【開発者インタビュー】スタン・コーティ「フェンダーペダルは使い方次第で、思いがけないサウンドに出会える可能性を秘めている」
■継続的に安定したパフォーマンスを提供できること
■音楽的な閃きを与えられるアイディアを盛り込むこと
──3モデルいずれも、発表済の歪み系エフェクターの隙間を埋める、マニアックで限定的な設計と思われます。それぞれの開発コンセプトをおきかせください。
Stan Cotey:「Engager Boost」は、今回発表された3製品の中でも、一番シンプルなもの。すべてのトーンコントロールノブが12時のポジションにセットされている時は、原音に忠実なトーンをそのままブーストできるクリーンブースターです。トーンコントロールは効きがよく、フレキシブルにサウンドを作り上げられます。シグナルチェーンの初段に配置してサウンド全体を色付けすることも、最終段に設置して、アンプからより大きな音量を引き出す用途としてもお使いいただけます。バイパススイッチの切り替えによって、バッファーペダルとしても使用可能です。
「Full Moon Distortion」は、既存の「Pugilist Distortion」の兄弟分にあたるペダル。両製品とも私がサウンド設計しました。「Pugilist Distortion」と異なる点はHi-Treble、Treble、Middle、Bassといった帯域を個別に調整できるEQコントロールを装備している点。メタル音楽のプレイヤーだけでなく、モダンパフォーマンスプレイヤーや、クラシックロックプレイヤーなど、ジャンルに縛られない、柔軟かつ高品位なハイゲインペダルを提供したいという想いで開発しました。
「The Pelt Fuzz」は、純粋に楽しめるファズペダル。私自身60年代/70年代のファズを多く所有しており、ファズの大ファンなんです。多くのクラシックファズは、シグナルチェインの最初段に設置しないとまともな音がしないという欠点があります。私は「The Pelt Fuzz」のサウンドを設計するにあたり、シグナルチェーンのどこにおいても馴染むサウンドが奏でられることを目指し、ディスクリートクラスAバッファー回路を採用しました。このペダルを使えば、ファズならではの、手のつけられないようなカオティックなサウンドから、もう少しコントロールされたブルージーなトーンまで再現可能です。ぜひみなさまには、多彩なサウンドキャラクターを生み出すBloomコントロールで、様々なサウンドの可能性を試していただきたいと思います。
──それぞれのモデルに対し、最も苦労した点/開発に難航した点は?
Stan Cotey:実務面では設計から製造、法的な要件の処理、サプライチェーン、コンポーネントの仕入れといった業務を、少人数で行わないといけなかったので非常に大変でした。お客様が手に取りやすい価格を実現しながら、同時に複数種類のペダル開発を行うのは実にチャレンジングでしたね。マーケティングチームをはじめ、多くのスタッフと密接なコミュニケーションを取り合いながら進めてきましたが、この細かな業務が永遠に続くのではないかと不安に感じたこともありました。
一方、製品設計の面では、すべての製品が継続的に安定したパフォーマンスを提供できること、プレイヤーに音楽的なインスピレーションを与えられるアイディアを盛り込むことに多くの労力を注ぎ込みました。
──アンプライクなディストーションという印象がありましたが、「Full Moon Distortion」はアンプ的な歪みを意識しましたか?
Stan Cotey:先ほども申し上げましたが、2つのペダルは兄弟関係にあります。「Pugilist Distortion」は、異なるキャラクターをもったディストーションエンジンを2種類搭載しており、お互いをブレンドすることで、ユニークなトーンを作っていくペダルです。ゲイン量は比較的抑えめに設計しており、滑らかなローゲイン〜ミッドゲインディストーションサウンドを目指しました。個人的に高品位なミッドゲインディストーションサウンドを作るのは非常に難しいものだと感じています。
一方で「Full Moon Distortion」は1種類のディストーションエンジンのみ搭載している代わりに、フレキシブルなトーンコントロールを装備しているのが特徴です。ゲイン量も「Pugilist Distortion」に比べると高めに設計しています。「Pugilist Distortion」は歪みのキャラクターを決定付けるミッドレンジの調整機能がないという意味では、アンプのサウンドに色付けられるディストーションであるのに対し、「Full Moon Distortion」はより自由にトーン設計ができるディストーションペダルだと言えるでしょう。
──「Full Moon Distortion」の HI-TREB、TEXTURE、BITEというツマミとスイッチがユニークだと思いました。これらを搭載した意図は?
