【ライブレポート】若菜、思いを伝えたいという純粋な強い気持ちと愛に満ちたパフォーマンスの初ワンマン

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9月28日。2ndシングル「月-TUKI-」のリリース日でもあるこの日、代官山UNITで若菜初となるワンマンライブが開催された。ステージに現れた彼女は実に堂々としていて、むしろこの瞬間を迎えられた喜びに包まれているような印象だ。1曲めは、記念すべきデビューシングル「柳火」。ギター1本、青い光に包まれながら歌い出したその声に全てのオーディエンスが一瞬で引き込まれた。夏の夜に感じるどこか儚く寂しげな空気感をつぶやくように歌うボーカルで表現する若菜。バンドインしてからは少しだけ強い気持ちで歩き出すようなポジティブさを匂わせ、開放感のあるメロディーで展開するサビでは待ちきれなかったような笑顔もこぼれた。転調しさらに伸びやかになる歌声。ステージで呼吸するように歌う彼女を見ていると、これはきっと自分の気持ちに正直になった彼女が、一番見てほしかった姿なんだろうなという思いに駆られた。

「こんばんは!初めまして、若菜です」

少しだけ照れ臭そうな表情でそう挨拶をすると、「こんなにお客さんがいると思っていなくて、めちゃくちゃびっくりしているんですけど(笑)」と本音をポロリ。そして「緊張しているけど精一杯歌うのであたたかく見守ってください。最後まで一緒に楽しんでいきましょう!」と元気よく言葉を続けた。


ここからの3曲は、人気YouTuberコバソロとともに「コバソロ&若菜」として発表したカバーを披露。手拍子を煽りながらパンチの効いたボーカルで魅了した「残酷な天使のテーゼ」(高橋洋子)からスタートし、「僕が一番欲しかったもの」(槇原敬之)では時折そっと胸元で右手を握りしめながら、思いを込めた言葉を届けている。ピアノ1本の伴奏で歌い出した「歌うたいのバラッド」(斉藤和義)はもちろん彼女自身の曲ではないが、思わずそう感じてしまうほど言葉と感情が寄り添い合っていた。言いたかったこと、言えなかった気持ちが詰まった熱っぽいボーカルに、会場からも大きな拍手が寄せられていた。この日は他にも、学生の頃からカラオケに行ったら必ず歌ってきたというSuperflyの「愛をこめて花束を」と、芸能界デビューのきっかけとなったオーディションでも歌っているシェネルの「Believe」を披露。何度も何度も歌ってきたからこそ彼女の体に染み付いているものと、バンドメンバーが生み出すこの日この瞬間にしかないグルーヴ感の融合が新鮮だった。


ライブの中盤では、椅子に腰掛け、アコースティックギターを弾きながら歌うという初の試みも用意されていた。曲は、せっかくのワンマンライブ開催にあたり何か今の自分にできることはないかと考え、作詞だけでなく、ギターで曲も作ったという完全オリジナル曲「幸せに罪はない」。裸の気持ちが綴られたこの曲について彼女は、「ちょっと真面目な話になるんですけど」と前置きしながらこんな風に話を始めた。

「私は2年ほど前までこの芸能界で活動をしていました。今年新たな一歩を踏み出しましたが、私は一度、自分の夢を諦めた人間です。第二の人生として何をしようか、何ができるのかを考えていた時、いつも声を掛けてくれたのは家族や友達、仲間でした。歌に対して後ろ向きだった時も、若菜は絶対に歌ったほうがいい。チャンスがあるんだったら夢を諦めずに頑張れと、たくさんの言葉で背中を押してくれたんです。それで私は、もう一度夢を追いかけようと決意しました」


涙で声を詰まらせながら、活動再開に至った経緯を正直な言葉で語った若菜。「幸せに罪はない」は、そんな風に自分を支えてくれた人達への感謝の気持ちをまず歌にしたいと思って書いた曲であり、今日ここに来てくれたみなさんやスタッフの方達のおかげで自分は今このステージに立てているんだという感謝を改めて伝えた。バンドメンバーである阿部学(G)にサポートされながら披露したその曲は、涙した日もあったけど一度きりの人生なんだから前を向いてこうという、彼女の初心や決意が伝わってくるものだった。始めたばかりのギターによる弾き語りはまだまだ左手を見つめたままだったが、なんとかこの思いを伝えたいという彼女の強い気持ちに勝るものはない。純粋な説得力と愛に満ちた意味のある初パフォーマンスだったと思う。


その後、「最初のリハーサルで、初めてとは思えないほど息がぴったりだった」という大切なバンドメンバーを紹介したのだが、Dr.新保恵大、B.小林修己、Key.カトウトモコと来て、唯一これまで何度か一緒にステージに立ってきたG.阿部学の名前を間違うというオチに会場は大爆笑。「あとでちゃんと謝罪します!」と頭を下げる姿もチャーミングだ(笑)。そんなメンバーとともに「すごく思い入れのある曲」としてシェネルの「Believe」をカバーし、本編最後はライブ当日に配信スタートとなった2ndシングル「月-TUKI-」を披露。疾走感のあるアップテンポなナンバーで、若菜も前のめりなパフォーマンスでフロアを扇動している。色んなことがあったけど、私は私らしく駆けていくんだ!そんな清々しさを感じさせる、最高にハッピーな本編のエンディングだった。


アンコールの声に応えて再び登場した若菜は、先ほどまでのパンキッシュでエッジィなスタイルから、今回のワンマンのために作られたライブグッズのTシャツに衣装をチェンジ。これもまた彼女の今のムードを伝える、ユニークなデザインの逸品だ。アンコールの1曲め、DREAMS COME TRUEの「うれしい!たのしい!大好き!」が始まると、気持ちがほぐれたのかこの日初めてステージの両端まで移動しながら歌い、フロアに笑顔を届けている。右手を大きく振りながら会場全体が一つになっていくこの曲のパワーを最大限に生かしつつ、ライブの楽しさを全員で共有した。最後に歌われたのは、本編の1曲めでも歌われた「柳火」。「色々な経験を経て今年再スタートを切ったということで、初めて自分で作詞に挑戦し、初めて自分で自分をプロデュースするというチャレンジをしたこの曲を最後にもう一度歌いたかった」のだという。新しい時を刻み始めたこの日の景色を忘れないようにしっかりとフロアを見つめ、感謝の気持ちを一人一人に手渡すように歌う若菜。彼女のこれから、この先がもっと見たい。そんな気持ちを残してくれる、記念すべき初ワンマンのエンディングだった。

取材・文●山田邦子

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