【インタビュー】ヴィンセント・ニクロの華やかな経歴、さらにYOSHIKIとの交流も
「平成」の締めくくりに荘厳なステージを繰り広げ、全国各地のべ4万人の聴衆を圧倒させているサラ・ブライトマンのジャパン・ツアー。それに帯同し、情緒豊かな歌声を披露し話題をさらっているのがヴィンセント・ニクロである。地元フランスではミリオン・セールスを獲得、単独ライヴでは真紅の薔薇を抱えたファンが殺到するなど「社会現象化」するほどの人気を誇るテノール・シンガーに、その華やかな経歴、さらにYOSHIKIとの交流についても語ってもらった。日本初のインタビューである。
──どういうきっかけでテノール歌手になろうと思ったのですか?
ヴィンセント・ニクロ:私の父親がシンガーだった影響もあり、物心ついた頃から「歌うこと」に興味があったというか。有名になる・ならないに関わらず、音楽の道へ進みたいという気持ちは、ずっと抱いていたような気がします。
──プロの「テノール歌手」として、ターニング・ポイントになった出来事は何ですか?
ヴィンセント・ニクロ:たくさんの出来事が、今の私へ導いてくれたのですが、特に大きかったのは、セリーヌ・ディオンさんとの出会いではないでしょうか。
──どういうきっかけで?
ヴィンセント・ニクロ:2012年にロシアの合唱団であるRed Army Choirとアルバム『Opéra Rouge』をリリースしたのですが、これがフランスの音楽チャートで長きにわたりトップ10にランクインし続けることができたのです。ポップス全盛のなか、このクラシカルなオペラ作が、ロングセールスを記録するのは異例で、シーンにとても大きな存在感を示すことができました。このヒットのおかげで、あるTV番組でセリーヌさんの前でパフォーマンスしませんか?と声をかけられて、彼女のヒット曲「オール・バイ・マイセルフ」を披露したんです。ちょうどその頃、彼女は最愛のパートナーを亡くしたばかりで、その心境にフィットしたのでしょうか。とても気に入ってくださった。また、その様子が動画サイトを通じて世界中に拡散して、私の名前が知られるようになりましたね。その後、セリーヌさんから「一緒にツアーを廻りませんか?」というお誘いをいただき、以降私の人生は大きく変化したんです。
──セリーヌ・ディオンとの共演以降、イル・ディーヴォ、マイケル・ブーブレ、そして今回のサラ・ブライトマンなど、そうそうたるミュージシャンとも共演を重ねていきますね。
ヴィンセント・ニクロ:これまで私が出会ったすべての方々は、とても素晴らしい才能の持ち主で勉強や刺激になることばかりでした。また、他の方々と歌うことで発生するエネルギーは、自分だけの音楽はもちろん、他の音楽にはないケミストリーや素晴らしさを放つものになることを実感しました。それは共演していただいた方々が、私が歌いやすい環境を作っていただいたおかげだと思っています。今回のサラさんは特にそれを感じますね。彼女は、ステージごとに声の表情を変えていく。だからツアーに帯同していても飽きることがないというか、驚きと発見の連続なのです。とても刺激になっていますし。また、私に対してもいい声が出せるようにとても気をつかってくださる。本当に素晴らしいミュージシャンだと思います。
──著名ミュージシャンとのコラボだけでなく、ソロとしても大活躍し、フランスではミリオン・セールスを誇るほど、国民的人気を獲得されていますよね。
ヴィンセント・ニクロ:国民的とまでは言えないですよ(笑)。ただ、パリ市街を歩いていると、声をかけていただく機会は多いですね。みなさん、とてもフレンドリーでかつ私をリスペクトしてくださる方々ばかりで、本当に素晴らしいリスナーに恵まれているなと感じています。
──今回のジャパン・ツアーの最中にも、急遽フランスに帰国しTVパフォーマンスをされましたよね。
ヴィンセント・ニクロ:はい。これは先日発生してしまいました「ノートルダム大聖堂」の火災に対する特別番組でした。私は生粋のパリジャンで、あの建物に見守られながらここまで育ってきた、いわば「祖父母」のような存在なんです。また、日本のファンの方々からも心配される声を多くいただき、世界的に愛されている存在なんだなと、改めて感じることができた。だから、何かできることはないかと考えていたところ、TV番組のオファーをいただいたんです。ちょうどツアーの移動日に重なっていたので、サラさんに相談させていただいたところ、快く協力してくださった。結果、空港に到着してすぐに会場に向かって歌ってすぐに日本行きの飛行機に乗らないといけないなど、ハードなスケジュールでしたが、私が愛する存在に対しての思いをパフォーマンスにこめられたと思います。実際パフォーマンス中には、ノートルダムへの思いはもちろん、サラさんをはじめとする多数の方々などの協力など、いろいろ思う部分があって、涙がこぼれ落ちそうになっていましたから。
──とても感動的なパフォーマンスだったのですね。2018年には最新アルバム『TANGO』をリリースされていますが、これはエレクトロの要素も取り込まれ、とても実験的でモダンな仕上がりになっていますね。
ヴィンセント・ニクロ:私は、さまざまな要素を取り入れて新しい音楽の魅力を発信していきたいと常に思っています。この作品では、モダンなエレクトロニックなサウンドにタンゴの要素をミックスさせたら面白いのでは?というアイデアのもと完成させた1枚です。ユニークですがとても聴きやすい仕上がりになっていると思いますよ。
──今後はどんな活動をされていきたいですか?
ヴィンセント・ニクロ:まずはサラさんとのワールド・ツアーを成功させることですね。また、同時に次のアルバムの制作もしていて、今度は私のベーシックな部分、オペラやテノールをより際立たせたオーセンティックな内容になると思います。それから、これは初めて告白するのですが、世界デビュー・アルバムの話も着々と進行しているので、日本のみなさまにもより気軽に私の声に触れていただける機会が間もなくやってくるのではないのでしょうか。
──日本といえば、サラさんの公演にも登場したX JAPANのYOSHIKIとも交流があるんですよね?
ヴィンセント・ニクロ:はい。私がYOSHIKIさんを知ったのは、フランスのドキュメンタリー番組で紹介されていたのがきっかけだったんですけど、その数ヶ月後にサラさんの作品に彼も参加していることを知らされて、ドイツで初めてお会いしました。とても知的でかつ優しさに溢れていながらも、シャイな方という印象でしたね。その後もサラさんとのツアーで何ヶ所がご一緒させていただいて、交友を深めていきました。東京観光のお誘いもいただいたので、実現できる日が来るといいですね。
Photos:Renaud Corlouer
取材・文:松永尚久
<サラ・ブライトマン来日公演>
4月24日(水)18:00 open/19:00 start 横浜アリーナ
4月26日(金)18:00 open/19:00 start アピオ 岩手産業文化センター
https://udo.jp/concert/SarahBrightman
◆ヴィンセント・ニクロ・オフィシャルサイト