毎日が楽しくて。今年の正月に実家帰ったとき、親が卒業文集を出してきてくれて、恥ずかしいなあと思いながら見たら、俺はそこに“毎日学校へ笑いに行ってました”と書いてたんですよ。
──その言葉で1曲歌詞が書けそうです。
川崎:高校3年間は振り返ってみても、自分の人生のなかでもとても充実していて、刺激が多い時期で。だから今もあの時のことをよく思い出すし、その頃を落とし込んだ曲はこの先もできると思う。でも卒業式の記憶は正直あんまりないんですよ。どうやらめっちゃ泣いてたらしいんですけど(笑)。
薄井賢也(髭兎/マネージャー):男の子ってそういう場所でそんなに泣かないじゃないですか。でも3年1組みんな仲が良すぎて、男子もほとんど全員泣いてたんですよ。そのなかでも鷹也がいちばん泣いてたんです(笑)。
川崎:(笑)。俺が知る限りいじめも一切なかったし、賢也がお笑い好きだったのもあって、お笑い好きの人がいっぱいいて。みんなでボケてツッコんで落として、みたいなことをやってた。その空気感を先生たちも女子のみんなも理解してくれてました。卒業式のときは明日からこいつらの制服姿を見られないんだ、と思ったし……こみ上げてくるものがあったんでしょうね。
──離れなければいけない、という想いがなおさら名残惜しさを強くさせたのでしょうね。
川崎:上京に対する気持ちは希望1割不安9割だったんです。ギターを弾いたこともなければ、オリジナル曲もない、なにもない状態で音楽の道を選んで。上京組は賢也と俺くらいで、俺たちは気持ちだけで東京に飛び出して。賢也が一緒だという心強さもありつつ、賢也しかいないという不安もあった。“もう行かなきゃいけないんだ”という気持ちは、卒業式に対して強かったのかもしれない。
──だからこそ高校卒業は川崎さんにとって特別なものになって、その切ない感覚がリアルなうちに楽曲に落とし込みたいと思うようになったのかもしれないですね。
川崎:でも最初から切ないゴールにしようと思って作ったわけではないんです。まず“サクラウサギ”というワードが浮かんで。そしたらそこに恋心に限らず想いを伝えられない、勇気を出せない寂しがり屋の女の子の比喩が付随してきて……そこに思いを巡らせていたら“あ、この子きっと最終的に好きと言えないだろうな”と思って。だから想像しながら、なるべくしてあの結末になった、という感じなんです。
▲川崎鷹也/「サクラウサギ」
──なるほど。ウサギというモチーフは、薄井さんが髭兎というコンビを組んでいたことも関係しているのかな?と思ったのですが。
川崎:髭兎は全然関係ない!(笑)。
薄井:全然って言う必要ないでしょ!(笑)。でも僕が髭兎を組んだ時期と「サクラウサギ」が出来た時期は同じくらいなのかな? 19〜20歳くらいの頃は、お互いなにも成し遂げられてないから、連絡を取る気になれなかったんですよ。だからそれくらいの時期のことはお互いあんまり知らなくて。
川崎:「サクラウサギ」というタイトルが浮かんでくる前に、卒業をテーマにした曲だから“サクラ”というワードは使いたい、主人公は女の子、というぼんやりとしたイメージはあって。どんな女の子なのか考えたとき、活発な子というよりは消極的な女の子だったんですよね。……でも思い返してみて、この曲を作った当時、奥さんとはまだ半年に1〜2回連絡を取るくらいの関係性で。でもウサギに関係する仕事をしているのは知っていたから、ウサギというワードが出てきたのは、心のどこかに奥さんへの想いがあったからなのかな。
──「サクラウサギ」は、高校1年生の頃から奥様に対してほのかに好意を寄せていて、想いを伝えられないままだった川崎さんをモチーフにしたフィクションなのかなと思っていました。
薄井:うん。鷹也はずっと奥さんのことが好きだったから、「サクラウサギ」は鷹也を女の子にしただけなのかなって思ってた。
──だからどんな女の子を主人公にしようか考えたときに、活発な子ではなく、消極的な子のイメージだったのかなと。
川崎:そうなのかなあ……自分では全然意識してなかったけど。“サクラ”と“ウサギ”を掛け合わせてサクラウサギ──漠然となんとなくだったんです。振り返ってみてもウサギが出てくる要因が奥さんしか思いつかないけど、俺のことを書こうとはしてなかったし、奥さんに対する想いを書いた曲は別にたくさんあるから、サクラウサギが俺っていう感覚はあんまりないんですよね。
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