【インタビュー】ユセフ・デイズ、トム・ミッシュとのコラボ作について語る
サウスロンドン出身という同郷ながらも異なる音楽的背景を持つトム・ミッシュとユセフ・デイズのふたりが、コラボレーションアルバム『What Kinda Music』をリリースした。新世代ギター・ヒーローと絶賛されるトムと、ジャイルズ・ピーターソンも惚れた天才ジャズ・ドラマーのユセフ・デイズは、ふたりでどのようなケミカルを生み出したのか。トム・ミッシュに話を聞いた先のインタビュー(【インタビュー】新世代ギター・ヒーロー、トム・ミッシュ、新作は同郷の天才ジャズ・ドラマーとのコラボ)に続き、ここではユセフ・デイズに話を聞いてみよう。
──トム・ミッシュとは同郷だそうですね。
ユセフ・デイズ:共通の友達がいるんだ。Alfa MistとかJordan Rakeiとかね。彼を通して知り合ったんだ。で、2018年にジャム・セッションをやるようになった。最初は1曲一緒にやろうくらいのノリだったんだけど、一度セッションに入ったらいきなり10曲くらいのアイディアが出てきた。他にもいろいろアイディアあるからアルバムができそうだねって話をしたんだ。
──制作では、どのような役割分担だったんですか?
ユセフ・デイズ:トムが曲の構成や歌詞を書いて曲の方向性をまとめる。僕の役割は主にリズムだけど、僕のドラムが曲を作るきっかけになることも多いよ。最初に僕があるグルーヴを叩く、あるいはシンセのアイディアを弾いて、そこから構築していくんだ。プロデュースはトム主導でやるけど、僕もその場で色々意見を出し共同プロデュースに近い部分もあるかな。
──ジャズプレイからプログラミングされたビートのようなドラムまでも叩けるあなたですが、今作はどんなアプローチを?
ユセフ・デイズ:基本的にはオープンにしているよ。何が正しいとか何はダメというのは一切なくて、お互いが奏でる音楽に耳を傾けて、それを補ったり発展させていくんだよ。
──実験的なものも多かったようですね。
ユセフ・デイズ:単純に僕が刻んだビートに彼がギターを乗せる時もあれば、より実験的なことをやってみることもある。僕にとって「Festival」は西アフリカ音楽の影響があって、ダブル・キックとダブル・スネアを多用していて、普段トムが使うビートとは違うよね。逆に「The Real」なんかは、僕のドラムを録ってトムが持ち帰り全く違うものに仕上げてきた。これはヒップホップ・ビートかどうかって考えるより、何かぶっとんだことをやってみようって感じだよね。ドラムの音も全然変わっていて驚いたよ。
──ベースはロッコ・パラディーノですが、彼は特別なプレイヤーですね。
ユセフ・デイズ:僕らはカールトン“カーリー”バレットとアストン・バレット、あるいはスライ・ダンバーとロビー・シェイクスピアのようなリズム隊を目指しているんだ。数年一緒にプレイしているけど、いいリズム隊は音楽の要になる。ライヴもたくさんやっているし、僕が携わった作品はどれもロッコがベースを弾いている。彼は最高のベーシストだ。だから当然彼にも参加してもらったし、フィーチュアリングしている曲以外にも数曲に参加している。過去の名作と言われるレコーディングには必ずいいドラムとベースが存在していてね、リズム隊が曲を作っていると言ってもいいものもある。ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズにしても音楽の土台はドラムとベースだ。だから僕らはそれを呼び戻そうとしているんだよ。
──ロッコ・パラディーノが優れているポイントは?
ユセフ・デイズ:言葉で説明するのは難しいんだけど、彼は独特なグルーヴの感性を持っていて「タメ」を作るんだ。で、こっちも「おっ」ってなる。ノリ遅れているんじゃないかって思うくらいなんだけど、それは彼独自のグルーヴの感じ方でね、彼はちゃんとビートをわかっているから、こっちも安心して叩ける。最近はソロもやるようになって、幅を広げて進化している。ただの楽器奏者じゃなくて音楽の発信者だ。ひとりのアーティストなんだよ。
──ジャズっぽいフィーリングがある曲もありますね。
ユセフ・デイズ:ジャンルを気にせずに何でもやってみるというのが今作の意図だったけど「Storm Before the Calm」のイントロにはそういう要素があるかな。「好きに叩いてみよう」と思ってフリースタイルで叩いているからジャズ寄りと言えると思う。NYのフリー・ジャズをイメージしてるんだ。トムも何もフィルターをかけていないね。
──技術的に最も叩くのが難しかった曲というのはありますか?
