【インタビュー】minus(-)、2年ぶり新作『C』完成「僕が編んだ世界に石川さんが色を染めた」
■一番の望みはただの音として存在すること
■単純に“環境”をつくりたいので
──「Glass work」は1分半ぐらい歌は出てこないですね。
藤井:基本的には、カノンぽい感じで書きたかった曲で。
──なるほど。そんな発想で曲をつくろうとする人がどのぐらいいるでしょうか。
藤井:いや、いっぱいいるんじゃないですか? ただ、いわゆる音楽系の勉強をしてこなかった人が“カノンっぽいのを書こう”というのは稀有だとは思いますけど。最初の石川さんのデモはもっとカノンっぽかったので。その後、アレンジし直した曲を送ったら自動的にこうなって戻ってきました。
──歌詞には馬が登場して、謎めいたムードを醸し出しています。
藤井:僕、馬自体はあまり好きじゃないんですけど(笑)。
──それはなぜですか?
藤井:なんでしょうね? あのボテッとフンをするのが嫌いなのかな? デリカシーがないというか(笑)。たぶん、それを知らない人には分からない感覚だと思うんですけど。
──馬って、岩手のオシラサマとか、神として祀られる生き物というイメージもありますよね。人間の女性と馬が結ばれたのをきっかけに……という伝承が元になっていて。
藤井:獣姦の話ですよね? そっちを想像すると僕、ときめくんですけど(笑)。
▲<ddd~MAKI FUJII DEBUT 30TH ANNIVERSARY~>2019年9月26日@渋谷ストリームホール |
藤井:たぶん、今の、ここ何年かずっとやってらっしゃる石川さんの世界なんだと思いますよ。詞は石川さんマターですし、僕は干渉していないので“へぇ、ガラスの馬ね。なるほど、よくハマッたなぁ”という感じなんですが。僕がこの曲が好きなのはね、結構老獪なことが特に後半で行われていて、自分的に“よくできたね、麻輝ちゃん!”っていうのがあるんですよ(笑)。
──(笑)。様々なテクニックが使われている、ということですか?
藤井:そう表現するとちょっとイヤらしい方向に行ってしまいますけどね。というか、聴いていてちょっと変な感じがしませんでした? 実は結構変なんですよ。
──聴いていて違和感や不快感はありませんでした。
藤井:分析するとかなり不快なことになっていると思うんですけどね。どうなんだろう?
──石川さんの歌詞の宿す物語性については、藤井さんはどう評価なさっていますか? 説明的ではない歌詞のほうが好き、という趣旨の発言を以前されていた記憶がありますが。
藤井:僕、音楽全体に関してそうなんですけど、“これはこうだからこうだ”というのが嫌いなんですよ。聴く人によってどうとでもなってほしいし。一番の僕の望みは、ただの音として存在すること。そこら中に存在している……今もこのエアコンの音だとか、そういうのと同等に単純に“環境”をつくりたいので。そういう意味では、“何がこうなってこうなったからこうなんだ”というのは嫌いです、ということをたぶん言っていたんだと思います。
──あぁ、歌詞の内容がどうこうという以前に、音楽に説明が不要だということをおっしゃっていた、と。
藤井:うん、たぶん。だって、説明するような詞だったら小説を書けばいいと思うし。まぁでも、僕の言っているようなことなら“散文詩を書けばいいじゃん”みたいなことになっちゃうから、その辺はなかなか言い方が難しいんですけどね。例えば、“朝起きて目玉焼きがテーブルにあったから食べたけど、僕の好きなサニーサイドアップじゃなかったぜ、くそー!”みたいな、そういう歌詞だったらもう、それしか浮かばないじゃないですか?
──そうですね、限定的ですね。
藤井:そういう歌詞は嫌いなんです。分かりますかね?
──ニュアンスは理解できたと思います。石川さんは作詞のみならず、ご自分の世界をしっかりと築き上げて来られた方なので、共同作業には難しさもあったのかな?と思うのですが、いかがでしたか? 例えばぶつかったり、だとか。
藤井:ぶつかったことはないですよ。「大変だ、大変だ」というのはずっと聞いてましたけど。ま、このオケに指定されたメロディーで「好きに歌詞を書いてくれ」と言われて、さらに歌うというのはね、大変ですよ、きっと。と客観的には思いました。この間ライヴでやってみて、“あ、本当に大変なんだな”と思ったので。この歌をライヴで、あんな短い時間やるだけでも大変だったんだから、歌入れとかを考えると“あぁ、ほんとこれつらいなぁ。めんどくせぇな”と思いました。僕なら引き受けないな、と(笑)。
▲<ddd~MAKI FUJII DEBUT 30TH ANNIVERSARY~>2019年9月26日@渋谷ストリームホール |
藤井:影響受けた部分ですか? うーん、でも実際一緒にいたのって4、5日とか、そんなものなんですよね、1年半も掛かったわりには。たいがいはネット上のやり取りで。最後の最後、歌録りで3、4日一緒にいたぐらいで、あとはお茶を飲んでいたりとか、そんなものなので。
──会われる回数は少ないにしても、継続した長い時間、存在を思い浮かべながら一緒に作品をつくっていくという経験によって、醸し出される何かがある気もするのですが……。
藤井:うーん……無い(笑)。たぶん石川さんも同じじゃないかな? 密にやり取りしたわけではなく、お互いの世界をリスペクトしたまま、うまくパズルがハマッたけど、できた絵はちょっといびつ、というのが『C』だと思うので。説明が難しいですけどね。
──今作『C』を聴いていて、世界のどこにも他に見つけられない、“こんなところに迷い込んでしまった”という、特別な小部屋を与えられた感じがしたんですね。
藤井:あれ、そんな閉塞感あります? あらら~……なんか僕ダメなんですよ、小部屋とか。
──失礼しました(笑)。小部屋と言って良くないなら……。
藤井:ま、いいです、箱庭よりマシです。
──チマチマしているとか、そういうネガティヴなイメージではなくて、逃げ込める場所というか、すごく気持ちのいい空間だなと感じたんです。
藤井:へ~、それはうれしいかもしれないですね。
──そしてそれは、いつもminus(-)のライヴに行って感じる、閉塞感ではなくて解放感と共通する感覚なんですね。“あぁ、すごく気持ちのいい、美しい場所がここにある”とうれしく思う感覚というか。
藤井:あぁ、それこそ僕の言っていた「環境をつくりたい」というのと一緒で。それができているんだとしたら、わたくし冥利に尽きます。そういう意味で「部屋」とおっしゃっているんだとしたらその通りで、そうだとしたらうれしいです。
◆インタビュー【4】へ
◆インタビュー【2】へ戻る