【インタビュー】シキドロップ、ネット社会に生きる人へ「“心”とは何ですか?」

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■結局問題は「対・誰か」の話

──「ケモノアガリ」というワードは、もともとグループ名にする案もあったとか。

宇野悠人:そうそう。二人とも一旦音楽をやめた時期があって、“ケモノ”に一回なったけど、そこから“上がってきた”という意味で「ケモノアガリ」はいいねという話はしてました。そもそも「ケモノアガリ」という曲がそういう感じの曲で、一回夢を捨ててからまた上がっていくような曲だから、まさにその時の僕らの思いという感じですね。

──魂の、蘇生の歌という気がしますね。

平牧仁:もともとシキドロップのシキは、四季と死期をかけているので。四季が巡っていくことと、輪廻転生というか、一回死んで蘇るというイメージもあるんですよ。だからこそ、一つ前の曲が「蘇生のススメ」で、中途半端に息をしてるなら一回ちゃんと落ち込んで、恋愛にたとえると、ちゃんと振ってくれたほうが、あきらめて次の人に行けるじゃないですか。わかりやすく言うと、そういう話でもあるんですよね。過激な表現になってますけど、そこからもう一度立ち上がっていくという流れになってます。

──「蘇生のススメ」と「ケモノアガリ」は繋がってる。そして「神様は死んだ」も「行進する怪物」も、全部繋がっている気がしますね。アルバム前半の「行進する怪物」や「先生の言うとおり」で、SNS社会の闇や歪みに対して風刺や皮肉を投げかけていたのが、途中で「なぜ自分はそう思うようになったのか?」と気づいていく。そして後半は切実だけどむしろ優しい、救いのある表現が増えてきて、最後に「心」で終わる。素晴らしい流れだと思います。

平牧仁:曲順には、すごくこだわりました。「涙タイムカプセル」では“心がなんの役に立つのさ”って言っていたのに、アルバムの最後の「心」では“心ひとつ持って君に逢いに行こう”と言っている、それがいいなあと思ってます。このアルバムは、1曲1曲で完結はしてるんですけど、社会風刺をしながらも、結局問題は「対・誰か」の話になっていくんですよね。異国の戦争や政治や、残虐なニュースを見ながらも、こっちでは誰かの既読スルーを気にしてるとか。

──その歌詞、どこかにありました。

平牧仁:「蘇生のススメ」ですね。全部がそういう感じで、「行進する怪物」もそうなってるのかもしれない。曲の主人公は、誰かにひどい裏切られ方をして、「愛なんて」「夢なんて」とか思っちゃってるから、社会を斜に構えて見てるけど、それに気づいてない。自分はもともとそういう人間だから、社会をそういうふうに見てると思ってる。でも、逆かもしれないじゃないですか。そこで「君がそうなったのは、こういうことがあったからじゃないの?」という、そこを両面から描きたいというのが最初の4曲だったりします。それは伝えたいというよりは、問題提起をしたかったんですよ。

宇野悠人:ミュージックビデオもそうですけど、正解が何なのかはわからないけど、まずは客観的に見た世界を描いてみる。それを、全部出来上がったあとに見返してみると、結局自分ごとに返ってくるというか、それが面白かったですね。

平牧仁:確かにね。「行進する怪物」で始まって、「心」で終わるのは、そういうことだと思う。

宇野悠人:それが面白いよね。しかも「心なんていらない」と言ってたくせに、やっぱり心が重要だ、みたいな終わり方をするのが面白いと思います。


──「心」はいい曲ですよ。本当に美しい曲。

平牧仁:いい曲なんですよ。

宇野悠人:売れそう。

平牧仁:何もプロモーションしてないけどね(笑)。

宇野悠人:そこがいいんじゃない? いずれ、何かの主題歌とか、使いたい方がいたら声をかけてくれたらいいな、みたいな。

平牧仁:「心」を書いたのは1年前で、冬が終わって春になるぐらいの時だったんですけど、春が来る時の心境ってあるじゃないですか。浮足立つような、何かが始まるような。僕はそういう気持ちになりがちなんですけど、出会いや別れもあって、エモーショナルになっていて、曲はすぐに書きました。それで“ラララ~♪”ってみんなに聴かせたら、事務所の社長に「歌詞しだいじゃないかな」と軽く言われて(笑)。ちくしょー!と思って歌詞を書いて、それからどんどん再評価されていった曲ですね。

