【インタビュー】androp、バラード・アルバムでありながらバンド感を失わないニュー・アルバム『daily』

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12月19日にリリースされるandropのニュー・アルバム『daily』は、バラードを主体にした一作となった。同作は彼らならではの良質なメロディーを活かした楽曲の素晴らしさはもちろん、メンバーそれぞれのハイレベルなプレイや洗練されたサウンドなども聴きどころになっている。ボーカルを押し出したバラード・アルバムでありながらバンド感を失わないandropという存在は、本当に魅力的だ。そこで、今回は彼らのプレイ面にフォーカスしたインタビューを行った。メンバー四人のプレイヤーとしてのスキルの高さや魅力などを感じ取っていただければ嬉しく思う。

■2019年でCDデビューしてから満10年という形を迎えるので
■そこに向かって今だからこそできるものを作ろうと思いました


――ニュー・アルバム『daily』が完成しましたね。

内澤崇仁(以下、内澤):新しいアルバムを作るにあたってメンバー全員でなんとなく共有していたイメージとして、僕らは今年の12月16日から10周年イヤーに入るんですよ。2019年の12月16日でCDデビューしてから満10年という形を迎えるので、そこに向かって、今だからこそできるものを作ろうということが、一番初めに根本としてありました。9月の頭くらいから制作が始まって、11月の24日くらいにマスタリングをしたんです。つまり、結構短期間で作ったアルバムなので、今の自分達のリアルな姿をパッケージできたと感じています。

――今作はバラード5曲とEDMテイストを活かしたアッパーな「Saturday Night Apollo」という構成になっていますが、それは自然な流れだったのでしょうか?

内澤:自然とそうなりました。いつもなら、もうちょっと速いのを入れたいなとか、変拍子のヤツを入れたいなとか、いろいろ考えると思うけど、今回はそういう気持ちにならなかった。「Hikari」を入れるということだけが決まっていて、他は本当に何も決まっていなかったんです。バラードを沢山入れた作品にしようみたいなことも全く考えていなくて、今の自分の中から自然と出てきて、みんなが良いと思うものを集めた結果、こういうアルバムになりました。

前田恭介(以下、前田):本当に自然な流れで、バラードが多いことに違和感とかはなかったです。今回の制作に関しては、時間が短かったので、内澤君が曲を作る時間自体も短くて。しかも、ちょうど9月の頭からライブハウス・ツアーをまわっていたんです。だから、仕方のないことですけど、曲があがってくるのが結構ギリギリになったんですね。でも、そんな中で何ができるかということをメンバーみんなが楽しんでいて、全然ネガティブな雰囲気ではなかった。全員がポジティブな気持ちで取り組めたのが、すごく良かったなと思います。あとは、今回はバラード・アルバムみたいな内容で、隙間が多かったり、自由度が高くてメンバーそれぞれのやりたいことや個性、そのときの気持ちといったものを受け入れてくれる楽曲が揃っていたというのがあって。ガチガチに固まっていて、プレイヤーの色を出す余地がない曲というのは世の中にいっぱいあるし、andropにも何曲かあったけど、今回は許容範囲の広い曲が多かったので、楽しく取り組めました。


──得に印象的な曲といえば?

前田:ベースで特に印象が強いのは、「Canvas」曲です。この曲は、最初はシンプルで支えに徹したベースを弾いていて、それで1回録ったけど、全部録り終わった後に伊藤(ds)からめっちゃ動いたりするベースはどうかなという提案があったんです。じゃあ試しに録ってみようといって、もう全編を通して動きのあるベースを弾いたら、いいじゃんということになって。それで、そういう方向性で構築し直して、今の形に落とし込みました。それが、すごく面白くて、強く印象に残っています。

――懐の深さが出ましたね。「Canvas」のベースには耳を惹かれましたし、今作のベースは全体的にボトムを支えつつ個性も覗かせるアプローチが光っています。

前田:今回は全体的に、“ポール・マッカートニー方式”を採ったんです。それは、僕らが勝手にそう言っているんですけど(笑)。ポール・マッカートニーはレコーディングするときにみんなと一緒にベースを弾くんですけど、最後に自分のベースだけ弾き直して、おいしい隙間を縫ってフレーズを入れていたらしくて。今回は全体的にそれをマネさせてもらったこともあって、いい感じのベースが弾けたかなと思います。

――「Home」のラスサビやアウトロのハイ・ポジションを使ったフレーズは、楽曲の盛り上がりに拍車をかけています。そんな生々しいベースを聴かせる一方で、「Blue Nude」はシンベのようなニュアンスを出していることも印象的です。

