【インタビュー】松尾太陽、ミニアルバム『うたうたい』は心から音楽を愛する男からのメッセージ
■僕のソロ活動によって前向きになって
■喜びを分かち合える存在になりたい
――「掌(てのひら)」は作詞作曲に松尾太陽、共同作曲に山口寛雄という、自作のオリジナルチューンです。
松尾:山口寛雄さんは、僕の音楽の先生のような方です。曲としては、去年の9月のソロライブ『Utautai』で歌った楽曲をブラッシュアップしたもので、歌詞も全部変えています。あの時はあの時で伝えたいことがあったんですけど、1年の間にいろいろなことがあったなということも加味した上で歌詞を変えさせていただきました。
――「夜行バスの窓からいつも見ている景色」から始まって、「僕は都会(ここ)で生きていく」というサビまで。リアルな物語が見えてきますね。
松尾:そうですね。誰かが聴いてくれた時に、少しでも励みになるような応援歌にしたい気持ちがあったのと、自分自身の実体験を伝えたい気持ちもあったので。自分が毎週のように夜行バスで東京に通っていた時期とか、高校を卒業して上京する決心をした時の気持ちも入れているし、それに加えて、これから上京する人や、新しいことを始める人や、新しい景色を見る人の背中を少しでも押せる曲になればいいなと思って書いたところはあります。僕、まだ上京もしていない頃は、テレビで渋谷のスクランブル交差点とかを見ていたわけですけど、実際にはないものだと思っていたんですよ。
――あー。架空の街みたいな。
松尾:実際に東京を見たことがなかったので、渋谷って本当にあるの?って。それで小学生の頃に観光で渋谷に来た時に、「でかっ」「人、多っ」と思ったんですね。その時の感動は忘れられないです。普段渋谷を通っている人は、当たり前のように見ている景色だと思うんですけど、僕にとってはすごく大きなものに感じたし、ここにいろんな頑張っている人がいるんだみたいな、そう思ったことを思い出したりして。そこで「僕は都会(ここ)で生きていく」ということに対する重みを感じたので、それを書かせてもらおうと思いました。
――「夢を諦めないで/太陽が味方だから」。これってつまり「ぼくが味方だから」ということでもある。
松尾:それもありますね。ダブルミーニングで、僕のことでもあるし、どんなに雲が厚くても雨が降っても、太陽はいつもいてくれるじゃないですか。ちっちゃい頃に不思議に思ったことがあって、太陽や月って、歩いても歩いてもついてくるじゃないですか。どれだけ走ってもついてくるから、「すごいなと」と思ったんですよ、5歳ぐらいの時に。
――それはとても、感受性が豊かな子ですよ。
松尾:そんなふうに、太陽という存在は常日頃見守ってくれている。そういう意味もありますね。
――いい曲です。そして4曲目「Sorrow」はアルバムのリード曲で、作詞作曲はVaundy。20歳にして大注目の新進気鋭アーティストですね。
松尾:すごく爽やかな曲だし、サビも突き抜けるところまで突き抜けているし、清涼感のある楽曲なんですけど、タイトルが「Sorrow」(悲しみ)ということで、悲しみを乗り越えた先にある幸せとか、笑顔とか、そういったものを描いている曲でもあるので。内容としては、みんなにエールを送る曲ではあるんですけど、もっと人間ぽさがある応援歌だなと思いましたね。「前を向こう、大丈夫だ」という情熱的なポジティブソングもアリですけど、それが「Sorrow」というタイトルだと、曲に対する深みが増していいなと思います。
――曲の最後、思い切り声を張り上げるロングトーンがかっこいい。聴きどころだなと。
松尾:ありがとうございます。うれしいな。
――Vaundyの作るポップスは、言葉も詰まっているし、メロディの抑揚も細かいし、たとえば「The Brand New Way」のノスタルジックなポップス感覚とはまた違いますよね。そこが作曲家の世代の差や、時代の差だなと思って、並べて聴くとすごく面白かった。
松尾:Vaundyさんもいろんな曲を出している中で、たとえば「東京フラッシュ」とか、シティポップなんだけど、令和バージョンのネオシティポップという感じの楽曲も出しているので。こうしてレコーディングをする中で、僕よりも年下の方に楽曲提供をしてもらったことは、新時代に入ったなということをあらためて感じた瞬間でもありましたね。
――そして5曲目は、これも大注目の新進バンド、She Her Her Hersの提供による「libra」。ガラリとムードが変わって、クールなEDMポップ系のかっこいい曲。
松尾:リード曲ではないけれど、アルバムの中にいるからこそ出せるかっこよさをこの曲には感じますね。今まで紹介した前半の曲は、わりと明るめだったり、色で言うとパステルカラーとか、雲一つない青空とか、そういったイメージだったんですけど、ここで一気に夜に変わります。夜とか、底が見えない深い海とかを僕はイメージしました。かなり異端なジャンルではあると思うんですよ。僕自身が超特急で活動している中で、こういうジャンルに出会ったことがないので、すごく勉強になりました。
