【インタビュー】きいやま商店、結成10周年「今年こそ“シャレオツ”で行きます」

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■「余興的なことをやれ」って言われて
■そういうことが原点なんですよね

──それが、初ライブから2年後くらいのことですか?

だいちゃん:東日本大震災後だから、2011年。初ライブから3年後のことですね。その電話のとき、僕はもう島に戻っていて、ちょうど帰った日が東日本大震災だったんです。那覇空港に降りて、はじめて震災があったことを知ったという。

マスト:その前日に東京で、きいやま商店とノーズウォーターズのツーマン<だいちゃん、さよなら会>をやって。ニイニイ(リョーサ)はまだ福岡に住んでたから、福岡から来たんだよね。

──震災は、それぞれの活動にも影響しましたか?

マスト:それがきっかけで2人に電話したところもあるんですよ。僕はノーズウォーターズでツアー中だったんですけど、世間の音楽活動に対する自粛ムードもあって、島に戻ったんですね。でも、きいやま商店だったらいいんじゃないかなと。アコースティックだし、前向きな歌だし、逆に今、きいやま商店が必要なんじゃないかなって。

だいちゃん:島に戻ってた僕は、BARを開く準備をしていたんですよ。内装も決定して、開店寸前でしたね。

リョーサ:不思議なことに、ちょうどそのときに僕が住んでいた福岡の団地が取り壊しになったんですよ。立ち退きですよね。それぞれバラバラのことをやっていたんですけど、全員のタイミングが合った。

▲だいちゃん (Vo / G)

──リョーサさん、ここでやっと島に戻るわけですね。

マスト:ただ、自分の意志で帰ってきたわけではない(笑)。

──ははは。運命の歯車が動き始めたってことですよね。そこから本格的にきいやま商店が始動するわけですが、手始めにどんな活動を?

マスト:きいやま商店は東京で結成したユニットだったので、沖縄本島でライブをしたことがなかったんです。でも、沖縄とか石垣島から発信したいと。そのためには沖縄本島で地盤を固めたかったので、「本島で3ヵ月間合宿やらんか?」って提案したんです。で、いろいろなレーベルや事務所に合宿が出来ないか問い合わせたところ、Flying High(レーベル)が「いいよ」って言ってくれて。いろいろな仕事の依頼の電話も合宿所に来るようになったから、そのままFlying Highに所属したという(笑)。

──3ヵ月間の合宿は、きいやま商店にとって実りあるものに?

マスト:めちゃくちゃありましたね。40歳前のおっさん3人が、六畳一間に川の字で寝るなんてことないじゃないですか(笑)。それ自体がおもしろかったし、もう毎日曲作りやライブをしていたんですよ。居酒屋とか老人ホームを廻ったり、デパートの催しや祭り、もう何でもどこでも行こうって。

マスト:その3ヵ月の集大成を披露する場所として、ミュージックタウン音市場(沖縄市のライブホール)を押さえて。「絶対、満席にするぞ!」を目標に3ヵ月間頑張ったんです。合宿を始めてすぐテレビとかにも出られたんだよな。

──どうして、そんなに速攻で話題に?

マスト:なんででしょうね(笑)。沖縄方言で歌っているからっていうのもあったかもしれないし。

リョーサ:震災でどんよりしていたときに、オレたちのバカっぽい感じが良かったのかのしれないし。

──先ほどマストさんがおっしゃった「きいやま商店が必要なんじゃないかな」が現実に向かっていったという。目標だった音市場のライブは?

マスト:もちろん友達とか知り合いとかの協力のおかげなんですけど、満席でした。お客さんが増えると仕事もどんどん増えていって、そうすると島にはなかなか帰れないんですよ、沖縄本島に居たほうがいいなと。それが2011年のことなので、すでに6〜7年経ってますけど、僕らはいまだに合宿中状態なんです。合宿を終えて、島に腰を落ち着けることができてない(笑)。

リョーサ:出稼ぎ中です(笑)。

──嬉しい悲鳴ですね。

リョーサ:本当に。この合宿で人生がガラッと変わりましたから。

マスト:僕ら自身がきいやま商店に助けられたところもありますし。

▲リョーサ (Vo / 三線)

──では、ここからはきいやま商店の音楽性やキャラクターについてのお話をうかがいたいのですが。まず、音楽性について。先ほど「“沖縄の方言”をひとつ挙げて曲を作る」という話や、「それぞれ音楽的な好みが違うから、逆になんでも受け入れることができる」という話がありましたが、実際にきいやま商店のサウンドって、ソカやラテン、アフロやアイリッシュ、カントリーなど様々な要素が入っていますよね。

マスト:好みの違う3人がアイディアを出し合うから、そこで初めて知る音楽ジャンルもあるんです。

──たとえばバンドの曲作りなら、元ネタとしてのギターリフを曲に展開していくとか、サビのメロディをみんなで膨らませるとか、メンバー全員のセッションで作り上げる方法があると思うんですが、3人揃ったところで曲作りをするきいやま商店の場合はどのように?

だいちゃん:僕らはYouTubeです、「この曲、いいんちゃう?」とか(笑)。

──はははははは!

マスト:“国”で検索します、“キューバ”とか。で「ブエナビスタみたいなのやりたいな」とか。

リョーサ:そういう音楽を聴きまくるんです。そこから、方言で作った歌詞とメロディーにイメージを合わせていく。

マスト:あとは、やっぱりワールドミュージックっぽい曲はリョーサが作ってきたり。ミディアム調の曲はだいちゃんが得意だし、バラードっぽい曲は僕が持ってくることが多いかもしれないですね。ただ、それを3人で広げていかないと、きいやま商店の曲にはならないんです。だから、1人が1曲通して作ってくるっていうことはしないですね。

リョーサ:一度、それぞれが1曲を通して作ってきたことがあるんですけど、それぞれのバンドの曲っぽくなっちゃったんですよ。

▲マスト(Vo / G)

──逆に言うと、きいやま商店らしさっていうものが確立されているということで。それってご自身ではどう分析されてます?

だいちゃん:兄弟とか親戚とか同級生同士なので、子供の頃から変わらないノリっていうものがあるんですよね。

マスト:くったくなし、変わりなしなところとか。

──そのノリが感じられない曲は、きいやま商店ではないと。

マスト:そうですね。誰かに何かを伝えたいとかはなくて。だって、沖縄の方言とか沖縄の人以外には伝わらないじゃないですか(笑)。それでもいいんです。唄いたい歌、おもしろい歌を唄いたいというところが大きいですね。

だいちゃん:まず、僕ら3人が楽しむことなんですよね。お盆やお正月になると親戚や隣近所の人たちが、僕らの実家に集まってくるんですよ。そのときに必ず、「余興的なことをやれ」って言われて、子供だった僕ら3人が歌を唄ったり、お笑いをしたり。そういうことが原点なんですよね。

マスト:今、だいちゃんがいいことを言いました。きいやま商店らしさとは“余興”です。余興のノリが出てないとダメです。

──それこそ、エンターテイメントの原点ですもんね。納得です。

だいちゃん:今、そこに居る人を楽しませる。どこへ行っても楽しませる自信があるんです。

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