【インタビュー】ヤユヨ「わたしたち、普通の大学生なんですよ」

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■聴く人を縛りたくない

──ソングライターであるリコさんもぺっぺさんも、楽曲の題材は“日常”がキーワードになっていますが、その理由とは?

リコ:最初、どうやって曲を作ったらいいのかわからなくて、なにを題材にしようか考えているなかで“今年経験していちばんつらかったことを書こう”と思って。それが「さよなら前夜」なんです。それから自分がふだん見ているもの、感じていることを歌詞に乗せるスタイルが自分には合ってるんじゃないかなって。あと、日常を歌った曲はわたし以外のほかの誰かに共通するものがあるかもしれない。それもすごくいいなと思うんです。自分が好きな曲も詞に共感できるものがほとんどなので、そう思ってもらえるものを書きたいなって思ってます。

ぺっぺ:自分の見たことや感じたこと、経験したことをわかりやすく言葉にして伝えられる題材は“日常”しかないなと思うんです。……あ、でも「メアリーちゃん」は自分の日常ちゃうなあ(笑)。

──ぺっぺさんが作詞作曲をした「メアリーちゃん」は、主人公像を綿密に考えたうえでお書きになったものなんですよね。

ぺっぺ:その日常は現実のものでも想像の世界のものでもいいんです。“限定された日常”を定めると書きやすい。「メアリーちゃん」もストーリーや家族構成、人間関係を作ったうえで書いたんですよね。そうすると想像の話でもリアルに書けて。やっぱり、リアルで生々しい曲のほうがわかりやすいので。

──なぜ「メアリーちゃん」みたいな、恋に溺れて情緒不安定になってしまう女の子を主人公にしたいと思われたのでしょう?

ぺっぺ:この曲を書いたのはずいぶん前で、そのくらいの頃に“洋楽はダークすぎる曲とめちゃくちゃハッピーな曲と両極端やなあ”と思ってたんですよね。でも日本の曲はその狭間の、どっちでもない曲やどっちも含んでる曲が多い気がしていて。

──ああ、たしかにそうですね。

ぺっぺ:でもその頃洋楽をよく聴いていたので、ダークな世界観はイメージ湧きやすいなと思ってそのまま英語詞で書いたんです。そしたらものすごくダイレクトな歌詞になって。イメージが固まっているぶんコードもアレンジも暗めにして、メロもすごく作りやすかったです。

リコ:「メアリーちゃん」はぺっぺが作り出した人物やけど、実際にいそうやなと思える、想像のしやすい歌詞やと思います。歌うときはメアリーちゃんになりきるというか。そうやって歌うのも楽しいですし、自分は空想のストーリーを考えてから曲を作ったりはしないので“ぺっぺが次持ってきてくれる曲の女の子はどんな子なのかな?”と毎回面白いですね。あと、ぺっぺは歌詞だけじゃなく、コードやメロディ、アレンジにもストーリーのイメージや雰囲気を入れられる。ぺっぺのイメージを言葉でも音でも貫く、その工夫が抜かりない!

ぺっぺ:(笑)

リコ:ぺっぺの真面目で計画的な性格が、曲にも表れてる。そういうこだわりが感じられていいなって思います。



──“日常”以外に、ジャンルにとらわれないスタイルも、ヤユヨの特徴のひとつですよね。

リコ:聴く人が“ヤユヨってこういうジャンルやな”とか“この曲はパンクやな”と受け取ってもらうぶんには全然いいかなって思ってて。ジャンルにとらわれない音楽づくりをしたいのは、メンバー全員の好きな音楽がバラバラなのもあるけど……本を正すと、結成したときに“目標とするガールズバンド”を話し合ったけどいなかった、というのが大きいかな。どんなバンドとかどんなジャンルというより、その時その時で“こういう曲をやりたい”とか、“こういう曲調のデモができたから、今回はその方向性でいこう”と曲を作っていくようになったというか。

ぺっぺ:そうやね。あと個人的に、長く愛されているアーティストさん──めっちゃ大御所やとビートルズとかオアシスとか、若い人でもめっちゃ好きやし、上の年齢の方々にもファンがめっちゃおって。聴く人を縛りたくない、いろんな人に聴いてほしい気持ちはもともと強いので、それが“ジャンルにとらわれず音楽を作りたい”という気持ちにつながってる気はしてますね。

──なるほど。“ひとつのイメージに縛られたくない”ではなく、“もっといろんな人と交流を持ちたい”という気持ちから来るものだったんですね。ヤユヨの音楽は極端に言うと日本に根付いている演歌的な歌心のあるボーカルとメロディや、手触り感が伝わってくる楽器の音色など、そういう生々しさが懐かしさもありつつ、でも古風にはならない。まさにヤユヨというバンド名から受ける印象そのものという印象があります。

ぺっぺ:やっぱりヤユヨの武器はリコの声やと思うんです。ちょっと哀しさを含んだ艶のあるリコの声は、若い子だけが聴きやすい声ではなく、どんな年代の方にも聴いていただける、大人の方にも気に入っていただけるものやと思う。曲を作るときは、その声を前に出したい想いもありますね。



──カラオケDAMでは「さよなら前夜」と「七月」が8月6日より順次配信されていますが、おふたりはカラオケにはよく行かれるのでしょうか?

