【インタビュー】HELL FREEZES OVER、1stアルバム『HELLRAISER』に詰まった“こだわり”の正体とは?

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■フィルムで撮った事実だけじゃなく
■それ以上のものが撮れた気がする

──そしてすでに公開になっているビデオ・クリップも、フィルムで撮影されたものだそうで。こちらにもこだわりを感じさせられますが。

RYOTO:実は俺、ビデオ・クリップを撮りたくなかったんです。好きじゃないんで。なんか、見る側には面白いものなのかもしれないけど、それによって曲の世界観が限定されるような気がしてしまって。

──つまり、映像が歌詞の答え合わせみたいになってしまうことが?

RYOTO:そういうことです。あくまで聴き手が自分の頭の中で映像を作ってくれるのがベストだと思ってますし、そういう理由もあってあんまり作りたくはなかったんですけど、やっぱりこれについてもストリーミング・ライヴと同じで、今の時代、プロモーションしていくうえで映像が不可欠なわけですよね。それがないとフィールドに上がることすらできないみたいなところがある。だから“よし、やろう。だけど普通にはやりたくない”と思ったんです。最初、監督とかとの話し合いの場を持った時にも、「映画の『イージーライダー』みたいなフィルム独特の質感っていいですよね」みたいな話になって。そこで最初のうちは監督も、「まあ、そういう感じにもできますけどね」みたいな感じで曖昧に答えてたんですけど……

──それはきっと“フィルムっぽく加工する”という意味ですよね?

RYOTO:おそらく。ところがしばらく考えた後で監督のほうから「フィルムでやっちゃおう!」という言葉が出てきて。その瞬間はこっちも“わっ!”と思いましたけど、そのミーティングの場にいた全員がだんだん盛り上がってきちゃって(笑)。なんか、それによって自分のなかで、一段階進めたような感覚があったんです。

──ただ、フィルムでの撮影となると、アナログ録音でテープに録るのと同じように費用もかかりますよね。撮影費用の見積もりが出てきた時には目ん玉飛び出たんじゃないですか?

RYOTO:はい(笑)。「フィルム代だけでも、当初の見積もり額まで行っちゃいますよ。それでもいいですか?」みたいな(笑)。


──それでも結果、決行することにした。撮影自体は、いわゆるデジタル撮影の場合とさほど変わらないわけですか?

GAINER:というか、撮影自体の経験がないから、何がどう違うのかがわかんないんですよ(笑)。でも、今にして思えば、ストリーミング・ライヴの時にビデオ・カメラで撮られてる時とはなんか違ってたし、そもそも撮影規模の違いというのもあって。ストリーミング・ライヴは結局、ハコ(=ライヴハウス等)の中でやって、スタッフも結構少人数なんですけど、あの映像を撮った時は、ちゃんと広い場所を用意して、小道具とかも手配して、しっかりセットしたうえでやってるんで。だからストリーミング・ライヴの撮影を基準に考えれば、あれって異常だったんだなと思う(笑)。

RYOTO:まず何よりカメラの手配が大変でした。監督さんがいろんな会社に頭下げて頼んでくれた結果、ようやく借りられたのが1台だけで。だから実質、カメラ1台で撮ってるんです。それでいろんなテイクを撮って、繋ぎ合わせてくれて。しかもテイク数もフィルムの都合上さほど増やせない。だから撮影前に言われたのは「もし誰かがコケてもそのまま撮り続けますから、その覚悟で」ということでした(笑)。でも、仕上がりには大満足です。

──思っていた通りの仕上がりになっていたわけですね?

RYOTO:いや、想像してた以上ですね。監督はCMとかも撮られてる方なんですけど、こっちから何か言わなくても期待以上のものが返ってくる感じで、一緒に仕事してみて驚かされました。フィルムで撮ったという事実だけが残るんじゃなくて、それ以上のものが撮れた気がするし、何より監督の心意気も感じたし。作業上のやり取りを通じてすごく納得できたし、この人は信用できるな、と思ったんです。信念をちゃんと持ってるというか。しかも監督自身も「最近やった仕事でいちばん楽しかった」と言ってくれて。なんかお互いが挑戦できたビデオ・クリップになったと思うんです。

