【インタビュー】androp、大切な人に伝えたい 映画『九月の恋と出会うまで』の主題歌「Koi」
2月27日にリリースされるandropのニュー・シングルは、映画『九月の恋と出会うまで』の主題歌となる「Koi」と日本郵便『ゆうパック』タイアップソング「For you」をパッケージした一作。2018年12月にリリースしたミニ・アルバム『daily』から短いタームの作品でいながら楽曲クオリティーは非常に高く、さらに全くテイストの異なる2曲ということには圧倒されずにいられない。彼らのミュージシャン・シップや音楽に対する探求心の強さは、とどまるところを知らないようだ。そんな彼らの最新の声をお届けしよう。
■自分達が大切な人にどう伝えたいのかということを落とし込みました
■僕は恋愛の歌詞はほとんど書いたことがないんですよ
――2月27日に、ニュー・シングル「Koi」がリリースされます。
内澤崇仁(以下、内澤):表題曲の「Koi」は、『九月の恋と出会うまで』という映画の主題歌として書き下したバラードです。初めての打ち合わせで、『九月の恋と出会うまで』の原作小説は“書店員が選んだもう一度読みたい恋愛文庫”で1位を獲っているということや、小説の概要、映画を通して伝えたいメッセージをまず聞きました。映画もある程度できあがっていたのでラッシュ的なものをいただいて、小説を読んで、台本も読ませていただいてから曲作りに入りました。曲調や歌詞に関する指定は、映画サイドからは特になかったんです。自分なりのイメージで「Koi」を作って聴いていただいたら、これでいきましょうということになりました。それが、2018年の9月頃だったかな。だから、『daily』(2018.12.19)のレコーディングと重なっていたんです。9月の頭にアルバム制作が決まって、その後すぐにライブハウスツアーがスタートしたタイミングでスタッフに「映画の主題歌の話がきたから、来週までにデモをあげてほしい」と言われる…みたいな(笑)。もうね、怒涛の日々でした(笑)
――『daily』もそうですが、そういう中で良質な曲を完成させるのはさすがです。
内澤:いや、必死でした(笑)。ライブハウス・ツアーが始まったので、制作時間が本当になくて。アルバムの曲よりも映画の主題歌を先に作らないといけなかったので、話をいただいてすぐに1コーラスのデモを作って、OKが出たのでメンバーにデモを送って、急いでレコーディングするという流れでした。
佐藤拓也(以下、佐藤):内澤君がデモの段階でアレンジを作り込んでいたし、レコーディングする時点で歌詞もできあがっていたんです。だから、内澤君には申しわけない話ですけど、楽器陣はわりと楽でした(笑)。レコーディングもサポートのキーボードの人も交えて五人で一発録りして、2~3テイクで終わったし。この曲は、早かったよね?
伊藤彬彦(以下、伊藤):うん。内澤君が作ったデモのクオリティーが本当に高くて、各パートのアレンジができあがっていて、ドラムの音も特徴のある音が使われていたんです。それを再現する方向で行くことにしたから、アプローチや音作りで悩むこともなかったですね。デモのドラムはシティーポップというか、AORというか、ちょっと昔の山下達郎さんの曲のイメージだったんですよ。機械ではないリバーブ感みたいなところを狙いたいという内澤君の気持ちが伝わってきたし、僕は昔からそういう質感のドラムの音が好きなので、すごく楽しくレコーディングできました。
▲「Koi」初回限定盤(CD+DVD)
▲「Koi」通常盤(CD)
――生々しい音とグルーブ、後ノリのスネアと繊細なハイハット・ワークの取り合わせなどが、70年代感を生んでいます。
伊藤:まさに、そういうところを狙ったんです。スネアとキックの距離感的には大きなノリだけど、ハイハットでタイトさを出すという。あの時代の音楽というのは、良い具合にハットが入っているんですよね。音作りの面でもエンジニアさんが70年代っぽさということをすぐにわかってくれたみたいでした。こうしたいというような会話は特にしなかったけど、普通にセッティングして、チューニングして、エンジニアさんが録って聴かせてくれた音が、そういう音だったんです。だから、この曲のレコーディングは本当にスムーズでした。
前田恭介(以下、前田):ベースも、ほぼデモどおりです。僕が気をつけたのは、ニュアンスくらいでしたね。内澤君は、めちゃくちゃセンスがいんですよ。
――それは間違いないですね。この曲のベースは、ストリングス的な役割を果たしていることが特色になっています。
前田:それは、どの辺りでしょう?
――サビのハイポジを織り交ぜたフレージングや、最後のサビにいくところのフレーズなどです。
前田:なるほど。サビは内澤先生ですけど、ラスサビのところは僕が考えました。基本的にデモどおりのベースですけど、そこはレコーディングの前日に自分で何パターンか試しておいて、本番でオケを一発録りするたびに違うフレーズを弾いて、一番ハマりがいいのを選んだんです。
――1番の歌中の滑らかなベースは、フレットレスを使ったのでしょうか?
