【ライブレポート】向井太一、思いを凝縮させた贅沢な一夜

ポスト

8月28日、シンガーソングライター向井太一がEP『Supplement』を記念した配信ライブ<Release Live -Supplement->を行なった。

◆ライブ画像(12枚)

Zepp Hanedaから配信されたライブは、ステージメンバーにGeorge(Key&Machine)、Satoshi(Dr)、Shige Murata(B)、Jun Matsue(G)、Kenta Yamamoto(Key)、Keisuke Oyama(Cho)、Shiori Sasaki(Cho)、そして後半にTatsuhiko Yoshizawa(Tp)、Kazuya Hashimoto(Sax)を迎え、自身のライブ史上でいちばんの大所帯によるスペシャルな一夜となった。

向井が楽屋で身支度と呼吸を整えるシーンではじまって、ステージへと向かっていく。その背中を追いかけるようなカメラワークは、ライブのドキュメンタリー作品を観るような感じがあり、一方で楽屋でライブのはじまりを自らツイートをするリアルタイムなコミュニケーションもあって、楽しみが募っていく。


そして甘いビブラートを響かせると1曲目「僕のままで」でライブの幕を開けた。前半は、EP『Supplement』からの曲が中心。腕の立つミュージシャン揃いのバンドによるアンサンブルは滑らかに柔らかに、向井のエモーショナルなボーカルを受け止める。サウンドへの信頼感が、伸びやかで自由なボーカルとなってフェイクや、低音の余韻、ファルセットを心地よく聴かせてくれる。向井の声の持つ魅力を全方位で聴かせるような「僕のままで」から、スモーキーでポップな「Comin’ up」や細やかなリズムの刻みで聴かせるボーカルがファンキーな「FLY」。へ。そして甘美でポエティックな「Ooh Baby」からシックな遊び心が効いたサウンドとヒリヒリとした低音のボーカルが切なさを誘う「Just Friends」と、気分をデリケートに操っていくように曲をつないでいく。金曜の夜を彩る心地のいいグルーヴ感と、時折カメラに見せる向井の柔らかな笑顔に、こちらも顔がほころんでしまう。そんなはじまりだ。


中盤はアグレッシヴなバンド・アンサンブルが堪能できる「YELLOW」や「Great Yard」へと、ライブ感がほとばしる曲を連投。ファットなベースを響かせるShige Murataと絡んだり、巧みなコーラスふたりとの絶妙なハーモニーでも、曲の温度を上げる。アルバムではエレクトロタッチな「Great Yard」が、ライブでならではのアレンジで前の曲からひと続きとなったスペクタクルな展開となっていくのも、面白い。またこの中盤では、カメラが切り替わって向井のワンショットで歌うシーンも盛り込まれた。淡いオレンジの壁に囲まれた場所で、メロウな歌声を聴かせるその横顔のショットをとらえた「Blue」や「Gimme」と続き、抑えたボーカルで狂おしい心のうちを繊細に表現する「Confession」で彼の周りを取り囲んでいた壁が、パタリと倒れる。そこは、普段は客席となるフロアの真ん中だ。広い空間にポツリとスポットライトが灯るなか、その歌はよりエモーショナルに響いた。


再びステージへと戻っての後半は、今日という日を特別なものにしたいと未発表の新曲「Love Is Life」からスタートした。ここからは、トランペットとサックス奏者が加わって、演奏はより華やかだ。欲を言えば、本当に会場で生で感じたい。でもそのボリューム感のある音や躍動感は、グルーヴを増す向井のボーカルやふとした表情から伝わる。続く、ソリッドなビートのファンキーでロックな「FREER」では、その洗練された歌声にほんのりと土臭さも混じってパワフルさを増す。新曲から、「Break up」や「眠らない街」、ハンドクラップで陽性ムードを引っ張り上げる「I Like It」と各アルバムからの曲が入り混じり、終盤は「リセット」から「空」へと続いて、祝祭感を放った。

最後の曲へといく前に、向井はEP『Supplement』に込めた思いを語った。Supplement=サプリメントというタイトルには、昨年リリースした3rdアルバム『SAVEGE』が大きく関わっているとMCをした。


「自分が悩んでいて、音楽的に自信がなかったり、自分がどういうものを表現していいかわからない、そんな時期があった。それを吐き出したアルバムが『SAVAGE』で。最初は悩みながらリリースをしたんですけど、去年のツアーでは今まで以上の人が観に来てくれて。……弱い、悩んでいるこんな自分でも、自分自身でよかったなと思えるツアーでした。いつもたくさんの人に支えられていて。次にどういう作品を作ろうと思ったときに、いつも支えてくれるファンのみなさんだったり、チームのみんなだったりバンドのメンバーだったり、その人たちが僕の作品を聴いて元気になったり、勇気付けられたりする作品になればいいなと思って『Supplement』を作りました」

本来は5月のリリース予定だったこのEPは、新型コロナウイルスの影響で7月末にリリースとなった。そしてこのリリースまでの時間に、彼自身『Supplement』という作品の意味合いはさらに深まったと語る。

「自粛期間があって、今もそうですけど、音楽の必要性やアーティストができることを、僕を含め周りのアーティストも考えていて。僕自身が届けられるのは音楽で、それを待っている人たちがいるというのがとっても支えになりました。そんな恩返しの意味も込めて、『Supplement』がみんなの日常に彩りを加えたり、喜びや悲しみや、いろんな気持ちが自分の心の栄養になって、また会える日まで楽しんでいただければいいなと思っています」


そしてこの日最後に贈ったのが、新曲「We Are」だ。「今はこういうオンラインという状態で。でも離れている状態でも心はつながっていて、僕が届けることは変わらない」と言って歌った「We Are」は、アコースティックギターと歌というミニマムな1番から、2番ではバンドが重なり合って、その歌の心強さがアンサンブルとなって高揚感たっぷりに届けられた

。約1時間20分にわたった<Release Live -SUPPLEMENT->は、この数ヶ月間、向井太一が何を考え、どう過ごしてきたのか。その思いを丁寧に伝え、シンガーとして音楽家として貪欲にアップデートしながら、深みを帯びていった時間を、凝縮して見せてくれるようなライブだったと感じる。ビター&スィートな歌で週末の開放感を祝福すると同時に、心の栄養を育んでいくような贅沢な時間だった。

文◎吉羽さおり
写真◎Yosuke Torii

セットリスト

1.僕のままで
2.Comin’ up
3.FLY
4.Ooh Baby
5.Just Friends
6.YELLOW
7.Great Yard
8.Blue
9.Gimme
10.Confession
11.Love Is Life(新曲)
12.FREER
13.Break up
14.眠らない街
15.I Like It
16.リセット
17.空
18.We Are(新曲)

◆向井太一 オフィシャルサイト
この記事をポスト

この記事の関連情報