Stan Cotey:Hi-Trebはローパスフィルターを調整するノブです。これは「Pugilist Distortion」や「The Pelt Fuzz」にも搭載されているトーンコントロール機能で、ディストーションのジリジリするような“超高域成分”を、ディストーションのベーシックなトーンに干渉せずにコントロールできるところがメリットです。このコントロールにより、「Full Moon Distortion」、「Pugilist Distortion」、そして「The Pelt Fuzz」は、どのようなアンプでも最高のディストーションサウンドが奏でられると信じています。
Textureは、ディストーションの質感を調整します。対称/非対称クリッピングを操作することで、“ジリジリ感”を抑えたパンチのあるサウンドと、ふくよかで複雑なディストーションサウンドを切り替えられます。
Biteはディストーションが生成される前の段階で、高域にゲインを加えるスイッチです。Onにすることでコード感をはっきりとさせ、ピッキングのニュアンスなども明瞭になります。
──ハイゲインディストーションは、音に迫力がありますが、どうしてもノイズの問題や、アンサンブルに混ざると音抜けが悪くなりがちです。今回、サウンドセッティングを考える上で工夫した点はどういうところですか?
Stan Cotey:ヒスノイズなどを抑え込むポイントとして、私は回路のトポロジーと、最適なコンポーネントのチョイスが非常に大事だと思います。高品位コンポーネントを採用し、基盤レイアウトも入念に設計することで、ある程度のノイズコントロールが実現できていると感じています。ハムノイズやストリングノイズは、基本的にプレイヤー側がコントロールすべきものであり、ギターのボリュームノブのコントロールや、ノイズリダクションペダルを使用することで軽減できますが、電子的に発生するノイズに関しては、ペダル開発チームが最善を尽くし、極力排除できるように努めました。
──クリーンブースターに3バンドEQが搭載されているのは実はあまりないように思いますが、なぜTREBLE、MIDDLE、BASSのつまみを付けたのでしょうか。
Stan Cotey:「Engager Boost」にEQを搭載することにより、使用できる用途の幅が広がります。例えばブースターでソロの時にギターを前に押し出したい場合は、シグナルチェーンの初段に置き、中域を上げ、低域を下げると効果的です。一方で、アンプの出力を引き出したい場合は、シグナルチェーンの最終段に置いて、中域をわずかに下げ、高域と低域を加えてあげると、壮大なスケールのサウンドが生み出せます。プレイヤーに使用方法の自由度を与えるブースター、それがこのペダルなのです。
──モードを2つ搭載した理由は?
Stan Cotey:シグナルチェーンの最初段に、特にハイゲインディストーションペダル、もしくはハイゲインアンプの前にバッファードペダルを置くと、耳障りなヒスノイズが発生することがあります。もちろんバッファー回路はシグナルの劣化を防ぐメリットがありますが、サウンドに微量ながらも、高域が強調されるなどの色付けが行われることは事実です。セットアップによって、バッファード/トゥルーバイパスを選べる自由をプレイヤーに与えたいと思い、2つのモードを搭載しました。
──クリーンブースターには原音のニュアンスを残すというテーマがありますが、そのためエフェクターとしてのキャラクターを出しにくい部分もあるのではないかと思います。「Engager Boost」の個性はどのように考えていますか?
Stan Cotey:「Engager Boost」はクリーンブースターであると同時に、フレキシブルなEQコントロールが可能でもあるペダルです。完全にトランスペアレントなブーストを実現するために、私たちはディスクリートクラスAバッファー回路を採用しています。その上で、プレイヤーの用途やセットアップにより、EQを適宜調整できるようにすることで、より充実した機能を提供できていると感じています。
──「The Pelt」にBloomコントロールを搭載した意図と、その機能の特徴を教えてもらえますか?
