【ライブレポート】R指定、原点『人間失格』から見えたもの
R指定が一カ月かけて行なってきた<ファアストアルバムツアー「人間失格(再)」>が12月7日の新宿BLAZE公演をもって締め括られた。
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今回ライヴタイトルに“(再)”と付いているのは、以前も同じタイトルでツアーを行ったことが理由。そもそも、このツアーはR指定が8年前に発表した1stフルアルバム『人間失格』まで遡る。自身初となったオリジナルアルバム『人間失格』は、当時ヴィジュアル系で流行っていたキラキラ系(シンセサイザーを多用したポップロック)とは間逆の、昭和歌謡を彷彿とさせる歌モノあり、楽器陣だけで構成されているインストゥルメンタル曲ありと、他のバンドとは明らかに違う世界観を作り出していた。
今思えば、彼らの軸はこの作品で出来上がっていたといっても過言ではない。当時の雰囲気を再現すべく始まった今回の<人間失格(再)>ツアー。特筆すべきは、公演初日が当時ツアーファイナルを飾った東京・O-Crestだったことだろう。現在では何千人と入る会場でワンマンが出来るほどに成長したR指定だが、かつてO-Crestでライヴをやると決めたときは東京に上京したばかりということもあって、250人クラスのハコを完売させるのはなかなか難しくもあった。
しかし彼らは見事にチケットを即完させた。これがどれだけすごいことなのか、当時の彼らはピンときていなかったと思う。上京したばかりで怖い者知らずだったからこそ持ち前の度胸でライヴをやり遂げ、そのときの自信が今に反映されているのではないだろうか。それだけに、当時を知っているファンからするととても懐かしい気持ちで「人間失格(再)」ツアーの初日を観ていたことだろう。また、当時を知らないファンもR指定の原点に触れる良い機会になったはずだ。
アルバムの表題曲「人間失格」からスタートしたファイナル公演。リメイクはしているものの当時の衣装に身を包んだメンバーがステージに現れると、フロアは歓声で溢れかえった。扉の近くまで人でいっぱいになった新宿BLAZEは、冒頭から最高の盛り上がりを見せ付ける。言うまでもないが今回のツアーは<人間失格(再)>というだけあって、基本的に8~9年前に出した曲でセットリストが組み立てられていたのだが、聴き進めていくうちにこのような大人っぽい雰囲気の曲を若手のバンドがよく作ったものだなと感心せざるを得なかった。
というのも、ヴィジュアル系特有の振り付けがある曲が多数を占めていたのではなく、どちらかというと聴かせる楽曲が目立っていたからだ。「親不孝通りは今日も雨。」をはじめ、「所詮、私は猫ですもの」「天神駅」などのミディアムナンバーがライヴに華を添えていく。さすが昔に作っただけあって曲の展開の仕方やフレーズがシンプルであり、それが非常に良い。
また、「浪漫地下室」といったアッパーな楽曲では、Z(G)と楓(G)のハモリが見事な見せ場となっていた。後に続いた「拝啓、薔薇色な日々よ」では曲が始まった瞬間からフロアが感情を一気に爆発させる。その様子をセンターで観ながら舌をペロッと出して毒付いた表情で笑うマモ(Vo)。言葉ではなく表情で観客を煽るあたり、表現者としての成長が伺える。
それは「独裁」でも同じく。曲が始まるとマモが口から大量の血糊を吐き出したではないか。口から首筋、着ているシャツまでも真っ赤に染めていくと奇怪な動きでもって「かかってこい!」と観客を挑発していく。ヘッドバンキングまみれのフロア、野太いコーラスで攻める楽器陣、曲の最後はクラッシュシンバルの余韻が辺り一面に漂う。息をするのも許されないような緊張感の中で「玉砕メランコリィ」に移っていったのだが、この曲はライヴで多く演奏されているだけに観客も一体となって盛り上がっていった。
