【インタビュー】Lucky Kilimanjaro 熊木幸丸「アウトプットしてみたら?」

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■「いいからやってみよう」っていう感覚

──では、アルバムの曲について具体的にお聞きしたいんですが、最初に聴いたときにとても好きだったのが「350ml Galaxy」です。仕事帰りにコンビニに寄って買うビールの幸せと宇宙感が融合されているのが最高だなと。

熊木:はははは。

──缶ビールを開ける音が入っていたり、サウンドも遊び心があって“名前が長くて覚えられない ハッピーヒマラヤみたいなバンドを聴く”という歌詞では笑ってしまいました。どんなときに思いついた曲ですか?

熊木:「350ml Galaxy」は2019年に発売した「HOUSE」という曲の作風に近いですね。昔はふざけた感じの歌詞はあまり好きじゃなかったんですけど、聴く人に楽しんでもらいたいという感覚が芽生える中、「柔らかくて、ちょっと笑える歌詞もいいかもな」と思って書き始めた曲です。僕自身は帰り道にお酒を買うことはあまりなくて、居酒屋か家で飲むタイプなんですけど「お酒飲んで明日もがんばろう!」っていいなって。やけ酒じゃなく、気持ちよく飲むっていうところに落とし込めたらと思って書きました。

──駅から家まで“思いつきのダンスで踊れよ”っていうフレーズもいいですね。

熊木:僕自身、最寄駅から家まで歩いて10分くらいで、その間にお酒飲みながら踊って帰ったら気持ちも切り替えられるかなって。そういう人っていっぱいいるんじゃないかなと思ったんです。帰り道って暗いし、特に冬は寒いから落ち込むじゃないですか?

──イヤなことを思い出しちゃったり。

熊木:そう。でも、そういう気分がもう1回デザインされるような感じになったらいいなと思ったんです。

──気持ちいいといえば「とろける」という曲はスイートな恋愛ソングかと思いきや、自分のベッドへのラブソングなんですね。

熊木:(笑)そうなんです。この曲もふざけて書こうと思ったわりにはスイートな曲になって気に入ってます。僕、羽毛の敷布団に横になって、そこにさらに羽毛の掛け布団を2枚かけて寝ているんです。

──羽毛のサンドイッチ状態。

熊木:それがすごく気持ちよくて「これは曲に出来るな」って(笑)。横になると、とろける感覚なのでタイトルも「とろける」。サウンドもエッジが立ち過ぎないようにふわっとさせました。

──家の中、歩いている人など、日常からインスピレーションを得て曲を書くことが多いんでしょうか?

熊木:インスピレーションを受けるものはその都度、違いますね。今、おっしゃってくださったのは今回のアルバムでいうと「350ml Galaxy」と「とろける」の2曲なんですが、「自分はこういうことを考えてるんですけど、あなたはどうですか?」って問いかける曲もあるし、読んだ本やSNSに書かれている意見を踏まえて「自分だったらどういうふうに考えるだろう?」って思ったことを反映させたりもしますね。


──例えば「RUN」という曲のインスピレーションは? ヴァーチャルと現実が行き来しているような印象を受けたんですけど。

熊木:確かに曲調もファンタジーっぽいというか、不思議な感覚がある曲ですよね。「RUN」は自分が思っていることを書いたんです。タイトル曲「Imagination」は想像していることを発信することは素晴らしいことなんだっていうメッセージが根幹にある曲です。何か始めることは出来るけど、発信し続けることは意外と難しい。だけど、諦めないで欲しいなという気持ちを込めました。僕らもバンドを始めて4年目でようやくメジャーデビュー出来たんですけど、根拠はなくても自分がやっていることには価値があると思って続けることは大事だと思うんです。

──「RUN」で“解像度は上がらない 見に行くしかないよな”って歌っているのも、動かないと始まらないという気持ちからですか?

熊木:そうですね。情報だけじゃなく自分でやらないと最終的な形は見えてこないからやるしかないっていう。そういう意味で今回のアルバムには「いいからやってみよう」という感覚がすごくあるかもしれないですね。自分が考えているようなことって他の人も考えているだろうって思いがちですけど、意外と考えてないことが多いと思うんです。音楽でも本でも絵でも生花でもなんでもいいし「アウトプットしてみたら?」って。そこが今回のアルバムの根幹となるメッセージですね。

──納得です。「ロケット」という曲でも“僕の中にある無限の想像力が いずれ僕にとっての答えになるのです”って歌っていますものね。

熊木:アルバムの中でいちばん最初に出来たのが「ロケット」なんです。この曲の感覚をもっと広げたいと思ってほかの曲も作ったので歌詞はすごく気に入っています。曲を作るとだいたい「ちょっと違うな」って思って書き直したりするんですけど、この曲は一発で出来たものがそのまま音源になっています。

──いちばんチャレンジした曲は?

熊木:基本的には全曲そうですね。僕は過去の自分がどうだったのか、あまり気にしないで、今、面白いものを探して書くので、曲のストックもしないんです。その中で、いちばん感覚が違ったのは「DO YA THING」という曲。これまで使わなかったタイプのパーカッションやブラスを取り入れて作り方も変えて。

──ゴスペルの要素がある曲ですよね。

熊木:ゴスペルというか、声をたくさん重ねるクワイヤが昔から好きなんです。だんだん技術が上がって、そういうことが出来るようになったので、今までより多く重ねています。さっき話した2019年の活動ともリンクしているんですけど、Lucky Kilimanjaroをたくさんの人に知ってもらえたので、お客さんが一緒に歌ってくれるような曲を作りたかったんです。声を合わせて歌ったときにみんなのパワーが増幅するような感じが好きなので。

──まさにライブで歌えそうな曲ですものね。ちなみにメンバーとは曲をどういうふうに共有して形にしていくんですか?

熊木:今回のアルバムは自分でどんどん曲を形に出来るようになったというのもありつつ、僕の中で1回完結させたものを聴いてもらって、どんな印象を受けたのか意見を聞いてから、ちょっと歌詞を変えたり、展開を変えたりした曲が多いですね。

──つまり、熊木さんのデモに基本、忠実に演奏するというか。

熊木:そうですね。ウチのバンドはライブで曲のパワーが増すと思っているので、ライブではみんなの力を借りたいと思っています。

──音源とライブは別ものだというスタンスなんですね。

熊木:はい。特に最近は音源にライブ感を入れないようにしているんです。音源はあまり激しすぎないようにしたいというか、適度にまとまった感じにしたくて。なので、あまりドラムは録らないんですよ。

──打ち込みがメインですものね。

熊木:生のエネルギーが欲しい時もあるのですが、それはライブでがっつり見せたいっていうのがあります。

──音源は熱すぎないというか平熱の気持ちいい温度感。

熊木:そうすることで何回も聴かれるんじゃないかなと思うんです。

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