【インタビュー】ゆきみ、初ソロ作品に込めた2つの約束

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■2つの意味があります

──8月から配信が始まっている1st DEMO「オーバーチュアと約束」ですが、この作品はクラウドファンディングを行って制作されたそうですね。

ゆきみ:はい。ひとりだったらできないけど、いろんな方にサポートしてもらえばできることがあると考えた時に、クラウドファンディングという形が私にはぴったりだなと思ったんです。(事務所などに所属せず)ひとりでやっているので資金面が一番大きなところではあるんですが、できないところはいろんな人に頼って、やりたいことを全部やろうっていう思考はすでにできていたので、すごくナチュラルに、見えた道を進んで行ったという感じでした。作品の内容などに関しては、そのあとから考えていきました。

──作品を作るにあたっては、バンドの時とソロになってからの違いみたいなところも意識されたんですか?

ゆきみ:そこは特に思いませんでした。もともとバンドと並行してピアノの弾き語りでライブをしていたので、その時にしか歌わない曲というのがいくつかあるんですね。まだ日の目を浴びていない曲達が水面から顔を出すような機会を作りたいなというのは前々から思っていましたから、今まさにそのタイミングが来たような感じというか。だから違いを出そうというよりは、今までやってきてまだ外に出て行けていなかったものを出そうというような思いでしたね。

──その結果、この4曲に。

ゆきみ:最終的にはやはりあいくれのボーカルとしてという部分があるので、そこに向かって、ひとりになっていく私が私らしいものとして見せていける4曲はどれだろうという選び方をしました。この4曲で、はじまりみたいなものが表現できたらいいなというのはありましたね。



──今「はじまり」という言葉がありましたが、今回のタイトルである「オーバーチュアと約束」の「オーバーチュア」には、序章という意味がありますね。

ゆきみ:私はもともとクラシックをやってきた人間で、バンドの中にもあったと思うんですが、ひとりになってより濃くなるそのクラシックという自分のルーツを入れたいなというのがあったんです。4歳からクラシックのピアノをやってきたんですが、自分の中でやはりそこが音楽の基盤になっているので。

──このタイトルは、収録する曲が決まってから付けたんですか?

ゆきみ:おそらくそうだったと思います。最初にソロとしての第一歩の音源に何の曲を入れようかなと思ってこの4曲を選んだんですが、じゃあこの4曲のタイトルは?という順番だった気がします。

▲ゆきみ/「オーバーチュアと約束」

──ではそれぞれの楽曲について伺ってみたいと思います。1曲目の「今日を生きる」は、ピアノでも他の楽器でもなく、まずゆきみさんの声だけで始まります。ここにも、ソロとしての決意というか所信が表れているように思いました。

ゆきみ:そうですね。1曲目は歌で始めたいというのはありました。この曲は2年ほど前に作ったものなんですが、祖母をイメージして書いたんです。もう亡くなったんですが、祖母は家の中で過ごすことが多かったので毎日毎日が同じなんじゃないかなって思うことがあったんですね。でもそうじゃない、絶対に何か違うことがあるっていうところに目を向けながら祖母は生きているように見えたので、それをどうにか切り取って形にしようと思ったんです。

──この曲はピアノがメインになっていますが、今回ソロとして楽曲を作るにあたって、アレンジの面などはどんな風に構築していったんですか?

ゆきみ:基本的にバンドの時は0から1を私がやって、メンバーが1を100にするみたいなやり方が多かったんですが、今回は0から100まで自分。「今日を生きる」も、全部自分で考えました。この曲はポップスとしてはちょっと変わった構成で、Aメロ、Bメロ、サビみたいなことではなく、ひとつのセクションが4回繰り返されるんです。朝、昼、夕、晩という時間の経過を、歌でもやりたかったしピアノでもやりたかったので、その両方が流れていく1日の景色に寄り添うように意識しましたね。

──なるほど。

ゆきみ:バンドの曲に関してもピアノを最初に作って、それにサポートメンバーの音を重ねていってもらうという作り方でした。3曲目の「アーモンドとチョコレート」だけは打ち込みなんですが、まず私がピアノの弾き語りで作ったデモをお送りして、トラックを作ってもらいました。なのでこれは自分ではなく、完全にアレンジしていただいた曲です。こういう打ち込みの曲はバンドではできないことなので、ソロだからこその1曲かもしれないですね。

──「アーモンドとチョコレート」は、いわゆるラブソング的な立ち位置ですか。

ゆきみ:そうですね。普段、あまりラブソングは書かないんです。でもこの曲では、ときめいたりしている若いカップルの歌ではなく、どちらかというと静かな、心の底で敬愛しているみたいなものを表現したくて。会いたくてたまらないとか燃え上がる恋というよりは、会えなくても構わないみたいなところを書いています。

──深いですね…。ゆきみさんご自身の恋愛観も、もうその域に達しているんでしょうか(笑)。

ゆきみ:そう…ですねぇ(笑)。「アーモンドとチョコレート」に関しては、私が心の中で思ったものが結構入っている気がします。ただただ尊敬する愛の歌というのを作りたかったんです。ちなみにこの曲に関しては、歌詞を全部12文字で揃えようというのがあったんです。タイトルも12文字、歌詞も全部12文字になっているんですよ。

──そんな仕掛けが!…ひょっとして「猫には三角の耳がついている」は「三角」だから三拍子にしたとか、そういう裏テーマがあったりしますか!?

