【インタビュー】マーティ・フリードマン「演奏うまい系じゃなくて、感動するものを」

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マーティ・フリードマンのギターカヴァー作品『TOKYO JUKEBOX 3』が、10月21日に発売となる。「紅蓮華」「宿命」といった最新ヒット曲はもちろんのこと、「U.S.A.」「サザンカ」「千本桜 feat.初音ミク」「負けないで」「Time goes by」…といった珠玉の邦楽曲群が驚愕のギタープレイで再現された、シリーズ第三弾となるアルバムだ。

一点の曇りなくマーティのギタープレイは冴えに冴えまくっているが、それ以前に耳を奪うのは幾重にも練られたそのアレンジメントの綿密さであり、注目すべきは、細かなオブリガードやリフ/アンサンブルのディテールに注がれている多種多様なアイディアと圧倒的なエネルギーの濃密さにある。

日本語作品のギターカヴァーに、ここまで駆り立てられるのは何故なのか。ギタリスト:マーティ・フリードマンを動かす音楽の力とは? 都内某所でマーティーをキャッチ、話を訊いた。


──ものすごくエネルギーに満ちた作品になりましたね。

マーティ・フリードマン:聞いたら気分が明るく楽しくなってパワーアップするような、もし落ち込んでるんだったら聞いた瞬間にちょっとテンションが上がるようなものを作りたいと思っていました。もともと僕は、聞くと気分が楽しくなるような音楽をずっと追い求めているんです。ストレスが溜まっていても、音楽を聞けば発散できたりストレスを解消できたりするでしょ?音楽が持っているその魔法が不思議で仕方がなくて、それって何だろうっていつも思う。自分の音楽の力でそういうのができたらいいなと思うんです。

──それは昔から変わらないポイントですか?

マーティ・フリードマン:昔からずっとです。その追求は変わらない。でも少しずつ腕というか身についてきたというか、目指しているものに対してうまくなってきているかな。

──その目的のためには、ギターという楽器が最適ですか?

マーティ・フリードマン:たまたま僕はギタリストで、ギターなら何でも表現できるからギターメインでやるんですけど、目的に対してギターが理想な楽器かどうかはわからない(笑)。それよりも全体の価値観というか、作品が持っている内容のほうが大事。内容とか解釈とか気持ちとかオーラとかね。

──マーティ自身が落ち込んでる時は、自分の作品で元気をもらいますか?

マーティ・フリードマン:僕は、自分の曲は絶対聴かないです。

──え?


マーティ・フリードマン:聞かない。制作時に散々聴いてますから、それを聴いてもただの作業しか思い浮かばないよ(笑)。僕はめちゃめちゃ完璧主義者だから、僕がOKを出したということは、「これ抜群」「これで完成です」ということだから、もう聴かない。

──せっかく完成したんだから聴けばいいのに(笑)。

マーティ・フリードマン:マスタリングのとき、最高音質のマスタリングスタジオで聴いて、楽しみましたよ。だけど、他人の音楽のほうが何も考えず楽しめるな。

──最近どんな音楽を楽しんでいますか?

マーティ・フリードマン:最近は制作で忙しすぎたからなぁ…、ニコール・アトキンスさんとか聴いたな。先日も新しいアルバム『イタリアン・アイス』を買ったばかりなんだ。

──ハードロックでもヘヴィメタルでもありませんね(笑)。

マーティ・フリードマン:子供のときは、ハードロックとパンク。キッスとラモーンズだね。ラウドな反逆者っぽいけどメロディセンスはバブルガムでポップなのが好きだった。鬱病みたいなハードでダークなゴス系じゃなくてね。でも同時にブラック・サバスは大好きだったな。

──そしてカコフォニー~メガデスの活動につながるわけですが、そこから現在の日本作品カヴァーへの流れは自然なものでしたか?

マーティ・フリードマン:とても自然でした。日本に来た理由も、邦楽に完全にはまっちゃって邦楽しか聞かない状態になっちゃったから。

──どんな日本語曲に触れたんですか?

