【レビュー】トゥエンティ・ワン・パイロッツ、新型コロナ影響下の新曲に曝け出した「自らの“パニック状態”と“気概”」
オハイオ州コロンバスの人気デュオ“トゥエンティ・ワン・パイロッツ”が4月9日、主要配信サービスを通じて、突如、新曲「レベル・オブ・コンサーン」をリリースした。
◆トゥエンティ・ワン・パイロッツ (twenty one pilots) 動画
“脳みそパニック、世界は異常事態、あれこれズッシリきてる 思わず考える、こんな気分になったのは、きみに告白した時以来”
──そんな歌い出しの歌詞からも同曲が現在の新型コロナウイルスのパンデミックの影響の下、作られたものであることは明らかだが、メンバーのタイラー・ジョセフ(Vo, Pf)とジョシュ・ダン(Dr)は、現在、パンデミックによる大きな被害を受けているコンサートなどのイベント関係者を支援するため、「レベル・オブ・コンサーン」の収益の一部を世界の規模の基金『Crew Nation』に寄付すると表明している。
配信ライブ、無観客ライブ、新曲の発表、直接的なチャリティーなど、現在、ここ日本も含め、世界中のミュージシャンがこの未曽有の状況に対して、希望の明かりを灯し続けようと、さまざまなアクションを起こしている。トゥエンティ・ワン・パイロッツの「レベル・オブ・コンサーン」もまさにその一環には違いないのだが、それが、みんでがんばろう、という類いの明るい調子のものにならずに、“言っただろ、こんなに不安なんだって ('Cause I told you, my level of concern.)”というサビの歌詞からタイトルを付けているとおり、現在のパンデミックに対する自らのパニック状態を曝け出したものになっているところがおもしろい。
そんなふうに言ったら不謹慎なのかもしれないけれど、いかにもトゥエンティ・ワン・パイロッツらしいと思う。なぜなら、彼らはこれまで一貫して、現代人が抱える不安、恐怖、憂鬱をテーマに音楽を作り続けてきたからだ。
2009年にオハイオ州コロンバスでタイラーを中心にキーボードも演奏するベーシストとドラマーからなる3人組として結成され、2枚のアルバムを自主リリースしたのち、2011年にジョセフとジョシュのデュオになったトゥエンティ・ワン・パイロッツのことを、僕ら日本人が知る機会は、これまで3回あった。
まず1回目は、彼らの代表曲の1つである「ガンズ・フォー・ハンズ」が、女優の蒼井優が出演しているジーンズセレクトショップ“Right-on”のCMでイメージソングとして流れた時だ。2011年7月に、まだトリオだったトゥエンティ・ワン・パイロッツが自主リリースした『Regional at Best』に収録されていたこの曲を、CMのイメージソングに提案したのは、当時、トゥエンティ・ワン・パイロッツを担当していた日本のレコード会社の担当者。CMにふさわしい曲を探しているという話を聞き、たまたま訪れたニューヨークで耳にして、強烈な印象とともに記憶に残っていたこの曲を早速、提案したのだそうだ。
銃社会の恐怖を歌った歌詞とは裏腹にテレビから流れる疾走感溢れるキャッチーなロックサウンドが歓迎され、地元における人気をステップにメジャーデビューのチャンスを、ようやく掴んだ無名の新人だったにもかかわらず、ここ日本でトゥエンティ・ワン・パイロッツの知名度は急上昇。そして、2012年12月、「ガンズ・フォー・ハンズ」を再収録したメジャーからの1stアルバム『ヴェッセル』がリリースされるとともに明らかになった「ガンズ・フォー・ハンズ」のポップロックサウンドだけにとどまらない──ラップ/ヒップホップ、エモ/オルタナ、エレポップ、ウクレレをフィーチャーしたフォークのミクスチャーとも言える唯一無二のサウンドを奏でるトゥエンティ・ワン・パイロッツの正体が、多くのリスナーの度肝を抜いたのだった。
そして2度目の機会は、2014年の<SUMMER SONIC>、および2015年の<FUJI ROCK FESTIVAL>。実は2012年の<FUJI ROCK FESTIVAL>でも彼らは要注目新人のショウケース的なところもあるステージ=レッドマーキーを満員にしているが、より多くの観客にその存在をアピールしたという意味では、やはり前述した「ガンズ・フォー・ハンズ」と『ヴェッセル』のヒットで、ぐっと注目度を上げてからの2大夏フェス出演だろう。事実、2014年のサマソニ、2015年のフジロックでトゥエンティ・ワン・パイロッツのライブを、それぞれのベストアクトに挙げた人は少なくない。
彼らのライブの何が、それほど歓迎されたのか。曲の魅力をはじめ、それはいろいろあると思うが、タイラーが演奏中に披露するバック宙を含めたアクロバチックなパフォーマンスによるところがやはり大きいのだろう。ステージをエネルギッシュに走り回るなんて、あたりまえ。ジョシュは観客の上で、観客が支えるフロアタムを連打するし、ステージだけじゃ収まりきらないと言わんばかりにステージを飛び出すテイラーは、セットをよじ登って、高所恐怖症の観客をハラハラさせる。
