【インタビュー】The Biscats feat. TeddyLoid コラボ作で見せた“継承と革新”
Misaki(Vo)は“青野美沙稀”のソロ名義での活動から、ロカビリーバンド・The Biscats(ザ・ビスキャッツ)として再始動し、今年の3月に初作品をリリース。10月リリースの最新作では、TeddyLoidをフィーチャリング・アーティストとして招いたE.P『Teddy Boy feat. TeddyLoid』を発表。“ハイブリッドロカビリー”を提唱するバンドの最新作として、デジタルサウンドを同化させた新感覚ロカビリーを実現させた。「Teddy Boy」と「Hot and Cool」ではロカビリーをルーツに持つTeddyLoidのアレンジと、バンドアレンジの2バージョンを収録し、「magic hour」ではロマンチックなスローバラードを奏でるという、バンドにとって大きく踏み出した挑戦の1枚。彼女たちはどんな思いのもと令和のロカビリーを追求しているのだろうか。メンバー全員に訊いた。
◆ ◆ ◆
■新しいロカビリーの領域に
──YouTubeにアップしているロカビリーアレンジのカバー動画、選曲も面白いですね。特にNiziUの「Make you happy」は、意外性が高いながらにばっちりはまっていて。
Misaki(Vo):流行りの曲のロカビリーアレンジカバー、ずっとやりたかったんです。「Make you happy」に関しては“自分たちの音楽性とかけ離れすぎているNiziUのカバーをするのはどうなんだろう?”と思いながらも、思い切ってやってみました。そしたらみんなでノリノリでやれて楽しくて。そう言っていただけてうれしいです。
Ikuo(Dr):カバーは今年の春から始めて、最近は録音のマイクとか、メンバーの立ち位置とかも自分たちで研究して、一発録りならではのバランスを工夫するようになりました。だいぶ進化してきてますね。
Kenji(G):Misakiが歌いたい曲やカバー曲のアイデアを持ってきてくれるので、メンバーみんなで“どの曲をロカビリーアレンジにすると面白いか?”と考えて選曲していて。ロカビリーは英語的な譜割りが必要な音楽でもあるので、そのあたりのバランスも考えつつ。
──ロカビリーの型にはめてアレンジするのは、なかなか難易度が高そうです。
Suke(W.B):ロカビリーのリズムは跳ねているので、アレンジが陽気になることも多くて。“これだと歌詞のイメージと合わないからだめだね”って録音し直したこともあったね。
Ikuo:うん。カバーする曲にはロカビリーで使わないコードもたくさんあるし。
Misaki:あいみょんさんの「マリーゴールド」と菅田将暉さんの「さよならエレジー」のカバーは、3回くらいアレンジを組み直したね。やっぱりカバーは原曲の良さを生かしたうえで、自分たちのカラーを出してこそ魅力的だと思うので。
Kenji:カバーは原曲を聴き込まないとアレンジできないので、“こんなコードを使ってるんやな”とか“最後はこんな展開なんや”というところまで把握したうえで、どうやってロカビリーに落とし込んでいくかを自分たちなりに昇華しましたね。
──Misakiさん+バックバンドから、The Biscatsというバンドとして動き出して1年半ほど経ちますが、バンドのグルーヴも増しているのではないでしょうか。
Ikuo:やってることは変わらないんですけど、やっぱりバックバンドとバンドメンバーだとマインドが違いますね。カバー曲の選曲をするときも自分の意向をちゃんと伝えるし、衣装とかバンドに関する一つひとつをちゃんとメンバーで話し合うようになりました。
Suke:バンドになったことでバンド感が増して、お客さんの見方も変わって、前よりいいライブができるようになった気がします。やっぱりロカビリーはライブが大事なので、バンドになって良かったですね。
Kenji:ふたりが言ってくれたように、バンドになってから楽曲もライブも内容が濃くなってます。みんなで先のことを話すことも増えてますね。
──Misakiさんはいかがでしょう?
Misaki:実はバンドを組むの、ちょっと躊躇してたんですよ。
──あら、そうだったんですか。
Misaki:10代からソロで音楽をやってきているなかで、何度もバンドの脱退や解散のニュースを聞いてきたので、“バンドを組むというリスクの高いことは一生しないだろうな”と思ってたんです。でもこのメンバーに出会って、その考えが一気に変わって。この4人でひとつのバンドをやれば、自分たちが目指す“いまの時代の新しいロカビリー”やその魅力をより濃く伝えられると思ったんです。The Biscatsになる前はみんな遠慮してたけど、The Biscatsになってからはいろんなことを言い合えたり、団結力もアップしたので、バンドになって良かったなー……と日々思ってます。毎日一緒にいます(笑)。
Suke:昨日もスタジオで1日練習して、そのあとそのままみんなで焼肉食べに行きました。……また数時間後に集まるのにね(笑)。
▲Misaki(Vo)
──ははは。YouTubeの動画の印象どおり、仲良しなんですね。そしてデビュー作『Cat’s Style』から7ヶ月ぶりのリリースとなる今作は、TeddyLoidさんをフィーチャリングアーティストとして招いたシングルです。どうやらTeddyLoidさんからMisakiさんにTwitterのDMが届いたことが、最初のご縁だそうですね。
Misaki:そうなんです。まだThe Biscatsを組む前……2年くらい前にTwitterのフォローが来て。ちょうどこのメンバーで移動してるときで、“えっ、TeddyLoidさんからフォロー来てるんだけど!”って車内騒然(笑)。特にIkuoはね?
