【インタビュー】果歩、女の子の憂鬱に捧ぐ弾き語りEP
■体験できなかったことに憧れる
──不安になるほどの幸せを想像してみると同時に、果歩さんはブログで、じゃあ死んだらどうなるかということに対しても言及されていましたね。「楽園」という楽曲にも通じると思いますが、今生きているからこそ死というものを歌う、その視点は今作ならではかなと思いました。
果歩:今年は悲しいニュースもいろいろとありましたよね。ある人が自殺した時に、メディアだけでなく、SNSでもいろんな人がいろんな風に憶測でものを言っていて、その人は本当にそういう人物だったのか、もっと言うとその人は本当に存在したのか、よく分からないような気持ちになったんです。「その人の気持ちは、その人にしか分からないのにな」とか、「その人が心から信頼していた人がそれを見たら、どういう気持ちになるのかみんな考えていないんだな」って、そういうところからあの「楽園」を作ったんです。
──なるほど、歌詞にもしっかり反映していますね。
果歩:あと「死にたい」って、それこそ現代人の口癖みたいになってるところもあると思うんですが、私はもともとそういうのを深く考えるタイプだったので、この期間も結構考えていたんですよね。
──実際にそうしたいと思っているわけではなく、そういう思考回路を自分なりに深く考察してみた、ということですね。
果歩:そうです、そうです。いわゆる「ダルい」みたいな感じなんですよ、最近の「死にたい」のベクトルって。だって、本当に悩んでいる人って逆に言えない気がする。
──そうですね。
果歩:だから「こういう気持ちを持っていてもいいんだよ」みたいなことをEPで伝えられて、本当に悩んでいる人にとっても「とりあえず生きてみよう」って気持ちにちょっとでも繋がっていくと嬉しいなって思うんですよね。
──果歩さん自身も好きなミュージシャンの音楽を聴いて、こういうことを歌っていいんだとか、こういう言葉を使ってもいいんだっていう気付きがあって、表現の幅を広げることができたと言っていましたよね。
果歩:そうなんです。だから聴いてくれた人にも何かそう思ってもらえるような、寄り添えるような、優しいEPになればいいなって。
──優しさを感じる一方で、「楽園」のMVはかなり衝撃的でしたけど。
果歩:血のりがね(笑)。以前ショートムービーを一緒に作った、エド(ソウタ)くんと作りました。誰でも真実を装飾できるような世の中だからこそ、心の傷みたいなもの、生死を、きれいなだけじゃなくちゃんとわかるように描きたいっていう話を2人でしながら、時間をかけて作ったんです。
──だけどきれいなだけじゃない、むしろショッキングな場面ですら美しいと感じてしまう、人間のこの感性は何なんでしょうね。
果歩:そうなんですよね。不思議。でもたぶん、体験できないからじゃないですかね。私、自分が体験できなかったことに憧れることが多いんですよ。「ロマンスと休日」に「お金を盗んで 世界中のまだ知らない宇宙を探す」って歌詞があるんだけど、そういうのは犯罪だから現実にはできないじゃないですか(笑)。でも映画や小説の中だったら決行できるし、結末がどうであれ、そういうものにはすごく憧れてしまうんです。単純にいいなぁとか、経験したらどういう気持ちになるんだろうなって、そんな風に思うことがすごくある。だからそういう感性も、よく無いものねだりって言いますけど、自分が経験できないからなのかなって思いますね。
──どの曲も果歩さん自身が日常の中で見たことや感じたことが発端になっているんだけど、そこから一気にイマジネーションの力も借りつつ物語を繰り広げていく。そういう作風がどんどん果歩さんらしさになって来ているようにも思いますが、自覚としてはどうですか?
果歩:これまでいくつか作品を出してきましたけど、ちゃんと大人になっているなというのは思っていて。それは経験とか知識もあるだろうし、自分の好きなことや好きなものがちゃんとわかるようになってきたからかなと思います。自分のことがわかるようになってきたから、というか。
──なるほど。
果歩:大学で芸術学部の音楽学科に入ったんですが、私は歌詞を書くことの方が好きだって、入学した後に気付いたんですよ。今思えば、文芸学科に入ればよかった(笑)。でも、曲を作る上で私が大事にしているのは言葉とか歌詞だから、本とか映画ももうちょっと考えながら読んでみようと思うようになったし、そこから自分の好きな表現の仕方や好きな作風みたいなものがわかるようになって、今自分が作る作品に「自分らしさ」として表れてきたのかなって思うんですよね。
──弾き語りだと、そこがダイレクトに伝わるからより聴き手の心に届くんでしょうね。自分の間合いで、呼吸で、言葉を発することができるから。
果歩:まさに。それが自由にできるから、弾き語りっていうスタイルのライブが好きなんですよね。
──でも4曲目の「揺れるドレス」は、バンドでやっても面白そうな曲だなと思える1曲でしたよ。
果歩:そうですね。これは曲を作っている時にいろんなリズムを試していて、ちょっとギターを工夫してみようと思って今まで(自分の曲の中で)なかったリズムを入れてみたら、意外とハマったんですね。でも弾き語りで実際にやってみたら、めちゃくちゃ疲れる。あれはバンドでやった方が、自分も疲れなくて済むなって思いました(笑)。
──(笑)。他には、「朝が来るまで、夢の中」だけはコーラスが重ねてありましたね。
果歩:最初は他の曲でもやってみたんですが、結局この曲だけにしました。
──この曲だけというところがすごく効いているなと思ったし、この曲があることで、すごく安心して聴き終えることができたような気がしました。これはどんなきっかけから生まれたんですか?
果歩:まさに曲のままなんですが、次の日が早い時に限って眠れなくて、その流れで歌詞を書き始めちゃってなおさら眠れないっていう。
──目に浮かびます(笑)。
果歩:この曲には「ABCみたいなトキメキ」っていうフレーズがあるんですが、私、それがすごく気に入っていて。テレビの番組で使われていた表現だったんですが、歌詞を書くにあたって改めて調べたら「なるほど!」と(笑)。
──(笑)。
果歩:昔の日本人というか日本語の使い方って、すごいなと思ったんです。奥ゆかしい…じゃないけどすごく面白いし、そういうのって今ないじゃないですか。「ヤバい」とか「きゅんです」とか「ぴえん」とか、別にそれだけがって意味じゃないけど、日本語として頭悪そうだなって思うものがすごく多い(笑)。
──異議なしです(笑)。
果歩:そんな今の子達はきっと「ABC」なんて知らないと思うから、調べるきっかけになったらいいなっていうのもあったし、そういう面白い表現が、この現代でもきれいな言葉でできたらいいなって考えながら作ったんです。これは本当に、お気に入りの曲です。
──今年は特にいろいろ不安に思ったり、それこそ憂鬱で眠れない時間を過ごしている人も多いと思いますが、そんな夜を「女の子の憂鬱」と名付けることで、少しだけ目の前の世界が違って見えるような気もするんですよね。この作品、そしてこのタイトルはそういう捉え方もできる気がしています。
果歩:そうだと嬉しいです。ありがとうございます。寂しい時とか、ダルいなって思う時、気が向いたらぜひこのEPを聴いてみてください。そっか、みんなもこんな気持ちになるんだなって思ってもらえたら、次はまた明日もとりあえず生きてみようっていう活力にしてもらって、そしていつか、ライブハウスで会えたら嬉しいなって思っています。
取材・文◎山田邦子
弾き語りEP「女の子の憂鬱」
1. 楽園
2. きみは美しい
3. 街と花束
4. 揺れるドレス
5. ロマンスと休日
6. ヨルニ
7. 朝がくるまで、夢の中
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