前田:この曲は、シンベと生ベースを混ぜているんです。EDM系の曲とかとandropの曲が横並びでラジオで流れたりしたときに、ロー感に関しては、生のバンド・サウンドでは勝てないところがあるんですよね。それはもうシンセのローが出ていないと勝てないんです。でも、リスナーにとって、それは関係ないこと。理由はわからなくて、andrpoはスカスカした音だなと感じてしまう。それが嫌で、この曲は内澤君が作ったデモにシンベが入っていたので、それを活かしたいと言ったんです。


▲内澤崇仁(vocal & guitar)

――それに、「Saturday Night Apollo」の展開パートだけモジュール・エフェクトをかけるという手法も効果的です。

前田:ブルーノ・マーズみたいに、昔のファンクをリバイバルさせているような人達がよくやる手法といえば手法なんですけど、「Saturday Night Apollo」の展開パートは、ベースの下の帯域をちょっとフワッとさせたほうが映えるんじゃないかなと思って。それで、なにか方法がないかなと考えて、コーラスをかけることを思いついたんです。自分達以外で気づく人はいるのかなと思っていたので、気づいてもらえて嬉しいです(笑)。

伊藤彬彦(以下、伊藤):ドラムは、いつもどおりデモの良さを活かすことを一番大事にしました。内澤君は基本的に全部の楽器がフル・アレンジされた形のデモを作って、そのデモの完成度がめちゃくちゃ高いんですよ。だから、デモの良さを再現したいというのがあって。ただ、さっき話が出たように、今回は自由度が高くて、隙間も多い楽曲なので、歌を活かしつつもノリを生み出すためにできるようなフレージングだったりは積極的にやっていくようにしました。あとは、前田君も言ったように、打ち込みの音楽と横並びになったときに、ビート感で負けないようにしたというのがあって。“汗かいて演奏しています”という熱さよりも、ビートとしての熱さみたいなものを大事にするということを、わりと全体を通して考えていました。自分的には2曲目の「Blue Nude」が、特に気に入っています。僕が普段聴いているのはこういうビート感の曲ばかりなので、一番得意なところなんですよね。この曲は演奏していてすごく楽しいし、こういう曲をバンドでやらせてもらえるのは嬉しいです。

――伊藤さんがスクエアなビートを楽しんで叩けるドラマーというのは、andropの大きな強みといえますね。

内澤:それは、間違いないです。うちのメンバーはみんなそうだけど、特に伊藤君はいろんな引き出しを持っているんですよ。しかも、全部を楽しんで叩いてくれる。バンドとして、そこに助けられている部分は大きいです。


▲前田恭介(bass)

――本当に、そうだと思います。引き出しの多さということでは、タイトなドラミングを核にしつつ「Home」ではパワフル&ホットなドラミングを披露されていますね。

伊藤:「Home」は、僕的にはちょっと嫌だったんですよ。今回のアルバムは今の流行りになっている、ちょっとブラック・ミュージックのテイストが入っているようなものだったり、クールなグルーブに酔っているようなビート感を貫きたいと思っていたんですね。そういう中で、この曲のデモだけ、すごく青くさいデモだったんです。オープン・ハイハットで8ビートを刻んでいて、今回やろうとしていることと違う印象を受けた。それで、この曲はちょっと悩んでいるという話をしていたんですけど、「Home」はレコーディングよりも先にミュージック・ビデオの撮影があったんです。できあがったミュージック・ビデオを見て、この曲が持っているメッセージみたいなものが初めてわかったんですよね。それで、なるほどと思ったんです。この曲は洗練された方向性ではなくて、青くさいものだったり、ヒューマンなものを伝えたいんだなと。それで、「Home」は生々しいドラムを叩きました。

――アウトロの熱いドラミングは、本当にカッコいいです。あと、「Blanco」のBメロのダブリングのように聴こえるリム・ショットは、どうやっているのでしょう?

伊藤:そこは「Hikari」でも使っているリムのフラムです。「Blanco」でも合いそうだったので使うことにしました。それに、「Hikari」は生の音だけだったけど、この曲は自分で持ってきた打ち込みの音もさらに重ねてもらったので、またちょっと違ったニュアンスになっています。

佐藤拓也(以下、佐藤):今回のアルバムまでのandropの流れを話すと、曲として良いものをバンドでやっていこうという話をし始めた時期があって、そのうえで『cocoon』というアルバムを作って、さらに「Hikari」という曲が今年生まれた。それを通して、内澤君が作るメロディーというのは本当に素晴らしいなと、あらためて思ったんです。今回のアルバムの曲達はアレンジとして振り幅があるし、いろんなことにトライしているけど、普通にメロディーだけを切り取っても素晴らしいものが揃っているんですよ。そういう中でのギターの役割ということを考えると、曲の邪魔にならないことが大事だなと思って、今回は今までで一番ギターを重ねなかった。いわゆるベーシック・トラックがない曲もあるんです。それすら、なくてもいいかなという感覚で取り組みました。

