【インタビュー】ReN、「何より効いた痛み止めが音楽だった」

ポスト


■ 自分に正直な歌を書いていきたい

── そういうなかで生まれた新曲「HURRICANE」のお話を伺っていきますが、この曲はこれまでの曲のなかでも、よりプリミティヴなサウンドとなっていますね。ReNさんの楽曲は、多彩で繊細なアレンジのものだったり、アーバンな匂いのある曲の印象も強いですが、この曲はいい感じに土臭さがあって、生々しさがあります。今回の曲はどんなふうに生まれていったものですか?

ReN:自分には大きく分けるとふたつの作り方があるんです。ひとつは、弾き語りで自分の思いをそのまま綴るように歌っていく曲と、もうひとつは、自分が憧れた洋楽のような景色に変えるようなサウンドだったりメロディラインを追求する曲。今回の楽曲に関しては、身体にダイレクトに届けて、身体の内に潜在的にあるような不安とか、そういう感情を音で解放させる曲を作ってみたいと思って。それは自分が音楽に求めるもののひとつでもあって、何かの答えを伝えてもらうことだけではなくて、感情を歌って共感できる音楽というか。そこでそのギターの土臭いフレーズが出てきて。それをキレイな音ではなくて、あえて使い古した弦で録ってみたり、そういうこだわりも込めて作った曲でした。


── ギターのフレーズきっかけでできた感じですか。

ReN:ナッシュビルのスタジオに入って、今回、作り方としては初めての経験だったんですけど、まず何気なくコードを弾いてみたら「そのフレーズがいいね」ってなって。それをベースにして紡いでいこうと。僕が弾いた8小節のギターをループしながら、こういうビートがいいんじゃないか、ああいうビートがいいんじゃないか、っていう話を現地のミュージシャンやプロデューサーとしていきました。

── そういう作り方だったんですね。

ReN:ひとりで作り上げる世界よりも、一緒にグルーヴに入って、笑顔が生まれて、本当にお互いが感じあった瞬間のノリっていうのが気持ち良くて。その勢いに乗っかってみんなでボールを投げ合うように作っていきました。で、それを自分がジャッジメントしていって、自分のメロディを作り上げていきました。そのメロディから自然に“HURRICANE”っていう言葉が出てきて、「今、“HURRICANE”って出てきたな、なんでだ?」っていう部分を今度は歌詞に落とし込んでいく作業があって。「ああ、今自分にはこういう感情があるんだな」「それを解き放つために出てきたこの“HURRICANE”はマイナスなイメージではないな」という感情の分析をその場で書いていったんです。言語の必要のない、音の中でフィールし合う高い熱と、時間をかけて自分が深く自問自答して作る歌という、そのふたつがあった感じでした。

── なるほど。

ReN:今までもスタジオにエンジニアの方がいたケースもあったんですけど、基本的には自分が100作ってきたものをスタジオで表現してみて、そこで自分が足りないと思うものをジャッジメントしていくという流れだったんです。もちろん、それはこれからもやっていく作業なんですけど、それで良い部分と、自分っぽすぎてもうイヤなんだよなって自分が思っている部分もあるから、違う自分を知るために新たな空気のなかで音を出すっていうことが今回のテーマでしたね。それをやってみた結果、新しいサウンドが生まれて、今まではできなかったパフォーマンスもできるようになったので自分を改革していく感覚で。今まで、ライブも音楽もひとりの世界でやってきたので、初めて外に出て自分の知らない景色を見て、学んでいるっていうんじゃないですけど。そのなかで自分が培ってきたことを表現するとこうなるんだなって、経験しているところですね。

▲配信シングル「HURRICANE」

── だいぶ濃い時間だったんですね。

ReN:めちゃくちゃ濃かったです。10日間アメリカに行ったんですけど、ロサンゼルスに1週間いて。2日間ナッシュビルに行ったんですけど、ほとんど毎日セッションで、入れ替わりでいろんな人と音を出してた。いろんなトライをしたなかで、最後の日にできた楽曲がこの「HURRICANE」だったんですよ。若干風邪ひいていたんですけど(笑)、気合いとバイブスに引っ張られてできた曲でした。

