【インタビュー】海蔵亮太、大竹しのぶとのコラボ曲で得た「感じたことのない価値観」
2019年には楽曲「愛のカタチ」で「第61回輝く!日本レコード大賞」にて新人賞を受賞し、2020年6月には2ndシングル「素敵な人よ」をリリースしたシンガー・海蔵亮太。前作から5ヶ月のインターバルを経てリリースされるシングル「ありがとうって気づいていてね」の表題曲は2020年10月-11月のNHK『ラジオ深夜便』の「深夜便のうた」であり、女優・大竹しのぶを迎えたデュエットソング。長年連れ添った夫婦の感謝の気持ちが綴られたラブソングだ。今年30歳になったばかりの海蔵は、この曲とどのように向き合ったのだろうか。大竹しのぶとの共演のエピソードや、ラジオに対する想いなど、3つの収録曲を通して海蔵の思考を覗いてみた。
◆ ◆ ◆
■僕の人生経験では感じたことのない価値観
──実際お会いした海蔵さん、想像以上に身長が高くて。おいくつくらいあるんですか?
海蔵亮太:あははは。188cmです。今回大竹しのぶさんと一緒にお写真を撮らせていただくにあたって、僕がでかすぎるせいで身長のバランスが取れなくて、しのぶさんに台に乗っていただいたりもして……。大女優さんに本当に申し訳なくて! 地面が掘れたらいいのに!
──(笑)。今回のシングルの表題曲であり、2020年10~11月のNHKラジオ深夜便『深夜便のうた』に起用されている「ありがとうって気づいていてね」で、大竹さんとデュエットをなさっているんですよね。
海蔵:はい。「深夜便のうた」のオファーをいただいて、最初はいつもどおりひとりで歌おうと思っていたんですけど、だいぶ前にとあるパーティーで大竹しのぶさんとご一緒させていただいたことを思い出して。そのパーティーで生の「愛の賛歌」を聴いたんですけど……僕はもう“なんだこれは、すごい!”と震えあがってしまったんです。歌手としての大竹しのぶさんを初めて見たなと思って。
──と言いますと?
海蔵:その歌を聴くまで、しのぶさんに抱いていたイメージはおしとやかで可愛らしい、優しくてニコニコしている方だったんです。でも歌になったら、ふだんおしゃべりをしている声とは違う強さがあって、歌うというよりは“語る歌”で。そのギャップが衝撃的で。“いつか一緒に歌うことができたらいいな”とふんわり思っていたんです。それで以前しのぶさんが『ラジオ深夜便』のパーソナリティをやってらっしゃったという情報を得たので、もしかしたらお願いしたら受けてくださるかもしれない……とだめもとでお願いしたら、快く引き受けてくださって。感激でしたね。
▲海蔵亮太 with 大竹しのぶ/「ありがとうって気づいていてね」
──海蔵さんはラジオというメディアに対してどういう印象を持ってらっしゃいますか?
海蔵:デビューをして自分でラジオのパーソナリティをやるようになってから、いろんなラジオを聴くようになって。ラジオにはほかのメディアにはない良さがあることに気付きました。聴覚のみだからこそ感じられることがあって、いろんな想像を与えられるし、ラジオは聴き手側からすると、自分ひとりに話してもらえてるような感覚になるんですよね。
──ああ、たしかにそうですね。
海蔵:ラジオのおたよりと、SNSのコメントって全然違うんですよ。SNSは“多くの人に向けて発信している場所”というイメージがあるけれど、ラジオで喋るときはスピーカーの前で聞いてくださっているおひとりに向かって話しかけているイメージなんです。深夜はもうすぐ寝ようかなと思いながら聴いている方もいらっしゃるし、夜間働いてらっしゃる方や、運転してらっしゃる方も聴いている時間帯で。テンションが高すぎると合わないし、でも下げると眠くなってしまうので、優しいけれどテンションは高め、みたいな絶妙なところを意識して喋るようにしてますね。
──深夜は特に、パーソナルなモードが強くなりますよね。
海蔵:だから僕も日中身にまとっていた緊張とか鎧を剥いで、リラックスして喋れているような気もしていて。ラジオは素の部分が出てくるのかなって。“この人はこういう喋り方をするんだ”とか“こういう間の取り方をするんだ”というのがわかるのは、ほかのメディアやSNSにはない良さなのかなと思ってますね。『ラジオ深夜便』はご年配の方々がメインターゲットなので、「ありがとうって気づいていてね」もその方々に共感していただけたり、その方々が歌いやすいメロディにすることは意識しました。
──おふたりのハーモニーがまた、ロマンチックな曲だと思います。
海蔵:僕は大学時代にアカペラをやっていたのでハモりが大好きで、なんなら主旋律じゃなくてずっとハモっていてもいいくらい。でもしのぶさんはハモりが苦手らしくて、緊張してらっしゃいました。ふだんは自分の声に自分でコーラスを入れているんですけど、今回はデュエットなので、いつもより難しい反面すごくやりがいもあって。しのぶさんとの声がぴったり合ったとき、達成感やわくわくがありましたね。この曲は夫婦の阿吽の呼吸というか、夫婦間の“言わなくてもわかってくれるよね?”という心情をテーマにしているので、レコーディング中にしのぶさんの呼吸や歌い方などをしっかり見ながら歌っていて“夫婦はこんなふうにお互いのことを見ているのかな”なんて思ったりもしました。