――本数を減らして、厳選したフレーズを入れたことを感じました。

佐藤:それは、僕だけの力ではないですね。内澤君のデモに入っていたものや、エンジニアさんと相談して入れたフレーズとかもあるんです。今回のエンジニアさんは初めて一緒に仕事をした人だったんですけど、年齢が近くて話しやすかった。こういう音楽を作りたいんだと話し合いながらレコーディングできたので、よりいいアプローチができたというのはありますね。「Blue Nude」や「Saturday Night Apollo」は、ほとんどギターが入っていないんですよ。今までになかったアプローチという意味で、その2曲は印象が強いです。それがいいと思えるということが、自分の中で新鮮でした。

――確かに「Saturday Night Apollo」は歪んだギターの音を入れるパターンも“あり”な曲ですが、そうではなくて“おっ?”と思いました。

佐藤:ですよね(笑)。でも、前向きな気持ちでギターはなくていいと思ったし、曲の並び的にもないほうが聴いてくれる人もきれいに聴けるかなというのがあったんです。

内澤:ギターに関しては、今回はギター・ソロも多いよね。

佐藤:ソロで一番印象深いのは「Home」です。この曲だけ、デモにエレキギターが全く入っていない状態だったんですよ。それで、ギター・ソロのイメージを内澤君とすり合わせようと思って、“こういうのどう?”と提示したら、バッチリだと言ってもらえて。それが、さっきも話が出た青くさいというか、生々しいソロだったんです。


内澤:それが、すごく良かったんですよ。「Home」はいわゆるソロらしいソロではなくて、感情のウネリみたいなものを入れてもらいたかったから、すごくいいなと思って。それで、アウトロも同じ感じのソロを弾いてほしいと、佐藤君に伝えました。

佐藤:僕は、アウトロはギター・ソロではないと思っていたんです。内澤君に良いと言ってもらえたこともあって、アウトロは間奏以上に良いソロを弾いてやるという意識で取り組みました。それに、「Home」はソロのテイストに合わせて初期のウィーザーみたいな音にしたくて、ギターをやっている高校生が絶対買うようなのを使うことに意味があるなと思って。それで、RATというドライブ・エフェクターを、あえて使いました。高いエフェクターではなくて、手頃な値段のヤツです(笑)。

内澤:「Home」のギター・ソロは、音も良いよね。今回の歌に関しては、本当にツアーとレコーディングが並行していて、歌録りもライブの合間にやったりもしました。でも、そういう録り方をすることに意味があるなと思ったんです。今まで、ライブの次の日に声がガラガラの状態でレコーディングしたことはなかったんですよ。そういうコンディションで歌ってみることで、もしかしたら今の自分達のパッションみたいなものが伝わることもあるかもしれないというところで、トライしてみようと思って。僕の中には、切羽詰ったものというか、ギリギリな感じが入った歌にしたいという思いがあったんです。それで、ライブの次の日に、もう声はガラッガラなんですけど歌ってみたら、自分では意図していない熱さみたいなものを出すことができた。今回のアルバムは、そういうところがたくさん散りばめられています。

――その結果より響く歌になったと思いますが、声がガラガラの状態だということを感じさせないのはさすがです。

内澤:ありがとうございます。声がガラガラだからといって、雑に歌ったわけではないので、自分の歌い方と声の状態がいい形でフィットしたのかなという気がしますね。今回はライブの翌日だったり、ほぼ寝ないで歌った曲ばかりなので全曲思い入れが強いけど、そういう中でも特に印象に残っているのは「Blanco」です。この曲は一番最後に歌ったんですけど、メインの歌を録った後にコーラスを録る必要があって。それが、もう果てしなかった(笑)。この曲は合唱パートがあって、そこを壮大な感じにしたくて、すごくたくさん声を重ねたんです。でも、僕の声だけだと広がりが出ないとエンジニアの人に言われて、結局メンバーも歌ったという。それが楽しかったし、合唱の仕上がりにも満足しています。コーラスということでは、今回はハモリだったり、コーラスでサビ感を出すという手法を採っていて。サビはベースのロー感と上側の声の重ね方で、サビをより強調するようにしたんです。今までは音圧だったり、音数や手数の多さでサビ感を出していたけど、今回はそこには一切いかなかった。それも、『daily』が新鮮さを感じてもらえる要素の一つになっているかなと思います。

――今作は楽曲の良さに加えて、皆さんがマニアックなこだわりを注入することで、より深みのあるアルバムに仕上がったといえますね。

内澤:僕らの中にはあまり音楽に詳しくない人にしっかりと伝わるものであると同時に、いわゆる玄人の人が聴いても面白いものにしたいという気持ちがあって。今回もそういうアルバムにはなったんじゃないかなと思います。

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