【インタビュー】秦 基博、特番『LIVE SPECIAL』放送前に語る「“自分がライブを作る”ということ」
秦 基博が、繊細で叙情性あふれる歌声を誇る稀有なシンガーであり、また聴き手の心のヒダを震わせる優美なメロディを作る優れたシンガーソングライターであることは、多くの音楽ファンが知るところだろう。ここではそれに加え、彼はそうした歌たちをさまざまな形で聴き手に届ける能力に秀でたライブパフォーマーであることを強調したい。アマチュアの頃から大切にし続けている弾き語りというスタイルはもちろん、バンドと一緒に高らかに叫ぶことも、また曲の世界を反映した演出とともに唄うこともある秦のライブには、世代やジャンルの好みを超え、多くの人々が楽しめるような魅力がある。
◆秦 基博 画像 / 動画
今回、WOWOWで、『秦 基博 LIVE SPECIAL』と銘打ち、彼が過去に行った3つのコンサートの映像プログラムが特集される。その3本は2010年から数年ごとのもので、しかもそれぞれに趣向が異なることから、ライブの場での秦の成長と進化と、その多角的な味わいが確認できるはずだ。そしてそこではもちろん「鱗 (うろこ)」や「アイ」、「ひまわりの約束」といった代表曲も網羅されている。
ここでは秦にそれぞれのライブを振り返りながら、その時々に目指していたことや思い出などを語ってもらった。このインタビューと今回の特集番組を重ねていただければ、彼のライブの魅力がいっそう深く楽しめるに違いない。そして最後には、新境地を切り開いたとも言える最新アルバム『コペルニクス』を発表して以降の近況についても聞いた。いつもの優しい話しぶりで、とてもフラットに、ナチュラルに語ってくれた秦だった。
◆ ◆ ◆
■2010年の<GREEN MIND>から増えたセッション
■自由さにトライしたライブシリーズです
──今日は番組の話をしながら、その時々の秦くんのライブについてお聞きしようと思います。よろしくお願いします。
秦:はい。よろしくお願いします。
──今回放送されるライブを時系列で並べると、まず最初は『秦 基博 GREEN MIND 2010 ~at 河口湖ステラシアター~』になります。<GREEN MIND>は秦くんが行っているアコースティックライブで、その3年目となったこの2010年は野外公演になりました。どんな思い出がありますか?
秦:そうですね、この時のツアーは4ヵ所だったんですけど、全箇所野外で、すごくハッピーだったことを覚えてます (※北海道・札幌、長崎・稲佐山、奈良・明日香村、そして山梨・河口湖で敢行)。アコースティックというのもあって、正直、“雨に降られたら終わるな”と思ってたんですよ。雨が降った時の野外のアコースティックって、バンドでドーン、というのがないとけっこう大変なんです。それが4ヵ所、全部晴れて。札幌なんて「もしかしたら雪が残ってて寒いかも」と言われてたんですけど、すごく晴れました。だから当日の朝起きるたびに“ほぼ勝ったな”と思えてるぐらい(笑)、いい状態でライブしてましたね。
秦:あ、ほんとですか(笑)? で、この頃は“アコースティックという縛りの中で何ができるのかな”ということをすごく考えてた時期で、2010年は大きな振り幅の中でセットリストを組んだ年だったと思うんです。最初の<GREEN MIND>をやった2008年はほとんどひとりで演奏して、何曲かでピアノとチェロの方に参加してもらったぐらいでした。その翌年の2009年は、もう完全にひとりで。そしてこの2010年に関してはバンドに入ってもらいつつのアコースティックという構成で……“アコースティックと言いながら何ができるか”にトライした時でしたね。そういう意味でのセッションとかの楽しさはありました。
──バンドでは、ギターの久保田光太郎さんをフィーチャーしていますね。
秦:そうですね。バンマスの光太郎さんと一緒に作り上げていくような、それこそアレンジだったりで自分が“こんなふうにしたい”ということを形にしてもらうことが多かったかもしれないです。それから、フリーな場所を作ろうとしましたね。それまではバンドアレンジとしてしっかり作り込んでからライブに臨むことが多かったんですけど、この2010年の<GREEN MIND>ぐらいからセッションというか、あまり決めていないところが増えていって。イントロの長さとか、どこから曲に入ってどこで終わる、みたいなことを決めてないのも何曲かありました。あと、弾き語りでどの曲を演奏するかもその日に決めてたんですよ。日替わりメニューにして、その場で「これ、やろうかな」みたいな。そういう自由さみたいなことにトライしていったライブシリーズで、それのファイナルというのもあって、いろんなことがかみ合ってた気がします。自由だけど、みんなの意志とかも……“今だな”という演奏のタイミングがわかったり。そういう充実度はすごく感じてました。
──番組内で、その自由であることも<GREEN MIND>のテーマであるという話をされています。
秦:うん、それまでの自分にとってはチャレンジングなことではあったので、それがあったんだろうなと思います。
──演出としては、ライブの後半で、舞台後方の壁が開いて、富士山がドーンと出てくるところがすごいですよね。
秦:そうですね(笑)、あれはステラシアターだからできる演出なので。その演出に合うように「色彩」はあの時だけやったんじゃないかな? ほかの3ヵ所のライブではやってないと思います。後ろが開くっていうから、じゃあ「色彩」かな?って。
──現場で見てても、これはすごい光景だな!と思いました。<GREEN MIND>というコンサートの名前で、それも緑に囲まれた状況で、あの景色ですから。
秦:そうですよね、うん。それも富士が見えてるか見えてないかは、天気に影響されるので。そういう意味では良かったですね。
──そもそも<GREEN MIND>というライブの名前は、みどりの日からつけたわけですよね。
秦:はい。それまでの自分の活動サイクル的に、秋・冬にアルバムを出してツアーをやることが多かったんですよ。だからその対角になる初夏とかにアコースティックなライブができたらいいんじゃないか、と。だったら5月4日をアコースティックライブをやる日と決めて、もし毎年恒例になっていくなら、来てくださる方たちも“来年の5月4日、空けとこうかな”といろいろ都合をつけやすいんじゃないかな、みたいなのがあって。それで、みどりの日がいいんじゃない?というところから<GREEN MIND>という言葉になっていきましたね。
──秦くんの<GREEN MIND>はその後も行われていきましたが、やはりこのライブで得てきたものは大きいですか?
秦:すごくありますね。毎年テーマがあって……2010年は自由ということでしたけど、その前年は2時間ひとりでやりきることで。それまではバンドがいたり、弾き語りでもステージを30分から40分やることしかなかったんですけど、その2009年は2時間をひとりでやりきることを20本くらいやったんです。もう武者修行みたいでしたね。それによってライブのかけひきというか、どうやって作り上げていくかというペースみたいなものを自分なりにつかむことができたと思います。手綱をちょっとゆるめたり、引き締めたり、弾き語りの曲調だったり、ペースだったり、イントロの長さだったり、MCだったりで作っていくという。で、弾き語りだけどアゲてく、とか。アコースティックだから静かなところはもともと得意だけど、その2009年にはアコギでビートをどう出すか、みたいなことをトライしたんですよ。そういうものがどんどん積み重なっていって、毎年の<GREEN MIND>のテーマみたいなものが自分の糧になっていきました。だから“のんびり、フラッとやろう”って立ち上げたはずのライブだったんですけど、最初の4〜5年は毎回すごくシビアな挑戦してる、みたいな感覚でした。それもある程度やって、自分の弾き語りやアコースティックのスタイルができてからは、もともとの、のんびりゆっくりやるライブになっていったんですけどね。そういう意味でも、すごく大事でした。
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