――歌い方も波に揺られるようで、心地よくて、個人的にすごく好きな曲ですね。
松尾:この曲の中では、完全に漂流している感じですね。海にただ流されてしまおうという感じ。そして目を開けると、ただ真っ暗な空が見える。そんなイメージが、逆にきれいだなと思ったりします。
――そして最後の曲、6曲目が「Hello」。これは作詞がノマアキコ、作曲が山口寛雄の、プロフェッショナルな作家コンビ。ヒップホップを感じるトラックで、ちょっとラップっぽい節回しが新鮮だなと思いましたね。
松尾:新しいですね。J-POPと洋楽のハイブリッドを目指した感じもあるので、歌う時も、朝昼夜を問わず、いろんな状況に似合う曲にしたいと思っていました。個人的には朝に聴くのが好きですけど、それは個人の好みでいいと思うし、どこでも合うと思いますよ。
――という、全6曲。本当に良い曲が集まったと思うし、良い人が集まっている、良いヴァイブスがしますね。
松尾:本当に恵まれた環境にいるなとあらためて思いますね。
――それともう1曲、CDには未収録の「Re」という曲は、デジタルアルバム限定で収録なんですよね。
松尾:そうです。これもShe Her Her Hersさんが作ってくださった曲で、「Re」というタイトルなので、リバイバルとかリスタートとか、まさにそういう意味で、過去のことは変えられないけど、これからの未来は自分自身で切り開いていくことができる、ということも歌っています。曲調は今までに歌ってきていないタイプなので面白いと思いましたし、この曲の情景として思い浮かんだのが、海外の映画とかで、芸術的なジャンルの映画ってあるじゃないですか。
――ストーリーものというよりは、アーティスティックで抽象的な感じの。
松尾:そういった感じを思い浮かべて、きれいなお花畑の映像なんだけど、画面にノイズが走っているとか、そういうイメージがあったので。レコーディングの時も、それを意識して歌いました。
――イメージ先行タイプですね。ソロボーカリストとしての太陽くんのスタンスは。
松尾:僕はそのほうがやりやすいんです。
――この1枚を作り終えて、ボーカリストとして相当成長した実感があるんじゃないですか。
松尾:そうですね。レコーディングを通してもそうですし、制作から携わらせてもらって思うことは…成長というよりはいろいろ勉強になって、自分のためになっているなということを感じます。成長はこれからもしていきたいですけど、そこに関してはあまり自覚をしたくない人なんですよね。それが自分にとって勘違いや過信につながる可能性があるというか、普通にそういうことがあんまり得意じゃないので。「あの人、天狗になっているな」と思われるのも嫌だし、将来もそうなりたくないんです。それを抜きにしても、いろんな方が集まってくれて、いろんな曲に触れることができて、確実に僕の実になっているなと思います。
――このミニアルバムは、もちろん超特急のファンは聴くだろうけど、それ以外の人にももっと届けたいという野心はある?
松尾:もちろんそうですね。もっと多くの人に聴いてほしいという気持ちはめちゃくちゃありますし、なぜソロデビューをさせてもらったか?というのも、たくさんいろんなエンタテインメントが、想像以上には身動きが取れない状況になっている中で、ライブもできないし、これから長い付き合いになる可能性も大なわけで。超特急を通していろんなエンタテインメントを考えることは、これからもずっとやっていきたいですけど、僕がソロ活動をすることによって、少しでもエンタテインメントを通して前向きになって、喜びを分かち合える存在になれたらと思ったんですね。
――頼もしいです。
松尾:ソロデビューしてみないか?という話になった時に、やってみたいなとは思ったんですけど、そこまで決心はついていなかった部分もあって。でも緊急事態宣言とかがあった中で、自分のことよりも周りのことを優先したほうがいいと思って、少しでも喜んでくれる人がいるならそのためにやりたいと思って、ソロデビューしてみたいと思ったんです。
――2020年の夏にデビューするというのは、一つの運命じゃないですか。
松尾:そうですね。忘れられない年になると思うので、でもそれが悲しい思い出だけじゃなくて、少しでも良い思い出を作ってもらいたいと思うので、この決断は自分の中で間違ってはいなかったなと思います。
取材・文●宮本英夫
リリース情報
発売日: 2020年9月2日
品番: ZXRC-2069 / POS: 4582465227117
価格: 2,300円(税抜) / 2,530円(税込)
楽曲:
M1: mellow.P
M2: The Brand New Way
M3: 掌
M4: Sorrow
M5: libra
M6: Hello
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