そんなパフォーマンスはエンターテインメント意識したものなのか、それとも衝動に突き動かされたものなのか。いずれにせよ、ライブに全身全霊をかけているその姿が、彼らのライブを見る者の胸を打つことは間違いない。筆者は海外も含め、トゥエンティ・ワン・パイロッツのライブを、確か4回か5回見ているのだが、毎回、彼らはそんなエネルギッシュで、アクロバチックなパフォーマンスで会場を沸かせてきた。手を抜いたところは1回も見たいことがない。その意味で、彼らは生粋のライブバンドなのだと思うが、2015年7月、ONE OK ROCKのさいたまスーパーアリーナ公演(<ONE OK ROCK 2015 “35xxxv” JAPAN TOUR>)でサポートアクトを務めた時も、トゥエンティ・ワン・パイロッツの2人はエネルギッシュかつアクロバチックなパフォーマンスでONE OK ROCKのファンの度肝を抜いた。それが、僕ら日本人がトゥエンティ・ワン・パイロッツに出会った3度目の機会。トゥエンティ・ワン・パイロッツがそこでファンをぐっと増やしたことは想像に難くない。
その直前──2015年5月に彼らがリリースしたメジャー2ndアルバム『ブラリーフェイス』は、「ストレスド・アウト」のゴシック風味が象徴するようにポップな軽やかさもあった『ヴェッセル』に比べ、格段に重厚になったサウンドと、ブラリーフェイスというキャラクターを通して、現代人が抱えるさまざまな不安に言及するというコンセプチュアルな作風が歓迎され、全米No.1ヒットを記録。さらには、2017年の『第59回グラミー賞』で複数部門にノミネートされ、最優秀ポップデュオ/グループパフォーマンスを受賞した。
彼らは現代のアメリカを代表する人気デュオに認められたわけだが、不安、恐怖、憂鬱をテーマに音楽を作り続ける姿勢は変わらず、2018年10月にリリースしたメジャー3rdアルバム『トレンチ』は現代人が抱える不安という『ブラリーフェイス』のコンセプトが、架空の都市を舞台にした不安に対するレジスタンスの物語に発展。ヘヴィなリフがグラミー賞の最優秀ロックソング部門にノミネートされるきっかけになったと思しき1曲目の「ジャンプスーツ」以下、そのサウンドはさらにダークで、ドープなものになる一方で、前作から加わったレゲエに加え、R&Bの要素も滲み出てきた。中には「マイ・ブラッド」のディスコサウンドという新境地も。
『ブラリーフェイス』以上に攻めた作風からは、2人が自ら昇り詰めたスターダムに惑わされることなく、自分たちが正しいと信じている音楽を、誰のためでもなく、自分たちのために作り続けていることが窺えたが、その『トレンチ』から1年半ぶりにリリースする新曲が、「常に曲は書いているけど、この曲は今出すべきだと思うんだ」とタイラーが語る今回の「レベル・オブ・コンサーン」というわけだ。
▲「レベル・オブ・コンサーン」
ディスコっぽいところもあるR&B調のサウンドは、『トレンチ』の延長上にあるとは言えるものの、ダンサブルな曲が持つ軽やかさやストレートな心情吐露は、『ブラリーフェイス』『トレンチ』とは違って、2人の素顔に近いものに感じられる。
“言ってよ、大丈夫だって、俺に、平気だって 下げてほしい、俺の不安レベルを”というリフレインは、何もそこまで取り乱さなくても、という気もするが(というのは、危機感が足りないのかしら)、嘘偽らざる気持ちであることに加え、この状況に不安になっているのは、君だけじゃない。僕だって怖いんだ。だから楽観視する必要も、勇敢ぶる必要もない。ただ、嘘でもいい、お互いに大丈夫だと励まし合いながら、嵐が過ぎ去るまで過ごしていこう、と訴えかけているようにも聴こえる。
「シンプルだけど希望を与えてくれる曲」と語るタイラーは、最後を締めくくる“俺たちはきっと大丈夫”という歌詞を書けたことに、自分が励まされたに違いない。あるいは、その言葉を書くことで、腹を括ったんじゃないか。でなきゃ、今、この言葉、そんな気軽には歌えない。そこに現在の状況に立ち向かおうとしているトゥエンティ・ワン・パイロッツの気概を感じ取りたい。
自主隔離中のタイラーとジョシュがUSBでデータをやりとりしながら曲を作り上げる様子を描いたMVもナイス。最後のオチには思わずニヤリとなるが、どんな時でも僕らはユーモアを忘れちゃいけないのだ。
文◎山口智男
■配信シングル「レベル・オブ・コンサーン / Level of Concern」
▼ダウンロード / ストリーミングURL
https://twentyonepilotsJP.lnk.to/LoCPu
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