【ライブレポート】向井太一のピリオドとTAILの期待感を鮮やかに刻んだ<THE LAST TOUR>

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向井太一が10月25日にリリースしたベストアルバム『THE LAST』を携え、大阪、名古屋、福岡と回ってきたツアー<THE LAST TOUR>が11月26日に東京・豊洲PITで最終日を迎えた。

今回のツアーを<THE LAST TOUR>と冠したその意味がこのファイナル公演でわかるということもあり、オーディエンスは早くから自身の席につき、その時を待っているような静かな緊張感が会場の空気に練りこまれている。期待も不安も入り混じったような観客の思いを乗せてスタートしたライブは、シンガーでありアーティスト向井太一の7年間をエモーショナルに、ドラマティックに魅せるショーとなり、最後には大きなカタルシスで会場を包み込んだ。まさに“THE LAST”というタイトルにふさわしいものとなった。

会場が暗転してまず登場したのは、今回のバンドメンバーを務めるSatoshi Yamashita(Dr/Mop of HEAD)、村田シゲ(Ba/□□□)、George(Key/Mop of HEAD)。デビュー当時から作品やライブに携わってきた3人だ。SEを奏でるなか、大きな拍手に迎えられて向井太一が登場した。ステージは仄暗いブルーのライトに染まり、ピアノのイントロとともに、柔らかなスポットライトが向井を照らす。歌い出したのは、「道」。平坦ではないが、一歩、もう一歩と繋いできたことで豊かとなった道のりを思い、さらに未来へと踏み出していくこの曲を、丁寧に紡ぎ上げるように歌う。徐々に高揚感を増して、アンセミックに響きわたる歌に、観客の熱が高まるのが感じられる。逆光のような照明でシルエットが浮かび上がっていたのち、続く「僕のままで」でステージが照らされるとようやくその姿があらわになった。向井はこのツアー中に金髪となっており、ライトを浴びて輝いている。ストリングスの華やかな旋律とマーチング的なビートに、伸びやかなビブラートやファルセットが響くと、観客は体を揺らし、手を掲げて応え、フロアが歓喜のうねりを帯びていくのがわかる。グッと来るはじまりだ。



「東京! お待たせしました、向井太一です。楽しむ準備はできていますか」という挨拶からの2曲「Celebrate!」「Crazy」はダンスチューン。ファットなバンドアンサンブルにフロアからハンドクラップが起こり、アグレッシヴななかに艶っぽさがある歌声に、観客は上げた両手を気持ち良さそうに揺らしている。開演前のそわそわしたような緊張感はあっという間に解けて、会場は晴れやかなバイブスに包まれた。ベストアルバム『THE LAST』に収録された曲はもちろん、この7年でリリースしてきた曲からセレクトされた今回のセットリスト。「次の曲もずっと歌い続けてきた曲です」と紹介されたのは2018年にリリースした「Break up」。スピード感もバンドのグルーヴ感も上げていくこの曲から、ステージに設置した2台のミラーボールがフロアに向けてキラキラと光のシャワーを注いでいくディスコティックな「Siren」、鼓動が上がっていくようなブライトなポップチューン「Love is Life」が連投されると、会場は多幸感でいっぱいだ。





また、中盤で改めて挨拶をし、「大好きだ」と語るバンドメンバーを紹介すると、ここからは“アーティスト向井太一”のヒストリーがわかるような、よりエモーショナルでディープなブロックへと突入していく。最初に聴かせたのはEP『LOVE』(2018年)に収録された、自身の兄に向けて書いたという「HERO」。年が離れており、音楽好きだった兄の影響で音楽をはじめ、こうしてプロとなったことや今ステージに立っているこの瞬間も兄が作ってくれたものだとMCをすると、「今日は兄に捧げます」と「HERO」を歌い上げる。シンプルなアンサンブルで、想いのすべては歌に乗せるように歌う。幼い頃に不安やさみしさから守ってくれたように、今度は僕が味方になる。そんな思いが詰まった、愛に溢れた曲だ。さらにここに続いたのが、「Blue」。ピアノを基調に溢れ出る想いを刻みつけた歌には、アーティストとしての自身を作り上げていく上での苦悩や悔し涙がにじむ。同時にそのネガティヴィティを反転させていく静かなエネルギーにも満ちている。