GAINER:挑戦するしかなかったからね。なにしろ初めてだったから(笑)。

RYOTO:初めての撮影なのに、無茶なことばっか言って。

──よくわかってもいないくせに無理難題ばかり吹っ掛けやがって、というのが監督さんの本音だったかもしれません(笑)。

RYOTO:多分そうなんですよ。でも同時に、やりたくてしょうがない、みたいな気持ちが伝わってきて。

▲『HELLRAISER』

──その監督さんにしろ、レコーディングのエンジニアさんにしろ、いまどきなかなかやる機会のないことをやれるチャンスというのを、諦め半分で待っていたようなところがあったのかもしれませんね。だからこそ発注通りにやるだけじゃなくアイデアを投げ返したくなる。そして結果、バンド側が想定していた以上の結果になった。アートワークについてもそこは同じですか?

RYOTO:そっちもそっちで、結構揉めました(笑)。自分のなかに明確な原案というのはなかったんですけど、手描きのもので行きたいっていうヴィジョンだけはあったんです。そこで、絵師探しから始めることになった。仲良くしてるGAME OVERっていうイタリアの若いバンドから紹介してもらったりもしたんですけど、やっぱり手描きとなると金額的にも折り合わなかったり。あと、ありがちって言うと語弊があるでしょうけど、既存のメタル系のデザインとして確立されたものってあるじゃないですか。それとは違うことをしたいっていうのがあって。しかもあんまり手描きでやってる人もいないんで、当初は美大生とかを当たってたんです。それでもなかなか見つからなくて、知り合いのパンクスの人のつてで紹介された人から、岡山にハードコアが大好きで手描きでしか絵を描かない人がいるという情報をもらって。専門学校の先生をやってらっしゃる方なんですけど、なんとかその方に辿り着いて、まず手始めにTシャツ用に描いてもらったら、これがすごくて。それで後日、マネージャーと一緒に岡山まで会いに行ったんです。こっちの求めるものをわかってもらうために、参考資料としてレコードとか本とかたくさん持参して。その方はメタルの知識はまったくないんですけど、だからこそ逆にすごくフラットな感じでもあって。

──メタル作品の典型みたいな作風にはなりにくいわけですね。

RYOTO:そうなんですよね。しかもアルバムの音源を送ったらめちゃくちゃ聴き込んでくれてて。しかも仕事として描くというよりは、音楽に自分から飛び込んでみて、そこでバンドには具現化できないものを掴んできてそれを描く、という素晴らしい創作スタンスの方で。正直、俺にはぼんやりとしたイメージしかなくて、それを岡山で説明しながら不明瞭なまま発注した形ではあったんですけど、それが結果的にここまでのものになったのは、まさにその絵師さんのおかげでしかなくて。

──このジャケットに描かれているキャラクターも含め、具体的な注文をしたわけではなかったんですね?

RYOTO:ほとんどしてないですね。というのも、任せたいっていう気持ちがかなり強かったので。自分からあれこれ言っても良かったんですけど、むしろそこに客観的な視点が欲しかったというか。俺にはその絵師さんが、それを求めるに足る方だなと思えたんです。クリエイティヴィティ面でも、責任感の面でも、俺たちに愛情をもって接してくださるところについても。

GAINER:この絵を見た時、なんか具体的な理由からじゃなく、直感的に“これがいい!”と思えたんです。細かいことは抜きにして。やっぱこういうのって、感覚がいちばん大事だと思うし、お願いして良かったなって思いますね。

RYOTO:いいジャケットって、アルバムを聴きながらその世界に入っていけるものだと俺は思うんですよ。たとえばアイアン・メイデンの『キラーズ』なんかもそうですよね。あそこに描かれてる街の、ずっと奥まで入っていけるような世界感がある。実際、その『キラーズ』も資料として持って行ったんですけど。

──なんかそれは納得できます。『キラーズ』に通ずる雰囲気もあるし、ちょっとダーク・スターのアルバム・カヴァーを思い出させるところもあって。

RYOTO:確かそれも持参しました(笑)。

──この裏通りっぽい空気感というのが大事だったんだろうな、と思わされます。

RYOTO:はい。やっぱ自分たちは、ストリート感のあるメタル・バンドだと思ってるんで。ジューダス・プリーストとかとはちょっと違った、ストリート感があってスポーティな感じ。その絵師さんからもそういう指摘があって、実際その通りだな、と思いました。このキャラクターが被ってるヘルメットもそのスポーティさの現われかも。

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