──それこそタイトルの通りこの曲の主人公ふたりは“ありがとうって気づいていてね”と思っているし、言葉にしなくても気づける間柄なのかもしれませんね。
海蔵:僕の世代は“気持ちは素直に伝えればいいじゃん”という価値観も多いんですけど、長い期間過ごして、お互いのことを知りすぎたご夫婦だとまた話は変わってくるのかな……とこの曲を歌っていると思いました。シンプルな言葉ほど伝えるのが難しいのかな。伝えたいけど伝えられないことや、敢えて言葉で伝えすぎないことも、長く続く秘訣なのかもしれない。やっぱり「ありがとうって気づいていてね」は、僕の人生経験では感じたことのない価値観なんですよ。
──そうですよね。20年30年、それこそ40年と連れ添っているご夫婦の歌ですから。
海蔵:長年連れ添うってどういう感覚なんでしょうね? 幸せな時期を一緒に過ごすだけでなく、大変な時期を一緒に乗り越えたりすると、どんな存在になるのかな……? 世代間で夫婦観の差はあると思うんですけど、“愛したいし愛されたい”というのは人間の不変の真理なんだろうなと思いましたね。……僕の予想だと「ありがとうって気づいていてね」の主人公のご夫婦は、“ありがとうって ねぇ 言えないよ/ごめんねも 言えないよ”と言いつつも、たまには言っている気がするんですよね(笑)。
──ああ。“照れ臭い”と言いつつも“花を贈ろうか”とまで悩むくらいですしね。
海蔵:旦那さんがたまーに“愛してる”なんて言って、奥さんが“なに言ってるの? 恥ずかしい!”なんて言いながら陰でニンマリしてるシーンが思い浮かんで(笑)。そういうご夫婦をイメージしたり……あとは僕の父と母がふたりとも九州の生まれで、特に父は強がっちゃって、なかなか素直に言葉にしないんです。“うちの両親もこの歌みたいな心境なのかな”と思ったりしたので、スッと曲の世界観にも入っていけたところもあるのかもしれないです。最後の2行はしのぶさんとユニゾンで歌って、この先の未来に向かって足並みを揃えて進んでいくような雰囲気になりました。
──現在は独身の方も増えていたり、パートナーや夫婦のかたちも多様化していますが、30歳になられたばかりの海蔵さんはどんな結婚観や家族観を持ってらっしゃいますか?
海蔵:いやあ、僕は全然イメージが湧いていなくて(笑)。いつかできたらいいなあ、くらいのぼんやりした感じなんです。でも同世代の友達の結婚式に参加して“結婚にはお互いを思い合うことや、相手の意見を尊重しながら歩み寄ることがすごく大事なんだな。それをしているご夫婦は素敵だな”と思ったりしますね。
──海蔵さんと大竹さんという、世代の離れた方同士でのデュエットも、今の時代に合っていると感じます。
海蔵:しのぶさんのご年齢を存じ上げなくて、僕の親世代の方だと知ってものすごく驚きました! IMARUさん(大竹の娘)と僕、1歳差なんです(笑)。でもしのぶさんは、それを感じさせないですよね。「ありがとうって気づいていてね」のMVに、しのぶさんがうつむいていると思いきやチラッと僕を見るシーンがあるんですけど……あれは危ない!(笑) 僕はあれを真横で受けて、ドキッとしすぎて歌詞を飛ばしました(笑)。あれは老若男女すべてがグッとくる、最強の必殺技ですね……。みなさんもぜひマスターしてください(笑)。
──(笑)。「ありがとうって気づいていてね」は世代の違う方同士が歌うことで、ご夫婦の出会った頃の姿と現在の姿の両方が立ち上がってきて、長い年月をともに過ごしてきた空気感が伝わる気がします。ご婦人は海蔵さんに若かりし頃のご主人を重ねて楽しめると言いますか。
海蔵:ああ、曲のなかでタイムトラベルを感じられるというか……それ素敵ですね。いただきます(笑)。僕が「ありがとうって気づいていてね」を歌うことで、聴いてくださった奥様方が旦那様と出会った頃のことを思い出してくださったり、出会った頃の旦那様の姿を僕に重ねてくださったら、本当にうれしいですね。実際にしのぶさんと声を合わせて歌ったことで、ふたりで一緒にいることそのものが本当に素晴らしいことだと感じたんです。おまけに「ありがとうって気づいていてね」のふたりは、同じ夢を持っている──それってすごく幸せなことですよね。この歌のおかげで、いろんなことに気付くことができました。だからこそいろんな人にこの曲を歌ってほしくて。
──そうですね。カラオケで金婚式、銀婚式のご夫婦が歌っていたら素敵です。
海蔵:テンポもゆったりしているので、自分が歌わない時間は歌っているお相手の表情や仕草をゆっくり見られる時間になると思います。“あ、あなたそういう表情もするのね”とか“そんな動きもするのね”みたいに、新しい一面を読み取れる1曲になっていただける曲になったんじゃないかなと思います。
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