Ikuo:もともとTeddyLoidさんの音楽が好きなのでめちゃくちゃ驚いて“なんで!? ちょっとー!”って(笑)。
Misaki:フォローを返したらすぐに、“MVを観て衝撃を受けた”、“是非ライブを観てみたいです”とDMを頂戴しました。その後もメッセージのやり取りをさせて頂くなかで、“今後機会があればぜひご一緒したいです”と書いてくださっていて。すぐにでもご一緒したい気持ちもありながら、わたしたちもスケジュールがいろいろと決まっていたり、The Biscatsに変わったり、バンドとしての方向性をしっかり練ったりと、変化が多くて。『Cat’s Style』が完成して、The Biscatsとしてどう動いていくのかがだいたい決まったこのタイミングで、TeddyLoidさんにご連絡させていただきました。最初の顔合わせからいろいろ案が出てきて、そこからはとんとん拍子に進んでいきましたね。
▲The Biscats/「Teddy Boy feat. TeddyLoid」
──TeddyLoidさんとのタッグ曲「Teddy Boy」と「Hot and Cool」はロカビリー×デジタルサウンド。2作目でここまで大胆な音楽性を提示してくるところにもインパクトがありました。
Misaki:The Biscatsの1作目では自分たちのルーツでもあるコテコテのロカビリーを出して、そのあとはどんどんいろんなことに挑戦しよう、攻めていこうと決めていたので、それならまずはTeddyLoidさんとご一緒したくて。TeddyLoidさんがロカビリーをここまで押し出した曲をやるのは、今回が初めてらしいんです。
──TeddyLoidさんのルーツはロカビリーだけど、それを公表したのは今回のタッグがきっかけなんですよね。
Misaki:TeddyLoidさんは小さい頃、わたしの父(※BLACK CATSやMAGICなどで活躍した久米浩司。日本のロカビリーシーンを牽引するレジェンドとして名高い)のやっていたバンドのライブによく遊びに来ていたらしくて。TeddyLoidさんのお父様と父も知り合いだったことが後から判明して、父も“あの男の子がTeddyLoidさんなんだね”と驚いてました。
──なんて巡り合わせ。“TeddyLoid”という名義の由来も、今作のタイトルになっている“Teddy Boy(※50年代に流行ったロンドンファッション。細身のロングジャケット、リーゼントなどが特徴。通称テッズ)”からとのことで。
Kenji:僕らもTeddyLoidさんからそれを聞いて初めて気付きました(笑)。僕らは新しいロカビリーを作ってロカビリーブームを起こしたいと同時に、ロカビリーの守るべき伝統を継いでいきたくて。だから今回は“王道のロカビリー/ネオロカビリーサウンドに対してTeddyLoidさんに新しい要素を加えていただこう”と、サウンドプロデュースをしてくださっている真崎修さんとも話し合いましたね。それで“Teddy Boy”をコンセプトにオファーをして、そしたらTeddyLoidさんも乗ってくださったんです。
Misaki:それで真崎さんが作曲してくださった楽曲に、TeddyLoidさんがアレンジをして歌詞をつけてくださったのが「Teddy Boy feat. TeddyLoid」ですね。これが完成したあとに、The Biscatsのみのバージョンの「Teddy Boy」を制作しました。
Ikuo:今までのロカビリースタイルがThe Biscatsバージョンで、新しいロカビリーを提示するのがTeddyLoidさんバージョン。同じ曲でも全然違うテイストになっていると思います。
──そうですね。「Teddy Boy feat. TeddyLoid」のアレンジはデジタルサウンドが大胆に取り入れられながらも、ロカビリーの要素を損なっていない。どちらも100%の状態で出ています。
Misaki:今の若者たちにも“新しくてかっこいい”と思ってもらえるアレンジだし、ロカビリーの大事な要素も残してくださっているとも思いました。ロカビリーって、ロカビリーを熟知していて、好きでないと表現ができない音楽性なんです。最新のダンスミュージックもロカビリーも熟知しているTeddyLoidさんでなければできないアレンジだから、さすがだな……って。
Suke:あれを聴いて、TeddyLoidさんのルーツがロカビリーということにあらためて納得しましたね。自分たちが思い描いていた新しいロカビリースタイルがありました。ロカビリーとEDMの美味しいところがどっちもドーン!と出ているというか。
Ikuo:新しいロカビリーを作ろうと違う畑の人とタッグを組んでも、そのお相手がロカビリーのことを知らないと、ロカビリーにとって大事な部分を抜いてしまったり、必要ないものを足してしまったりすると思うんです。「Teddy Boy feat. TeddyLoid」がこれだけ大胆なアレンジになったのにロカビリー感が損なわれていないのは、TeddyLoidさんにロカビリーが染みついているからだと思いますね。
