【ライブレポート】VALSHE、<YAKUMO>ファイナルで「キミにはVALSHEがついています」
10月6日にマイナビBLITZ赤坂で行われたツアー<YAKUMO>のファイナル公演は、ヴォーカリストであり、パフォーマーであるVALSHEの個性をより際立たせる内容となった。先ごろ公開したオフィシャルレポートに続いて、新たな写真を加えた詳細レポートをお届けしたい。
◆VALSHE 画像
ツアーは幼少期の自身の音楽ルーツに立ち戻り、“和”をコンセプトに制作された5thミニアルバム『今生、絢爛につき。』を携えたもの。アルバムのタイトルに込められた“この世こそ、美しい。”というメッセージを物語という形式をとってエンターティンメントとして昇華したのがこの日のステージだった。
シングル「MONTAGE」(2017年)で初めてミュージックビデオにダンスを取り入れたVALSHEは新作のリードトラック「今生、絢爛につき。」のミュージックビデオでは全編にわたってダンスを披露したが、同公演もダンサーたちと歌って踊るVALSHEが堪能できる構成となった。BARKSのインタビューで「女性の持つ嫉妬や情念というドロドロしたものをコミカルに表現したいから劇画タッチにしてほしい」とMV監督にリクエストしたと語っていたのもライブに繋がるヒントだったのかも?と思うほどライブは予想外の演出で始まった。
マイナビBLITZのステージに鳴り響いたのは、和太鼓や三味線の調べ。スクリーンには“珀芝亭 八雲”なる人物がアニメーションで映し出され、語り出したのは“太郎”という男の物語だ。「ちりめん問屋の一人息子として生まれた太郎は酒と女に目がないどうしようもないバカ息子。その男が辿る数奇な運命はいかに?」──寄席や芝居を観にきたような気持ちになる中、アルバムの序曲(出雲)となる「まそカがミ照るべき月ヲ白タえの誰か隠せる天ツ君かも」のSEが流れ、ダンサーたちがステージに登場、オープニングはいきなり「今生、絢爛につき。」で艶やかに幕を開けた。
和風ダンスロックチューンの同曲ではミュージックビデオに出演した“椿(大野愛)”と“牡丹(村井芽依)”が華を添え、きらびやかな和装姿のVALSHEへ求愛パフォーマンス。両手に花のシチュエーションでときにつれないそぶりを見せるVALSHEは、つまりは物語の主人公、太郎という設定だ。
VALSHEにとって挑戦作となったEDMを取り入れたグルーヴが心地いいシニカルなナンバー「インスタント・セレブリティ」では上手下手へと動きながら歌い、大歓声。NAOKI、Kyo-hey、TAKAMASA、YU-TAといったVALSHEのライブではおなじみの4人のダンサーが揃い、続いてメドレーへ。イントロから歓喜の声が飛んだ「EVALUATION」ではキセル片手にダンスを披露し、太郎の色男っぷりを見せつけた。
ここで狐のお面をかぶったダンサーたちの寸劇が挟まれ、八雲によって語られたのは太郎の傍若無人ぶり。しかし、どうやら彼にはバチが当たったらしい。「覆水盆に返らず」──起きてしまったことは元には戻らないという格言で締められ、ライブは第2幕的な展開に突入していく。
ファーをあしらった黒一色の衣装に着替えたVALSHEがひとりでステージに現れ、披露したのはアルバムの先行シングル的な立ち位置だった「激情型カフネ」だ。「自分と対極にある“情念”の世界を表現した」というこの曲は、デジタルサウンドに和のテイストを取り入れたナンバー。“消えない罪”という言葉がライブの流れの中、太郎の過去の放蕩ぶりとオーバーラップして響いてくる。トラックをバックにたったひとりで歌い、ときに情念をたたきつけるような激しいヴォーカルとパフォーマンスで魅了するVALSHEの堂々とした佇まい。拳を上げて叫ぶオーディエンス。アウトロでは、「まるで一夜で起きたことのように話しておりましたが、実際はこの間、千年もの月日が流れておりまして……」という八雲の語りがかぶり、好き放題に生きてきた太郎の魂が時を超えて失意の底に落ちたことを思わせた。