ユセフ・デイズ:挙げるとするなら「Tidal Wave」だね。技術的に難しいわけではないけど、あの曲はテンポがゆったりしていて、あのテンポで心地いいノリを出すのにこだわった。シンプルに聴こえるけど、あれくらいのテンポで気持ちいいグルーヴ感を出すのはけっこう難しいんだ。いろんなシンバルを試したけど、その中でもトルコから取り寄せたシンバルをこの曲で初めて使ってみた。そういう新しい試みもたくさんしている曲だね。本来自分はテンポの速いドラムンベースのようなのを叩くのが好きなんだけど、スロー・テンポで心地良いグルーヴが出せることがトップ・ドラマーの証だと思っているんだ。マーヴィン・ゲイといったアーティストの作品を聴いていると、テンポが速くなくても気持ちいい。それはいいグルーヴがあるからなんだよ。
──今作を作るにあたって、インスパイアを受けたものはありますか?
ユセフ・デイズ:とにかくたくさんの音楽を聴いているから絞るのは難しいけど、今作はUKサウンドを追求した部分はある。例えばTalk Talkなどは、彼らの作品を数年前に聴いて凄くインスパイアされたよ。一見メロウで時間はかかるけど、聴き込むうちに内省的な別世界に連れてってくれる。当然インスパイアされた人は他にもたくさんいるし、そういう人たちに敬意を表するのも大事だけど、自然に自分たちから出てきたものを大切にしたかった。
──レコーディングでのサウンドメイクに関してはいかがですか?
ユセフ・デイズ:メイン・エンジニアはAdam Jaffreyで、彼のUnbound Studiosでアルバムの大半の録音を行ったんだけど、アルバムを制作するこの2年間で、彼が色々なマイクの設置やドラムのセッティングを行ってくれた。彼の細かい部分へのこだわりは凄かった。巻尺を持ち出してきてミリ単位でマイクの位置にこだわるんだ。彼のお陰でドラムのサウンドが定まったし、エンジニアとしてもレコーディングにたくさん力を貸してくれた。録った後はトムが持ち帰って編集したり音を加工したりするわけだけど、元となったドラムの音はアダムの貢献が大きいね。あと2度ほどEastbourneにあるアナログ・スタジオ(Echo Zoo Studios)で、親しくしているMiles Jamesとも作業した。テープ機がたくさん置いてあって素晴らしいコンソールも置いてある。「Nightrider」と「Festival」はそこで録ったけど、暖かい1970年代っぽいアナログ・サウンドだ。でも、1970年代を再現したいわけではないし新しい音にしたいから、古き良きレコーディング方法を採り入れながら、叩いているビートは新しいものだよ。
──あなたが最も影響を受けたドラマーは?
ユセフ・デイズ:ひとりに絞ることは不可能だから、「数ある中から今日選んだ一人」って但し書きを必ず書いて欲しい。ジャズ・ドラマーは今日はマックス・ローチで行こう。素晴らしいドラマーで、非常にテクニカルで数学的とも言えるほど。常に彼の動画を見たり、彼のドラムを研究している。自分のテクニックや基礎を磨きたい時、彼は基礎がしっかりしていて、知識も広い。だからジャズ・ドラマーはマックス・ローチだ。ファンク・ドラマーはクライド・スタブルフィールド。ジェイムス・ブラウンのドラマーだ。彼は凄いよ。彼の作品を物凄く聞き込んだし、自分のプレイに大きな影響を与えている。ヒップホップ・ドラマーはクリス・デイヴかな。ロバート・グラスパーの作品にも参加している。彼はロッコのことも知ってて、自分たちをいつも応援してくれる。会うと必ず褒めてくれる。尊敬している人から同様の敬意を示してもらえるのは本当にありがたい。クリス・デイヴは本当に凄いよ。自分たちの世代の多くのドラマーにとってドラムに対する意識を変えた人でもある。だから彼を選んだ。
──ライブの予定はありますか?
ユセフ・デイズ:5月にはヨーロッパ・ツアーを予定している。ロッコとトムも当然いるし、ピアノでJoe Priceも参加する予定で、他にもスペシャル・ゲストを迎えるだろう。僕たちもアルバムの曲をライヴで演奏するのを楽しみにしているよ。
取材協力:柳樂光隆
編集:BARKS編集部
トム・ミッシュ & ユセフ・デイズ コラボ・アルバム『What Kinda Music』
2020年4月24日発売
UICB-1008/\2,500+税
1.What Kinda Music
2.Festival
3.Nightrider(feat Freddie Gibbs)
4.Tidal Wave 5.Sensational
6.The Real
7.Lift Off(feat Rocco Palladino)
8.I Did It For You
9.Last 100
10.Kyiv
11.Julie Mangos
12.Storm Before the Calm(feat Kaidi Akinnibi)
13.Saddle ※
14.Tidal Wave Outro ※
15.Seagulls※
16.What Kinda Music(Jordan Rakei Remix)★
国内盤ボーナス・トラック 4曲収録
※海外デラックス LP 盤収録
★デジタル・ボーナス・トラック
◆『What Kinda Music』視聴
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