【インタビュー】島キクジロウ、パンクロッカーがなぜ弁護士に?「相手が国だろうが大企業だろうが戦える」

ポスト

■“ノーニュークス権”をもっと広めるには
■ロックンロールの力を借りるしかない

──最初からバンド活動も並行してやっていこうと?

島:いや、思ってないです。弁護士でハデにやって社会をひっくり返してやろうと思ってたので。ただ原発事故が起きて集会が開かれたときに、「ちょっと歌ってよ」って声かけてもらったので、最初は弾き語りでやっていたんだけど、ひとりじゃ寂しいし、迫力もないから昔の仲間に声をかけたんですよね。「パーカッションやってよ」とか。そのうちにサックス、ギターってやるたびに人数が増えて、だんだん原発をテーマにした曲も増えて、なんとなく固定のメンバーになってバンドになっていったっていう。

──自然な流れで、また音楽やることになったんですね。

島:そうそう。そうこうするうちに原発メーカー訴訟を依頼されたんですね。東京電力に対していろんな要求するけど、原子炉を作った会社を訴えられないのか?って市民団体から相談されて。

──そうだったんですね?

島:法律上は免責になっているんですよ。つまり、すべて電力会社が責任を負う。原子炉の製造業者は二重三重に保護されているので、「この法律は憲法に矛盾しているし、おかしいからやりましょう」と。でも、この条文は輸出国が責任を負わない仕組みで、世界共通でもある。条文をなくすために、どうしたらいいのかを考えた結果が“原子力の恐怖から免れて生きる権利”。

──バンド名に冠されたNO NUKES RIGHTSですね。

島:事故が起こるかもしれない不安や恐怖から逃れて生きたいっていう気持ちは、単なるわがままやポリシーではなく、いまや全人類の権利なんだよっていうことを裁判で主張しようと思ったわけ。で、“ノーニュークス権”っていう言葉を考えたんですよね。そういう活動をしていくうちに、これをもっと広めるにはロックンロールの力を借りるしかないと思って、いま僕がやっているバンドの名前を島キクジロウ&NO NUKES RIGHTSにしたんです。

──被災地の方たちと直接、触れ合って実感したことも曲になったりしたんですか?

島:それもあるよね。そういう人たちが防護服を着て自分の家に入って、「帰れないのはわかってるんですよね」って言いながら一生懸命、部屋の掃除をしたりとか、どういう想いで避難生活をしていたのかを目の当たりにしたから。

▲アルバム『KNOW YOUR RIGHTS』

──そういうメッセージが込められたアルバム『KNOW YOUR RIGHTS』ですが、サウンドは多彩です。8ビートはもちろん、ラテンやスカなどさまざまなリズムが取り入れられているし、楽曲自体メロディアスだし、ダンス憲法シリーズの曲が収録されていたり。決して“パンク”のひと言で形容できるアルバムではないという。

島:そこはクラッシュもそうだからね。メッセージがあってもポップじゃないとダメ。

──楽器の音色も豊かです。とりわけ、ラテンや沖縄音楽だったりの要素を採り入れているのは?

島:ジョー・ストラマーもソロになって、ワールドミュージックにどんどん傾倒していきましたからね。のちのバンドであるザ・メスカレロスではアイリッシュ音楽を取り入れたりとかさ。そういうふうに音楽を追求していく姿勢に影響を受けているっていうのもあるし、やっぱりひとつの枠の中でやるのは面白くないから。

──1曲目の「Dance to the 9」は憲法9条が歌詞に盛り込まれていて、2曲目のホーンを取り入れたロックンロール「Dance to the 13」では憲法13条について歌っていますが、ビートに乗せてメッセージするのは、みんなにもっと憲法について知ってほしいから?

島:そう。まず中身を知ろうよっていう。僕個人としては、憲法について議論したりするキッカケを作れたらいいなって思っているし。“憲法、変えるな”っていうことじゃなくて、憲法のことを踊りながら話せばいいじゃんっていう。

──「Fuckin’Wonderful World」という曲が個人的に好きだったんですけど、パーカッシヴでキレイなメロディの曲に、“北極の氷が溶け出し 南の島はもうすぐ海に沈むだろう”っていうフレーズが出てきて、ドキッとさせられました。さりげなく盛り込まれてるから聴きやすいんですよね。

島:たとえば、海外では学生が毎週金曜日に地球温暖化対策を訴えるデモ『Fridays For Future(FFF / 未来のための金曜日)』をやったりしてるじゃないですか? 日本でもそういう社会参加が自然な状況になればいいなって。

──特別なことじゃなくなるといいですよね。強いメッセージ性とポップ感を融合させるって、簡単なことではないと思うんです。楽曲制作にあたって、意識しているところもありますか?

島:曲作りは、テーマが最初に決まって、そこから「こんなリズムの曲にしよう」って作っていくことが多いんですよ。ギターと2人で作ることもあるんだけど、彼も歌詞にこだわるから、“曲の土台はあっても、この先は歌詞がないと作れない”ってなることもあるし。ただ基本的には僕らのバンドって、メンバーはフレキシブルなんですよ。ツアーも1人で行くこともあれば、ジャンベと2人で行くこともある。時と場合で変わっていく。だから、根本にあるのは弾き語りで自分1人でも歌える曲。そこから足し算していくっていう考え方ですね。

◆インタビュー【4】へ
◆インタビュー【2】へ戻る
この記事をポスト

この記事の関連情報