このダークサイドとも言える中盤戦はVALSHEのカリスマ性を堪能できるセクションだ。アルバム『PLAY THE JORKER』収録曲「君がため」はアカペラで始まり、切々と歌う姿が印象的。孤独と後悔が浮き彫りにされる文学的なアプローチの「暗い夜の行き路」と続き、息を呑むような静けさで聴き入る中、雷鳴が鳴り響き、放たれたのはエッジのきいたギターサウンドで葛藤を歌う「EXECUTOR」、最新アルバム収録曲「PERSONA」ではシックなスーツに着替えたダンサーたちがステージをオシャレに彩った。VALSHEが去ったあとはダンサー4人によるソロパフォーマンスコーナー。各自がフロアを煽り、惜しみない声援と拍手が送られた。そして、舞台は再び新たな局面へと。琴の音色とともに八雲の語りが流れた。
「人間なんてものは、一回どん底までドーンと落ちようものなら、もうそれ以下なんてないわけでございますから、一周まわって威風堂々とでもいいましょうか。あんな男もここでようやく地に足つけた人間らしく見えてきたっていうことでございます。辛さ、悲しさ、憤り。さまざまな負の感情を押し殺そうと刹那の快楽に身を預け、その甘さに溺れるのではなく、是は是、非は非として吐き出したほうが実際、スッキリするのかもしれませんね」
黒の世界から色鮮やかな世界へと。着こなせる人はそうそういないと思われるファッションテープをあしらった派手な和洋折衷風の衣装に着替えたVALSHEが後半戦で放ったのは和テイストのハードロックチューン「羽取物語」。2014年にリリースされた楽曲だが、“幾千の時を越えて 繰り返す歴史の渦”という歌詞は偶然とは思えないほど物語に沿っていた。
そして、このツアーのために三味線や笛の音を加えて新たなアレンジとなったライブチューン「DOPE」ではコール&レスポンス。客席の声にVALSHEがマイクを向けて盛り上がり、「遊ぼうぜ!」と煽って「microSOLDIER」を投下。開放感あふれる雰囲気の中、「RADICAL COASTEЯ」では激しく動き、タオルを振り回してVALSHEの煽りに叫んで歌うなど場内は一体となった。続いてイントロからHiコールで盛り上がった「ジツロク・クモノイト」が投下され、ひとりでフロアを引っぱっていくVALSHEの凛々しく自由奔放なパフォーマンスは頼もしい限り。「全部、発散してくれ! もっと! もっと!」と叫び、エンディングでは高笑いを響かせた。
ここで再び八雲の「欲望渦巻く歓楽街から失意の奈落へ一直線。かと思えば仰天ヤケクソ火事場の馬鹿力とは恐れ入った」という語り。足がかりは誰にも等しく散らばっているものだと話し「この男(太郎)もまたここに来てようやくそのことに気づけたんでございましょうね」と太郎が覚醒したことを思わせる。そして歌われたのはVALSHEが「過去を想って佇んでいるような曲にしたかった」と取材時に話していた日本の情緒あふれる風景を浮かび上がらせるバラード「夕暮花火」。澄んだ歌は場内を浄化するようであった。
「ラスト!」とVALSHEが叫んで客席が明るくなり、最後に届けられたのはTVアニメ『信長の忍び〜姉川・石山篇〜』の第2クール主題歌に起用された「追想の理」だ。たとえ生命を散らしたとしても未来を生きる人たちに想いを繋げていきたいというメッセージは、行き着いた太郎の答えだろうか。
本編は八雲の語りで締めくくられた。汚れずに生きられる人間なんて、この世には存在しない。人間は鬼にもなれば菩薩にもなれる生き物。そして遠い昔に太郎と話した記憶が語られた。
「彼と最後に交わした言葉だけは今もハッキリ覚えているんです。“今生っていうのは世知辛いねぇ。なぁ、太郎さんよ。あの世っていうもんは、どれだけか、美しいんだろうなぁ”。去り際に語りかけますとヤツはいつもの憎ったらしい笑顔で知ったふうにこう言ったんですよ。“この世こそ、美しい。”」──余韻を残し、本編は幕を閉じた。
アンコールは太郎に扮したVALSHEではなく、VALSHEとしてのライブ。サイレンの音が鳴り響き、2017年のツアーで結成されたコドモ団(VALSHEとダンサーたち)が「ドミノエフェクト」でやんちゃにコミカルにライブを盛り上げた。
「みなさん、本編、楽しんでいただけましたか? ファイナル公演、ホントにこの日を待ち望みました。まだかまだかと待っていました。でも、始まってしまえばアッという間に駆け抜けるように本編が終わってしまったわけですが、まだまだ、みなさん元気が有り余っていると思いますので……有り余ってますよね?」──VALSHE