──なるほど。ロカビリーの基本をしっかり把握しているからこそ、大胆に崩せるということですね。
Ikuo:うん、そうですね。ロカビリーは知っていないと表現するのが難しいけど、知っていればどんな音楽性も取り入れられる間口の広い音楽だと思うんです。
Misaki:うんうん。The Biscatsはみんな生まれや背景は別々だけど、わたしは父親が、3人も10代の頃からロカビリーというものに親しんでいて。そういう4人が音を鳴らせば、自然とロカビリーになる。その自信がありますね。そんなわたしたちがTeddyLoidさんの力を借りて、新しいロカビリーの領域に大きく踏み込んだ気がしています。
Suke:今までライブでも同期を使って演奏しているので、僕らも電子音に慣れていたし。
Ikuo:それと同時に、今までやってきたバンドスタイルでのアレンジによる“ロカビリー×デジタルサウンド”の追求と、TeddyLoidさんとのタッグによって生み出されたサウンドとの大きな違いを感じたりもするんですよね。言葉で説明するのは難しいんですけど、やっぱりなにかが違う。
Kenji:デジタルサウンドは人間の作る揺れがなくきっちりしているので、自分たちもそこに合わせて演奏していたところがあると思うんです。でもYouTubeで自分たちの生音だけでカバーをしたりすることで、自分たちのグルーヴを見つめ直すこともできたので、またライブで同期を扱うときのグルーヴも変わってくる気がしますね。
▲Kenji(G)
──The Biscatsバージョンの「Teddy Boy」は、バンドの前のめりで骨太な要素が出ていると感じました。
Kenji:オラオラオラ〜!みたいな、人間の気持ちが前に出たアレンジになってますね(笑)。そういうものが疾走感のある感じにつながってるのかな。
Suke:「Teddy Boy feat. TeddyLoid」に対抗するような気持ちでレコーディングしましたね(笑)。バンドらしいところを出したかったので、ノリノリで突っ走るような感じで演奏しました。
Ikuo:特にロカビリーのウッドベースは機械で再現できないからね。
──Misakiさんのボーカルも、TeddyLoidさんアレンジとバンドアレンジだとまったく違いますものね。
Misaki:あ、気付いていただけてうれしい。TeddyLoidさんアレンジのほうはちょっとか弱くてキュートな雰囲気の女の子のイメージで、バンドアレンジのほうは斜に構えていたり上から目線の強気な女の子のイメージで。事前に考えて歌い分けしました。バンドアレンジは歌い出しの“Teddy Boy”が男性の声なので、野郎っぽさもありますね(笑)。
Ikuo:ザ・ネオロカ!なアレンジになったね(笑)。
Kenji:それが古臭くなっていないのは、サウンドプロデューサーの真崎さんやエンジニアの渡辺(敏弘)さんのおかげでもありますね。僕らの周りには運良くロカビリーを熟知したロカビリー好きの方々が集まってくださっていて、自分たちの“こういう音色にしたい”や“もっと艶を出したい”という要望を全部叶えてくれる。すべてロカビリーがつなげてくれた縁なんです。ほんま、みんなロカビリーが大好きで。同じ曲をずっと飽きずに聴いてます(笑)。
──みなさんのように若い世代の方々でも、ロカビリーは好きで聴いていたとしても、実際にバンドで表現する人は少ない気がするんです。それを実行に移せる情熱は、どこから湧いてくるのでしょう?
Ikuo:やっぱり……好きだからですね。ハッピーになれて、かっこよくて、疾走感があって、マイナー調の曲はクールに響くし、聴いていて楽しい気持ちになれる。自分にとって、音楽のなかでいちばん魅力的なジャンルなんです。今の若い世代の人たちの多くがロカビリーを知らないのは、きっかけがないだけやと思う。TeddyLoidさんはじめいろんな人の力を借りて、その魅力を広めたいんですよね。
Suke:伝統は継承しつつ、いい感じにぶっ壊していきたいよね。
Misaki:そうそう! 1950年と1980年代に大きなブームが起きて以降、若者たちがロカビリーを知るきっかけがないまま時が経っていて、ロカビリーが絶滅危惧種になってきてることも感じているんです。リアルタイムで熱狂的なロカビリーブームを知っている人が現役を退いてしまう前に、自分たちをきっかけにブームを起こして、ロカビリーに青春を捧げた人たちの心に火をつけたい気持ちもあるし、若い子たちに“こんなに楽しい音楽があるんだ”と知ってほしい。あと、個人的な野望としては、父を超えないといけないという使命感があります。父から“俺の夢の続きを追ってくれ”と言われたことがあって。それを叶えたいんですよね。
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