【インタビュー】アレクシス・フレンチ「人々を感動させる、それが最も力強いモチベーション」
昨年リリースしたアルバム『Evolution』が全英クラシック・アルバム・チャートで3週連続1位に輝き、邦画『人魚の眠る家』の音楽を手掛けたピアニスト/作曲家、アレクシス・フレンチが、今月、<ライブ・イマージュ>に出演するため初来日を果たした。
◆アレクシス・フレンチ画像、動画
スティーヴィー・ワンダーの音楽からキーボードに興味を持ち、キッチン・テーブルを叩いていた3歳の男の子は、ピアノを手にすると並外れた才能を発揮し、英国の名門──パーセル音楽院、王立音楽アカデミー、ギルドホール音楽演劇学校で学ぶことになる。クラシックのみならずR&Bやルーツ・ミュージックを愛する彼は、クラシックの世界においても公演またはSNSを通じオーディエンス/リスナーとコミュニケーションを取るべき、自分の音楽がバックグラウンド・ミュージックになっても屈辱的とは思わないなどユニークな思想を持つ。
変わりつつあるが、まだ伝統や慣習を重んじる傾向があるクラシック・ミュージック界の中で異色の存在に話を聞いた。
◆ ◆ ◆
──まずは、ピアノを弾き始めたきっかけを教えてください。
フレンチ:小さいころ(家にピアノがなく)僕は音楽に合わせ、よく机を叩いていたんだ。父が大の音楽ファンで、家には音楽が溢れてた。スティーヴィー・ワンダー、サム・クック、ボブ・マーリー……、クラシック音楽もかかっていたけど、よく覚えているのはこの3人だ。だからすごく簡単に言うと、音楽が大好きな両親のもとで育ったからだ。
──なぜ、ギターなどではなくピアノを選んだのでしょう?
フレンチ:スティーヴィー・ワンダーのおかげだね。彼の音楽にはキーボードがいっぱいある。とくに「Superstition(迷信)」が収録されているアルバム、なんだっけ? 70年代の……(『Talking Book』)。素晴らしいキーボードだらけだ。それで、とくにキーボードに興味を持った。机を叩いていたのは3歳のころだったよ。
──その1年後には曲を書き始めていたとか。
フレンチ:曲作りは初めからあった。演奏と創作は、いまでもそうだけど、僕にとっては同じことなんだ。違う2つのことってわけじゃない。
──普通なら、子供にとっては別物だと思いますが(笑)。
フレンチ:僕にとっては同じだよ。即興で演奏することもあれば、ちゃんとした経緯で制作することもある。僕にしたら、それらは同じことで切り離すのは難しい。
──小学生のとき、友達はみんな、サッカーなんかをプレイしていたと思います。それでピアノに集中できなくなったなんてことは?
フレンチ:そうだね(笑)。僕の最初の記憶はピアノに関することなんだけど、それに加え、算数も大好きだったんだ。僕の両親はすごく……、西インド諸島出身で……、移民の家庭には多いけど、彼らは子供にこの国(UK)で成功して欲しいって思ってる。だから、うちの両親は子供たちには厳しくしようとしてたんだと思う(笑)。それで、僕は算数を頑張ってた。成績が良かったから、特別クラスに行ってた。小学校時代で覚えているのはこれだ。もちろん、サッカーもやってたよ。普通のことも楽しんでた。
──スティーヴィー・ワンダーに影響を受けたとのことですが、R&Bやポップの道には進まなかった。
フレンチ:そうだね、なんでかはわからないんだけど、僕はショパンやバッハを弾くのを好んでた。練習では、クラシック以外も弾くけどね。
──初心者へのお薦めは?
フレンチ:モーツァルト、それにバッハから始めるのがいい。
──同世代で刺激を受けるピアニスト、ミュージシャンはいますか?
フレンチ:ピアニストはいっぱいいるよ。カティア・ブニアティシヴィリは大好きだ。彼女の演奏は美しい。美しいソウルがある。それに、ダニール・トリフォノフも好きだ。そして多分、僕の一番のお気に入りのピアニストは、クリスティアン・ツィマーマンだね。
──これまで様々な良い批評や誉め言葉を受け取っていると思いますが……
フレンチ:そうなの? 知らなかったなあ(笑)。
──言われてます(笑)。その中で一番嬉しかったものは?
フレンチ:いいこと言われればいつだって嬉しいけど、人々が、僕が作った曲を演奏しているビデオを送ってくれるのは嬉しい。僕の音楽に合わせ、子供が踊っていることもよくあって、ほろりとする。子供だけじゃない。大人でも、僕の曲をきっかけに久しぶりにまたピアノを弾き始めたって聞くと嬉しくなるね。そういうの、SNSに投稿してるんだ。僕は、作曲家が人々、リスナーと交流を持つのは重要なことだと思ってる。いまはソーシャル・メディアがあるから、それができるね。
(C) David Nelson
──ピアニスト、作曲家、ミュージシャン、アーティスト……、なんと呼ばれるのを好みますか?
フレンチ:いい質問だね。ピアニストって呼ばれると、何かが欠けてるって思う。でも、作曲家でも何かが欠けてるって思うんだ(笑)。僕には制作の面も重要だ。僕が作っている音楽はとても個人的なものだから、誰かがプロデュースできるとは考えられない。プロデューサーなしにアルバムを作るのは難しいんだけどね。だから、僕はこの3つを好むかな。ピアニスト/作曲家/プロデューサー。でも、誰かがその中の1つしか口にしなくても、訂正するつもりはないよ(笑)。
──あなたはクラシック音楽の世界でユニークな存在ですが、これまでに、偏見などネガティブな体験をしたことはありますか?
フレンチ:偏見っていうのは、あからさまではなかったりする。昔はもっとはっきりしていたけど、最近はより巧みで分かりづらい。でも、僕はそこには目を向けていない。ポジティブやナイスなことについて話すほうが重要だ。誰にとってもね。たとえ難しい状況や時期にあったとしても……。僕は、いつだって自分の出身を誇りに思ってきた。それが僕の強みであり、力になってる。僕の両親が与えてくれたものだ。そのおかげで、小さいころから自分はこの世界でやっていけるって思ってた。これこれこういうわけだから、僕にあれをやるのは難しいなんて感じたことなかった。自分の子供たちにもそう言ってる。君らにはとてつもない素質がある。このヘリテッジは素晴らしい贈り物だってね。みんながそう考えているわけじゃないのは知っている。嫌な経験をする人もいるだろう。僕にもあった。でも、それに目を向けるつもりはない。それより、ポジティブなことについて話すほうが重要だ。
◆インタビュー(2)へ