【インタビュー】寺島惇太、ソングライターとしての手腕も発揮したミニアルバム『29+1 -MISo-』でアーティストデビュー
■歌手も声優も声を武器にするという点ではあまり変わらない
■それを武器にできるところへ行けたことはすごく嬉しい
――東京に上京してきて専門学校に入学されてますが、少しずつ人生の目的や目標みたいなものが絞られてきますよね。何か変化がありました?
寺島:すごく変わりました。自分が声優を目指し始めたら、あんなに好きだったアニメやゲームがそんなに好きじゃなくなったんです。マクドナルドでバイトした時もそうでした。めっちゃマックが好きだったのに、働き始めたら「別に」みたいな。
――冷静になってしまう?
寺島:自分は作る側になったんだから、いつまでもキャッキャ言ってちゃダメだろって。学校でも、いずれ同じ現場で仕事することになるかもしれない先輩達のことを(ファン心理のまま)呼び捨てにしていたり、アニメやゲームの話ではしゃいだりしている人達を見ていると、いやいやそうじゃないよなって。だから作品を見る時も、単純にファンとしてではなく、勉強として捉えるようになったんです。そうなると、純粋に楽しめなくなるじゃないですか。だからどんどん趣味も変わっていっちゃって、結果、パチンコと麻雀漬けになるっていう最悪の方向に(笑)。
――でも、いいこともあったんですよね(笑)。
寺島:そう。事務所の社長とかその周りのディレクターさんとかと麻雀打つ機会があって、何度かやらせてもらってたらそこからお仕事に繋がったりして。無駄じゃなかったです(笑)。僕、根がオタクなんで「広く、浅く」ができないんですね。気になったことはとことんやるんで、麻雀も歴史から学ぶみたいな。途中「あれ?俺、何目指してたんだっけ(笑)?」って思うくらい、ハマっていました。「夢は、麻雀番組の実況だ!」とか言って(笑)。
――しかし勘がいいというか、コツを掴むのが上手いというか。その才能が今、音楽の面で発揮されていると。
寺島:ようやく、です(笑)。色んなことに興味持って、色んなことバーッてやってきたけど、ちゃんと音楽に戻ってくることができました(笑)。
――シンガーとしても、ソングライターとしても、納得のいく形で作品が作れたんじゃないかなと思います。
寺島:そんな風に言ってもらえると嬉しいです。自分のこだわりとか、やりたかったことがちゃんと反映されたなと思ってます。
――今回は全6曲が収録されていますが、ライブのセットリストのような感じでも楽しめますね。
寺島:そうなんですよ。実際にライブをやった時にも楽しめるよう、激しい曲もあれば聴かせる曲もある。体を揺らしながら聴けるものもあったりして、来た人や聴いている人が飽きずに楽しめるような感じにしたいというのはありました。今は自分でプレイリストを作って、自分の好きなように曲を入れ替えたり並べたりしながら聴けますよね。でもライブって「それ、飛ばしてください」なんて出来ない(笑)。
▲『29+1 -MISo-』初回限定盤
▲『29+1 -MISo-』通常盤
――確かに!
寺島:以前、とあるガールズバンドのライブに行ったんですが、すごく好きで見に行ったのに、途中から飽きてきちゃったんですよ。何でかなって考えたら、意外と曲調とか展開とかテンポが似てることに気がついたんです。
――リスナーとしての感覚も踏まえながら、作ることができたんですね。歌詞の面ではいかがでしたか?
寺島:サウンドプロデューサーの赤堀(眞之)さんが、表現の仕方や方向性について「(自分の気持ちとして)嘘をついてると感じてしまうところは何でも指摘してください」と言ってくださったので、作詞家さんが書いてくださったものに関しても、何度かやり取りをさせていただきました。「Someday」は結構スルッと行きましたが、他はどれも、最初の形からは結構変化しています。
――1曲目の「道標」は、新しく踏み出す一歩を感じさせるような力強さがありますね。
寺島:最初は、みんなで「ウォーウォー」言って盛り上がれるといいなっていうところから始まったんですけど、アレンジによってかなりリード曲っぽい力を持つ曲になり、歌詞になっていきました。
――その「道標」や寺島さんが作詞・作曲を手がけた「actor(S)」もそうですが、今作では<声>というものがひとつキーワードになっているかなと思いました。
寺島:歌手も声優も声を武器にするという点ではあまり変わらないというか、声ありきのものだと思うんですね。声って、みんなが思っている以上に重要な要素だと思うんですよ。人の印象にも繋がるし、曲の印象が変わったりもする。それを武器にできるところへ自分が行けたことは、すごく嬉しく思っていて。
――はい。
寺島:だけど最近は声優も顔を出す場面が多くなったりして、見た目も磨かなきゃいけなくなった。声優がいちばん求めている感想は「いい声だね」だと思うんですが、例えばライブの感想を見ても「可愛かった」しか書かれてなかったりして、もっと声に注目して欲しいのになって思ったりもするんです。めちゃくちゃ歌を頑張っても「ダンスが下手」って叩かれたりして、何でそこ? みたいな。人前に出るからにはどれも大切だとは思っているけど、でもやっぱり声に自信があったから声優を目指したし、歌も歌いたいと思ったわけだから、その<声>っていう部分はもっとアピールしていかなきゃなっていう思いもあったんです。
――「actor(S)」には、そう言った現状に対する本音も表れているなと思いました。