ゆきみ:それはなかった気がします(笑)。作ったのが昔過ぎて、あまり覚えてないですが。

──深読みをし過ぎました(笑)。その「猫には三角の耳がついている」という曲は、エモーショナルなバンドアレンジのバージョンと、ピアノの弾き語りバージョン(※CDのボーナストラック)がありますね。

ゆきみ:この曲は私の中で、ソロをやる上で1枚目のCDに入っていなくてはいけない曲だったんです。それくらい、私の中の基盤になっている曲。タイトルには「猫」とありますが、結局歌っているのは人間として生まれたところで、そこについて考えに考えてできたのが私の主軸となるこの歌だったんです。

──きっと、ライブでも大切に歌ってこられた曲なんでしょうね。

ゆきみ:はい。ソロのライブの時は、ほとんどと言っていいくらい歌っています。ライブではもうちょっと跳ねた猫ちゃんの感じを表現したピアノのアレンジになっているんですが、今回せっかくCDのボーナストラックとして入れるんだったらということで、ピアノも全部変えてみました。ここだけのアレンジになっています。

──「人間なんてくだらない でも人間だって悪くない」という言葉も印象的でした。

ゆきみ:それこそ学生の頃って、女性ならではの面倒臭いことっていろいろあったじゃないですか。男の子だったらケンカして決着つきそうなことでも、女性はネチネチした感じになったりして本当に面倒だなって思うことがたくさんあった(笑)。でも、本当に素敵だなって思える人に出会える瞬間もたくさんあったりして、「嫌だな、人間って」と「人間って素晴らしいな!」をずっと繰り返して生きてきたんです。そういうところをちゃんと1曲にできたなという実感が私の中にあったので、この曲は絶対にソロの1枚目に入れたいと思っていんですよね。

──4曲目の「白いダリア」は、この中だと比較的新しい曲だそうですね。

ゆきみ:はい。人生のどん底と言っても過言ではなかった時期があって、たぶんまだそこにいたんですが、目線はもうかなり上を見ていたその瞬間に書いた曲です。苦しいこともあったけど、その経験があったから今こういう風に思えている、というのがこの曲で表現したかったこと。苦しかった日や、苦しい経験をさせてくれた人間に対して、「何でこんな思いをしなきゃいけないんだ」じゃなく、「こういう経験をさせてくれてありがとう」にしたかったんですよね。

──白いダリアの花言葉は「感謝」ということですが、立ち直れないくらいの辛さや悲しみを味わった人じゃないとこういう発想にはならない気がします。余計なことかもしれませんが、歌っていて泣きそうになることはないですか?

ゆきみ:ライブだと、結構グッと来ちゃいます。やっぱり、思い出すこともありますし。今ここで歌えていて、聴いてくれている人達がいるということを思うと、また胸が熱くなったりもします。

──曲のラストに出てくる「あなたがここに居ること それがこたえになっていく」というフレーズは、この曲を、そしてこのCDをお聴きになった方それぞれが自分の人生や経験と照らし合わせて受け止めるんだろうなと思いました。

ゆきみ:それこそ離れていった人間や疎遠になってしまった人間もいますが、今そばにいてくれている人達が、私が今まで生きてきた人生の答えなんだなというその気持ちを込めました。なんとなくこの曲が聴けてよかったなでも、そばにあってよかった、BGMとしてよかったでも何でもいいんですが、そういう人の元にもこの曲が届くということが私はすごく嬉しいです。

──改めて、このソロとしての素晴らしい4曲をたくさんの方に聴いていただき、同時にあいくれの再開も心待ちにしていただきたいなと思いました。

ゆきみ:「バンドはなんとなく知っていたけど、ソロになったんだ。じゃあ聴いてみよう」でも、今回のソロからでもいいんですが、このソロとしての活動がまた新しい入り口になればいいなと思います。そして、もしまたバンドでステージに立てた時にその人達が同じ場所にいてくれるのであれば、こんな素晴らしいドラマはないなと思いますね。


──今作のタイトル「オーバーチュアと約束」の「約束」には、この先にある再開や再会のための約束というようなニュアンスもあったりするんでしょうか。

ゆきみ:自分の中には2つの意味があります。ひとつは自分自身との約束。バンドを一度お休みするという決断をしたのは私なので、自分が思ったものを裏切らないという約束です。もうひとつはメンバーに対してというか、メンバーとの約束。絶対に面と向かって本人達には言わないですが(笑)、私は彼らのことを本当に大事に思っているんですね。彼らと出会えたからこそ私は今ここにいるので、このソロの道の先にまたバンドがあって、その時に前よりももっともっと素敵な景色を見せたいというか、一緒に見ようっていう約束ですね。私の勝手な、メンバーに対しての思いみたいな約束です。

──では今後についてですが、ライブに関してはもう少し先になりそうですか。

ゆきみ:これまでもソロで弾き語りはやっていましたが、やっぱりこうやってちゃんと始動してからの1回目のライブは大事にしたいなという思いが強いので、お待たせしてしまうのは心苦しいですが、できればもう少し落ち着いてから大きくやりたいなと思うんです。やはりライブは生なので、それを見て欲しいなって気持ちが強いですから。

──その日を楽しみにしたいと思います。最後に、ファンの方や読者の皆さんへのメッセージがあればぜひ聞かせてください。

ゆきみ:これまでずっとバンドのボーカルとしてだけ活動してきましたが、ひとりになって、新しいことを始めようとしているタイミングで本当にたくさんの方に支援していただきました。今伝えたいことは、本当に「ありがとう」しかありません。ここからまた私はその先へ向けての道を作って歩いて行くので、どこかでまた人生が交差する日──音楽を聴いてもらえたり、ライブで会える日が来ることを目指して、活動を続けていきたいと思っています。

取材・文◎山田邦子

1st DEMO「オーバーチュアと約束」

2020年8月12日(水)配信リリース
[収録曲]
01. 今日を生きる
02. 猫には三角の耳がついている
03. アーモンドとチョコレート
04. 白いダリア
※CDにはボーナストラック「猫には三角の耳がついている (piano ver.)」を収録

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