リコ:小学生のときからカラオケに行くのはすごく好きで、自分の曲をカラオケで歌う憧れはあったんですけど……自分たちの曲が入るのはほんま不思議やし、恥ずかしくて歌われへんかも(笑)。でもどこかでいろんな人が歌ってくれることや、前の人の履歴から“ヤユヨってなに?”と知ってもらえるパターンもあるんかな?と想像したら、すごくうれしいですね。

──リコさんの歌唱力はカラオケで磨かれたものだったんですね。ぺっぺさんはいかがでしょう?

ぺっぺ:わたしは高校までほとんど行ってなくて(笑)。でも大学生になってから行く機会増えましたね。“大学生めっちゃカラオケ行くやん!”と実感してます。今回ヤユヨの曲が入るということは、コロナ禍が終わってみんなでカラオケに行くことになったら“歌ってよ〜!”とか言われるのかなあ……面倒くさいなあ(笑)。

──(笑)。

ぺっぺ:でもリコが言ったとおり、ヤユヨの音楽が広まるひとつの大きな機会やと思います。SNS以外にそういう媒体が増えるのはうれしいし。もし大学の友達からウザがらみをされても目をつむろうと思います(笑)。リコは絶対“歌って!”って言われるね。

リコ:恥ずかしいから歌わない!(笑)。みなさんには「さよなら前夜」のMVみたいな感じに歌いながら暴れてほしいです。

──「さよなら前夜」の歌詞に綴られていることは悲しみかもしれないけれど、ステージやMVからは自由に音楽を楽しんでいることが伝わってきます。

リコ:シンプルに、バンドが楽しいんです。その楽しい気持ちは歌ってるだけやとお客さんには伝わらないので、身体や表情を使っていきたいなって。とはいっても意識してやろうとしているというわけではなくて……やってしまいます(笑)。ふだんは気持ちを表現するのが苦手なんですけど、歌ってるときは全開にできる。楽しすぎるあまり突っ走りすぎて序盤でバテバテになってしまうこともあるくらい、動きたくなる。最近やっとバテる前に抑えることを覚えました! でも動きたいので、頑張って体力づくりをしています!

ぺっぺ:リコはギターを持ってないとき激しく動き回って身体全体で表現してくれることが多いので、自分もそれに置いていかれないように、気持ちを演奏に乗せられたらなと思ってるんですけど、まだまだできてなくてスタッフさんに怒られます(笑)。ライブを重ねるなかで、曲調のポップさとリコの声が合わされば聴いてくれる人に届くことは掴んできて。やっぱり日本人には微妙な感情を細かく表現したり、“悲しい×楽しい”みたいな複雑さを持った音楽が受け入れられるんちゃうかな。ライブでも悲しさと楽しさのギャップを見せたり、どちらも含んでいるものを見せたりできるようになっていけたらなと思います。

──コロナ禍でなかなか満足にライブができない時期ではありますが、その最中の全国デビュー。ヤユヨがどんなふうに表現の幅を広げていくのか、楽しみにしています。

リコ:ほんまは大学が春休みに入るタイミングで企画とかライブやフェスの予定があったので、それが全部なくなって、リリースも延期せなあかんくなって最悪や!と最初は思ってたんですけど(笑)、そういうなかでデビューを経験するなんて滅多にないことじゃないですか。わたしはレアなものが好きなので、レアバンドやん!と思いましたし、まだまだ生のヤユヨではなく、SNSきっかけで知った人が多いと思うんです。ヤユヨってライブどんなんなん?という期待値が高まって高まって高まってる最中なんかな……?って、ちょっとわくわくしてて。

──いいですね、すごくポジティブで。曲になってほしいくらいの熱い気持ちです。

ぺっぺ:リコが珍しくポジティブ(笑)。

リコ:いや、めっちゃ怖いですよ!?(笑)。実際観たらド下手やん!と思われるかもしれへんけど、そう思われないように鍛えておきます。みなさんの想像している以上のヤユヨが見せられたとき、どういう反応があるんやろ?という楽しみもあるんです。今回のミニアルバム『ヤユヨ』も作るにあたっていろんな方々に携わっていただいたので、思い入れもさらに強くなって。いろんな人に聴いていただきたいですね。

ぺっぺ:コロナ禍でのデビューやリリースに関しては、なんにも不安に思ってなくて。自分らが音楽を世に出すという意味ではなんも変わらんし、作った音楽を世に出せるという状況がほんまありがたいです。ほんまフラットに、“音楽が出せて良かった”という気持ちに尽きます。それにリリースが6月から8月になったことも、いままで大急ぎてばたばた駆け抜けていた自分たちにとっては、2ヶ月間の心の準備が必要やったってことなんやろうなって思うんです。この2ヶ月間でメンバーの意識を共有しなおしたり、曲を作ったり、みんなで落ち着いて準備ができました。今回のリリースを弾みにしたいですね。

取材・文◎沖さやこ



1st Mini Album『ヤユヨ』

CD:2020年8月5日(水)発売
配信:2020年6月10日(水)開始
¥1,182(税抜)TLTO-24

01. kimi_no_egao
02. いい日になりそう
03. メアリーちゃん
04. 今度会ったら
05. さよなら前夜
06. 七月(リード曲)
07. ユー!(acoustic ver.) ※CDのみ
08. さよなら前夜(acoustic ver.)※CDのみ

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