続いて、18歳で上京し、24歳のときに初めてプロとしてリリースしたEP『24』から「24」を披露。MCでは、「あのときはまだ何もなかったからこそ、この先に何が待っているのか、誰が待っているのか、どんな場所が待っているのか希望に溢れていた」と曲の背景を語る。一見スタイリッシュで、新たな音楽への高い感度やポップ性を持ち、シンガーとして豊かな表現力やスキルを持つ向井太一だが、その根底にあるのは泥臭く孤独な闘いを続ける姿があり、また独りゆえに他者と時や心の機微を分かち合う喜びの大きさを知っている。それがクリエイティブにいかされているからこそ、多くの人の心や日々に寄り添う音楽になっているのだろう。この3曲で、そんな向井太一の内側を覗かせてくれた。そしてこのブロックを締めくくるのは、18で上京してバンド活動をしていたときに作ったという「君にキスして」だ。EP『24』に収録するにあたってKan Sanoがリアレンジをしてくれた曲でもあるが、「このバンドメンバーで演奏をしていると、いつも音楽で遊んでいるようで楽しくなる」ということで、音源のジェントルな雰囲気とはまたちがった、生々しく、そして遊びたっぷりのセッションに乗せて甘い歌声を響かせた。



バンドによるセッションタイムを挟んでの後半は、前半のシックなスーツ姿から一転、キラッキラの衣装へとモードチェンジ。登場するや、パッと会場が華やいだムードで、「Young & Free」から大きなハンドクラップを起こした。一体感を指揮していくようにハンドマイクでアグレッシヴにステージを歩いて「Shut It Down」で陽性の風を巻き起こし、「99’」では「もっと声を聞かせて」と軽やかなボーカルでシンガロングを先導する。曲中でバンドメンバーそれぞれがプレイフルな見せ場を作ったりとライブならではの展開で、ボリューム感もたっぷりである。シンガロングの心地よい余韻と歓声、拍手に包まれるなか、「今日は本当にありがとうございました。最後、一緒に声を聞かせくれるかな」とラストに選んだ曲は、“Everything’s gonna be alright”、「すべてうまくいくよ」とソウルフルに響かせる「空」。グルーヴィなリズムに乗って、観客のコーラスとともにポジティヴなパワーが大きくなっていくゴスペルのような開放感が会場に広がっていく。大きな声で、ありがとう!と叫びバンドの演奏を締めくくるように笑顔でジャンプをした向井は、最後に掲げていたタオルをフロアへと投げた。



長く大きな拍手に迎えられてアンコールに登場した向井。この日、この瞬間をしっかりと目に焼き付けるようにフロアを見渡し、ひとりひとりを見つめるように「SLOW DOWN」を、そしてたくさんの場所に連れて行ってくれた曲だと言ってベストアルバム『THE LAST』では1曲目に収録された「リセット」を披露した。MCでは、ベストアルバムの話を受けた頃は自身がさまざまな苦悩を抱えていた時期でもあったと語った。インディーズからの7年という時間を振り返る作業のなかで、音楽を作り、それを聴いてくれた人がいたことで、嫌いな自分や苦しさ、悔しさが昇華される思いもあったという。「こうしてやってこれたのもみんなのおかげです」。熱く語りかける言葉に、この日いちばんの拍手が起こった。そしてこの7年を支えてくれた家族や友人、スタッフ、バンドメンバーにも改めて感謝を伝え、「7年間、ありがとうございました」という言葉で「Last Song」へと突入した。ステージ後方からは、バンドを、向井太一を押し出していくような強い光が放たれる。オープニングのときとも似て、さらに神聖な光が、そのサウンドに、歌にシンクロして明滅する。“まだ、まだこの道は続く”。リフレインするそのフレーズは、力強く、また同時にどこか憂いも帯びていて、よりエモーショナルに響く。観客が息を呑むようにしてその空間に浸るなか、演奏終わりとともに会場が真っ暗な闇とスモークに包まれた。





徐々に明るくなるなかステージには紙吹雪のようにテープが舞っていた(このテープにはTAILと記されていた)。『THE LAST』と冠されたアルバム、そして同名のツアーということで、どこか不安な気持ちも抱えて来場した人もきっと多かったと思う。ステージで直接語られることはなかったが、再び新たな光のもと生まれ変わっていくような「Last Song」での演出、その恍惚感に包まれながら会場を出るとそこには“TAIL”のポスターが掲示され、フライヤーが撒かれるなど、サプライズな仕掛けが施された。同日21時には、このツアーを以て向井太一としての活動を終了し、TAIL(テイル)に改名し新たなスタートを切ること、そして新ビジュアルやロゴ、ティーザームービーが公開となった。








7年間の集大成をひとつのステージへと色鮮やかに織り上げ、その物語をエンターテイナーとして自ら表現していく。その心意気と、しっかりピリオドを打ったこの先への期待感を感じるツアー・ファイナルとなった。

文:吉羽さおり
撮影:鳥居洋介

  ◆  ◆  ◆

セットリスト

向井太一<THE LAST TOUR>
2023年11月26日 豊洲PIT

01. 道
02. 僕のままで
03. Celebrate!
04. Crazy
05. Break up
06. Siren
07. Love Is Life
08. HERO
09. Blue
10. 24
11. 君にキスして
12. Young & Free
13. Shut it Down
14. 99'
15. 空
<アンコール>
16. SLOW DOWN
17. リセット
18. Last Song

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