前田:いえ、フレットレスではないです。使ったのがプレベで、フラットワウンド弦を張っているんですよ。だから、フレットレスっぽいニュアンスになっているんだと思う。最近はプレベで、アンプを鳴らさないライン録りで、フラットワウンドというのにハマっていて、それをシレッと採り入れてみました(笑)。往年のAORやシティポップと呼ばれる音楽の人達のエッセンスを香らせたいという気持ちがあったので。
▲前田恭介(bass)
――さらに、2番のAメロではコード弾きをして、オルガンのようなニュアンスを出しています。
前田:それは、内澤先生です(笑)。本当にセンスがいい。ああいうのも70年代っぽいアプローチといえますよね。今だったら打ち込みを入れたりできるけど、当時はそうもいかなくて、生の楽器でやれることをやるという。2番のAメロは、“これ、いいなぁ。気持ちいいなぁ”と思いながら弾きました(笑)。
――ちょっとマニアックな話になりますが、ギブソンのEBはパイプオルガンの音をイメージした音が出せるようになっているらしいんですよ。この曲を聴いて、その話を思い出しました。
内澤:狙ったのは、まさにそこだよね?
前田:うん。パイプオルガンっぽいローが出ている。最近は、その辺りのロー……50Hz辺りを膨らませることが多くて、それもパイプオルガンみたいなニュアンスになっている要因だと思います。
佐藤:マニアックだな(笑)。今回は僕もみんなと同じように、デモどおりのギターを弾きました。アコギを内澤君が弾いて、僕はエレキギターを弾いたんですけど、「Koi」は楽曲もメロディーもすごくきれいで、出だしもピアノが効いていますよね。そういう印象を強く出したいので、ギターはあまり前に出ないようにしようというのがありましたね。ただ、エレキギターのザラつき感にはこだわりました。きれいにいくならストラトキャスターかなと思ったけど、敢えてテレキャスターを使ってザラッとした部分を出した。澄んだ音のアコギやピアノが鳴っているところでエレキギターもきれいな音にすると、ちょっと違うなというのがあったんです。
内澤:アコギとエレキギターが同じようなコードを弾いているところもあるから、棲み分けをちゃんとする必要があったんだよね。
佐藤:そう。それで、煌びやかなアコギの音にエレキギターのザラつき感をプラスするようなイメージでいったら、いい感じに纏まりました。それに、オケは一発録りすることになったから、曲中でギターを替えられなかったんですよ。なので、優しく弾くとほぼクリーン・トーンだけど、強く弾くとザラッとなるように音を作って、パートに合わせて弾きわけました。
内澤:「Koi」の歌録りは、どうだったかな? ……必死に作ってレコーディングしたので、多分コンディションよく作り込むことができなかったと思います。むしろ寝ていない状態のレコーディングだった気がする。環境的にはいい状況ではなかったので、歌のエモーショナルな部分だったり、気持ちの部分をなんとかしてレコーディングしようというという気持ちが強くあったと思います。
――あまりコンディションが良くない状態で歌っていることを全く感じさせない、深く染みる歌になっています。
内澤:今までは、歌録りの前日はしっかり寝て、リスナーに何回も聴いてもらえるように粗がなくて、きれいな歌を録るために何テイクも歌って…というレコーディングのやり方をしていたんです。でも、今回のシングルにしても、『daily』にしても、そうではないところで勝負しないといけないと思って、それがいい方向に出たのかもしれない。表面的なことではない、もうちょっと深いところで歌えたかなというのはありますね。
▲内澤崇仁(vocal & guitar)
――ここ数作の歌は、さらなる磨きがかかっています。それに、「Koi」はサビのゴスペルっぽいコーラスも絶妙です。
内澤:声のハーモニーでサビ感というか、全体の膨らみを出すということをやってみたいというのがあったんです。今まであまりそういうことができていなかったので、今回やろうと思って。イメージどおりに仕上がって満足しています。
――コーラスがサビの心地好さを増幅していますね。「Koi」の歌詞についても話していただけますか。
内澤:原作を読んで、ある程度できあがっている映画を見さてもらったら、エンドロールのときに曲と歌詞が浮かんできたんです。なので、歌詞もそんなに時間もかからず、サクッと書けました。映画に出てくる主人公の平野という男性は、小説家志望なんですよ。目指しているのが小説家ではなくて、ミュージシャンだったら…という目線も入れましたね。ミュージシャンを目指しているとしたら、守りたい人に対して、どんな曲を書くだろうと。そういう方向性で書くことにしつつ、それだけだと映画に寄っただけの作品になってしまうので、今の自分達が伝えたいこと……自分達が大切な人に対して、どんなことを、どんなふうに伝えたいのかということと重ねて落とし込みました。僕は、恋愛の歌詞はほとんど書いたことがないんですよ。
――えっ、そうなんですか?
内澤:はい。楽曲提供では書いたことがあるけど、andropではほとんど書いたことがないです。
――意外です。それは、なぜでしょう?
内澤:我々はバンドだから、バンドで演奏するにあたって、自分だけの思いや、自分だけの恋愛を歌っても、メンバーはどんな気持ちでそれを表現するんだろうと思ってしまって。メンバーも共有できることだったり、メンバーも音で伝えられることを僕らはやるべきだなと思っているんです。世の中にはラブソングはいっぱいあるから、自分達までそこにいかなくてもいいだろうという気持ちもあるし。僕はそういうスタンスで、基本的にラブソングは書かないので、今回は新鮮でした。
――それにしても、『daily』も含めてここ最近のandropはバラードをたくさん披露されていますが、全曲テイストが違っていることは驚きです。
内澤:そこは、意識しています。同じようなことをやっても…というのがあるので。色分けをちゃんとしたいと思ったし、うちはそれを実現できるメンバーが揃っているんですよね。そこは、andropの強みだなと改めて感じています。
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