マーティ・フリードマン:最初はつんくさんのプロデュース作品とか、1990年代後半に流行ってたJ-POPとか。日本に来たときに「え、みんな洋楽聴いてないじゃん。どこに行っても邦楽しか聴いてない。邦楽のほうが洋楽より人気」と気付いて、邦楽を聴いてみた。そしたらその場で魔法がかかったみたいに虜になった。切ないのにハッピー、ハッピーなのに切ないという邦楽のもつメリハリと、メロディセンスとか解釈とかヴォーカリストの扱いとかがあまりに新鮮で、本当に大好きになったんだよ。

──アメリカにはないものだった?

マーティ・フリードマン:まったくない。僕が育ってきたロックやヘヴィメタルのセンスとはまったく違っていた。

──1990年代、日本人の僕らが洋楽に憧れたのと同じ心境なのかな。

マーティ・フリードマン:そうだね、いろんな文化の楽しさがあるから隣の芝生の話ですね。でも「こんな素敵な音楽があるのに、何で僕はアメリカにいるんだろ」って思ったよ。

──日本の文化・邦楽に触れることで、ギタープレイヤーとしての性質も変わっていきましたか?

マーティ・フリードマン:僕は、ギタープレイヤーとして本当に毎週成長してると思っています。必要なことだし、目指していることでもあるから、僕は「マーティは初期の方がいい」とか絶対に言われたくない。

──「デビュー作が一番」とか、ロックあるあるですよね(笑)。

マーティ・フリードマン:みんな初期がいいと思ってるんですよ。それは悲しいし、絶対に言われたくない。だからこそ頑張ってるよ。でも、日本からの影響はありますよ。ギターももちろんだけど、なにより音楽のセンスが扉が開いたように幅広くなった。基本的に、外人には日本の曲は作れないから。

──作れない?

マーティ・フリードマン:うん。もちろん例外はいるとは思いますけど、日本のポップスを作っている外人はなかなかいない。作り方・メロディセンス・アレンジ・演奏…全部違うから。だから最初の頃は、自分で自分のことを「バタ臭い外人」って思っていました(笑)。2007年にKOTOKOさんに提供した「きれいな旋律」ができたときに、やっと「完全に日本人になった」と自分で納得できたな。聴けば絶対に日本人が作ったと思うだろうから、僕の身体に影響が染みこんだと、とても誇りに思った。普通は10代~20代でアーティスト/ミュージシャンとして完成してしまうけど、歳を取っても好きな音楽が作れるように成長できて、新しい体験があって、素敵な人とコラボもできる。ももクロだってアメリカにはないし、ヒャダインさんみたいな人もいないし。

──日本も刺激的な音楽シーンなんですね。

マーティ・フリードマン:楽しくて新鮮で成長するしかないよ。ということで、ありがたい気持ちも含めて日本のカヴァーアルバムを作ったわけです。

──今回選んだ曲はマーティがリスペクトしてる曲ですか?

マーティ・フリードマン:リスペクトだけじゃなくて、テーマにあわせたもの。実はこのアルバムは、オリンピックに向けて、大地が動くような「一緒に頑張りましょう」というパワーを持たせたものだったから。元気が出るとか、スポーツやってる人たち…例えばジョギングのときに聴く応援ソングとか、もしその人に力をあげることができれば嬉しいなと思って。

──他にも候補曲はたくさんあったんでしょうね。

マーティ・フリードマン:そうですよ。やりたい曲は30曲くらいあったけど、最終的には運命の12曲になった。

──曲順は?


マーティ・フリードマン:いい質問ですね。とりあえず1曲目は一番鳥肌が出るようなもの。僕はやってるときに鳥肌が出るところを目指してるんです。自分の音楽で鳥肌を立てるなんて偉そうで恥ずかしいんだけど、その基準で頑張るんです。だからとにかく鳥肌が出る曲を頭に入れて、その後はつなぎがおいしいように。

──テンポとかキーとか?

マーティ・フリードマン:キーはそんなに考えないけど、つなぎが気持ちよく何か期待させるように。その順番で全て聴き通さないと分からないから、曲順を考えている間は毎回フルで聴くわけで、1時間聞いて「これじゃないな」となるともう1時間聞いて、もうおなかいっぱい。曲順は苦労しますよね。今はアルバムはなかなか聴かれない世の中ですけど、アルバムを全部聞く楽しみを思い描きながら曲順を決めました。

──レコーディング自体はスムーズでしたか?