── なぜ、ナッシュビルっていう場所を選んだんでしょう。

ReN:それが、自分のなかでも答えがあるようでなくて。ナッシュビルという場所は、アコギの聖地、カントリー・ソングの聖地というのもあるし、自分が好きな世界のルーツというのもあったから一度は行ってみたいと思っていた場所で。ただ現実的にセッションしたりとか、自分が今までやってきた音楽は、きっとロサンゼルスのほうが、近い感覚で一緒にできるアーティストが多いんじゃないかということで行きました。目的のものはたくさん完成したから、じゃあナッシュビルにも行こうかっていうノリだったんです。最後に、力を抜いてフォークソングを作りに行ったはずが、いちばん派手な曲ができて(笑)。だけどそれもやっぱり、その土地に行っていろんな刺激を受けたからで、たぶん自分の感情も穏やかなものではなかったんだと思うんですよね。だからポロポロと弾くんじゃなくて、ジャキジャキと弾くようなものでいきたいとなったとき、たまたまそこにいた女性のプロデューサーとすごくフィーリングがあったので。「ナッシュビルだけど、こんなアップテンポな曲ができたっていうのはあえて面白いね」って話しました。



── Aメロ部分の憂いあるメロディから、ゴスペル的なコーラスにも聞こえてくるようなサビの部分の高揚感、そのカタルシスがある曲に仕上がりましたね。

ReN:そうですね。マイナスの世界なんだけどそれを吹き飛ばす力があるという。この曲では、人間の行ったり来たりする感情だったり、どうにもできない苛立ちみたいなものも曲に宿したいなという思いがありました。だから、聴いて苦しいこともあるんだけど、でもこのめちゃくちゃな世界が逆にポジティヴじゃないかって思えるような、そういう曲にできたらいいなとは思いましたね。

── そういう感情の持っていき方には、ReNさんの人生や人生観も反映されていると思いますか。

ReN:どうなんでしょうね(笑)。最近自分が思うこととしては、絶対にみんな不安というものはあって、それぞれいろんな人がいていろんな人生があるけれど、そういう不安ってみんな抱えていて、でも抱えてないフリをして生きていると思うんです。そういうところを感じ合えるような、身体を通してみんなが抱えてるものを解放できるような楽曲になればいいなって。訴えかけるというよりは、みんなの身体に届けて、その怒りをみんなで吹き飛ばそうっていうか。ライブではそういう曲になればいいなと思っています。

── 音楽をはじめた頃は自身の経験や感情を整理するという意味合いでも、プライベートな内容が多かったと思うんです。それがもう少し、視野を広げている感覚もありますか。

ReN:それはそれで、自分がシンガー・ソングライターとして歌うひとつの世界としてあると思うんです。でも、ReNという人間を濃く込めた歌はこれからも歌っていくし。自分は今25歳という年齢で、まだそんなに多くを語れないし、わからないこともたくさんあって、そのわからないことを“こうなんじゃないか”って歌う曲も書いてきたけど、わからないことはわからないよって素直に言う歌も書いてみたい。そういう意味では、自分に正直な歌を書いていきたいですね。

── アメリカでたくさんの曲を作ってきたようですし、これからも楽しみです。また、4月20日に大阪BIGCATと5月30日に新木場STUDIO COASTで行う<ONE MAN TOUR 2019 『衝動』>は、ReNさんにとって思い入れの深い会場でのライブになりますね。

ReN:自分が音楽をやるきっかけとなった2014年に、たまたま当時よく聴いていたエド・シーランが日本でライブをしたんですけど、その時の会場がこの2会場だったんです。今年の来日公演は東京ドームでしたけど、4年前は800人規模のライブハウスだったんですよね。もしあの場にいなかったら、自分は音楽をやっていないって言い切れる場所で、そこで自分がもらった心のガソリンみたいなものを自分なりに表現できる場所として、「必ずここでやりたい」って思っていた場所だから。そのときに自分がした約束を、今回は誰に対してというよりは、自分に対して果たすという感覚ですね。

── 当時すでに、「自分もここでやろう」って思ったんですね。

ReN:思いました。ここでやろうというか、この人がやったことをというか──そのときはもちろん好きな気持ちで観ていたけど、でも僕にとって大切な武器だったレースの世界がなくなった直後だったので、目の前の輝いた人間を見たときに、羨ましい気持ちとクソっていう気持ち、いろんな気持ちが大好きなこの人に対してあったんです。俺はどんな形でもいいから、今目の前で見たこの人間のエネルギーと同じかそれ以上のものを表現したいと思った。その場で、「俺はここに立つぞ」とは言わなかったですけどね(笑)。今はもっと高いところもちろん見ているけど、その当時の思いに丸を打つという意味で、この2カ所のライブは僕にとって大きいものです。

取材・文=吉羽さおり
撮影=大橋祐希

  ◆  ◆  ◆

■ReN ニュー・シングル「HURRICANE」


2019年4月17日配信
https://ReN.lnk.to/HRCNPu

■<ONE MAN TOUR 2019『衝動』>

4月20日(土) 大阪 BIGCAT(Open:17:00/Start:18:00)
5月30日(木) 新木場Studio Coast(Open:18:30/Start:19:30)
http://ren-net.com/news/news190101_2.html

この記事をポスト

この記事の関連情報