Stan Cotey:Bloomは、ピッキングのアタックに追随する機能です。トランジスターがシグナルを歪ませる方法にエンベロープを掛けるのです。反時計回りのセッティングでは、よりソフトでおとなしめなディストーションサウンドになります。時計回りに回していくにつれて、よりエッジの立った、アグレッシブなディストーションが得られます。低めに設定することで、ブルージーなトーンを作ることも可能です。
──MID、THICKスイッチも大きな特徴だと思います。これらを搭載しようと思った理由は?
Stan Cotey:Thickは、ファズ回路の前段におけるベースレスポンスを調整します。セットアップによってはファズサウンドの低域が強くなりすぎて、音が濁ってしまうことがありますので、このスイッチでそのような問題の解消を試みています。Midはファズ回路によって生成されたシグナルの中域に対して作用し、その特性を変更します。センターポジションでは中域に干渉せず、上下方向にOnにすると、中域を抑えて70年代のファズペダルを彷彿とさせるサウンドを再現したり、もしくは中域を強調してソロを引き立てるサウンドを生成したりもできます。
──「The Pelt」はヴィンテージ感のサウンドを持ちながらも、現代的な幅広い音作りが可能なペダルですが、音色を決めるときに特に苦労したところは?
Stan Cotey:ノイズフロアを抑える課題は、この種のペダルでは常につきまといます。やはり回路のトポロジーとコンポーネントのセレクションが要になってきます。またBloomコントロールでディストーションのキャラクターを調整できるように設計するのに多くの時間が注ぎ込まれました。
──今回の3機種は、どのように使用してもらいたいと考えていますか? 各モデルで、お勧めセッティング/これまでにあまりなかったような使い方など、使いこなしアドバイスをお願いします。
Stan Cotey:これらのペダルはいずれも、プレイヤーのサウンドパレットを広げることを念頭に設計されています。ペダルを置くシグナルチェーン上のポジションによって、そのサウンドは幾重にも変化していきます。ぜひひとつのセッティングに留まらず、いろんなポジションとセッティングで、様々な可能性を探ってみてください。ペダルの使い方に「間違い」はないのですから。
──最後に日本のギタリストにメッセージをお願いします。
Stan Cotey:私は若い頃、日本のメタルバンドのファンでした。また日本のミュージックカルチャーに対しては、長年大変なリスペクトを抱き続けています。近年ではポケモン映画や、宮崎駿の作品など、日本のポップミュージックや映画といったカルチャーにも注目しています。洗練された古き良き伝統と、最先端の価値観を融合させ、あらたな価値を生み出す日本のユニークさは無二のものです。日本の音楽もそうだと思います。ぜひ日本のギタリストたちには、今後もそのユニークなアイディアとパフォーマンスで、世界をあっと言わせ続けて欲しいと願っています。フェンダーのペダルが、みなさまのインスピレーションに役立てれば非常に光栄です。
●Engager Boost
価格:13,000円(税別)
ファットなトーンを実現する、最大20dBの理想的なクリーン・ブーストペダル。3バンドイコライザーに加え、ミドルのFREQUENCYスイッチを搭載することで、好みのトーンを正確に得ることが可能。FETインプットバッファーを内蔵しており、チューブアンプのプリアンプへのシグナルをブーストするのにも適している。トゥルーバイパス/バッファードバイパスの両モードを搭載、さまざまなセッティングに対応する。
●The Pelt
価格:16,500円(税別)
LEVEL、FUZZ、TONEといった標準的なコントロールに加え、サウンドの輪郭をつくるBLOOMコントロールを採用。ミッドレンジのブースト/カットを切り替えることができるMIDスイッチと、サウンドに厚みを付加するTHICKスイッチも備える。エフェクターボードのどの位置につなぐこともできるシリコンベースのストンプボックスで、フレキシブルなトーンを実現する。
●Full Moon Distortion
価格:20,000円(税別)
3バンドEQ、Hi-Trebleフィルターなど荒々しいハイゲイン・トーンをイメージ通りにサウンドメイクするための、豊富なオプションを詰め込んだモデル。TEXTUREスイッチで対象/非対称クリッピング・モードを切り替えられ、BITEスイッチはアッパー・ミッド・レンジとハーモニクスをシフトし、ピックのアタック感をはっきりとさせることで、カッティングやブリッジミュートの表現を豊かにする。フットスイッチ・ブーストも搭載するのも特徴だ。
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