寺島:完全にそうですね。僕、結構言いたいタイプなんですよ。だけど、言いたいことがいっぱいあって憤ったりしていても、いざ話を振られると「何にもないでーす」って言っちゃう(笑)。伝わる相手と伝わらない相手を先に自分で決めているというか、言っても伝わらないんだったら虚しいじゃないですか。
――声優としてのお仕事は”役を演じている自分”という側面もあるから、発言に関しても、自分自身をセーブされてるのかもしれないですね。
寺島:まさにその通りで。作品とかキャラクターありきの活動なのでね。僕は純粋でキラキラした役も結構やらせていただくんですけど、そいつが今の日本の社会をめちゃくちゃディスってたりしたら、キャラクターそのものも楽しめなりますから。
――イメージがありますからね。
寺島:でも音楽だったら、歌だったら、それが言えるなって思うんです。社会をディスったりっていうのは極端な例であって、僕自身は、伝わり過ぎないというか、押し付けがましくないように言えたらと思っているんですけどね。それを聴いて「いい歌だな」で終わる人がいてもいいし、自分の思いを受け取って分かってくれたらそれはそれでもちろん嬉しい。聴く聴かないは自由だし、どう聴くかも自由。それが音楽の楽しみ方かなって思うから。
――その上で、一緒に音楽を楽しんでくれる人が増えるといいなってことですね。
寺島:はい。単純にいいメロディーだなとか、この感じ好きだなくらいで全然いいんですよ。歌詞カードを見て「これってこういうことを言ってるのかな?」って気付く人もいればいいな、くらい。気軽に聴いてもらいたいんです。
――今「気軽に」とおっしゃいましたけど、アルバムのタイトルに関しては意味を考えずにいられないですよね(笑)。『29+1 -MISo-』(読み方:ミソ)。なぜこういう表記?なぜミソ?どういう思考回路でこうなったんでしょうか(笑)。
寺島:思考回路としては、松本人志さんが(2017年の)「キングオブコント」でにゃんこスターを高評価してしまった時と同じで、逆に今これ行ったら面白いだろうなみたいな(笑)。BUMP OF CHICKENのニューアルバムが「ミソ」だったら「えぇっ!?」だけど、寺島惇太なら許されるかなって(笑)。
――(笑)。
寺島:僕が「It’s A Beautiful World」みたいなタイトルにしたら、「何だ?急にカッコつけやがって」みたいになるじゃないですか(笑)。やっぱり今までの僕を応援してくれた人がメインリスナーになると思うから、あんなに気安いキャラというか、いつもニヤニヤしながら周りからイジられてたはずの寺島惇太が、アーティストデビューした途端に!みたいなのは嫌で。僕のカッコつけずに飾らないところが好きで応援してくれた人もいるはずだから、切り離したくなかったんですよ。楽曲がめちゃくちゃカッコよくて、アートワークもすごく良いものになってるからこそ、タイトルでちょっとクスッとしてもらえたらなって。「この、完璧にカッコよくなりきれないところが寺島惇太なんだよね」って思ってもらえたらなということで、タイトルで抵抗してみたんです(笑)。
――なるほど(笑)。
寺島:29年間はアーティストではなかったけど、30歳になったこの最初の1年はアーティストとしての1年目。アーティスト元年みたいな意味でもあります。この最後の「o」だけ小文字なのは、ちょっと見た目の違和感を残せたらなってことで。ポテチ食べつつ、みんなでゲラゲラ笑いながら30分くらいで決めました。連続するタイトルっていうか、例えば「(アーティスト名) I」「(アーティスト名)II」とかありますけど、「今回“ミソ”だから次は“ショウユ”、その次が“シオ”(笑)!?迷いの末に作り上げたからって後付けで“マヨ”もイケる(笑)」とか言いながら。
――ファンの方に楽しんでもらえたらという、その愛はしっかり受け取りました(笑)。では最後に、アーティストデビューを果たした寺島さんの今後の夢を聞かせてください。
寺島:ツアー、やってみたいんですよ。サウンドプロデューサーである赤堀さん達とも話していたんですけど、みんな楽器もできてコーラスもできるから、昔ながらの男くさいライブツアーをやりたいよねって。自分たちで機材を積んで、ワンボックスで全国のライブハウス細かく回るみたいな。
――そういうことも、話している時がいちばん楽しいんですよね。
寺島:そう(笑)。実際やるととんでもなくキツいってみんな知っているんだけど、30代からの、第2の青春っていうかね。これまでのキャラクターライブというかコンテンツライブでは自分よりもキャラクターを出すっていうものだったけど、これからはもっと<自分>も見せられたらなって思います。声優ならではの部分を生かした、僕にしかできない表現もやっていきたいですね。
取材・文●山田邦子
リリース情報
2019.3.27Release
初回限定盤 CD+DVD
NEZA-90022~3 価格¥2,700‐(Taxin)
通常盤 CD Only
NECA-20078 価格¥2,160-(Tax in)
CD共通
1.道標
2.re-Play!
3.幻日メモリー
4.actor(s)
5.RPG
6.Someday
DVD:「道標」ミュージックビデオ/
ミュージックビデオ撮影メイキング収録
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