【インタビュー】THE冠、悶々とした日々のなかで冠 徹弥が語る “現実と理想、そして野望”
■1人ひとりで盛り上がっておいて欲しい
■ライヴで一緒に爆発できる、その時までは
笑える自虐ドラマが伴うこの曲(「やけに長い夏の日」)にしても、楽曲としてはヴァン・ヘイレンの「ホット・フォー・ティーチャー」を彷彿とさせるカッコ良さだ。また、「1分で」と銘打たれた文字通り1分間で聴き手をノックアウトする曲もあれば、「FALLING DOWN」のようなモダンなヘヴィさを感じさせる曲もある。さらには場末のスナックが似合いそうなムード歌謡調の「大人の子守歌」のような曲が見事にサマになってしまうのもTHE冠ならではだとしか言いようがない。
「いい意味で遊べてますね。「大人の子守歌」は、まさにスナックの情景なんです。歌のレコーディングがほとんど大阪やったんで、ある時期、大阪のディープな街、西成に泊まり込んで歌詞を書いてたんです。で、ある時ひとりで西成の街をぷらぷら歩いてたら、スナックから漏れ聴こえてきたママとおっさんの歌声があまりに強烈で。まだまだ昭和の香りが残ってるんだな、そういう大人の歌を歌いたいな、と思って、この歌詞の断片が閃いたんです。“裕次郎気取りで”なんてフレーズも出てきますし、終盤には“ボヘミアン”も登場する。ママの歌声がしゃがれてて、やたらとホンモノ (=葛城ユキ)に似てるわけですよ(笑)。そういう情景なんです。僕自身、いつかこの曲をカラオケで歌ってみたいんですけどね(笑)。ホントにある意味、このアルバムには全部網羅されてるというか、これまでの音楽人生が集約されているようなところがありますね」
さらにアルバム終盤の「メタリックロマンス」にも注目だ。この曲で聴かれるハイトーン・ヴォイスには、いつもの力強いメタリックな切れ味とは違った柔らかさ、儚さが感じられる。ここでは女性の立場に立った表現手段としてそうしたトーンが用いられているのだ。
「そこをよく指摘してくださいました! そうなんですよ。これはいつものハイトーンとは違って、やさしい感じのファルセットをダブルで入れてるんです。まさしく女性的なイメージを意識して……ああ、伝わってて良かった(笑)。この曲で歌ってるのは、バンギャの心境ですね。この曲、ライヴハウスの最前列でアタマ振ってる子たちが聴いたらどう思うんやろう、という感じで。ホントにライヴの時に全員がアタマ振ってたら面白い光景になるな、と思ってるんですけど。もちろんそういう人たち、ずーっと追いかけてきてくれてる子たちに対しては感謝の気持ちがあるんです。で、今回はそういう子たちの心理を描いてみたというか」
そうした長年のファンたちの期待に応えるためにも、彼はこれから先もこの歌詞にもある通り、観衆を“その高い声で殺して”いかなくてはならない。さて、そんなヴァラエティに富んだ今作だが、制作のプロセス自体は従来とさほど変わってはいないものの、超獣ギタリスト、K-A-Zとのケミストリーはより色濃いものになっているようだ。
「基本的な作り方はこれまでと大差ないんですけど、今回はK-A-Zにギターを任せた部分が大きくなっていて。それこそ「メタリックロマンス」とかも、自分でワンコーラスだけ作ったところでアレンジはK-A-Zに投げて。今まではギター・パートについても自分のなかで結構がっつり作ってたんですけど、それをちょっと緩めてみたというか。それによって、K-A-Zの持ってるものがだいぶ入ってきて、ギターの要素も増えたというか。なにしろ彼もメタルの引き出しだらけの男なんでね。それこそ「やけに長い夏の日」についても、こっちが投げたものに対して、あのすさまじいギターが載った状態で返ってきたわけです。そもそもは一応、僕自身がテキトーにそれっぽく弾いたギターを載せてあったんですけど、何百倍もすごい状態になって返ってきた。すごすぎて、大爆笑しちゃいましたね(笑)」
バンド内の相互作用も良好な状態にある現在、このアルバムの曲たちがライヴの場においてさらに化けていくことも確実だといえるが、残念ながらそのライヴ活動自体がいつ再開できるようになるのかは不確かな状況にある。今はそう言わざるを得ない。
