【ライブレポート】吉田兄弟、H ZETTRIOをゲストに迎えた＜吉田劇場＞で示す三味線の可能性

三味線プレイヤーの吉田兄弟によるデビュー20周年記念特別公演＜吉田劇場＞が、9月より有楽町朝日ホールにて開催中だ。計4日間で異なるジャンルのアーティスト4組をゲストに招いたスペシャル企画ライブの2日目として、ピアノジャズトリオH ZETTRIOとの共演が10月14日に行われた。オフィシャルから届いたライブレポートを掲載する。

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本公演は、新型コロナウイルス感染予防対策のため、会場キャパシティの50％以下の実動員と全世界に向けてのリアルタイム生配信のハイブリッドで届けられた。まずは吉田兄弟のパートからスタート。ミディアムテンポで日本情緒溢れるメロディーの津軽民謡「たんと節」で始まり、バックトラックと同期した拡がりと躍動感ある「Intención」へと続く。MCを挟んで、スペイン民謡「decollage～鳥の歌～」。三味線との相性が抜群の旋律のこの楽曲は、もともと日本民謡ではないかと錯覚するほどの曲調であるが、後半に至って徐々にスペインのフレーバーをもたらしてくる。異国情緒の中にえも言われぬ激しさを内包するメロディーに不思議と懐かしさを覚えてしまう。「深き海の彼方」では弟の健一がソロで演奏した。

『風翔音「Fusion」』では、静寂なメロディーラインから突如切り裂くような疾走感で手指が縦横無尽に三味線を掻き鳴らしていく。タイトル通り、まさに一陣の風が舞い飛翔するさまを思わせるような曲だ。吉田パート最後の「津軽じょんがら節」は息もつかせぬほどの速弾きで聴くものを圧倒し、聴衆は静まり返った。15分間にわたる演奏が終わると、観客は熱く長い拍手を演者に送っていた。

休憩を挟んで、H ZETTRIOのパートへ。「明日の景色」では穏やかな夕暮れを思わせる照明から始まり、ピアノにシンバル、ウッドベースが優しく重なり合う。続く「TOKYO」は、ウォーキングテンポの8ビートで、街中を歩きたくなるような雰囲気に包まれる。と思うと途中からランダムなピアノプレイに畳みかけるドラムとベースの旋律がカオスな雰囲気を醸成していくミステリアスな曲。「Virtual World (Jazz)」ではピアノの鍵盤上を両手が所狭しと駆け巡る。ショルダーキーボードも登場し、彩色豊かな音色で聴衆を魅了していく。「Never Ending」ではピアノのフレーズがとめどなく繰り返されメロディーが永遠に途切れないような錯覚に陥る。また「PIANO CRAZE」では、サンプリングされたノイズやエフェクトされたヒューマンボイスが飛び出し、おもちゃ箱をひっくり返したような響きを覚える。そして超絶スピードでピアノから音色が掻き鳴らされていく。ピアノが何かを訴えたくて堪らないようだ。音が止むと客席から大きな拍手が湧き起こった。

「晴天―Hale Sola―」はどこか憂いを含んでおり、「晴れて欲しい」と願う祈りのようなものを感じさせた。「祭りじゃ」では、神輿や露店や人の賑わいが目に浮かぶようで、心が浮き立つ。最後の曲「Get Happy!」では、会場とステージが一体となって腕を左右に振る光景が印象的だった。

最後の吉田兄弟とH ZETTRIOによるコラボパートでは、吉田兄弟の曲「PRANA」にH ZETTRIOが参加して始まった。攻めてくるような三味線の音色と包むようなピアノとの相性は予想以上にいい。H ZETTRIOの「Neo Japanesque」には吉田兄弟が乗ってくる。和楽器の三味線がジャズ風のメロディーに新たなエッセンスを紡ぎだす。他ジャンルとコラボレーションすることで、三味線に新たな響きや可能性が感じられた。MCでは、お互いの楽器のアタック音に共通性を感じるという話になり、聞く方も頷く。「Panorama」では吉田楽曲をH ZETTRIOがアレンジ。シャッフルビートのネオジャズ感漂う佇まいに、各楽器がフレーズで呼応し合う様がお洒落だ。

「Ｚ界のテーマ」には吉田兄弟がポップで軽やかな演奏を仕掛けていく。和洋折衷という言葉では語り尽くせないほど、三味線がジャズフレンドリーな楽器に変身していた。楽器同士の魂が一つに重なり合った瞬間を目撃した気分になる。

アンコール曲は両アーティストによる共作でこの日のために作られた新曲「Freedom Shuffle」。変拍子に富み、グルーブ感溢れる同楽曲は、ロックとフリースタイルジャズが融合したような意欲作。三味線の可能性を大いに感じた公演であった。

撮影：AYATO.