「あと10倍、声出せ! 全力でかかってこい!」という言葉の後には「メンタル≠ヘルプ」が続き、七星(B)の歌うようなベースの音色が観客を魅了していく。リズム隊に関しては昔と比べても音が引き締まったように思う。己に厳しいがゆえに新曲を出す度に音作りにも余念がない。そうした努力があってこそ今日のプレイへと繋がっていくのだろう。次に演奏された「アナタ」では、舞台劇のような演出で曲が進んでいく。
ポツリポツリと歌うマモの姿は何かが憑依しているかのよう。全体的に照明が暗めなところも主人公の心模様を映し出しているのだろう。曲の中盤で挟まれるZのギターソロではミラーボールが回りフロアを明るく照らしていく。この対比が実に切なく、曲をより深いものにしていた。そして更なる見せ場がこの後に用意されていた。曲のラスト、持っていたマイクの先端で手首を擦り、心臓の辺りをドンドンと叩いては苦悩を浮かべるマモ。こうして場面ごとに見せ方を変えたことによって観客の心に深く曲を刻み込んだ。本編の締め括りには、「心中日和」を。盛り上げて終わるのではなく、ひたすら演奏に没頭してそのままステージから立ち去るという終わり方もこの日は何だか新鮮に映った。
アンコールは楽器陣によるインストゥルメンタル曲「路地裏の女」から。インストはR指定の得意とするところだが、この曲が1stフルアルバム『人間失格』に収録されていたときはかなり驚いたものだ。最初のアルバムでインストを入れるなんて大胆なバンドだと。それが今でもこうして聴く度に新鮮な印象を受けるのは曲が全くと言っていいほど色褪せていないから。むしろ、当時は早かったと思えた要素もバンドが年齢を重ねる毎に似合っていく。
年齢といえば、この日はZの誕生日ということもあってアンコールでは度々Zがフィーチャーされていた。例えば「黒猫」では、歌詞に出てくる“黒猫の招待”という部分を、バンド最年長のZをいじって“長老の集会”に変えて歌えというマモの無茶振りがあった。嫌々なそぶりを見せながらもお立ち台に上がり全力で応えるZ。自分で振っておきながらツボに入ったのか笑ってその後が歌えなくなるマモ。こうしたコミカルな一面が観られるのもライヴならではの良さだろう。しかしアドリブとはいえ、よくここまでハマる歌詞を瞬時に思い付いたものだ。
それはさて置き、この後には「修羅場」と「國立少年」が続き、「幸あれ」で明るく締め括られた。ところが、彼らを呼ぶ声は圧倒的に多く、再度ステージに5人が出てくるまで時間はそうかからなかった。「最近ライヴ長すぎ! 今日はお祭りだから長くやるけど、普段ダブルアンコールがあると思うなよ!」と若干キレながらもどこか嬉しそうなマモ。そうして「規制虫」が演奏された。だが、これだけでは物足りなかったのか、今度はZが「もう1曲いこうか?」とメンバーと観客に問い掛ける。
そこから「素晴ラシキ此ノ人生」が始まり、ツアーファイナルに相応しい景色を残してくれた。今月末には<-苦執念計画-最終公演「此の子の九つのお祝いに」>を控えているR指定。ファイナルが豊洲PITというだけあって今日のライヴとは確実に違うものを見せてくれるのは間違いないのだが、こうして今回のツアーのように昔の曲を演奏する機会を設けたことにより、“今の方が数段かっこいい”と改めて思わせてくれた。8年前よりも今日、今日よりも明日という風に、R指定は変化と進化を繰り返して今後も歩んでいってくれることだろう。
取材・文◎水谷エリ
写真◎ゆうと。
New Single「EROGRO」
S.D.R-342 / ¥1,200(税抜き)/ CD2曲
[CD]
1. EROGRO
2. アイアンメイデン
<-苦執念計画-最終公演「此の子の九つのお祝いに」>
2018年
12月24日(月・祝)福岡DRUM LOGOS
12月29日(土)名古屋DIAMOND HALL
12月30日(日)なんばHatch
2019年
1月8日(火)豊洲PIT
◆R指定 オフィシャルサイト
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