「ホントにこればっかりは現時点ではどうにもならないというか、今はライヴ自体ができないわけですけど……。でも、いずれツアーはかならずやるし、自分たちも待つしかないですね。この事態が収まらんことには、やっぱりお客さんもライヴに行こうっていう気持ちにはなりにくいと思うんで。だからまずはこのアルバムを聴きまくっていただいて、曲をしっかり覚えていただいて……。自分としては、このライヴができひん期間というのを、長いプロモーション期間と捉えて動いていこうかな、と思ってるんです。これまではたいがい、アルバムが完成してからプロモーション期間も特にないままツアーに突入という感じやったんですけど、こうなったらもう割り切って、長いプロモーション期間を与えてもらったんだと解釈することにして。ツアーで新曲をやると、最初のうちは盛り上がりも控えめだったりするじゃないですか。だけど今回の場合は、この期間のうちに、しっかりとお客さんにもアルバムの曲たちをカラダに入れておいていただいて、いざライヴができるようになったら、そこで一気に爆発、みたいな。みんな鬱憤とかいろんなものが溜まってるはずやし、ライヴに行きたくてうずうずしてると思うんですよ。とりあえず今は、家でCDを聴いて、この曲たちを自分のなかで育てながら、1人ひとりで盛り上がっておいて欲しいですね。ライヴで一緒に爆発できる、その時までは」
その瞬間がいつ訪れることになるのかについては、何とも言いようがないというのが実情ではある。が、その到来を信じ、ライヴでの極上の一体感を思い描きながら『日本のヘビーメタル』を味わい、咀嚼しておきたいところだ。そして最後に、年齢について。本当に今作は、彼にとって40代最後のアルバムになるのだろうか?
「そういうことになりそうですね。ただ、この勢いでいけば、来年の誕生日までにもう1枚ぐらい作れそうな気もしますけど(笑)。でもやっぱり、50歳を迎えるって、結構大きなことだと思うんですよ。長いことやってきたな、重ねてきたな、と実感できる年齢なんで。それこそ自分が好きで聴いてきた海外のアーティストのこととかを考えてみると、たとえばジューダス・プリーストが『ペインキラー』を出した当時の年齢を、今の自分はもうとっくに超えてたりするわけです(笑)。だから、50歳を前にして、まだまだやるぞ、というところはしっかりと見せていきたいと思うんです」
念のため調べてみたところ、ジューダス・プリーストが『ペインキラー』を発表した当時、メタル・ゴッドの異名をとるヴォーカリスト、ロブ・ハルフォードは39歳だったようだ。確かに冠 徹弥は、とうにその年齢を超えている。が、歴史と伝統を作り上げてきた神々にも成し遂げられなかった何かを、この男が日本で成就させることになる可能性は、まだまだ残されているはずだ。THE冠、そして日本のメタルの未来を、信じていたいところである。
取材・文◎増田勇一
■アルバム『日本のヘビーメタル』
HDR-1017
01. 日本のヘビーメタル
02. やけに長い夏の日
03. ZERO
04. キザミ
05. FIRE STARTER
06. 1分で
07. 大人の子守唄
08. だからどうした
09. FALLING DOWN
10. メタリックロマンス
11. どないやねん
■<日本のヘビーメタルTOUR2020>
6月06日 東京 町田CLASSIX
7月04日 福島OUT LINE
7月12日 埼玉 西川口Hearts
7月19日 大阪 心斎橋DROP
7月22日 東京 渋谷TSUTAYA O-WEST ※5月8日の振替公演
7月25日 福岡Queblick
7月26日 広島 HIROSHIMA BACK BEAT
8月15日 千葉 柏PALOOZA
8月23日 京都MUSE
■<大冠祭2020>
■<SEX冠2020 TOUR FINAL>※再振替公演
open18:30 / start19:00
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