マーティ・フリードマン:途中でコロナの影響があったんですけど、実はいい影響でした。コロナのおかげでミュージシャンの仕事が全部無くなっちゃったところだったみたいで、素晴らしいミュージシャンたちがみんな暇だった(笑)。電話一本でみんな「ああやるよ」って言ってくれて、理想のプレイヤーがみんな手伝ってくれた。レスも早いし仕上がりも早い。もともと僕はずっとスタジオにいたし、みんなも集中できる状態で理想的だったかもしれない。最終的にいつもより直す時間もできたし反省の時間も持てたから、完全に満足するまで作業できた。だから後悔は残ってないですね。

──今回、+α/あるふぁきゅん。が「The Perfect World」を歌ってますね。

マーティ・フリードマン:「The Perfect World」はJean-Ken Johnnyと一緒に作った曲なんですけど、セルフカヴァーもやりたかったんです。歌の解釈、演奏の解釈も変えたかったから、彼女のキャラと曲の内容と雰囲気が最高でした。

──歌、相変わらず抜群ですね。

マーティ・フリードマン:どんだけうまいかって、彼女はどんなキーでも歌えるんですよ。「あるふぁきゅん。のおいしい範囲はどこですか?」って聞いても「あたしどうしようかな…」って感じだったから、キーをひとつずつ試してみたわけ。普通のヴォーカリストだったら、美味しく響く範囲があるでしょ?彼女はどのキーでもフラフラしないで全部歌えて、どれもおいしいの。A、A#…いいじゃん、B、C、C#…どれでも楽勝で歌える。あの人、人間じゃないよ(笑)。違うイメージのキーでやりたかったんで、最終的にはオリジナルより四音半くらいあげたのかな。ギターの演奏はかなり面倒くさくなったんだけど(笑)。

──そうでしょうね(笑)。

マーティ・フリードマン:プロ根性でなんとかしたけど、かなり(笑)。でも彼女はすごかった。本人はこの中のどれでもいいというから、スタジオのみんなに「どれがいいと思いますか?どれがおいしい?」ってきいて、最終的にはスタッフ・レコード会社・エンジニア・みんなの意見を大事にしました。僕も判断できなかった。みんなおいしかったから。

──また機会があったらやりたいですね。

マーティ・フリードマン:やりたい。見た目のセンスとかパフォーマンスの解釈があの曲とぴったりだったから、彼女と「The Perfect World」のミュージックビデオも作ったんです。これもすごい楽しみ。


──『TOKYO JUKEBOX 3』は、どの曲も聴き応えがたっぷりですね。なによりアレンジがすごく、カヴァーと言うよりもすでに作曲の領域で。

マーティ・フリードマン:ありがとうございます。嬉しいです。最終的に、ギターインストって「言葉(歌詞)」という武器がないでしょ?だから、人に興味を持たせ飽きさせないようにするのなら、ギターの存在感はヴォーカリストのようじゃないとダメなんです。

──なるほど。

マーティ・フリードマン:僕が日本の曲にいろんな発見をしたとき、歌詞の内容は全く分からなかったけど、楽しめた。だから、そこの基準を目指した。ハードルは高かったけど。

──確かに、脳内で再生されているから「歌詞がないのは残念」とは全く思いませんでした。

マーティ・フリードマン:それは嬉しい。何より鳥肌を目指してるし涙を目指しているし、リスナーの感情に訴えたい。

──ライブも楽しみですね。これからも活躍を楽しみにしています。

マーティ・フリードマン:やりますよ。今調整中ですけど、素晴らしいものを目指してます。新作アルバムの準備も常に行っていますし、今作ってくださいと言われたらすぐスタートできる。山ほどのメモやアイディアの種もいっぱいあるから、さらに人を感動させたい。演奏うまい系じゃなくて感動するものを、ね。

取材・文◎烏丸哲也(JMN統括編集長)


マーティ・フリードマン『TOKYO JUKEBOX 3』


2020年10月21日(水)発売
AVCD-96526 ¥3,000(税抜)
1.負けないで!
2.千本桜
3.紅蓮華
4.風は吹いている
5.ECHO
6.The Perfect World(feat あるふぁきゅん)
7.U.S.A.
8.宿命
9.行くぜっ!怪盗少女
10.サザンカ
11.Time goes by
12.JAPAN HERITAGE OFFICIAL THEME SONG ※文化庁公認 日本遺産テーマ曲

◆マーティ・フリードマン・オフィシャルサイト
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