宇野悠人:うちらは、チーム全体の統一感があるんですよ。好きなことが真ん中にあって、そこに向かってみんなで頑張ってる。僕の勝手なイメージだけど、もっと大きい事務所とかだったら、いろんな大人たちがいて、いろいろあるのかな?と思ったりするんですけど。僕らは相当自由にやらせてもらってますね。


──このアルバム。どんな人に届くだろう。

宇野悠人:ネット社会をテーマにしているので、ネットを使ってる人たちにはすごい刺さるかなとは思ってます。

平牧仁:高校生、大学生に聴いてほしいですね。ネットリテラシーというか、注意喚起にもなると思うので。

宇野悠人:そうね。僕らもそうだけど、そこがまだまだ甘い人たち。

平牧仁:高校生、大学生には、このぐらい強い言葉じゃないと届かない気がするんですよ。今のご時世は。以前はもうちょっと間口の広い、柔らかい言葉のほうが、大衆受けすると言われてましたけど、今はもう、すごく辛辣な言葉を若い子は目にしてるし、耳にしてるわけじゃないですか。そこに対してふんわりした言葉を使ってもきれいごとにしか映らないし、このぐらいガツン!と言ったほうが、届くと思うんですよ。逆に聞きたいですね、「このアルバムを聴いてどう思いますか?」って。ネットリテラシーについてとか、話してみたいですね、若い子たちと。

──二人は、今のSNS文化は肯定する派?

宇野悠人:僕は肯定派です。どんどん発信していいと思うんですけど、ただそこに中身があることを発信していったほうが、自分のためになるかな?というのはあります。

平牧仁:僕はSNSはただの文化でしかないと思っていて、人自体は絶対に変わらないと思うんですよね。喜怒哀楽を持つことや、何に対してどう思うとか、人という生き物自体は変わらない。文化がどんどん変わっていって、コミュニケーションツールは変わっていくけど、中身はそこまで変わってないよというのが、このアルバムのテーマでもあるんですね。あれだけ風刺や毒や、今っぽいことを言っておきながら、最後は「心」に戻るというのもそうだし。

宇野悠人:そういうことだよね。

平牧仁:そこで、ミュージックビデオ三部作の女の子がどんなふうに変わっていくのか?とか、自分は登場人物の中の誰なんだ?とか、いろいろ考えてほしいんですよね。僕もSNSを肯定してますけど、それは文化でしかなくて、あなたはただの人間で、SNSを使う人でしかない。そこであなたにとって「心」とは何ですか?と。


──なるほど。

平牧仁:うまく使えば、素敵なものだと思うんですよ。それをもっと素敵にしてほしいという願いがあります。豊かに広がっていくものだと思うんですよ。

宇野悠人:僕も、YouTubeの投稿から火がついて、それが繋がって仁ちゃんとの出会いがあったので。いい文化だと思うし、だからこそ、もっと自分のためになるように、中身のあることをやってほしいと思いますね。

──リリース後には久々のワンマンライブの予定もあって。ここからさらに、加速していく感じですか。

宇野悠人:先のことを考えて、今は動いてる感じですね。シキドロップとして次に何をやりたいか、はっきりしてきました。

平牧仁:1枚目、2枚目を作って、次どうしようか?というやり方も変わって、進化したというか。なので、セカンドワンマンライブでも、新しいものを見せられたらと思います。次も、素敵な曲がどんどんできてきているので、それを形にしていこうと思います。まだ4月なので、2020年のシキドロップをぜひ楽しみにしていてほしいですね。

取材・文◎宮本英夫

2ndミニアルバム『ケモノアガリ』

2020年4月3日 リリース

1. 行進する怪物
2. 神様は死んだ
3 先生の言うとおり
4 蘇生のススメ
5 ケモノアガリ
6 涙タイムカプセル
7 心

<シキドロップ One-man Live ケモノアガリ>

日時:2020年5月30日(土)
会場:代官山SPACE ODD
開場 / 17:00 開演 / 18:00
チケット料金:4,000円(税込) オールスタンディング / 整理番号入場
※入場時にドリンク代別途必要
※未就学児入場不可、小学生以上チケット必要
(問)HOT STUFF PROMOTION / 03-5720-9999(平日12:00〜18:00)
https://www.red-hot.ne.jp

◆シキドロップ オフィシャルサイト
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