呼びかけて返ってきた歓声の大きさに「めちゃめちゃ元気だわ!」と笑いながらダンサーたちを紹介し、「今回はVALSHEが本編に出演していないという、異例の事態です……VALSHEです!」と、この瞬間を待ち望んでいたと伝え、「この空間にふさわしい曲を」とブルーのペンライトの光が揺れる中、「ラピスラズリ」を披露した。
そして、このアンコールでは、ひとつの謎が明かされた。ツアー会場で販売されたCD「Are you Ready?」のことに触れ、ミニアルバム『今生、絢爛につき。』が出雲に始まり六雲で終わり、ツアータイトルが<YAKUMO>であったこと。そこには七雲が存在せず、しかし、その七雲に当たる楽曲が「Are you Ready?」だということだ。
「折り重なった景色の向こう側が見たいと思って、今回のツアーを企画しました。過去からの経験だけじゃなく、未知の世界、未知の景色、知らないこと、聞いたことがないことを恐れずに怖がらずに手を伸ばしてみたいと、そういうふうに思って企画したツアーでした」──VALSHE
想像がつかなくても、今、この瞬間を楽しもうという気持ちがあれば、知らない世界や景色に手を伸ばせると思って作ったのが「Are you Ready?」だと語り、七雲が最後に加わってツアーが完成するとした。そんなメッセージのあとに披露されたのが疾走感たっぷりの爽快でキャッチーな「Are you Ready?」。ダンサーたちと繰り広げられるパフォーマンスにクラップで応え、オーディエンスが“YEAH!” “OK!” “LET'S GO!”と合いの手を入れる完全参加型のナンバーは、今後のライブのキラーチューンとなりそうだ。
続いてファンタジックなサウンドとVALSHEのキュートなボーカルが印象的な、これもライブでおなじみの曲「Prize of Color」が届けられた。これで終わりかと思いきや、最後にはファイナルならではのサプライズが待っていた。バックに流れるエンディングSEをVALSHEがストップさせたのだ。
「楽しかったよ! みんなもすごい元気そうだな? 元気? 元気なんでしょ? まだ終わりたくないんでしょ?」と問いかけた。“もちろん!”とばかりの歓声を浴び、最後にもう一度、「今生、絢爛につき。」を開放感あふれる中、太郎としてではなくVALSHEとして披露。ステージには今を祝福するように紙吹雪が舞った。
「心の中にVALSHEがいることを忘れないでください。キミにはVALSHEがついています」──VALSHE
そうメッセージを残してステージを去ったVALSHE。エンターティンメントでありながら、ときに過ちも犯してしまう人間への温かい視点、人生観が感じられるステージを演者としてヴォーカリストとして表現したVALSHE。これからの展開にますます期待が高まる。そして、いつか<YAKUMO>の再演も見てみたい。
取材・文◎山本弘子
■<VALSHE LIVE TOUR 2018 「YAKUMO」ファイナル公演>10月6日(土)@東京・マイナビBLITZ赤坂SETLIST
OPENING SE.
まそカがミ照るべき月ヲ白タえの誰か隠せる天ツ君かも
01. 今生、絢爛につき。
02. インスタントセレブリティ
03. メドレー 〜EVALUATION / vulgar gem〜
04. 激情型カフネ
05. 君がため
06. 暗い夜の行き路
07. EXECUTOR
08. PERSONA
〜Dance solo〜
09. 羽取物語
10. DOPE [和アレンジ ver.]
11. microSOLDIER
12. RADICAL COASTEЯ
13. ジツロク・クモノイト
14. 夕暮花火
15. 追想の理
END SE.
encore
en1. ドミノエフェクト
en2. ラピスラズリ
en3. Are you Ready?
en4. Prize of Color
en5. 今生、絢爛につき。
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